「雨のあとに虹」　コミュニティコミュの雨のあとに虹・ひとみが語る麗子　その９

　警視庁の玄関では多くの人が行き来していた。吉良はひとみと茂子を見てから大きく深呼吸をした。ひとみも緊張と不安で自分が何をしているのか理解が出来ないほどに平常心を失っていた。茂子だけが冷静を装っていたがすぐに刑事と解かる男女のふたりが歩いて来ると緊張した表情をした。
「吉良さんですね？」
男性の刑事は言った。女性の刑事は無言のままで立っていた。
「はい。」
吉良が言うと
「警視庁捜査一課の神田です。」
神田大作は警察手帳を見せて言った。
「同じく米山です。」
米山綾香は言った。
「お世話になります。」
茂子が言うと
「私は豆の木ハウス理事長の吉良です。」
吉良は言った。
「森下です。」
茂子が言うと
「石倉です。」
ひとみは言った。
「早速で恐縮ですがこちらにお出でください。」
神田が言うと
「ご案内します。」
綾香は言った。
「はい。」
吉良は短く言った。
「行きましょう。」
茂子はひとみに言った。ひとみは重苦しい空気に押し潰されそうな空気を肌で感じていた。

「ご協力をありがとうございました。」
綾香は珈琲を差し出しながら言った。
「いいえ。」
吉良は言った。
「これで捜査はすぐに進展すると思います。」
神田が言うと
「刑事さん。」
吉良は言った。
「はい。」
神田が言うと
「捜査一課の刑事さんがご担当されると言うことは麗子さんが殺害されたと意味でしょうか？」
吉良は言った。
「麗子さんが殺されるはずはありません。」
ひとみは大きな声で言った。応接室は静まり返ったが
「落ち着きなさい。」
茂子が言うと
「現段階ではどちらとも断定が出来ません。」
綾香は言った。
「事件と事故の可能性があります。」
神田が言うと
「そうですか？」
吉良は言った。
「殺人も視野に入れた捜査が必要ですので捜査一課が担当することになりました。」
神田は言った。
「これから入江麗子さんの交友関係などを捜査していきます。」
綾香は言った。
「殺害された可能性もあるのですね？」
ひとみが言うと
「現段階では否定が出来ないですね。」
神田は言った。
「それは残念です。」
茂子が言うと
「捜査は刑事さんにお任せしましょう。」
吉良はひとみを宥めるように言った。

「予定より遅くなったわ。」
たき子は言った。
「いらっしゃいませ。」
若菜は笑顔で言った。たき子が店内を見ると奥の席に俊之たちが座っているのが見えた。
「高村さんたちがお待ちですよ。」
小百合が言うと
「ご注文は何になさいますか？」
若菜は言った。
「珈琲をお願いします。」
たき子が言うと
「かしこまりました。」
小百合は言った。
「３人とも深刻そうな表情で話をしているわね？」
たき子は視線を移して言った。
「話が終わるまでお待ちしますか？」
若菜が言うと
「待ちます。」
たき子は言った。
「ケーキを召し上がりませんか？」
小百合が言うと
「抹茶のケーキがいいわ。」
たき子はメニューを見てから言った。
「かしこまりました。」
若菜が言うと
「すぐにご用意を致します。」
小百合は言った。店内は静かにであり俊之たちの話し声も聞こえていなかった。

「人生は何が起こるか解からない。」
吉良は疲れたように言った。
「私は今でも信じられないですよ。」
茂子は言った。ひとみは黙っていた。豆の木ハウスのリビングルームは重苦しい空気が流れていた。
「私も事故だと思いたいよ。」
吉良が言うと
「人生は皮肉ですね？」
茂子は言った。ひとみはその瞬間に自分の心が大きく弾けたのを実感していた。

「失礼します。」
榊原和馬は豆の木ハウスの玄関で言った。廊下で掃除をしていた茂子が榊原を見ると榊原は会釈をした。茂子には榊原がスーツを着こなしたエリートビジネスマンに見えた。
「どちら様でしょうか？」
茂子は言った。
「私は三友商事の榊原と申します。」
榊原が言うと
「麗子さんと同じ会社の方ですね？」
茂子は言った。吉良が玄関まで歩いて来ると
「はい。」
榊原は言った。
「私は理事長の吉良と申します。」
吉良が言うと
「今日はお線香をあげさせていただきたく思いお邪魔しました。」
榊原は丁寧な口調で言った。
「ご丁寧にありがとうございます。」
吉良は言った。
「こちらにお入りください。」
茂子が言うと
「失礼します。」
榊原は言った。吉良は榊原の後ろから歩き出すと
「ただいま戻りました。」
ひとみは大きな声で言った。吉良が振り向くと榊原も遅れて振り向いた。
「お帰りなさい。」
茂子が言うと
「お邪魔しています。」
榊原は言った。ひとみは警戒するように榊原の顔を見た。