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セラニンコミュのラメロット

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 ラメロットは喫茶店で煙草を吸いながら窓の外に降り続ける紫色の雨をぼんやりと眺める。ラメロットの煙草、そこから出る煙は緑色で始まって、橙色から青へと色を変えていって、フィルターの辺りまで火が来るとフィルターが叫び声を上げるのでフィルターを焦がさなくてすむ。
 カメレオンみたいな煙だけれど、その香りはひどく辛い。味は甘い。どこで売っているのか誰も知らないような紙巻き煙草だから、多分手巻きでラメロットが自分で調合しているんだろうとマスターは思っている。
 ラメロットは平日の午後三時、不定期に現れる。一杯のコーヒーで何時間も居座る。けれどラメロットが来る日はいつも雨で客が少ないからマスターは構わない。
 今日の雨は紫だ。
 こないだの雨は赤かった。あんまり綺麗な赤だったから、日本の男性の八割が気絶したとニュースになった。女は強かった。マスターは自分が男だったら多分気絶していたと思った。掃除が大変な日だった。

 今度の雨は紫色だから、そのうちに無精髭のハンサムが紫色のバイクに乗ってやってくるだろう。

 ラメロットは無精髭のハンサムが紫色のバイクに乗ってやってくるのを待っている。今日の煙草はひどく酸っぱい味で煙の色がだんだん火事場のそれみたいに黒くなってきて、しだいにラメロットの視界は完全に真っ黒になってしまった。
 けれどすぐに煙がピンク色になったから今度はピンク色に覆われた。いい加減なものだ、とラメロットは笑った。ラメロットが笑うと、雨の色が変わった。紫色からクマのプーさんみたいな黄色に。せっかくの紫色の正反対。これじゃあプリンスは来てくれない、とラメロットは口をつぐんだ。すぐに雨は紫色にもどる。
 もう遅いんだ、と言いたげにラメロットはもう残り少なくなったコーヒーにミルクを沢山沢山入れて量を増やした。お金が無いから粘っている。そのうちにコーヒーの味なんて分からない、砂糖入りのミルクになってしまっても構わない。
 せっかくの紫色の水たまりに下品な黄色が混ざってしまった。サイケな色彩で喜んで路上で踊り狂う若者達が見える。真っ白な服でやってきた彼らは雨に打たれ、水たまりにつっこんで踊り狂って、最後はその服を芸術作品としてそこらの路上で売るのだ。だけど同じ事を考える人は多いようで、こないだの雨の時は画家らしき男(パイプを吸ってベレー帽を被っていた)が水たまりにカンバスを押しつけて絵を作っていた。その前は一眼レフの大仰なカメラを持った女子大生が水たまりを撮っていった。一日で十五人が同じ水たまりの写真をとっていた。みんながあんまり真剣な顔だったからラメロットは笑いが止まらず、雨の色はカメレオンみたいにくるくるくるくる変わって最後に水たまりの色は絵の具を全部混ぜたみたいに真っ黒になった。

 今日はまだ二色。煙草は五本目。金属製のシガレットケース。一本一本を巻いている紙も色が違う。紫の部分が燃えているうちはピンクとターコイズの煙。調合には一日のほとんどの時間を使う。ニコチンが足りない時はニコチン屋さんでキロ単位で買ってきて、葉っぱの間にニコチンを混ぜる。
 こないだまで大好きだった葉っぱは、最近では手に入らなくなって、それを扱っていたたばこ屋さんは閉店になって店主が捕まったとラメロットは聞いた。どうだって良かった。
 一回全部ニコチンでできた煙草を作った事があった。葉っぱが無いから煙草にはならなかった。ラメロットは笑った。

 缶ジュースとかの飲み残しを灰皿にしている人がいる。あの、残りの水分ってやつには、ニコチンが溶け出しているから飲んだら危ないって話を、ラメロットは昔NHKの教育番組で見た。ニコチンの本質なんて誰も知らないんだ。というのがラメロットの持論である。ニコチンが嫌だから分煙にするべきだ、なんて何も言わない。
 問題は煙なんでしょう?
 体に気を使ってるわけじゃない。馬鹿みたい。ラメロットは煙草ではなくニコチンに気を使う数少ない愛煙家であった。煙草税だって、本当に国民の健康に気を使うなら、副流煙に含まれるニコチンやタールの量に比例した税制にすべきだ。みんなで1mg吸ってりゃいい。
 煙が目に染みない葉巻とかパイプとかキセルとか水まき煙草とかあの辺はもっと保護されるべきだ。

 ラメロット、無意識指摘思考。そのうちに雨はオレンジ色に変わっていた。ポストハーベスト満載の輸入物のオレンジ色。時計仕掛けにはなってない前時代的な。
 ラメロットはそれを見て、笑いかけて、やめた。これ以上雨の色を変えるわけにはいかないから。

 今日の喫茶店の前の水たまりには六人のカメラマン。芸術をほしいままして帰って行く。
 マスターは彼らが撮った写真を店に並べてくれるよう頼まれている。けれど、ラメロットがいる間はそれはできない、と言って断る。今日は十六人に頼まれた。
 ラメロットがいなくなったら雨の色はどうなるのか、誰も分からない。
 
 全ては偶然かも知れない。けれど、どっちでもいい。
 目をつぶれば雨は雨。水は水。
 ラメロットは目の前のコーヒー、正確には元コーヒー、今は砂糖入りのミルクを見つめ、それに向かって笑ってみた。
 真っ白なはずのその液体に、赤いシミができて、あっと言うまに真っ赤になった。不透明なその赤を見て、ラメロットはまた笑った。天井を見て笑うと天井が緑色になった。
 そして、ラメロットはマスターと目が合った。
 マスターはラメロットの目を躱すことができなかった。

 ラメロットは思いっきり笑ってやった。

 さて、マスターは、何色になったでしょう?
 答えはラメロットまで。

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