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怪談百物語コミュの第三十五話 幽霊柳

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 僕の友達が以前、大塚の周辺に住んでいた頃の話です。大塚はその昔、
芸者の置き屋等が有って料亭や遊廓が在った所として知られており、
今でも都内の旧花街(柳橋や向島等と並んで)の色彩が残っており、
料亭等が点在している。

 さて、その友達の住んで居るマンション迄の道のりの途中には、
駐車場が在り、その駐車場と道を挟んで反対側の所には古めかしい
防火用水が、そしてその脇に枝垂れ柳が生えていた。

 よくこの友達の所には泊まりがけで遊びに行ったものなんですが、
この駐車場と言い、枝垂れ柳と言い、いつも誰か立っているのだ。

 駐車場の道路際の所には、いつも中年の男性が立っていて、誰かを
待っているかのような素振りである。何故かこの人、いつも定位置に
立っていて、当ても無い待人を待っている風情なのだ。

 一方、枝垂れ柳の下の防火用水の所には、髪の長い白っぽい着物を
着込んだ若い女性が立っている。下を俯いていて、顔がはっきり分から
ない。何処かの芸者衆だろうか?粋な着物の着方をしている。

 毎度毎度、この二人は夜にここを通る度見かける人達だ。月に2〜3
回ここを通る僕が毎回見ている。一体何をしてるのだろうか?誰を待って
いるのだろうか?女性の方は「夜鷹」かしら?男と組んで美人局?

 などと下世話な邪推をしていた僕であるが、大塚に住む友人にふと
思い付いて聞いた事が有った。

 「ねえ、ここに来る途中に男の人と着物姿の女の人がいつも立って
居るよねえ。花街の跡地だから、夜鷹かしらね?」

 と笑いながら酒の席で話した事が有ったのだ。




 その友達は一瞬沈黙してしまい、気まずい雰囲気になった。

 そして徐に口を開いた。

友達 「君、視たの?」

僕  「うん。毎回立ってるから。」

友達 「僕も会社の帰り道、毎晩視ているけど、あの人達が変だって
    気付いて無いの?」

僕  「そりゃあ、変だよね。毎晩何をしてるんだろうね?しかも
    そろそろ寒くなって来たのに、あの女の人は凄く薄着だね。
    寒く無いのかな?」

友達 「寒く無いさ。そんな事感じるわけ無いよ、、、。」

僕  「え?そりゃ又一体どうしてさ。」

友達 「帰りによく視て御覧よ。あの人達はこの世の者じゃ無いよ。
    足下とか透けて見えるんだから、、、、。」

僕  「え!?、、、、。」

 僕は絶句してしまった。まあ、人様をジロジロ見るのは失礼だし、
暗がりでの事だから、余りハッキリとは見て無いけど、、、、。




 僕は帰り道、例によって例のごとく、いつものコースを通って帰った。
するといつものように駐車場には男性が、枝垂れ柳の下の防火用水の所
には白い着物の女性が立っている。

 いつもと同じ人だ、、、。



 この日は満月で、明るい夜だった。深夜になって雲が切れ、盆の様な
満月が駐車場を照らし出す。いつもはショボい電灯が一つだけ灯って
いてよく見えないが、この日は違った。

 男性は三十代後半位の人。俯き加減で佇んでいる。友達に言われた通り
足下を視ると、、、、、革靴が幽かに透けてアスファルトが見えている!
背筋が一気に寒くなるのを僕は感じた、、、。

 じゃあ、あの女性は?と視ると、、、、、こちらも又、いつも木の影に
なって見えない全体像が視えた。通過する瞬間、防火用水の影に隠れた
足下を視ると、、、、。

 草履が透けて見えている!!

 晩秋だと言うのに、襟元が大きくはだけた袷。どうみても夏物の着物。
今どき珍しい後ろに髪を流して肩甲骨当たりで結っている。後れ毛が、
前髪が邪魔で、俯き加減の顔はハッキリとは視えない、、、。

 なんてこった。僕は毎回知らずに彼等の傍を通過していたのだ。
てっきり生きている人間だとばかり思って疑わなかった、、、、。

 僕は出来るだけ不自然にならない様に、わざとゆっくりと歩いた。
背中にはベットリと嫌な汗が吹き出して、額からは脂汗が鼻汗と合流
して来た。

 振り向かない様に駅への道をひらすら歩いた。カーブを曲がり、大塚の
駅前のロータリーが見えて来た辺りで振り向いたが、カーブに遮られて
彼等の姿は見えない。

 僕はしとどに掻いた顔の汗をハンカチで拭うと、逃げる様に山手線に
乗り込んだ。




 その友達の家には、それから幾度となく遊びに行っているが、やはり
毎回夜になると、相変わらずその二人は定位置で立っていた。

 変わった事と言えば、僕は二人の傍を通過する時、決して視線を
彼等に注がなくなり、脇目も振らずに友達の家への道のりを急ぐ様に
なった事位だ。

 今はその友達も他所に引っ越してしまい、僕自身も大塚に縁が無い。
彼等は今でも来る当ての無い待人を、ずっとあそこで待っているの
だろうか?そして一体、誰をああして待っていたのだろうか?

 今となっては誰にも知る由も無い、、、。

 

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