セラニンコミュのデロメープル

　親愛なるデロメープル、亜麻色の髪、物憂げな右の瞳、白く華奢な首。
　親愛なるデロメープル、白いドレス、茶色い靴、黒い手提げ鞄。
　親愛なるデロメープル、穴だらけの耳、包帯に包まれた腕、左目の眼帯。

　可愛らしいデロメープル、17歳の誕生日にパパから貰った大きな穴を手でいじり、血のような赤い紅茶をすする。
　可愛らしいデロメープル、18歳の誕生日にママから貰った小振りな二つの穴を指で撫ぜ、紅茶にゆっくりレモンを浸す。
　可愛らしいデロメープル、19歳の誕生日に男から貰った包帯に包まれた腕をもう片手でさすり、レモンを取り出して皮を剥いて食べる。

　朝のデロメープル、テーブルで一人黄昏れてスコーンの中に忘れ物を探す。
　朝のデロメープル、スコーンの中で見つけた忘れ物の名前を考える。
　朝のデロメープル、それは夜という名の、時計の形をした憂鬱だと知る。

　昼のデロメープル、白いドレスは歩くにはひどく不向きだから座ったまま。
　昼のデロメープル、家にはだれもいない。何も無いからまたスコーンをかじる。
　昼のデロメープル、紅茶のポットの中身はずっとずっと減らないからまた紅茶を注ぐ。

　潔癖症のデロメープル、本当は毎回カップを洗いたいのだけれど。
　乖離症のデロメープル、毎回違う誰かになるから気にならない。
　不眠症のデロメープル、目の下のクマを隠す分厚い化粧。

　情緒不安定のデロメープル、ヒステリックにカップを割っても、新しいカップが音もなく生えて来るのを知っている。
　同一性障害のデロメープル、割ったカップを踏んで怪我をするのが怖いから一歩も立ち上がれない。
　対人恐怖症のデロメープル、昨日も今日も明日もそうして生きていることを忘れてしまっている。

　夜のデロメープル、今日36個目のスコーンをかじり、53杯目の紅茶を飲む。
　夜のデロメープル、今日もカフェイン過剰摂取で眠れなくなるとため息。
　夜のデロメープル、一向に尿意を催さない自分を不思議にも思わない。

　可憐なデロメープル、父親の形見のライターのオイルはもう切れている。
　可憐なデロメープル、母親の形見の指輪の径は彼女には大きすぎる。
　可憐なデロメープル、男の形見の品物が多すぎてどれが誰のか分からない。

　真夜中のデロメープル、妖しく光るその右目。
　真夜中のデロメープル、真っ暗闇にお友達を捜す。
　真夜中のデロメープル、無限に増える紅茶とスコーンの沈黙。

　世間知らずのデロメープル、昨日は水爆で50万人が死んだ。
　世間知らずのデロメープル、お隣では娘が父親を刺し殺した。
　世間知らずのデロメープル、アフリカは飢餓で無人と化している。

　朝焼けのデロメープル、昨日と今日が繋がる。
　朝焼けのデロメープル、一向にやって来ない眠気。
　朝焼けのデロメープル、最後に眠ったのがいつかも思い出せない。

　俗世間を離れたデロメープル、いつも一人ぼっち。
　日常性を離れたデロメープル、みんな彼女を覚えていない。
　時間軸を離れたデロメープル、君はそろそろ139歳。

　親愛なるデロメープル、そのきめ細やかで白い肌。
　親愛なるデロメープル、終わる事なき紅茶の時間。
　親愛なるデロメープル、足下に転がる割れたカップの山。

　朝のデロメープル、繰り返しの中に昨日を忘れている。
　朝のデロメープル、この先何百年もこれが続くことを知っている。
　朝のデロメープル、レモンティーではなくミルクティーを飲みたがっている。

　可愛いデロメープル、その髪はいつまでも美しい。