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―独創世界―コミュの世界の短冊

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世界は広く、そして狭い。

    コトノハ
綴られた言葉。
記された書物。
    クロニクル

これは短冊に込めた物語。

コメント(34)

独創世界if-lines of another fate-

case2『麗しの君はじごくのもんばん』


「さて、このままだと遅れるんだが」

蹴られた脹ら脛に少々痛みを感じつつ、必死に走る。

「……今日遅刻はマズいわね。始業式だし、それに……」

どうしてこんなに必死なのか。
それは、今日門に立っている、ある人物が問題なのだ。

「……門が見えた!イケるぞ愚妹!」

「誰が愚妹かバカ兄貴!そんなアンタには……セイっ!!」

「ぬわっ!?」

前方にいた妹はわざわざ反転し、俺に見事に脚払いを決めて走り去っていく。

「て……テメェ……」

「ふふん、そこで這い蹲ってるのがお似合いよ!これからは私をもっと大切にしなさい!」

そう言って見えなくなった。
マズい、本格的にマズい。
現状、あの『悪鬼羅刹』に会えば1日が最悪の形で終わってしまう。

「19……18……」

そう、こんな声の――

「マズい!カウントダウンが……!」

走るがしかし、その「じごくのもんばん」の前で……。

「ゼ・ロ☆」

終わった。
後はやられるだけですね、判ります嫌だ!

「……逃げるが勝ちだ!」

逆方向に走る……が。

ガシッ。

「あらスミヒト、遅刻ね」

肩を掴まれる。

「や、やぁリズ」

ぎこちなく其方に向く。
目の前には、何だか恐い笑い方をする金髪碧眼美少女。

「……なぜ、学校と逆方向に行こうとしたの?学校始まるわよ?」

言葉一つ一つが何故か既に痛い。

「それはだな、ちょっと美少女吸血鬼に追われてt」

「月姫乙。歯を食いしばりなさい脆弱者。断罪!!」

「あるくぇっ!?」

腹に思い切り蹴りを打ち込まれ吹っ飛んだ。

「スミヒト、アナタ何でそんな見え透いた嘘を……」

「ガイアが俺に囁いた」

「ガイアなら仕方ないわね、断罪!」

「めんなくっ!?」

倒れている所に正拳突きがもろに入る。
手加減も容赦もないなコイツ……。

「だらけてるわね、新学年早々バカなの?死ぬの?」

「だらけてるワケじゃない!だらけてるって言う奴は休むことをサボってるんだよ!」

「ご高説どーも。ご先祖様が待ってるわよ。制裁!」

「ぐはぁ!」

サッカーボール蹴りを喰らい、意識が朦朧とする。

そう、コイツが「じごくのもんばん」で「悪鬼羅刹」。
見た目は金髪碧眼スタイル抜群の美少女。
更に外国の元王家で文武に秀でた完璧超人。

彼女の名前はエリザベス=フォン=ベルン。
下学年ありながら、生徒会副会長兼生徒会執行部会長の女丈夫。(女の子らしくないと指摘するとキレるので止めておく)
稀代最強の生徒会執行部会長である。

「……コレに懲りたら遅刻なんてしちゃだめよ?」

「判った。結構セクシーな下着に誓って遅刻はsぐは!」

「……はぁ、保健室に運んどいて……」

はい、という声とともに担架で運ばれていく俺。
薄れゆく意識のなかで思ったこと。

それは――



『口は災いの元だ』





続く
授業中に描いたifのひとたち
星果ちゃん台詞忘れたけどドンマイ
毒葬瀬戒畏怖-羅陰笥悪侮孔挫亞不壊異図-

Case3「フレンドリィ・ポーカーフェイス」

-・-・-・-・-・-・-

「う……黒レースにガーターベルト+ニーソはフェチシズムが過ぎるぞリz……ハッ!?」

HENTAIの夢から覚めて気がつけば、ベッドの上に横たわっていた。
そうか、僕はエヴァにn

「大丈夫か」

低く通る声で問われる。
ふと横を見ると、髪の毛を逆立て少々スパイキーにしたような長身の男子がいた。

「……あぁ、大丈夫。妹に鍛えられてるんでな……ってて……」

「あまり無理はするな。リズが『手加減はしたけど殴りすぎた、反省はしている』……だそうだ」

「あれだけボコボコにされたのにむしろ生きてた事実に感謝してもらいたいね」

彼は「まぁな」と少し顔を綻ばせ、それと、と繋ぐ。

「追伸がある。『見たモノは忘れなさい、じゃないと物理的に消す』、と。……一体何を見たんだ?」

まさか女の子の秘密なんぞ言えるわけもない。

「あー、ちと人には言えねーわ……」

「だろうな。リズが真っ赤になりながら言ってたあたり、とんでもない事をしでかしたな。……リズの兄貴に殺されないように祈っとけ」

南無三、と手を合わせるちょいコワ系天然イケメン。
縁起でもないッスよ……

「……因みに今何時だ?」

ふと気付いて尋ねる。

「昼近くだな、ほら、飯」

「げっ……単位減りまくりじゃねぇか……飯はありがたいが」

サンドイッチと珈琲を受け取り、封を切って咀嚼し始める。
うん、普通……。

「何かあったらまた呼べ。仲間の不始末と看病位はみてやるさ」

と、手を振り去っていく男。

奴は八咬矧邇。
長身で逆立った髪の毛……のお陰か、少し恐く見えるが、端正な顔立ちで学園のイケメン四天王と呼ばれる、心優しく誠実な、俺の幼なじみ……その2。
友達が少ないのを悩んだりする、普通の男子である。

「あぁ、すまん……何かあったら呼ぶが、恐らく午後から復帰できそうだ」

マジギレした最後の一発以外は全て治っていたあたり、手加減されていたのが判る。
悔しいけどこれ、現実なのよね……。
最近の女の子は強いな……。

「了解。まぁさっき言った通り無理はするなよ、じゃ」

そう言い残し消えた。
しかし……

(人は見かけに依らない……うーむ、いいやつだなー。)

そんな労わられた午前。
さて、飯喰ってまた休むか……。






続くよっ!
独創世界IF-Lines of another fate-


Case4『ヒイラギ春のカマ祭り』


-・-・-・-・-・-・-

……結局、クラスには最後のHRにしか戻れなかった。
それには、ちょっとした理由がある。

時間を遡ること保健室を出たスグ。
俺は厄介な人物にキャプチャーされてしまった。

「だぁ〜れだ?」

突然目隠しをされた。
甘ったるく話す声は妙に野太く、あからさまに女子ではない。
つまり男。
しかも、間違いなくオカマである。

「……この学校にアンタ程目立つ奴なんて、生徒会の連中とリュウくらいだろう?」

「あら失礼ね、これでもノーマルもイケるわよ?」

(えぇい微妙に触れながら腰元をクネクネするな気持ち悪い!)

このオカマ、もとい生物は……

「離れろヒイラギ、あらぬ噂が立つのは俺としては避けたい」

「あらぁ、結構ウブなのね〜」

「アッー!だから執拗に下半身を撫で回すな!」

皆にヒイラギ、と呼ばれる。
本名を知る人は少ない、そして授業に出ていることすら怪しい漢女(おとめ)。
噂ではダブっているらしく、未だに同学年である。
見た目は女性らしく、線は細いのだが、如何せん声が普通に男であり、両刀のHENTAIである。

本来、俺とはそう深く関係していない筈なのだが、超一方的に好意を抱かれているっぽい。
リュウも貞操を狙われており、妹やリズ、矧邇にまで手を出そうとしている、マジ変態犯罪者である。
出来れば関わりたくないのだが……。

「というか何の用件だ!?また『やらせて』とかだったら俺は全力で逃げる!」

「あー、それはまた別の機会に」

(是非ともお断りしたい)

そう考えていると、ヒイラギの薄ら笑い顔が少し真面目になった。
どうやら、本当に何かあるらしい。

「突然だけどスミヒト、貴方死相が出てるわよ」

あれ?
真顔でギャグ言われたよ?

「おいおい……呪術研究会の会長さんにそれを言われると不吉過ぎるんだが……」

「本当よ」

今度は念押しに言われた。

「……またどうして?」

突然ながらこんがらがってきた。
急に言われてもピンとこない。

「虫の知らせに近い、ということなんでしょうかねェ……実はよく判っていないの」

「珍しいな……アンタの占術って細かく判るんだろ?」

ヒイラギの占いは、学園内では知らない人はいない。
おおよそ殆どがあたるという。
その占いは漠然としながらも細部まで見える事が多い。
だが、今回は判らない、という。

「私も初めてなのよ、明確なヴィジョンが見えないのは。でも、貴方は近日中に……」







『死ぬ』


『または、大切なモノを失う』










続くぜ?
【一応訂正宣言:リズ】

「いつも言ってるがスミヒトじゃなくてスミトなんだが」

「あら、ごめんなさい?スミヒト君。ところで朝のことだけど…」

「…覚える気ゼロかい…つか朝なんてなかった!サラダバー」

「あ、こら!」


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
【一応訂正宣言:ヒイラギ】

「ヒイr」

「あら、スミヒトから私に話し掛けてくるなんて!なんのお誘いかしら?」

「反応はえぇよ。つかあんたと一緒に行こうと思う場所なんて魔王城くらいだよ。頑張って魔王を篭絡してくれ。いや、そんなことよりだな…」


いや、まてよ…むしろ間違ってもらってた方がこちらとしては好都合な気がするな…
変な噂流された時の逃げ道として取っておくか…
スミヒト?誰ですそれ?
よし、完璧だ。


「あー…いや、やっぱなんでもない」

「そんな勿体振る必要なんてないわよ?」

「すまん、忘れてくれ」

「あの夜のことも…?」

「俺の過去を不純にでっちあげるな」

「んもう、つれないわねぇ」
物事との始まりと終わりは突然にやってくるものである。
今回の話もまた然り。


―とある平行世界の学園譚―


「点呼……取らなくて良いか」
開き掛けた出席簿を閉じ、俺は溜息を吐く。出席簿にはしっかり二桁生徒の名前が書かれているが、教室に居るのは八名。
担任副担任含め十名ってなんだこりゃお前。
「遅刻なのかサボりなのか分からねぇのが奴等の嫌な部分だよなぁ」
出席者以外の欄に斜線を引く。
「先生、姉は遅れても必ず来ると思いますよ」
「……だろーな。アイツが来ないはず無いもんな」
金髪(地毛)詰襟(自前)のジョシュは申し訳無さそうに言った。
「ウチのバカは確実に寝坊サ。遅くまで阿呆の様にミステリ小説なんか読んでたからネ」
悩まし気に飽きれるイケない女生徒魑鉉。お前学校なんだから露出控えろ。
「授業出てるだけでお前等は真面目優等生だよ」
「あそこで爆睡してるのもか」
白い副担任は窓際隅の机に突っ伏す蒼髪を指す。
「授業妨害はしないからな、奴等の様に」
その上睡眠学習でも持ってるのか寝てるくせに成績は優秀である。寝る子は育つとは言ったもんだ。
「あ、せんせー教科書忘れちゃいました」
非常におっとりとした触角アホ毛女アルフェを見て俺は脱力する。
「……霊無、見せてやってくれ」
「あ、は、はい……」
内気な少女霊無は隣に机をくっつけ、その真ン中で教科書を開く。小学校だっけこの学校。
「「…………」」
そしてジッと俺を見詰める幼い双子の少年少女るうとれい。いや幼く見えるだけで年齢としては一応学生というかなんというかだ。
「さて、とにかく授業を始め……」
「はよざいまーす!」
バーン、と騒々しいを通り越して煩わしく扉を開けて教室に入ってきた金髪褐色肌のセーラー娘。娘と呼ぶにはちとキツいがな。
「センセ!センセ!今日はセーフだよな!な!」
その訳の分からん自信は何処から来やがるのだろうか。一度頭の中を覗いて見たいモンである。
「セーフなら先生は握り拳を作ったりはしない」
「じゃ私パーで良いっスね!」
「そう言う話じゃねぇよ!」
ゴッ、と鈍い音を立てて出席簿の角が遅刻者ヨナにめり込んだ。これは間違なく痛い。
「どうするよ白いの」
「いつも通りで良かろう」
ですよねー。と頷いて言い放つ。

「「校庭10周してこいクソ野郎」」

担任と副担任による 教育的指導。効果は 抜群だ!

「ダブルマサトの鬼ー! 悪魔ー!鬼畜ー!」

ヨナは 捨て台詞を吐いた!
担任と副担任の怒りのボルテージが上がった!

「「お前もう今学期赤点だからな!」」

担任と副担任による締出し! ヨナは校庭に逃げた!

「……さて、授業を始めよう」


続く……のかな?
独創世界if-Lines of another fate-

Case5「チェイサー・イン・ザ・レイニーデイズ?」

-・-・-・-・-・-・-

それから。

何だかんだでヒイラギに魔除けやら何やらをしてもらうと放課後。
いつの間にか雨が降っていた。

「……勘弁してくれよ……」

星果は先に帰ってしまったみたいだ。
死亡宣告を受けてブルーなのに、これではあんまりじゃなかろうか。
よく見ればまだ小ぶりなのだが、雲は分厚い。
確実に大雨になるだろう。

「本格的に降り出さない内に走るか……」

うんざりしつつも急ぎ足で帰路に着く。
辺りは曇り空のせいで暗い。
そして、どこか不気味だった。

「……ん?」

人気のない中走る音、そして雨のシトシトという音に混ざり、音が聞こえる。

それは、凛と響く足音。

気付こうが気付くまいが意味はない、という風に、俺に追随してくる。

リィン、リィン

雨がまるでその音になってしまったかに錯覚する。
俺は寒気を覚え、その場から走り去ろうとする。
だが。
その音は、俺に段々と近付いてくる。
言わずもがな理解した。

俺は、追われている。
そして、今にも追い付かれそうだ。

「ちょ……何なんだよっ……!?」

普段さほど悪さはしていないし、恨みを買うような真似はしていない。
だとすれば、何故?

ヒュッ ドカッ

「……え」

走る真横を通り過ぎ、アスファルトに突き刺さる物体。
間違いなく、それは手投げのナイフだった。

「な……何だよ!俺が何をしたってんだ!畜生!」

その言葉に呼応するように、一本、二本とナイフが通り過ぎていく。
遊んでいるのだろう。

「クソ……クソ、クソ、クソクソクソォッ……!」

あまりにも、あまりにも理不尽過ぎる。
この調子だと追跡者は何の躊躇いもなく俺を殺すだろう。
俺が何をしたというのだ!

ドン バガッ!

今度は爆発音と共にそばにあったブロック塀が瓦解した。
重火器まで持っているなんて……!
死にたくない、死にたくない!

(落ち着け!こんな時の最良を考えるんだ!)

頭に響く自分の声。
どうやら俺はおかしくなったみたいだ。
なら最良を探すさ。
今の最良は――

「……そうか、公園だ!」

遮蔽物に退避しても、恐らく遮蔽物事破壊されるのなら。
いっそ、開けた場所、それも、利用しやすい地形……!
幸い近くには広い公園があった。
そこに逃げ込めば――

(走れ!!)

あぁ、言われなくともやってやる。
最速の道を割り出し、滑るように公園に駆け込んだ。
そして、公園の中でも視界の開けた場所で、追跡者と対峙する……!

リィン……リィン……

追跡者は、何時の間にか晴れた夜空の月明かりに照らされた。

背丈は低い。
顔は外套のフードで隠れているため、男か女かも判別はつきにくい。
ただ、控えめながら女性独特の体のラインを持っている所を見ると、追跡者は女性らしい。

「……何なんだ、お前……!」

女性の知り合いなど、殆どいない。
背格好から推測しても、知り合いにはこんな奴はいない。

「お前には知る必要はない、御苑宿人」

相手側は名前を知っているようだ。

「……何故だ」

フッ、と殺気が高まる。
張り詰めた空気の中、追跡者はこう宣う。

「お前は、此処で死ぬ」

「……!」

やはり、此処で殺すつもりなんだろう。

「そう、お前に関係があろうが無かろうが……」

平坦なトーンでゆっくりと。


「――お前は、私がここで殺す」


はっきりと、死刑を宣告された。









続くわ。
独創世界if-Lines of another fate-

Case6「チェイサー・イン・ザ・レイニーデイズ?」

-・-・-・-・-・-・-

刺々しくも凛とした空気の中。
俺は、俺を殺すだろう追跡者を睨む。

「そう簡単に死んでたまるかよ……!」

そう言いつつ、手元に隠した砂混じりの飛礫を投げる。
向かうは斜向かい――つまりは奴の後ろ。

しかし。

「緩い」

飛礫は外套に全て弾かれる。
翻しただけで全てをかわされ、横に走り抜けようと走る俺の足を払った。

「ぐあっ!!」

前のめりに倒れ転がる。
仰向けに見た空は、既に晴れていた。

「無駄な抵抗はしない方が身のためだ」

歩き近づく追跡者。
そして、俺の胸を踏みつけた。

「ぐ……!」

ブーツのソールの痛さ、泥濘にまみれる体。
そして、全てが終わるという絶望。
全てが、俺の最後の望みを消した。

「逃げ回れば肉片が飛び散る。無様に死ぬより素直にすぐ死にたいだろう?」

そう言って奴は、心臓に向けて手持ちの銃を翳した。
月明かりのせいで顔は見えない。
だが、フードの中に輝く、殺意を持った朱い瞳が、俺を睨み付けていた。

「では、殺してやる」

引き金を引く指を見る。
全てはスローに見えて、そして―――



―――突然、横から金色の流星が、奴を突き飛ばした。

「ぐぅっ……!?」

たまらず吹っ飛び転がる追跡者。
金色の流星……に見えた物体は人で、奴に対峙していた。
月明かりに光る金色の御髪は風に揺られ、その存在を確かにする。

「何をしているのかしら、【銀猫】」

どこか威厳のある声で、【銀猫】と呼ばれた追跡者に問う。

「……『親殺しのパラドックス』を使う」

【銀猫】は、ゆらりと立ち上がる。

外套は外れ、顔は既にはっきり見えている。
短めに整えたボブショートの銀の髪と、首元にぐるぐると巻かれた長いマフラー、そして紺と黒でカラーを分けた軍服。
何より、無表情にも関わらず、負の感情を全て入り混ぜたかのような、濁った朱い両眼。
白磁のように透き通るような肌を見ても、それらが彼女を【普通でない】と指し示す。

「まだ指令は下りていないわ。私情は慎みなさい」

弱くウェーブにかかった髪を風に棚引かせ、金色の後ろ姿はそう言う。
よく見れば彼女のも同じ服ではある。
しかし、肩から肩に掛かる白いマント、そしてそれに描かれた天馬と武具を組み合わせたエンブレムは、【銀猫】にはない。

「しかし、今すぐにでも『変化』は起きかねない。その前に、奴を始末する」

「……少なくとも、現時点では微弱な変化しか見られないわ。彼を説得・保護する事が、我々の最優先ではなくて?」

その言葉に苛立ちを覚えたのか、朱い瞳が少し揺らぐ。

「あなたの言い分が判らない事でもないの。でも、今彼に多大な刺激を与えたら、それこそ『発現』しかねないのよ?」

「………………」

それを聞き入れたのか、武器を『消し』た。

「それで良いわ。良い子ね」

「子供扱いするな、【金色夜叉】。……もし、大きな変化がみられるのであれば……」

此方を睨み付け、殺気を放つ。

「その時は、消す」

それを言った後、フッと闇に消えた。

「……ふぅ」

【金色夜叉】と呼ばれた女性はため息をつくと、此方に振り向く。

「大丈夫……と、大丈夫ではないわね……」

差し出した手を取り立ち上がる。
金の髪を揺らめかすその人は若干つり目気味で、人間離れした美人だった。
その蒼いつり目を緩ませ、なるべく和やかに話してきた。

「ごめんなさい。私が彼女を止められなかったせいで、会うはずのない私達に、あなたは出会ってしまったわ」

本当に済まなさそうな顔をして、そう謝罪した。

「……あれこれ訊きたいことがあるが、アンタには助けてもらったんだ、もう良いよ」

ホントは色々と聞かなきゃいけないことがある。
だが、素直に謝りたい、そう思えた。

「ありがとう。……では、その問いに答えなきゃいけないわね」

「じゃ遠慮なく。アンタ達は何者だ?つーか何故俺を狙った?『発現』って?って言うか何であの子は俺に殺気満々なんだ?」

抑えていた質問が全て出て行く。
それ程パニックなんだよ!

「一気には答えられないわ。だから一つ一つ回答しましょう。……長話になるけど、いい?」

構わない、と近くのベンチに座る。
体中泥だらけで不快だ。

「……そのままだと風邪を引くわ。……『巻き戻し』」

そう言うと、学校からでる前までの状態に戻った。

「なっ……!?」

「それも説明するわ」

落ち着け、と言わんばかりに目を瞑る【金色夜叉】。

「では、私達は何なのかから答えるわ」

「あ……あぁ」

そしてゆっくりと、彼女は宣う。




「私達は、未来から来たの」








続く。
独創世界if-Lines of another fate-

Case7「悪夢と温もり」

-・-・-・-・-・-・-

未来から来た。
そんな意味の分からない突拍子もないことを言う。

「……すまんが、信用ならん」

「でしょうね」

クスリと苦笑いする彼女。

「でも、本当なの。事実、あなたはそれを近日理解するはずだわ」

まるでそれが決められたことの様に言う。

「……続けるわよ?私達は、未来から来た人間なの。そして、ある目的の為に此方の時間軸に来た」

「……何だよ、その目的は」

何だかイヤな予感がする。
ヒイラギの死刑宣告に近く、もっともっと危険な何か。
それが、俺に近付いていたのだ。

「あなたを止めに来たの、御苑宿人」

ドクン、と心臓が高鳴る。

「止めに、来た?」

「そう。あなたは近い未来――」

聞いてはだめだと予感する。
でも、聞かなきゃいけない気がする。
だから、聞いた。
俺の、未来を。



「世界を、壊すの」



…………は?

「潜在的な力を『発現』させて暴走し、無作為に人を殺す。それが、あなたの未来」

節目がちに話す。
その表情は悲痛そのもので、嘘を言っていないと思える。

「それを事前に止めるのが、私達の目的なの」

「俺が、世界を壊す?……人を、殺す?」

「えぇ、そうよ」

「すまんが、またまた信用ならんな」

当たり前だ。
軽犯罪すら犯したこともないし、校則も守ってるぞ?

「誰だってそう思うわ。でもね、それすらあなたは知ってしまう」

「そりゃまた何で?」

「それは……分からない」

「……おいおい……」

俺が世界を壊すのも、壊す事を知る事も知っている。
でも、なぜ知るのか、いつ知るのかは知らない。
意味が分からない。
やはり信用ならない。

「信用出来なくてもいいの、でも知るべき事だから言っておくわ」

「お、おう……」

気圧されるように返事をする。
どこか鬼気迫る何かを感じたからだ。

「そして、あなたを狙った【銀猫】の目的なのだけれど……」

どこか言い詰まるように言う。

「復讐、よ」

「復讐……?まさか……」

「そう、未来のあなたに何か恨みがあるみたい。詳細は分からないけどね」

未来の俺に対しての復讐を過去の俺に対してなんてしないで欲しいが。

「他に何か訊きたいかしら?」

「……ぶっちゃけあまり理解は出来ないんだが、もう分かった」

「……ありがとう」

そう言ってまた少し笑った。
……少しときめいてしまった……。

「では、此処で話は終わりね。……今日は本当にごめんなさい」

「まぁ元通りにはなったしいいよ……今後は完璧してもらいたいね」

そうね、と苦笑いし、彼女はベンチから立った。

「じゃ、私はこれで。出来れば、もう出会わないようにしなきゃね」

「……あぁ」

多少名残惜しくはなった。
せっかくこんな美人さんと知り合いになれたのに……。

「ふふ、まぁ運が悪ければまた出会うわよ。それじゃ…………ッッ!?」

手を振り去ろうとする彼女は、バッと後ろを振り向く。




「よぉ……手が早いじゃねェか、【金色夜叉】」



いつの間にか、誰かが後にいた。
ソイツは、どこか不快で高圧的な声で話す。

「全くよォ、せっかく【過去】に会いに来たのにあんまりじゃねェか……ひひひ」

笑い声さえ感に障る。
そいつは、月明かりに照らされて……

「よぉ……【俺】」

顔が露わになる。
どこか気怠げで、バサバサした髪。
皮肉げにつり上がる不快な口元。
泥のように濁った目。
そして、纏う混沌とした重圧感。

多少顔は違う。
言葉使いだって、全然違う。
なのに。
なのに、コイツが、未来の『自分』なのが理解出来た。

「けけ……間抜け面だなァ……何にも知らずにバカみてェ……ハハハヒヒヒ!!」

傍らにいた【金色夜叉】が、いつの間にか一振りの片手剣を構えていた。

「……何をしに来た」

威圧的に彼女は言う。
恐らく、返答次第では斬るつもりだろう。

「ハッ……ただの挨拶さ。【金色夜叉】だけならまだしも、オマケが面倒クセェんでな」

少し苛立つかのような仕草を見せるが、恐らく奴は苛立ってはいない。
余裕なのだろう。

「ならば早々に立ち去れ。でなければ今――」

「わァったよ。だがな、良く覚えとけ?」

羽織ったぼろ切れをばさりと翻し、闇に去る。


――俺は、『全て』を消し去るゼ?


そう、後に残して。



-・-・-・-・-・-・-

「……大丈夫?」

「まぁな……」

毒に宛てられたように、俺達は弱っていた。

「とにかく、私があなたを助ける。絶対に」

そう言った蒼い瞳が、俺を見つめる。

「え……あ……おう……」

気の抜けた返事を返すしかない。

「護るから……絶対……」

そう言って、彼女は俺をギュッと抱き締めた。
彼女の全く自重しない大きな膨らみの感触がするのに赤面しつつ、しばらくそのままでいる。
ち……窒息する……。

「……あっ、ご、ごめんなさい……つい」

「べ、別に構わないよ……」

何だか気まずくなってきた。
それを察知したのか、彼女は少し顔を赤らめながら、『じゃ』と言ってあちらに向き、歩き出す。


「……私は『ハイメ』って言うの。出来れば、全てが終わってから……また会いましょう。さよなら」


そう言い残し、去っていった。
俺はしばらく惚けた後、時間を見てみた。

「……ゲッ、もうこんな時間かよ!」

間違いなく星果に怒られるな……。
とにかく急ぎ帰ることにした。




俺は、この時驚き過ぎて、理解が出来ていなかったのだ。
これから、壮絶な非日常が俺を襲うことに――――。








続くわねェ。
独創世界if-Lines of another fate-

Final Case「時期外れの転校生」

-・-・-・-・-・-・-

昨日は色々ありすぎた。
ありすぎてまた少し遅刻して、リズにボコボコにされた(今回は緩くやられたみたいで、HRには間に合った)。
何故か、リズに不思議な既視感を覚えつつ。

教室に着くと、えらくザワついていた。

「……何これ?」

「お前と同時に着いた俺に言うなよ……」

キョトンとした星果に答える。
首を傾げつつも席に着き、俺は斜向かいの席に居る矧邇に話を訊いてみた。

「……何の騒ぎだよ、コレ」

「……どうやら転校生が来るらしい」

こんな変な時期にまた……。
そんな事を考えている内に、先生が入ってきた。

「はいはい、席に着けー!転校生はちゃんと居るから!」

そう促すと、みな席に着いた。

「知っているだろうが転校生が我がクラスに来た。ほら、入りなさい」

扉の向こうに告げると、扉が開いた。
そして入ってきたのが……。

「「「―――ッッ!?」」」

一同が息を飲む。
身長は低いが、透き通る白い肌。
綺麗な銀色の髪。
華奢な顔づくりに、パッチリとした黒い瞳。
美形だ。

美形の……男子だ……。

(格好いい系じゃなくて可愛い系だけどイケるわねー!)

(チッ……男子かよ……)

(掘りてぇ)

ヒソヒソと話し声が聞こえた。
最後の勇者は無視しておこう。

「さ、自己紹介するんだ」

先生がそう促すと、おずおずと話し始めた。

「白來泉瀧、と言います。この街には越してきたばかりで色々と及ばない所もありますが、宜しくお願いします。」

凛、とした声。
その声で一瞬静寂が訪れるものの、より大きくざわめき始めた。

(美声だわ……調教したい……)

(また俺達は格差を目の当たりにするのか……)

(ノンケでも喰っちまうぜ)

おいおい、不穏過ぎるだろお前ら。
一通り挨拶すると、瀧は空きのある右斜向かいの席に座った。
座る前に、何だか目が合ったような気もするが……自意識過剰だな、俺。

そして、何事も無かったかのようにHRは終わる。

「瀧くんは何処から来たの?」

「髪は地毛?」

「早速だけどトイレ行こうかハァハぐぼぁ」

質問攻めは転校生の為のイベントだ。
だからまぁ、逸脱しない限りは良いんだが……ダメなラインの生徒が多そうだな……。

「お前は行かないのか?」

「さして興味はないな」

矧邇が授業の準備をしながら訊いてきたのでそう答える。
全く無い訳ではないが、正直朝っぱらから他人に絡む元気はない……。

「星果は行っているみたいだがな」

「全く……あいつは……」

授業中は全く起きない愚妹は、今日に限り転校生の元に行っている。
よくよく観察してみれば、ちゃんと会話は続いているようだ。

「嫉妬かね、宿人きゅん」

龍弌狼が猫なで声でそう曰う。
正直キモいが、反論するとつけあがるので無視を決め込む。

「あれね、禁断の愛に気付いたのね」

「おいおい今更かよ」

何時の間にか教室に戻っていたリズも加わり、ひそひそと話し合っている。
全くもって質が悪い。

「五月蝿い、授業始まんぞ!」

「あらあらムキになってうふふ」

「すみっちかーわーいーいー」

ウザすぎる!

それから、授業が始まるまでからかわれ続けたのだった……。


-・-・-・-・-・-・-

「現状報告」

白銀髪を風に揺らしながら、小型デバイスに話しかける。

「未だ変調の兆しはなし」

刺激したものの、能力は開眼しなかった。
僥倖ではあるのだが、始末する理由が無くなってしまった。

「引き続き観察に徹する」

【金色夜叉】や【黒狼】も目を張らしている限り、【次元断罪者】も下手には動かないだろう。
【灰鷲】も、この現状には歯噛みせざるを得ない。

「だがしかし……」

胸の当たりがざわつく。
何時の間にか、自分の知らない記憶が頭にある。
そう、自分たちが『修正』しに跳んできた時間に、なにか有ったのだろう。

「理解出来ない……」

この気持ちは、赦される物ではない。
でも、棄てることは出来ないと、心が叫んでいた。

「……母さん……」

今は亡き、母の笑顔を思い出しながら、月を見上げる。


空は、口が裂けたように嘲っていた…………。




Prologue End...
-・-・-・-・-・-・-

時と時に人は惑わされる。
そこに、自らの自由意志はない。


「お前を、殺す」

「恨むことでしか、生きていけない人種も居るんだよ」


運命は違え、関係性は容易く砕かれる。
不条理さへの、嘆きを込めて。

「この腐った世界なんざ、あっても仕方ねェだろ?ヒヒヒ……」

「情に流されてはいけない、俺たちは、絶対にやらなければならないんだ」

だがしかし。
諦めることは逃避でしかない。
抗い、傷つきながらも、前に進まなければ、人は進化しない。

「ごめんね……ごめん……」

「チクショォォオッ!返せ……返せってんだぁぁぁああああああああああ!!」

罪にまみれ、傷を負ってでも、僕らは前に進まなくちゃいけない。




いつか見る、新たな黎明の為に……。



「越えるさ……限界であろうが、未来であろうが……そう、約束したんだよ……!」




独走世界if-Lines of another Fate-
独創世界if-Lines of another fate-

Select1:「ベタつかれロンリーウルフ?」

-・-・-・-・-・-・-

何だかんだで放課後になった。
転校生――タキは、頭脳明晰であり、多少シャイさを除けば性格も上々、何より美形であることから、沢山の人と仲良くなったらしい。

んな事はともかく、俺は放課後に出来た暇な時間をどうするか考えていた。

そして、ふと思いついたのが……


「街にでも行って今週のジャンプでも買って帰るか……」


という我ながら非生産的な行動だった。
だってよ、珍しく冨樫が仕事したんだぜ?
買わなきゃ暇人の名が廃るとは思わないか?

……まぁそんなメタな話は置いといて。
狭布市にある繁華街の本屋に行くことにした。
この本屋は店舗がとても大きく、様々なモノを取り揃えている。
特に漫画などのサブカル本は、日本探せどこの取り揃えはない程に幅広く、依頼すれば絶版した漫画まで入手してくれるという。
噂では、オーナーの意向でこうなっているとか。

ともかく、そんな店であるわけだから、人気の週刊雑誌は目立つ場所に置いてある。
手早く済ませ、読みながら帰ることにしよう。

「相変わらずりりキスの作者は変態臭いフェチ漫画だな……あ、終わりかよ」

だがそれがいい。
そう思いつつ、繁華街にある狭布市商店街を通り過ぎていく。

「オラオラ!」

「囲め!綺麗な顔ボコボコにしてやんよ!」

「ヒャッハー!そのメガネぬか漬けにしてやんぜ!」

細い路地にそんな声が木霊する。
それだけなら通り過ぎたのだが……

「うるせェな……早く帰らねェと姉貴にどやされンだろーが……」

聞き覚えのある声がしたため、覗いてみる。

「げっ」

深く黒い髪に、金刺繍の入った黒いバンダナ。
すらりと長い長身に黒縁メガネと切れ長な目つき。
黒いベストに黒いスリムパンツ。
何処をどう見ても黒。
手に携えるはネギ入りマイエコ買い物袋。
そう、幼なじみの黒牙龍弌狼である。
その格好でネギとエコバッグはだせーよ。

「「「んだよんめてんのかんめー!」」」

「日本語を話せ日本語を……ったく……」

そう言うとバッグを安全な場所に置いて、肩と首を回し、ファイティングポーズを取った。

「来いよ、遊んでやる」

そのセリフに挑発されたゴロツキたちは、一斉に飛びかかる。
収束する敵意の中、滑るように拳を避ける。
間髪入れずに延髄を刈る。
たまらず相手は倒れ込み、残り二人。
武道の心得があるのか、ゴロツキの一人は軽いフットワークを刻みながら様子を見ている。
もう一人は腕を広げ契機を見る。

(ボクシングに柔道か……)

対極の格闘技が龍弌狼に牙を剥く。
ボクサーは顎狙い……でなく龍弌狼のボディを狙った。
顎はプロでもクリーンヒットが狙いにくい場所で、ボディは一番当たりやすく効率のよい大きな的であるからだ。

「お手本どーりご苦労さん……っと!」

超スピードで向かってきた拳に膝を当て返す。
ボキッ、と鈍い音を立てて砕ける拳に大声を上げた相手。
それを逃がすはずもない。

「拳はこう使うもんだ」

振り上げた拳は龍拳型。
人差し指と中指の背を立て気味に握る型。
中る面積は非常に狭いが、力がなくとも効果は物凄く高い。
それを、こめかみに打ち据えた。

「あぎっ!?」

奇怪な声を上げて気を失った。

「ゴロツキの癖に教科書通り過ぎんだよ……」

つまらないものを見るかのように一瞥した龍弌狼。
そして横に飛びさり、タックルをかわす。

「ちっ……!」

「おいおい、神風特攻隊なんざ今更流行らねェぜ?」

嗜虐を顔に浮かべ、龍弌狼は最後の獲物を狩る。
前後がつまらなかったせいか、最後のゴロツキはズタボロにされていった。

「ふー……つまんねーことしちまったなァ……」

自分に呆れたのか、相手に呆れたのか。
彼は退屈を顔に浮かべ、バッグを手にしようとする。

「……ぁ゛あ……」

のっそりと立ち上がるゴロツキ。
最初に延髄を刈られ、暫く動けない筈のゴロツキは、目を血走らせ、刃を手に龍弌狼に突進した。

「……!?チッ……!!」

気付くのが少し遅れたのか、不安感な大勢になり、このままではかわしきれないだろう。
まぁ流石に俺の出番だな。

「少年雑誌ブーメラン!」

「ごぁっ」

投げたジャンプはダメージのある延髄にクリティカルし、ゴロツキはどう、と倒れた。

「ふぃ〜……危ねーぞ龍弌狼」

「宿人か……済まん、助かったぜ」

強ばらせた顔を戻しながら、龍弌狼はそう言った。

「しかし、何で油断したんだ?普段なら……」

「あァ、始末していた。だが、何故か立ち上がった訳だ……殺気を出さずにな」

「……??」

難しい顔をする龍弌狼。
この時は、俺には何も判らなかった。
「で、お前帰るんじゃないのか?」

「あ……そうだったな……姉貴が五月蝿くなる前に帰るとしようかね。お前、今日ウチに来るか?」

そう言えば暫く龍弌狼の家には行っていなかったな。
断る理由もないのでついて行くとしよう。

「んじゃあお邪魔するかな」

「了解、ならこっちだな」

向かうは住宅街にあるマンション。
綺麗で家賃も高いのだが、姉達が住む為に此処になったらしい。
収入は充分あるので、お金の心配も無いとか。
……ヒモ予備軍なのか、龍弌狼は……。

「ただいまー」

「お邪魔します」

開けた一室は綺麗に整頓されており、埃一つ見当たらない。

これ……龍弌狼がやってるんだぜ……?

と、そんな中、中心で何かが倒れている。
それが、龍弌狼の声を聞いた途端に動き出した。

「リュー……お帰りなさァい……」

長い金髪を乱し、ゾンビのように地面に這い蹲るこの人。

「ミリア姉、遅くなって済まん。今から飯作るわ」

「はァ〜い……宿っちいらっしゃーい……」

「はぁ、ども」

名前はミリアリアという。
何で日本人の龍弌狼とミリアが姉弟なのか。
それは、彼らが孤児院出身者だからである。
元々孤児院で仲のよかった三人組が、家で姉弟として暮らした、というのが正確か。
因みにミリアは狭布学園の英語の教師である。

「鈴姉は?」

「担任の会議だそうよぉ、あたしには関係ないけどねェ」

三人組の中心である鈴姉さんは、言わずもがなウチの担任である。

「なら別に作るかァ……あ、宿人は座って待っててくれや」

「おうよ」

特に手伝えることもないので席に腰掛ける。
遅れて、のっそりとミリアが座った。

「……はァ……お腹空いたわぁ……」

そしてぐったりした。

「大丈夫ッスかミリア姉さん」

「お昼食べ損ねてねェ……」

なるほど。
今にも溶けそうなほど気力が無いのはそのせいか。

「え、でも龍弌狼が弁当作った筈だろ?」

「……早弁しちゃったぁ……」

どんだけ食うんだこの人。
美人でスタイルのよいこの人のどこに栄養が……と考えて止めた。
確実にあそこしかあるまい。

「宿っち……今胸みたわねェ?」

「ギクッ」

ロマン溢れる場所は、ラフなシャツでは隠し切れていない。

「ごめんねぇ〜これ龍弌狼のだからァ……」

「何をいっとるドアホウ!」

スパコーン!と新聞紙で叩かれる姉。
学校では全く見られないこの風景。
そう、龍弌狼は姉二人ともに溺愛されているのだ。
そりゃもうフラグが壊せない程に。

「仲いいよなー、挙式いつ?」

「今すぐにでも……」

「するかィッ!」

またスパコーン!と頭を叩かれるミリア。

「痛いわよぉリュー……」

若干涙目になるミリアを見て、思いっ切り動揺する辺り、ヤツもシスコンである。

「龍弌狼、味噌汁味噌汁」

「アッー!吹いてやがるッ!」

大変なことになってしまう前に、台所に消えた。

「いや、ホント仲良いよねミリア姉たち……」

「そりゃあ世界で一番大切な弟ですもの、可愛がり足りない位よぉ?」

あれ以上何時もやってる辺りもうコイツラ駄目かもしらんね。






そうして、飯を食い終わり、鈴姉さんが帰ってきた辺りから更にヒートアップした弟いじりタイムに耐えられず、そそくさと帰宅した。




龍弌狼、お前が実は主人公なんじゃないのだろーか。






続く。
独創世界if-Lines of another fate-

Route?-「???」

Fate??:「ヴァレンタインデイ・ラプソディー」

-・-・-・-・-・-・-

ヴァレンタインってペル○ナの新しいスキルじゃね?
そう思った奴は優秀なアトラス勢。

ふとそんな事を考えていた今日はヴァレンタイン。
特に感情もないまま、今日も過ぎると思っていた。
この話はラブコメではない、最初に言っておこう。
ブラフとかそんなチャチなもんじゃねェ……女の怖さの片鱗ってモノを味わった気分だったぜ……。

-・-・-・-・-・-・-

今日はバレンタイン。
いつもの如くチョコを渡すつもりだった。

でも、今年は何かが違う。
間違いなく違う。
宿人の周りには、何故か沢山女の子が増えた。
リズちゃんは元から居たけど、まさかリズちゃんの友達とも知り合いになっちゃったり。
タキちゃん(まぁ隠してるけど……)も何だかんだで女の子。
ヒイラギさんは……うーん。

でもでも!
何だか納得いかないのよ!
このモヤモヤした気持ちは何なんだろう……。
判らない。

判らないから、今年はちょっとチョコに力を入れてみようかな……。

-・-・-・-・-・-・-

執行の徴収品に増えた菓子類。
気持ちは判るけど、これを堂々と出されると私の立場がない。
そりゃあ私だって女の子なんだし、気になる人くらい……って何で彼が……。

彼は、最近何だか強く優しくなった気がする。
男の子ってそんなものなのかしらね。

……そっか、私は……。

-・-・-・-・-・-・-

転校生してから随分と経つ。
私は馴染めているんだろうか。
確かに友達も沢山出来たし、秘密を共有出来る人も出来た。

特に、彼には良くして貰っている。
日頃の感謝として、何かお返ししたいとも思う。

そう言えば、今日はヴァレンタインだ。
これを機に、お返しを……あ、遊ぶ約束も取り付けて……。

……あ、そ、そんなつもりじゃ……、でも、何だかそんな気分で……。

はぁ……どうしよう。

-・-・-・-・-・-・-

「宿人」

「ん?何だリズ?」

急に呼ばれたので振り返ると、物陰に隠れてもじもじしながら此方を見ているリズ。

「ちょ、ちょっと来て……」

「???」

言われるがままに行くと、素早く何かを手渡された。

「ん?こりゃぁ……」

「さ、さよならっ!」

足早に去る。
残された俺は、その包みを手に呆然としていた……。

-・-・-・-・-・-・-

「え……えっと、宿人さん?」

今度はタキか。

「何だ?」

「こ、これ……それと、今度の日曜日、遊びませんか?」

要領を得ない。
らしくないなぁ、タキ。

「……良いけど、熱でもあるのか?」

触ろうとした瞬間、

「ひっ!ごっ、ごめんなさい!」

逃げられてしまった。
何なんだみんなして……。

-・-・-・-・-・-・-

結局何事もなく放課後になった。
予想通りなので気にせず靴箱を開けると、袋と手紙が。

「宿ちゃんへ☆」

どうみても奴、ヒイラギである。
イヤな予感がしたので中身を龍弌狼にやったら、

「ベツニナントモナイヨ、エヘ」

と言っていた。
南無龍弌狼。

そうした帰り道、星果と合流した。

「お前も今日は帰りなんだな」

「まぁ、ね」

テストが終わり部活も休みなようだ。

「すみ兄」

「何だ?」

茜色に染まる帰路、星果は何だか浮ついたように話す。

「最近、何だかすみ兄よそよそしいよね」

「うっ……それは……」

コイツにだけは知られたくない。
俺が、世界からハズれた人間だと。

「き、キノセイダヨ」

「そうかしら?女の子とも沢山仲良くなってたし」

生徒会の連中か?
奴らはむしろ天敵だぞ妹よ。

「まぁ、そんな事は良いの」

……なんだ?

「はい、いつもの」

「おう、すまんな」

渡されたのは、毎度毎度のチョコ。
本当に、律儀な奴だ。

「味わって……食べてよね」

そんな事は分かり切っている、だから。

「あいよ」


そう、軽く返した。


-・-・-・-・-・-・-

後日。

「宿人、あの……」

「宿人さん、日曜日は……」

「すみ兄、チョコはどうだったの?」

三人と言えば……あぁ。

「義理チョコありがとな、美味かったぜ!タキ、今度はみんなでゲーセン行くことになったからな!」

「「「……………」」」

あれ?


「……鈍感」

「酷いです、宿人さん……」

「……こんなニブチンほっといて、今日は何処かに行こうよ」

「ですね」

「そうね」

冷めて去っていく御三方。
……俺、何か悪いことしたっけ?

「それは自分に訊いた方がいいわよぉ?」

「急に湧くなよヒイラギ」



………………End?
【アーカイブ:龍弌狼の場合】

-・-・-・-・-・-・-

「ただいまー」

「お帰り、龍弌狼」

「リューお帰りぃ!あたしを食べなさぁいっ!」

「毎度懲りずに失敗してチョコ塗れになってんじゃァねェよッッ!鈴ねぇもウエディングチョコケーキとか洒落にならねェよ!」

「何を言う、私達の愛は無限だよ」

「さぁ、受け取りなさぁ〜い☆」

「う……わ…………」





\うわぁぁぁァァァアアアアアア!!!/




おわり
「オイ、阿呆健医。隣町にお前のソックリさんが居るって噂知ってるか?」
「んぇ? 知らなぁい」
保健室のベッドを我が物顔で占領する緑の物体(髪の毛)に呆れながら訊いてみる。
「なんでも隣町のソックリさんは英語教師だと聞く。その点で言えばお前は完敗だなァ、グータリスト」
「あに言ってんのよ黒いの、あたしは何処にだって居るし何処にも居ないわぁ」
「人の話を聞く時はまずそのヘルシングを閉じろ。んで、金髪なのを除けば容姿はほぼお前だとか……」
「パツキンなあたし……似合うのかしらねぇ」
布団の中から金髪のカツラを取り出し被り始めた阿呆健医のドタマにハリセンを一発。
「どっから出したオイ」
「この布団は四次元布とn」
ハリセン、其の弍。
「あによぅ、茶目っ気あるジョークじゃないのぉ」
「……中身まで一緒じゃなきゃ良いんだけどなぁ」

「っくしょーぃ! もーいっくしょーぃ!」
「くしゃみしながら喋るんじゃねェよ」
「あ〜…風邪かしらぁ。リュー、ちょっとホッカイロに……」
「ならんならんならん!」
不思議な記憶がある。あれはまだガキの頃だったか。
ある日の事、俺は図書館に居た。なんの事ァねェ、絵本を読みに来ただけさ。
児童書コーナーに向かう途中、不思議な光景を目にした。本を箸で摘む兄ちゃんが居たからだ。

『おにいちゃん、なにしてるの』

その兄ちゃんは振り返り、俺を見て柔らかく笑って言った。

『あらやだ、見られちゃったかしら。ねぇ、ボウヤ、これあげるから黙ってくれる?』

何故男が女の言葉を使うのか、その時の俺には分かる訳もなく、貰った飴玉を口に含むと静かに頷いた。

『それと、私は【おにいちゃん】じゃなくて【おねえちゃん】よ。良いかしら』
『わかった! じゃあねおねえちゃん!』

懐かしきかなその記憶はそこで途切れた。
「しかし今更な記憶だ……」
開けられた窓から流れ込む風を頬に感じながら、窓枠に腰掛けて珈琲を含む。
賑わいを見せる中央部。閑静に潜む裏路地。
眼下の街は今日も騒がしく、今日も静かなのだ。
裏と表の二面を持ちながら、それを同時に見せてしまう不思議な景観。
『偉大なる風の音が響く丘』なんてどこぞのバカは勝手な名前を付けたモンだ。いっそ『不可視すらも見通す丘』にした方が良いぜ色んな意味で。
街から視線を外し、頂きへ通じる道を見ると、爆音を響かせながらハーレーダビットソンが登って来る。髪型違えど、太陽光を浴びて光る緑髪に見間違いは無く、トラブルメーカーとしては名高いスカタンが運転しているのは確認出来た。その後ろ、悪路にも関わらず涼しげな表情でシートに腰掛けるスカした見慣れぬ女。
トラブルメーカーに見知らぬ女とくれば、もう答えは決まっている。
爆音を響かせたハーレーが止まった。俺の下で。

「クロリュー! 仕事よぉー!!」

さァて、今回はどんな事件が巻き起こるのか。


  喰えよ 伝えよ
       腹に満てよ


「とある本が欲しいの」
その女は、女としてはやけに低い声でそう言った。俺は本日三杯目となる珈琲を口に運び、怪訝な顔をする。
「ここが本屋に見えるかァ?」
軽口を叩きながら、俺は本棚を見る。本は有る事には有るが、その大半は魔法書やらなんやらで俺には全く関係の無い代物だ。全部アイツの本だけどよ。
「ここは『何でも屋』でしょ? 【何でも】やるんじゃないの?」
「何でもやってやるがな、依頼内容が漠然とし過ぎなんだよ。どんな『本』をご希望してるんだい。それが分からなきゃ、俺は本屋にはなれねェぜ。それとも、」
マグカップを置き、シャツの胸ポケットから煙草を取り出し続ける。
「“ワケ”有りかい?」
煙草に火を点け、俺はスカタンにカーテンを締める様に視線を送る。カーテンが光を遮り、部屋は昼間から暗闇に包まれた。橙色の灯が室内を照らす。
「あらやだムーディねェ。もしかして狙われてるのかしら」
「話逸らすな。で、どうなんだ」
女は少し考えていたが、直ぐに口を開いた。
「国立大図書館の禁書目録、アタシはそれが欲しいのよ」
「あァ?」
国立大図書館は街のど真ン中から少し外れた場所にあるドデカい図書館だ。迷路の様に入り組んだ本棚には世界有数の書籍を所狭しと並べており、この場所で読めない本は無いとさえ言われている。
「禁書……禁書ねェ、十八歳未満禁止とかそう言うんじゃねェよなァ」
元々興味が無い分野ともなれば、いつもより軽口を叩いちまうモンだな。
「お望みなら今ここで報酬を払っても良いわよ。優しくしてね」
スッと服を脱ぎ始めようとする女。
「あらやだ、私ってば邪魔者かしらぁ。それじゃクロリュウ、ごゆっくりー」
色々と空気を読まないスカタン。
「勘弁してくれ。俺ァそこまで性欲を弄んじゃいない。……話を戻すが、禁書目録……だっけか。それが欲しいから、国立大図書館から持って来いと?」
「そうよォ、話が早いのねお兄サン」
無茶と無理が両方襲って来ているがな。大体そんな危ない本を正面切って「借りたいんですけど」とか言える訳がねェ。図書館のカードを作るだとかそんな問題でもねェしな。下手すりゃ図書館で戦争が起きる代物だ。序でに良くて逮捕。悪けりゃ御陀仏。リスクが高過ぎて身体じゃとても払えねェっつの。
「それよりお兄サン。出来たらアタシもご一緒したいのだけど?」
話は更にややこしくなる。
「オイオイ、ただでさえ一人忍び込むだけでも大仕事だってのに、女連れてくのかァ? 足手纏いは御免蒙るゼ。アンタが男だったならまだ考えるが……」
そう言って女の顔を見る。と、女は何故か柔らかく笑っていた。
その柔らかい笑みにはどうしてか見覚えが有る。先程まで回想していた、あの記憶が俺に何かを告げている。まさかそんな、偶然だろう。だがそれにしては符合が多過ぎる。
本、図書館、柔らかい笑み……とは言え一つ合致しないのは、あそこに居たのは男のはず。
いやしかし待て、あの頃は分からなかったが、今はオカマの存在なぞ勿論知っている。考える俺の目に、決定打が現れた。

「考え事に要るかしらァ?」

差し出された飴玉。あの記憶と全く一緒の包み紙。俺は思わず大声出して言った。
「……お前あん時のオカマか!!」

女、もといオカマはその単語に少しだけ不満を浮かべたが、直ぐに続けた。
「あらァ、漸く思い出したのォ? アタシは直ぐに分かったわよボウヤ。それにしてもイイオトコになったじゃなァい。やっぱり報酬は身体で……」
冗談は顔と身体で充分だ。
「ウフ、嘘よ嘘。それよりさっき、男なら考えるって言ってたわよねェ」
オカマなら考えるとは一言も言ってないがな。
「あーあ……面白くなって来やがった……」
当然皮肉だ。
「そうね、ワクワクしちゃう。……そうそう、アタシはヒイラギ。槙村ヒイラギよ。宜しくねェ、クロリュウちゃん」
「クロリュウちゃん言うな、俺は黒牙龍弌狼だ!」
「あら、そしたらリュウちゃんの方が言い易いわね」
「ケッ、勝手にしろ! オイ、スカタン!」
俺の席に座ってパソコンを開いていたスカタンに声を掛けると、ヤツは待ってましたとばかりに笑っていた。

「潜入ルートなら既に検索済みぉ」

こう言う時ばかり仕事が早いこって。


「んもぅ、狭い上に埃臭いわね」
俺の後ろを付いてきながら、不平不満を口にするオカマを無視しながら俺は手元の地図を睨む。
「リュウちゃ〜ん、まだ着かないの?」
「今ここで、次を左か……。喜べ、あと10ブロックも進めばお目当ての禁書管理区域だ」
懐に地図を仕舞い、俺は暗く狭い通路を四つん這いになって進む。
「まだまだ先ねェ……」
「付いてくるって言ったのはお前さんだぜ」
俺は意地悪く言う。

ここで時間を昼間に戻そう。

「換気ダクトぉ?」
俺は潜入経路を見て素頓狂な声を上げた。
「そうよぉ、やっぱり潜入と言ったら換気ダクトからって決まってるじゃなぁい」
コイツはB級映画の見過ぎか三文小説の読み過ぎだと思うのだがどうだろう。このご時世に換気ダクト使って潜入なんて笑い話にもなりゃしねェ。
「まるでネズミごっこね。でも良いじゃない楽しそうで」
「バーカ、お前もその換気ダクトを通る一員なんだよ。……まさかダクト内に赤外線警報装置なんてないだろうな」
「一々ネズミに感知してたらキリないわよぉ。それにわざわざ図書館に忍び込む奴等なんて居なかった訳だし、警備は手薄も手薄。厳重なのは精々禁書管理区域だけよぉ。ま、今回の件で色々厳重にならざるをえないと思うけどねぇ」
他人事過ぎてぐうの音も出ないとはこう言う事か。俺は煙草を灰皿に押し付け、机の引き出しを開けてヘッドライトを取り出す。
「あら、工事現場でも行くの?」
「その昔にトンネル工事をちょいとな」
その発言にスカタンは吹き出し、ヒイラギは変な顔になる。俺は更にジッポのガスとオイルを引き出しから取り出し、小さな袋にそれを仕舞い込む。
「作戦は深夜決行だ」
作戦と言う程作戦立てちゃいないがな。俺はカーテンを開け、陽射しを部屋へ誘う。
「……ところでスカタン、あのハーレーどうした」
「探偵事務所からちょっと拝借したのよぉ」
その発言と同時に、黒電話が鳴った。受話器を手に取ると、その向こうから嫌に沈んだ声の探偵が話し掛けてくる。

『我輩のハーレー盗まれたんだが。ちょっと取り返してきてくれんか』

ウチにあるよバカヤロウ。
そして十時間後、時刻は午前零時。現在地・国立大図書館換気ダクト内。
『図書館の裏手に換気ダクトが出てるの。そこを使えば楽に入れるわよぉ。クロリュウは普段から真っ黒だからきっと見付からないわぁ。お洒落なヒイちゃんにはちょっと過酷かもだけど』
余計な一言を含むスカタンの言葉を思い出しつつ、金網の隙間から下の部屋の様子を探る。パッと見た感じでは何もない。在るのは古びた本棚が一つ。
「聞こえるかスカタン」
インカムに呼び掛ける。
『こちらリリカルミリアちゃん、聞こえてるわよぉ』
呼び掛けるんじゃ無かった、と後悔しながら俺は仕方無く続ける。
「目的地点に到達。そっちの準備は良いか?」
『お〜け〜。ちょっくら待っててねぇ』
カタカタとキーボードを叩く音。音はどんどん増えていき、その都度次のキーを押すまでの間隔が短くなっていく。
『……ふぅ。アンタ達の姿は監視カメラに映らないわ、降りて大丈夫よぉ』
この短い間に警備システムにハッキング、監視カメラに偽の映像を流すというとんでもない技をやってのけたスカタン。俺は時折こいつが恐ろしい。
「降りるぞヒイラギ。音立てるなよ」
金網をゆっくり外し、俺はヒイラギに警告する。
「何のためにスニーカー履いてきたと思ってるの? リュウちゃんこそ気を付けてよね」
この仕事終わって報酬貰ったら一発蹴っ飛ばしても問題ないよな。身体は男だし。
そんな事を考えながら、俺は外した金網の間から部屋へと降りる。ヒイラギが降りて来るので、横にズレながら部屋を見渡す。
円柱型の縦に長い部屋。同じく縦に長い窓は、開けられない設計になっている。漆喰の壁に、チョコレートの様な不釣り合いのドア。出入口はそこだけらしい。中央にある本棚に視線を戻すと、ヒイラギは既にそこに居た。
「これが……禁書目録」
古びた本を手に取り生唾を飲み込んだヒイラギ、肩に掛けていた鞄から棒状の物を取り出す。
あれは―――箸?
「オイ、何やって……」
その先は言葉が続かなかった。いや、出なかった。
と言うのもヒイラギは開いた本の文章を、まるで蕎麦の様に箸で挟んで口に運んでいたからだ。
「お前、超能力者か?」
魔法でも魔術でもないそれを言い表すのにこの言葉が相応しいかは分からない。だが俺にはそうとしか思えない。
「強いて言えば言霊使いかしら」
ヒイラギは俺には目もくれず答える。一心不乱に文字を喰っていた。
そうだとも、あの時もアイツはこうして文字を喰っていたんだ。いつぞや師匠は俺に新聞の切り抜きを読ませた事がある。

『図書館の本から文字が消える』

そんな見出しだった。
犯人は間違いなくコイツである。
「当分掛かるから、そこら辺に座ってたら?」
「この本棚の文章全部喰う気かよ……」
俺は呆れて、本棚からまだ喰われないであろう本でも読んでいようか、等と背表紙に目をやった。
そして一つの本に目を奪われた。

『世界崩壊魔法術/リリベル・クラウンロック』

俺は直ぐにその本を取り出してページを捲った。そこに書かれていたのは、間違いなくリリベルの文章であり。よく分からん魔法専門用語がページを埋め尽くしていた。
「オイオイオイオイ……こりゃア参ったぜェ」
本を閉じ、それを脇に挟み、俺は窓から月を見上げて呟いた。
「アンタ、この世界が好きなんじゃないのか……?」
肩を落とし、視線を落とす。眼下には平らな屋根と、装甲車が二台。図書館の前で止まった。……止まった?
慌ててヘッドライトを消し、姿勢を低くして窓の外を睨む。装甲車から夜間装備を纏った兵士達が続々降りて来る。
「スカタンよォ」
『あによクロリュウ』
「装甲車二台から兵隊さんのお出ましなんだがコレってつまり……」
『……バレたかしらぁ』
二人の間に沈黙が流れる。
「……ズラかるぞヒイラギ!」
脇に挟んだ本をシャツとズボンの間に挟み直し、俺はヒイラギに叫ぶ。ヒイラギはまだ食べたりない顔をしていたが、俺の形相を見るや慌ててあれもこれもと本を鞄に仕舞い始めた。
図書館の裏手側に通じる窓を見付け、懐の袋からジッポのガスボンベを取り出し、それを窓枠に置く。その上からオイルをブチまけ、本棚の裏に飛び込む。
「ちょっとリュウちゃん! はやくダクトに逃げ込まないと!」
ダクト下で叫ぶヒイラギを呼び戻し、俺は腰からマグナムを抜く。
「そんな暇はねェよ、耳塞いでろ!」
シリンダーに弾を込め、俺は本棚の影から窓辺のガスボンベに発砲した。

―――小さな爆発。

マグナムの銃声はガスボンベの爆音に飲まれ、部屋の窓半分が粉々に散った。
帽子を深く被り直し、割れた窓から屋根へと飛び出す。同時に装甲車のサーチライトに向けてマグナムを撃つ。明りが消え、闇が全てを包む。
「行くぞ!」
「屋根の上を!?」
「ッたりめェだ!!」
俺は銃弾が飛んでこない内に走り出す。ヒイラギも観念したのか走り出したようだ。
図書館の周辺は入り組んだ路地となっており、建物が狭い間隔で建てられている。そうなると逃走経路はこれしかない。
図書館の屋根の端から、今度は民家の屋根へと飛び移る。
「遅れたら置いてくぜ!」
なんとか飛び下りたヒイラギに向かって告げる。
「んもぅ、レディーファーストの精神は無いの!」
「生憎と俺は紳士じゃねェ。悪ィな」
車を停めた場所を屋根伝いに思い出しながら、俺はまた駆け出す。
「エンジン掛けとけよスカタン!」
『了解っ、マキシマムドライヴで行くわよぉ!』
危うく屋根から落ち掛けたが、微かに耳に届いた車のエンジン音を頼りにスピードを上げる。
と、ここで漸く銃弾が足元の屋根を掠めた。奴さん、生かすつもりは無いらしい。
「この暗闇で射撃出来んなら……食らいやがれッ!」
降り頻る銃弾の雨を避け、懐からお手製の閃光弾を取り出して後方へぶん投げる。
眩い光が辺りを一瞬照らし、再び闇になる。銃声が止んだ事から、暗視ゴーグルを頼っていたようだ。
「クロリュー! こっちこっちぃ!」
下からスカタンの声が聞こえ、視線を寄越すとスカタンが車を停めていた。
「飛び下りろってか、無茶言いやがる……ぜッ!」
「え、ちょっ!!」
ヒイラギの腕を掴み、屋根からスバル360へと飛び下りる。直後、背後にロケット弾が飛来し俺達の居た所を爆破した。
「はーいいらっしゃーい!」
スカタンが何かスイッチを押すと、スバルの屋根にエアマットが現れた。そいつに着地し、俺は直ぐさまマットから降りて運転席に滑り込む。
スカタンはヒイラギを後部座席に乗せると急いで助手席に乗り込み、またスイッチを押す。するとエアマットは一瞬で破裂した。
「緊急着地用エアマット。使い捨てなのが難点なのよねぇ、また暇潰しに作るけどぉ」
「そいつは重畳。さて飛ばすぜ」
俺はクラッチを踏み、ギアを入れるとアクセルを踏み込んでスバルを加速させる。
「そうだこれだ」
俺は挟んだ本をスカタンに投げ渡す。スカタンはそれを受け取ると、笑いながらページを捲り始めた。
「あら、興味無さそうだった割にはしっかり獲物を持って来たじゃない」
後部座席からヒイラギが笑う。
「これはまた別件なんだよ」
「そうよぉヒイちゃん。クロリュウってば一人の女にゾッコンなんだから」
「今此所で蹴り降ろすぞスカタ……あッぶね!」
突如目の前に現れた装甲車をギリギリで別の路地に曲がり回避する。
「あにやってんのよクロリュウ、さっさと丘まで運転しなさいよね!」
「俺ァタクシーじゃねェ! 喋ってると舌噛むぞ!」
ハンドルを切り、後輪を滑らせながら細い路地を大通りへと抜ける。
後は真っ直ぐあの丘へ突っ切れば助かる事は助かるのだが。
「あらあら、随分と熱狂的なファンばかりね」
バックミラーから後ろを確認すると、装甲車二台がピッタリと後ろを付いて来る。挟まれでもしたら一発で終わるな。
窓から腕を出し、二、三発マグナムを撃つ。甲高い金属音が響き、俺は腕を戻す。
「こりゃ弾の無駄だ」
諦めてハンドルを握り直し、俺はアクセルを深く踏み込む。
「……ちょいとやっちゃるか」
突然呟いて俺の横で首の骨を鳴らすスカタン。
「クロリュー、炸裂弾有るぅ? 有るわねぇ」
俺が答える前にダッシュボードを開けて、お目当ての炸裂弾を取り出したスカタンは徐にサンルーフを開けて立ち上がる。
言い忘れてたがスバルは装甲車からの機銃の雨が降り頻る中を走っている。
「自殺行為だろ常識で考えて……」
俺は右へ左へハンドルを切り、照準を外す為ジグザグに走る。
「弾なんて当たると思ってるから当たるのよぉ。マシンガンなんて尚更ねぇ」
余裕綽々のスカタンに一発くれてやりたいが、そんな余裕は今の俺にはない。
「何やるか知らんけど早くやれ!」
「おっけーぃ! ショウタイムよぉ!」
パチーーン! とスカタンは高らかに指を鳴らす。
このスカタン―レインヴァイル・ミリア・アリアが指を鳴らした時、俺は魔法使いの【異端児】を目にする事となる。
長い長い緑髪が風に靡き、その顔を見る事は無い。だが俺は確信している。この瞬間、この魔法使いは楽しそうに“笑っている”のだと。
   エレメンタル   プラズマ
「【自然の理】“荷電粒子”」
魔法使いの腕を取り囲む様に、小さな雷が集い、舞う。
腕の先には手、その掌には炸裂弾。雷は腕から手に、掌から炸裂弾へと進む。
魔法使いは炸裂弾を指で宙へと弾き、人差し指と中指、それと親指を使って銃の形を作った。
放物線を描いた弾丸が人差し指と中指の前に下りてくる。

   プラズマティック・レールガン
「“荷電粒子超電磁加速砲”!」

雷鳴に似た轟音。投げた閃光弾よりも遥かに眩い、青白い閃光。
夜が強制的に終わった様な感覚だった。気が付けば背後の装甲車は黒煙を上げて止まっていた。
「いえーい、だーいせーこー」
サンルーフからスカタンは席に戻る。髪の毛ボッサボサだぞお前。
「欠点は髪の毛のセットが崩れる事よねぇ」
「今度からお前を静電気って呼んでやる」
手櫛で髪の毛を直すスカタンを見ながら俺は言う。唖然としていたヒイラギも、その発言に吹き出した。
「電気代には困らないわね、魔法使いサン」
「いやぁそれほどでも……」
「そうそう、それにまだ一台残ってるしな!」
車の影からまた車。機能停止したのは一台だけだ。
「まぁそんな事もあろうかと助っ人呼んでおいたからぁ」
「助っ人ってなんだ?」
「アレよアレ」
視線を前に戻すと、月明りの下で一人佇む三度笠のお侍。このご時世にその格好は如何なものかと思っちまう。
「後はヨロシクー」
再びサンルーフから身を乗り出し、三度笠へと手を振るスカタン。明白な殺意を込めて睨まれた様な気がする。主にスカタンがだが。
バックミラーで後方を見詰めながらも、俺はスバルのスピードを緩める事は無かった。

「相も変わらず騒がしい。そして時間の無駄にも程がある」
腰に提げた愛刀へ手を掛け、侍は姿勢を低く構える。迫る装甲車は侍相手にも容赦無く銃弾を撃ち振らす。
「拙者を撃ち殺したくば、黒いのを越えてみせよ!」
侍は駆け出す。身に降り懸かる弾丸を目にも止まらぬ速さで斬り落とし、装甲車へと飛び掛かる。

一閃。

侍は地面へと着地すると、ゆっくりと刀を鞘に戻す。その刃が全て鞘に納まると、装甲車は真っ二つに別れて爆発した。

「またつまらぬ物を斬ってしまった……」

三度笠を直し、侍は闇へと消えていく―――。

突如真っ二つになって爆発した装甲車を確認し、アクセルを少し緩める。
「一体何モンだァ?」
「助っ人は助っ人よぉ」
「よく見えなかったけどタイプだったかも……」
答えになってない上に後ろは黙れ。
聞くだけ無駄だったな、と灰皿からシケモクを手に取り口へ運ぶ。
火を点けようとライターの蓋を開けた途端、右側のサイドミラーが音を上げて吹っ飛んだ。続いて左側も同じ様にして地面へと落ちる。
「今度はあによぅ!?」
スカタンが叫ぶ。
「狙撃だよ!!」
怒鳴り返し、緩めたアクセルを踏み直してまたしてもジグザグ走行に入る。
「ちょっとォ、あまり揺らさないでよねリュウちゃん。食べ辛いじゃないの」
コイツ真っ先に狙撃してくれねェかな。露骨に舌打ちをして、あの丘までの道へ抜ける。
しかし銃声が聞こえない程の位置から狙撃してくるなんざ人間業とは思えないぜ。まずそんな銃も無いしな。そうなってくると狙撃して来たのは……。
「あ〜、魔力反応確認。こりゃアレね、軍の魔導師の仕業だわ」
「そうだろうな!」
本日三度目となる銃弾……いや魔導弾の雨を受け、流石に、いや既にうんざりだ。一方的なのは嫌いなんでね。
「飛んで来た方向から察するにこりゃ軍の本部基地からねぇ、クロリュウより良い腕してんじゃなぁい?」
「……じゃあ賭けるか?」
スカタンを横目で睨みながら俺は静かに言う。
ヤツも笑いながら言い返した。
   ワンシュート
「「“1発”」」


「何を楽しそうに喋っている」
スコープの先の標的を見ながら魔導師は呟く。今まで狙撃してきた奴等は、最初の一撃で怯えたまま死んでいった筈なのに、彼等は何故だか楽しんでいる。
魔導改良の施されたPSG-1の引金を絞り続け、弾薬箱から新たなマガジンを取り出して装填する。
「そこから先は露出した登り道……」
山道を登り出した車へ狙いを定め、魔導師は再び引金を絞った。しかし何故だか当たらない。
それまで外した事の無い弾が“当たらない”のだ。
調整ミスだろうか、と一瞬だけスコープから目を離し、次にスコープを覗いた時。
「目標を消失―――!?」
山道を走っていた車の姿は何処にもない。そればかりか、ターゲットスコープに浮かび上がった『LOST』の文字。魔導師は初めての衝撃を受け、立ち上がって必至でスコープ越しに車を探す。

不意に、風が吹いた。

それまで無風だった街に、静かな風が吹き始める。


そして―――鐘が鳴った。


紅い鮮血を花の様に散らし、魔導師はゆっくりと崩れ落ちる。

その魔導師が最後に見たのは、月光を浴びて光る金色の【弾丸】だった。
白煙を上げるハリスM87Rの銃口。
風で飛んだ帽子を被り直し、銃士は笑って言う。

「俺の勝ちだ」

騒がしい夜が、静寂に明けていく。


あれだけの騒ぎを起こした次の日の朝、新聞の一面やラジオが騒ぎ立てるかと思えばそんな事は無く。
新聞には普段と変わらぬ記事しか書かれてないし、ラジオからはいつもの様にオールディーズが流れていた。
それもそうだろう、何せ俺達が忍び込んだのは国の最重要機密保管室。賊が忍び込んだなんだ書かれてしまっては国の沽券に関わるッてモンだ。俺には全く関係無い話だがね。
窓枠に腰掛け、街を眺めながらスコッチの入ったグラスを傾ける。仕事の後の一杯は格別に美味い。だがしかし。
「なァ、ヒイラギさんよォ」
何食わぬ顔で文章を咀嚼しているヒイラギに声を掛ける。
「なぁにリュウちゃん」
「報酬置いて出ていけ」
「んまァ、女を軍隊がウロウロする街に放るつもり?」
「ウルセェ、仕事はとっくに終わってんだ! 金払ってサッサと消えるのがこの世界のルールってモンだぜ」
いくらなんでも冷たいって? ハハッ、明日は我身だバッキャロウ。

「それじゃ次の仕事。私を暫く匿って頂戴」

俺はスコッチを窓の外へ思い切り吹き出した。
「何様だテメェ……ウチはホテルじゃねェんだぜ!」
「あら? なんでも屋さんなんだから【なんでも】してくれる筈よねぇ?」
盗人猛々しい、とは昔から良く言うがまさにその通りだろう。してやったり、な顔を浮かべるヒイラギ。
「ケッ、高く付くぜ!」
「身体良いならで先払いするわよ」
臓器屋の知り合いでも作ろうか、等とマジに考えながら俺はスコッチを呷った。

―――Fin.
自宅に帰ってくるなり自室に閉じ籠って半日。
例に因って昼寝でもしているのかと思えばそうでもなく、次から次へと後を絶たないタイピングの音がドア越しに響く。
「なぁ、黒いの」
「あんだ白いの」
「あの阿呆は何に夢中だと思う?」
「んー、あー……ロクでも無い事だろ」
黒と白の二人は同じタイミングで茶を啜る。


|
・


湯呑みを卓へ置くと同時に響いたアラート音。
そして―――

「えぇい! この程度のプロテクトなんて幾ら積んでも無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーッ!!」

――――やけに楽しそうな彼女の声。


第6.5話:ミリアのキューティ3分ハッキング


二人が湯呑みを空にして数刻。小柄な少女が二人の湯呑みに熱い茶を注いでいると、閉め切ったドアが唐突に開き、ゆらりゆらりと長い長い緑髪をぶら下げた彼女がゆっくりと居間へと現れた。
「ふ、ふふ、ふは、ふはふは、ふはははは、フハーッハハハハハハハハ!!」
頭をガシガシ掻いて、某時止めスタンド使い吸血鬼の様に笑い始める。

 サンライトイエロー・オーバードライヴ
「“山吹色の波紋疾走”ッ!」

見るに見兼ねた黒い青年が何処からともなく取り出したハリセンで彼女の頭をひっ叩く。ちゃんと波紋とか言ってあげる妙な優しさに白いのは少し感服していると知らずに。
「か、カエルの……霊無ちゃん居るから下ネタはやめる」
「え、え……!?」
ドタンバタン、椅子から転げ落ちる白と床にコケる黒。
「ちょっとやだぁ、スカート覗かないでよぉ!」
「頼まれても金積まれても絶対テメェのスカートなんか覗かねぇ! 顔を赤らめるな悩ましげに視線を反らすなわざとらしくスカートを押さえるな歳を考えろアホエルフ!」
疾風怒涛のツッコミを繰り出し、再び彼女の頭をハリセンで叩く黒。快音が部屋に響き渡る。
「いったぁ……んもぅ、冗談通じないんだからぁ。霊無ちゃん、コーヒーちょーだい」
「あ、はい…。少々お待ちください……」
少女はぱたぱたと台所へ駆け、その後ろ姿を堪能したアホエルフこと魔法使いレインヴァイル・ミリア・アリアは席に着く。
「何をやっていた」
椅子を直した白い方が尋ねる。
「現世の知り合いから頼まれた危ないデータ作成作業」
とんでもない事を口にするミリア。とは言え二人共別段驚く様子は無く、むしろ「あぁ、またか」と呆れ顔である。
「こっちで作業して正解だったわぁ。あっちでやってたら今頃あたしはあの世行きよ」
「おかしいな、春なのに寒気が」
「奇遇だな、拙者もだ」
「駄洒落じゃないっ!」
プクーッ、と頬を膨らませて怒るミリア。ただただ引きつり笑顔の二人。
「んでもまぁ、今頃あっちはパニックでしょうね。何せホストコンピュータクラッキングされた上にデータ全部持ってかれたんだから。しかも出所不明のPCからだもの、間違いなくゴーストハッカーの噂が飛び出すわねぇ」
唖然とするしかない黒と白。
「別に良いのよ、ろくでもないデータなんだからいくら消えようとも関係無いわぁ」
「あのなぁ、お前が良くても上が五月蠅ぇんだよ。大体お前のそう言う行動が……」
黒が問い詰めようとした時、某怪盗三世のテーマが流れ出す。ポケットから携帯を取り出し、彼はやれやれと言った表情で電話に出た。
「俺だ。……あぁ……いやそれはアホエルフが……分かった判った解りましたよ。行きゃ良いんだろ、その代わり弾めよ。じゃあな」
電話を切ると、黒の青年は椅子の背に掛けた黒ジャケットに袖を通し、煙草を口に運んだ。
「お陰で仕事が出来ちまったよ」
「あらぁ、良いじゃない。若人は働いてこそよ」
べしっ、とミリアに脳天チョップをお見舞いし、彼は足元にあったスーパーの買い物袋を掴んで部屋を出て行く。
去り際、コーヒーを運んできた小柄な少女に別れを告げて家を出た。

「っとに余計な仕事増やしやがって……ま、序でに挨拶にも行くとするか」

路肩に停めた黄色のフィアット500が、後輪を滑らせながら走り出す。


「黒いのも現れるとしたら……ふふっ、面白くなってきたわねぇ……」

ブラックコーヒーを口に運び、ミリアは静かに笑う。

その視線の先には、分厚い本。


 トライブランククロニクル
“空白の三年史”
独創世界if-Lines of another fate-

Select2:「夕焼けと君」

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キーンコーンカー(ry

近代的な学園の割には、かなり時代錯誤なベルだと思う。
そんな、どこか間抜けな終刻の鐘が終わり、俺は帰路へ着く事にした。

「龍弌狼、今日は何か予定あるか?」

いつものように放課後の予定を訊いてみた。
しかし龍弌狼は済まなさそうに顔をしかめ、

「今日は姉貴達が早く帰ってくるんでな、あまり隙がねェんだわ」

と言われた。
続けて矧邇にも同じように訊いてみたのだが……

「……今日も厳しいんだ。最近予定を合わせられずに申し訳ない」

と言われてしまった。
どうやら本日は家に帰るしか無いようだ……。

「暇なのは宿兄ぃだけみたいだね、仕方ないね」

「久しぶりにキレちまったよ……屋上逝こうぜ……」

と冗談を交えつつもふと省みる。

・龍弌狼→カジテツ王子
・星果→部活
・矧邇→時々趣味活動?
・リズ→生徒会+部活

……ちょっと待て。
今考えると、放課後に目的もなくふらついてるのは俺だけでは?
つまり将来的に目的も趣味も意義も予定もないのは俺だけってうわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?

「す、宿兄ぃ?急に劇画タッチな顔になってどうしたの?」

「顔色が悪いってレベルじゃねェな……」

「まるで死兆星を見た後の様だな」

「それどんな顔色だよッッ!?」

思わず現実に戻りツッコミを入れてしまう。
……そうさ、まだ俺は学生なんだ目的とかそういうのなんか直ぐ見つかるってヴァ……見つかる……よな?

「……とにかく帰るか」

溜め息を吐くと幸せが逃げるとか聞くが、吐かずにゃいられん時ってのがあるんだよなぁ。
若干ブルーになりつつも、俺は帰路に着いた……。


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「以上、此にて定期報告会を締めます」

今日に限ってサボタージュするとは……。
どうしようもない兄を持ったものだと嘆息する。
それでも学園主席の生徒会長なのだからこの世は狂ってる。
狂ってなきゃ理不尽過ぎる。
私はポーカーフェイスを装いながらも淡々と主の居ない生徒会を締め終えた。
ただ、ポーカーフェイスだろうが押さえ切れぬ殺意の波動的な何かを感じた役員は、みな完全に硬直していたけれど。

「――――はぁぁぁああああ〜〜…………」

役員が皆去った後、大きく溜め息を吐く。
何だかこの学園に来てから気苦労が増えた気がする。
というか、頼りにされる場面が増えた。



――昔は、頼っていてばかりだったような。
そんな、昔の話。



-・-・-・-・-・-・-

彼女は独りぼっちだった。
遠い異国の地に突然渡ると言い出した両親。
それに異議を唱える暇もなく、この地に着いてしまった。
言葉は前々から両親に習っていたため、ある程度は理解出来ていたとしても、所詮は子供。
何時の間にか両親とはぐれ、何処かも判らない公園に居た。

「…………」

辺りは楽しそうにはしゃぐ同じ位の子供で溢れていた。
しかし彼女は、その子供たちに話しかける事も出来ず、暗い気分でブランコを漕いでいた。

どうして、わたしはひとりなんだろうか。

そう考え、ふと彼等を見やると、何名かと目線が合う。
金色と碧眼を併せ持つ子供なぞそうそう居るわけもないせいで、彼らは彼女を気になっていた。
しかし気になるだけ。
好奇心は知らないモノに対する畏怖には勝てなかった。

一人とその友人を、除いて。



何時の間にか夕方になっていた。
辺りは薄暗くなり始め、子供たちは消えたように居なくなっていた。

「だれも、いない」

そう、誰も。
彼女の知り合いなぞ居るわけもなく。
人っ子一人居なくなったその空間に、彼女は寂しさと恐ろしさを感じ、やがてメソメソと泣き始めた。

「うっ……ぐす……」

だれも、いない。
だれも。
かれも。
もしくは、わたしも。


その時後ろに視線を感じ、見やってみた。
すると。

「おい」

「……?」

黒く多少パサついた髪を風に揺らし、男の子が立っていた。

「にほんご、わかるか?」

「……わか……る」

「ならよかった。……なんで、ないてるんだ?」

彼は若干しどろもどろしながらも、不器用に話している。

「みちにまよったの。だれも、いないから……かなしくて」

涙に顔を濡らしながらも、夕焼けに映る彼女の顔は何となく儚くて、悲しくて。

「……なら、おれと……」

「えっ……?」

彼は。

「いっしょに、あそばないか」

そう、呟いた。






それが、苑城宿人との出会いだった。
-・-・-・-・-・-・-

あれから随分日が経つようなのに、夕焼けを見るといつも思い出す。
この髪を結ぶ細いリボンも、その時に「かみがうっとおしそう」と渡されたモノだったりする。

「…………」

しゅる、と音を立て、リボンは容易く外れた。
若干の解れや痛みを直しながら使っている為、何となく使い込まれたように見えるそのリボンを見て、微笑む。

「今度暇になったら、宿人や星果ちゃん達を誘って何処かに行こうかしら」

ふふっ、とまた微笑み。
春風を少し残す風を感じて、夕焼けを眺めた。


-・-・-・-・-・-・-


まさか宿題を学校に忘れるとは……我ながらダメ人間予備軍だ。

「WAWAWAわっすれっもの〜……」

誰も居ないだろうと思い、ボケーッと教室に入った。

「……ん?」

見えたのは、夕焼けが見える窓辺にそよぐ、癖のある金髪。

「おいリズ、何でまだ居るんだ?」

金のシルエットはビクッとして、此方を向いた。
何だが顔が赤いように見えなくもない。

「す、宿人こそ何で此処に?」

「俺は宿題を忘れて取りに来た所だ。お前は会議の帰りか?」

「え、えぇ……荷物を取って帰る所」

そう言えば、最近コイツと帰ってないな。
昔はよくみんなで帰って遊んだんだが、やっぱ高校ともなると暇で無くなる訳か。

「……なぁリズ」

「えっ」

「久しぶりに、一緒に帰らないか」





あの時みたいに。

時は過ぎても。

俺たちは、きっと。

変わらず、居れる。
【アーカイブ:帰り道】

「久しぶりね、なんだか」

「だな。この学年になってからめっきりみんな集まらないからなぁ」

「あ、そう言う事じゃなくて……えと……」

「???」

「う……あ、そうだ宿人。忘れ物、ちゃんと持ってきた?」

「HAHAHA、忘れるわけ無かろう!数学の宿題はまかせろー!(ペラララララ」

「え、数……学……?」

「えっ、何か問題でも?」


「今日出た宿題、化学だけよ?」




「えっ」

「えっ」






「なにそれ忘れた」

「/(^o^)\」









続くのです。
この世界の片隅に、ある種の憩いの場として小さな酒場があるという。
薄暗く狭い階段を登り切り、古ぼけたドアを開けた先には―――。

「ようこそ『リズのバーボンハウス』へ」

とある美少女が一人、グラスを磨いて客を待つ。

カランコロンと乾いた鈴の音が来客を告げる。

「こんなトコに酒場があったとはねェ……」

黒の帽子を目深に被り、黒髪黒眼鏡黒スーツに薄紫のシャツと黒ネクタイを決め込んだ文字通り黒ずくめが入ってくる。
そんな今日の客は

「あら、漢字変換の面倒な黒牙龍弌狼さんいらっしゃい」

早速先手を食らった【魔法使いの銃士】こと黒牙龍弌狼その人である。

「いきなり言ってくれるな世間知らず」

龍弌狼はカウンターに座って反撃を繰り出す。
此処で言う反撃とはつまり自販機の一件である。

「このバーボンはサービスだから、まず飲んで落ち着きなさい」

グラスに注がれたバーボンを龍弌狼の前に置くリズ。

「オイ誤魔化すな」
「このバーボンはサービスだから、まず飲んで落ち着きなさい」

大して重要でもないのに二回言われた挙句、その頬が地味に赤かったので龍弌狼は黙ってバーボンを一気に流し込む。

「なんで、急にバーテンなんだ?」
「殺伐とした世界に安らぎと休息をもたらすのがこの酒場の存在理由」

シーバス・リーガルの18年物をグラスに注ぎながら、リズは静かに答える。

「という名目の裏話コーナーかしら」
「裏話出来る程に本編進んでねェがな」
「ただの暇潰しという可能性もあるかもしれないのだけれど」
「色んな意味で巻き込まれたお前さんに同情はしておく」

差し出されたグラスを傾けながら頷く龍弌狼。

「でも、この酒場の扉を開けた時に口では言い表せないときめきみたいなモノを感じてくれたならそれで良いの」
「バーテン服のお前を見た時に違う意味で衝撃なら走ったがな」
「……似合わないかしら?」
「さァ、世辞は苦手でね」
「随分つれないわね。最初の紳士な貴方はどこかしら」
「それ結構な地雷発言だぜ?」
「過ぎ去った過去には興味が無いの」
「同じ様な言葉二回言ってるぞー」
「五月蠅い! 誘導尋問として異議を唱えます。そして訴えて勝つわ」
「おー、怖い怖い。長居は無用か」

いつの間にかグラスを空にした龍弌狼は立ち上がると、懐から紙幣を取り出してカウンターの上へ置いて扉へと歩き出す。
「中々楽しい時間と酒をどうも」
「どこまでもスカしたガンマンね」
「じゃかァしい。気が向いたらまた来てやるぜ美人のバーテンさん」

掌をヒラヒラと振りながら龍弌狼は扉の向こうへ消えて行く。

「……次のお客様は誰かしら」

一人残されたリズは、少し頬を染めて静かに呟いた。


気が向けば次回もバーボンをサービスサービスぅ。
ある男の話をしよう。
 ゴースト・シーカー
『亡霊の仕業』と呼ばれた、ある若い兵士の話を。

青年はかつては普通の人間だった。一般的な家庭に、夫婦の愛情の形としてごく自然に生を受け、比較的穏やかな生活環境を基盤に、それはもう心優しく育っていった。

少なくとも『あの紛争』の火蓋が切って落とされるまでは。

195X年。東西に二分された世界が、この星を何度破壊しても尚お釣りの来る程の火種を抱え、互いの消滅を切り札に争っていた時代。
大国と同盟国間同士の世界大戦はたった一発の熱核兵器の暴発と"高度な"政治的手腕で収束した。
人類史稀に見る核のクレーターが火口を開けたまま、誰が加害者で誰が被害者かわからないまま、巨大なキノコ雲から飛び出した争いの火種が、小さくなって各地に散らばった。

その、名残。

過去に頼らない魔導技術と進歩に頼る科学技術。
時が流れた200X年、東と西と言う線引きは技術の違いでしかなくなっていた。
双方の歩み寄りさえあればこれほど住みやすい時代もなかったろう。諍いはどの場所でも起こり得るというだけの話だ。
火。
花めく陽炎のような確かな熱エネルギー。
物を燃やし、周囲の酸素や水素などとともにあらゆる物体を灰儘に帰し尽くす現象。

荒れ狂う風と焼け爛れた大地。さっきまでそこに生きていた草花木果は紅蓮の炎に巻かれ、もう跡形も無い。

そこに、青年は居た。
そこに、凄惨があった。

補給部隊の影に潜み、ごく少数の隠密哨戒部隊の一員として進軍していた青年は、補給部隊を狙った敵側の多弾頭ミサイルに体を穿たれた。
青年の左腕は爆風に筋繊維を千切られ、吹き飛ぶ瓦礫に骨を砕かれる。赤黒く潰れた腕は今や原型を止めていない。青年は呼吸すら崖っぷちに立たされる程の重傷を負っていた。
爆撃の痕。相対敵に対する、牽制以上全滅以下の攻撃手段。
朦朧とする意識のなかただひとつ。巨大な金属製の何かが横を通るのを、苦しみに自我を失わない様に耐えながらぼんやりと見ていた。

―――――――――――

頭の上から誰かの声が木霊する。

最…の被……者…

(何を言ってる)

光栄…思…

(何の事だ)

兵…として……た資質…

(???)

優れ…兵士を……す為の……術を……

(もう少し……ハッキリ……言…)



そして、青年の記憶は空白となった。
水。
揺らめく陽炎のような確かな流動エネルギー。
岩を穿ち、周囲の金属や酸素などとともにあらゆる物を錆し尽くす現象。

雫が滴る音がする。液体が流れる音がする。
命を運ぶ管を通る液体がその先へ繋がる肉塊へ命の火を灯している。

そこに、青年は居た。
そこに、生命があった。

一体どれくらい意識を失っていたのだろうか。仰向けになったまま、天井を見遣る。次いで自分の体に繋がった何本ものコード。最後に周囲。
前線の軍病院?それにしてはやたらと大掛かりな最新鋭の機械群。部屋に居る者は青年一人。
(ここはどこわたしはだあれ?あ、違うそうじゃない。なぜオレのような一兵士がこんな個室に…?)
と、ぼんやり考えながらも起き上がれるか試してみる。

左腕の関節の僅かな軋み、そして違和感。それも多数。起床直後の、人体のバイオリズムが起動するものとはまるで違う、静かなメカニカルサウンド。左肩の免疫系がザクリ、と。少しだけ自分自身を攻撃する。

青年の記憶ではミサイルの爆発に巻き込まれて左腕が復元不可能な重傷を負ったところまでは思い出せた。だがそれだけだ。
何が、誰が何をオレに埋め込んだ?

「あら、お目覚めね?」
声のした方を見るに誰もいない。虚しく部屋のスピーカーが振動している。
「気分はいかが?」
若い女の声。
「誰だかしらないが、管と機械をどかしてくれ…趣味じゃない」
ベッドに倒れ込みながら文句の一つでも言ってみる。
「ふ…あはっ…あははははははは」
いかれてる、何となくそう感じた。何がおかしい、と聞いてはみたが多分ロクな答えは聞かせてもらえないだろう。
「よく言うわねぇ、そんな体で」
まあ確かに、などと納得はする。
「で、あんたは誰なんだ」
「軍の査問機関」
繋がれた心電図の脈拍数が僅かに増えた。何となしに考えてはいたが、ああ…やはりそうか…。
「…オレが何かしたか」
「前線部隊、哨戒部隊は壊滅。"ほぼ"無事な生き残りはあなただけ。意味分かるかしら?」
「…スパイの嫌疑か…」

案の定ロクな答えではなかった。青年は部隊の仲間を失い、左腕まで失い、改造され、嫌疑まで掛けられる始末…
(すまない…オレがもっとしっかり気を張っていれば―)

僅かな沈黙。
「…黒服の連中に面会時間を教えておけ。昼も夜も来られては治る傷も治らないしな。もっとも、話せる様な事は少ないが」
「そう言わないの。贖罪のチャンスかもしれないわよ?」

「どういうことだ」

思わず横たわった状態からガタッと起き上がる。反動で薬品の小ビンが落ちて砕けた。

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