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草太郎クラブコミュの草太郎 第三章

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草太郎は自分の足で歩いたことが
今までなかった。

学校も運転手つきの大きな自家用車で通っていた。
だから姨捨山の峠へも一時間位歩いたら、
楽勝でつくんじゃないかと
軽く思っていたが、これが全然道は進まない。

歩くたびに鬱蒼とした木々の緑がどんどん濃くなっていく。
念のために宿で地図をもらってきたが、
宿の地図はアバウトにしか書かれておらず、
迷いこんでしまったら出るのは難しそうだ。
帰り道も定かではない。
いや、間違う気配が濃厚だ。

考えれば考える程、嫌なことを考えてしまう自分に
草太郎は舌打ちをした。
俺は臆病者なのだろうか?
臆病者以前に、自分について考えるようなことも
今まで一つもしてこなかったけど。
隣にはにこにこのアランがいて、
お婆さんがうっとりした瞳でみつめていて、
お爺さんも草太郎が何をしても笑って許してくれた。
お爺さん
お爺さん
しわくちゃの、
草太郎が生まれた時から片目を眼帯で覆っているお爺さん。
まだまだ若い女の子が大好きなやせっぽっちのお爺さん。

「なんで僕のお父さんはあんな、ほそほそのハゲなの?」

草太郎が10歳の頃、初めてできたお友達の家へ遊びに行ったとき、
草太郎の家とは比べられないほど小さな家にお友達は住んでいたけれど、
お友達のお父さんはガッシリしていて畑仕事で小麦色に焼けた肌で
なんだかかっこよかった。
「オーゥ、オジイサーンは
アランが市場に売られていたときも、オジイサンデシタヨー。
オジイサーンの片目はね、
大事な大事な草太郎サンを養子にするために失ったコトデスよ。
オバアサンに片目と引き換えに引き取る話をツケタのでーす」

アランは優しく教えてくれた。
「だから草太郎サンは大事な子供サンですヨ」
「物騒な話だね」
「草太郎サン、物騒ナンテ難しい言葉・・・カシコいね」
アランは暖かい大きな手で草太郎の頭を撫ぜた。

五年前なのに、遠い昔のような気がしてくる。

草太郎は思った。
ヒナコのことをお爺さんが気に入っているのは、
草太郎も知っていた。
お爺さんの悔しがる顔が見たくって、
わざと意地悪をしてしまったのかもしれない。
だって今まで草太郎がどれだけ無駄遣いしたって、
イケナイお店に通ったってお爺さんは怒ったことが無かったんだから。


ウオオオオーン
ビクリと草太郎は足を止めた。
ケタ外れに大きな獣の声。
さっきまで森中でしていた小鳥のさえずりが今は静まり返っている。

唯一の音は草太郎の呼吸の音。

ウオオオオーン
獣の声は草太郎のすぐ近くから聞こえる。
バキバキと木の枝が折れる音とともに
小山のような体の獣が現れた。

グオオオーン
「鬼か?」
フサフサの茶色い毛、
ランランと光る闘志に満ちた瞳。
分厚い筋肉で覆われたカラダは3mを超していた。
犬の様な熊の様なフサフサの獣だ。
「鬼ではない」
草太郎はそれしかわからなかった。
「グルルルル」
犬の様な熊の様な獣は舌なめずりして、
今にも草太郎に襲いかかってきそうだ。
目が殺気だっている。
ボタボタと獣の口からヨダレが落ちた。
草太郎は鬼切丸の柄をぎゅっと握った。
「グルルルル」
しかし3mを超す獣だ。
リーチからして違い過ぎる。
短剣では太刀打ちできない。
獣はジャンプして襲い掛かってきた。
ドシーーーン!
大地の地割れとともに草太郎の体も跳ねて、
辺りに草太郎の荷物が転がった。
バラバラ・・・と紐が解けて
バビ団子が転がった。

「グルルルルルグルルル」
獣はバビ団子目掛けて顔を突き出し、
涎をダラダラたらしている。

「草太郎ちゃん!ピンチの時はバビ団子を食べるのよ!!!
仲良くなりたいヒトと食べるのよ!!! 」
頭の中で お婆さんが満面の笑みを浮かべて叫んだ!

草太郎は団子を拾いあげ、獣に投げてやった。
「ハグハグ」
そして自分もためらいがちにバビ団子を口に含んだ。
土が付いていて気が進まなかったけれど・・・。

バビーーーーー!!!!

口に含んだ瞬間、
脳髄を歓喜の雷が駆け巡った。
草太郎、ゴールドカード、一万円、姨捨山、自然、木、小鳥

皆がダンスを踊ることを望んでいる。
間違いない!
草太郎は感じた。
草太郎はこわごわ獣をみた。
獣も草太郎の方をみて、頷いている。
どっちからとも無く、
会話もなく(当たり前)ダンスが始まった。
驚くことに草太郎のジャズダンスに獣はついてきた。
大きな体と尻尾でリズムをとっている。
こんな足場が悪いところで
絶妙のバランス感覚だ。
「だったらこれはできるかな?」
自然と口から言葉が出た。
ジャズからハウスへの移行。
急激なリズムの変化に果たしてついてこれるのか?
「ワオーーン」
獣は付いてきた!

しかも立ち上がって二足歩行だ。
バキ バキ バキ バキ
折れる木々の音さえリズムをうってパーフェクトだ。
知らず知らずのうちの小鳥のハーモニーが旋律を作っていく
キラキラしたその音色はギュッと聴くものの胸を鷲掴みにする。

「ワオーン ワオーン」
獣はツブラな瞳をキラキラさせて、舌をハーハーだしながら踊った。
草太郎も踊り続けた。
木々もリズムをとり続け、
小鳥はハーモニーを奏で続けた。
ゴールドカードと一万円は何もしなかった。

こうして草太郎と獣が我に返るまで
一人と一匹は踊り続け、踊り終わると仲良しになっていた。
「よしよし」
「ワンワン」
「お前は図体が大きいけれど、よくみたらでっかいワンコのようだ」
「ワンワン」

こうして草太郎は犬を仲間にした。
3mの大きな強そうな犬だったその犬に、草太郎はミレコと名づけた。
草太郎とミレコはかなり長いこと踊っていたようだ。
草太郎が宿に泊まったときは月が欠けていたのに、夜空にはお爺さんの頭みたいな満月が輝いている。

「あの月をみろ ミレコ」
赤くて大きな月。
「まるで悪魔のようだ」
その月は生まれてきて草太郎が一度も見たことがないほど、
血の様に紅く
強大で美しかった。
「アオオオーーーン」

続く

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