こども英語落語道場コミュの６月９日　第３回英語落語台本音読の会のレポート

音読の会のレポートをいただきましたのでアップします。

■□■…グラスルーツレポート：スーパー落語キッズに会った！の巻①…■□■

６月９日、大安吉日。

NPO法人グラスルーツのEETRAC事業部主催の『第３回こども英語RAKUGO台本音読の会』@西宮市民会館に、朝からお邪魔してきました。

日本が誇る話芸、落語。演者は複数の役を一人でこなし、観客の笑いを取ります。

普通の声だけでなく物を食べる時の効果音、顔の表情やしぐさ、小道具も用いて、座ったままで演じ切る、とても難しい芸能です。

これに英語で挑戦する小学生の子どもたちがいるっていうのも驚きですが、３回目の今回はこれまでと趣向を変えて、子どもたちがパーテーション越しに台本を音読して、聞き手に面白さを伝える、というひじょうに難易度を上げた試みでした。

参加者は小学校１～５年までの10名。英語落語経験者の子もいれば、初挑戦という子もいます。
英語を初めてまだ２カ月とか、なかには三日前に台本を渡され、お母さんに特訓してもらった子も！

理事長の池亀葉子先生、通称がめら先生が子どもたちに向けて、

「自分で何を変えられるか、うまくなるってどういうことかを考えながらチャレンジする二時間半にしてください。何で隠れて発表するのか。顔の表情、しぐさに頼らず、声だけで伝えるとはどういうことか、考えてください」

とはっぱをかけると、聴講してるこちらにも子どもたちの緊張が伝わってきました。

グラスルーツの勉強会で、こうした緊張感や失敗の恐怖を取り除くために、必ず行われるのがインプロです。みんなで円を作り、crazy８というインプロゲームをしました。

がめら先生の進行で８(eight)から１(one)までの数字を大声でシャウトしながら手足を動かすアクティビティです。このcrazy８をこなすあいだにも、子どもたちに英語を発音するときの口の形、息の出し方や量など、さまざまな点を意識させ、念入りな発音指導を施していきます。
時には同じ音の発音ができずに何度も指導を受けるのですが、どの子も真剣そのものでついていきます。

　このインプロですが、先日私自身が参加したディベートでも経験しています。今回、自分では参加せず、子どもたちのインプロの様子を初めて見せてもらったわけですが、傍観してみるとその効果が実によくわかりました。

円形というのは、みんなの顔が見えますが、実は隣の人の顔が見えにくいのです。このアクティビティの間、がめら先生のすぐ横に位置していた子達が何をしていたかといえば、がめら先生ではなく、自分から一番見えやすいほかの子を見て確認しながら、みんなと同じ動きをしていたのでした。集中力が自然と高まっていくのが見て取れました。

「こうしたインプロによる導入は、グラスルーツのカルチャーともいうべき要素です。落語に限らずどの授業でも、参加者の緊張や失敗への恐怖をほぐすために用いられます。大きな舞台の前はインプロによる準備をすると、普段以上の力を引き出すこともできます。」そうおっしゃったのは理事の吉田直美先生。

なるほど、参加者が能力を最大限に引き出せるように、グラスルーツの勉強会では細やかな配慮がなされているんですね。

インプロの次は子どもたちが一人ひとり別室で台本を読み、それを録音していきます。録音後はメイン会場にて個人練習開始。会場に参集している先生方のほか、EETRAC事業部の先生方がこぞって子どもたちの指導に当たりました。多くの先生が、流しのタクシーのように、個人練習中の子どもたちの周りを回っていきます。気になる発音を聞きつけては、自分の生徒以外の子どもにも懇切丁寧に指導していきます。

「グラスルーツでは自分の生徒、よその生徒は関係ありません。わが子のように指導するんですよ」

そう教えて下さったのは、やはり理事のお一人である中野登美子先生。

わけ隔てのない関わり合いも、グラスルーツのカルチャーですね。

指導の時間を予定よりもオーバーして、いよいよ一人ひとり、顔を見せない発表が始まります！

■□■…グラスルーツレポート:スーパー落語キッズに会った！の巻②…■□■

個人の発表に先立ち、気を付けるポイントを子どもたちに考えさせ、がめら先生が一人ひとりに聞いていきます。

「ただ早口でペラペラ言えたら英語がうまい、ということにはなりません。
１、丁寧にすること
２、集中すること
この二つを心がけてください」

がめら先生の言葉を胸に、子どもたちが舞台に立ちます。

ただし、パネルの後ろで。

まずは個人練習前に録音した音声を流し、その後、壁の後ろでマイクを使って台本の音読をしていきます。
そのあと、がめら先生の講評をいただきました。

トップバッターは小学3年生の英語落語経験者です。
録音後は大きな声でできた、と自信を持って言い切った彼女ですが、がめら先生から発音で改善した点、注意すべき点など指摘されたほか、今後の課題は子音の発音、また英語の息の出し方、息を止めずにセリフをつなげることなどがあげられました。
ですが、全体的には丁寧にできていたとの評価でした。

2番目は練習日数たった3日、英語落語初挑戦の小学4年生です。
講評では、短期ですが特訓を受けて、よい発音をしようと気をつけて一生懸命演じていたこと、壁の後ろでは声と一緒に体も動いてしまうほどの熱演だったと高評価でした。

3番目はスピーチコンテストを2回経験している小学３年生。英語落語は初挑戦です。録音のあとのインタビューで、言葉と心をくっつけて上手にできたと言っていました。
その言葉通り、講評でも心に言葉を乗せるのが大変上手との評価でした。
文法の構造が理解できるようになれば、もっとよくなる可能性があること、発音は、単語の語尾のnの音が抜けてしまうなどが指摘されました。

4番目は英語を習って3カ月の小学3年生。初挑戦です。
英語学習歴は3カ月と短いのですが、講評では、発音の基本ができているだけでなく、キャラクターのって言葉に出すことを意識していくという課題が出されました。

5番目は英語学習7年の小学5年生。初挑戦です。
二役でスクリプトを読む落語が面白い、とさすがに高学年らしい取り組み方をしていました。講評では子音をはっきりさせ、母音の時の口の形に注意が必要といった発音面の指導のほか、音読のスピードが速すぎて気持ちが入りきってない点が注意されました。自分の直したいところに意識するとまだまだ伸びるとのことでした。

6番目は小学2年生。英語落語経験者です。
自信はちょっとない、なんて少し弱気でしたが、本番では迫力のシャウト。

講評では、登場人物の気持ちの解釈はよくできているが、心を整えて声に出すときに、出し方が気持ちについていかないと、辛口評価。あらら、声の大きさだけでは、うまく相手には伝わらないようです。

7番目は小学1年生。初挑戦ですが、インプロでリラックスできたと言っていました。講評では読み方がちょっと速いことが改善点として挙げられましたが、この年にして十分、人前でしっかり音読ができていること、文章構造や意味が分かればもっとうまくなるとのことでした。

8番目は小学5年生。今回で2回目の経験者で、すでにこの会のレベルの高さを知ってか、練習したらいけそう、と謙虚に答えてくれていました。

彼女の講評だけ、がめら先生から「何か自分で変えられたところは」という逆スタイル。「登場人物の性格が出てきた」と言う彼女に、発表では緊張していたけど、練習の時はもっとうまかった、とのコメントでした。

講評の途中でしたが、がめら先生がこんなことをおっしゃいました。

「セリフを声に出す一瞬前に、人物の気持ちを切り替えること、これが落語ならではのむずかしさですが、これができるようになると言葉に気持ちが入ってくる。スピーチもうまくなる。スピーチが上手でも、落語はうまくならないけどね」

正直、どういうことかな、そんなもんかな、と疑問を抱えつつ、次の発表者へ。

9番目は小学1年生。初挑戦ですが2歳から英語を習っています。録音後に「すこしできた」と控えめに答えてくれた彼女への講評は、意味を分かって言っている感じがあり、聞きやすかったという高評価。
今後、顔の筋肉が発達していくと発音の弱いところが補えるでしょうとのことでした。

10番目、トリを飾るのは小学4年生。幼稚園の年長から英語を習い、小学校入学から英語落語をしているベテランです。録音後のインタビューでは、まあまあ、とこちらも謙虚。

ところが、この子の演技がすごかったのです。そして10人の子どもたちの演技すべてを通じて、この会の趣旨が私にもようやく見えてきたのです。

■□■…グラスルーツレポート:スーパー落語キッズに会った！の巻③…■□■

10人目、ラストの演者であるＹくんの順番が巡ってきました。

録音の時点では発音が聞き取りにくいところもあったのですが、壁越しの本番中、彼の言葉で彼の描く人物や、場面の風景が、ぱっと私の頭に浮かんできました。
「あ、伝わるって、こういうことだ」を体感した一瞬でした。

それまでの子どもたちの演技とは明らかに一線を画していました。

がめら先生の講評は、発音では改善点があるものの、登場人物の性格が見え、話の中身にぐっと入れたとのことでした。

「人間は言葉を聞くとき、何を聞いているかというと、決して音を聞いているのではありません。音の向こうにある内容を聞いているのです。内容と内容を伝え合う。それがコミュニケーションです。唯照くんの発音には、直すところはたくさんありますが、内容を伝えることは十分にできています。」

がめら先生の講評を聞いているうちに、「落語がうまいとスピーチもうまくなるけど、スピーチ上手でも落語はうまくならない」という言葉が意味するのは、中身を伝える落語がうまいとスピーチの能力はついてくる、言葉の流麗なスピーチができても、内容を伝える術を持たなければコミュニケーションが取れないということだったのか、と納得がいきました。

10人の子どもたちが演技をとおして私に教えてくれたことは、このことでした。
中には悔しい講評をもらった子もいたでしょう。だけどどの子も持てる力を精いっぱい出し切って、コミュニケーションをとるとはどういう事か、それを深く深く考えさせてくれました。

　お昼休みを挟んで、午後は『英語落語であそぼう』の会です。

グラスルーツ　レポート　スーパー落語キッズに会った！の巻　おまけ

お昼休みにお父さんと将棋をして遊んでいるＹくんにインタビューしました。台本を手にしてから、先生から指導を受けたのは3回だけ。しかも一番最初の授業は、キャラクターや場面の設定だけに費やしたそうです。演目は『Museum』。ゴージャスなマダムと新米学芸員の掛け合いが、ほんと楽しかった。これからの課題はしぐさを上達させること。ん？もしや将棋も芸のため？もういっぱしの噺家さんです。