既にネットを通じてご存知の方もいるかもしれませんが、David B.(ダヴィッド・B)によるオルタナティヴ系BDの記念碑的作品『L’Ascension du Haut Mal』(L’Association[ラソシアシオン]、全6巻、1996〜2002年刊)が『大発作』(フレデリック・ボワレ監修/関澄かおる訳)というタイトルで7月31日に明石書店から出版されます! 日本のマンガと比較すると値段は少々張りますが、B5版全1巻と日本人にも馴染みやすいサイズになっているようです。そもそも全巻揃えることを考えたら、日本語版の方がはるかに安い。これは買わねばなりますまい! 明石書店のホームページはこちら↓
基本的な筋はこんな感じでしょうか。全6巻の内の1巻ですから、まだそんな大きな事件は起きていません。単純に物語の核となる事件が次々と起きていくというタイプのBDでは全くなく、事件の端々に主人公たちの子ども時代の回想や祖父から聞いた戦争の話などが差し挟まれ、物語に厚みを加えています。子ども時代のエピソードとして兄弟の工場探検やアラブ人の青年との付き合いが語られたり、祖父の第1次世界対戦の体験から始まって、語り手(=著者)に多大な精神的影響を与えているらしい種々の戦争について意見が述べられたり、macrobiotisme(長寿食餌療法)の教義が説明されたりする。戦争の話にはかなり多くのページが割かれており、それが著者にとってかなり大きな関心を占めていることがうかがわれます。そういえば、以前読んだ同著者の『Le Cheval Blême(蒼い馬)』(http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=13123791&comm_id=424387)にも戦争に関連した夢の話が出てきましたが、それについて本書でちらりと触れられていたりもします。それから、おそらくはこれから巻を重ねるごとに深みを増していくであろう神秘主義的な思想に対する嗜好も読んでいて楽しく、その漫画による表現が非常に魅力的です。父親が『Planète(プラネット)』というオカルト寄りの雑誌を読んでいて、その影響でピエール=フランソワもその雑誌を読むようになるんですが、これが Louis Pauwels(ルイ・ポーウェル)と Jacques Bergier(ジャック・ベルジエ)が刊行している雑誌で、オカルト本好きには、おおー! とならざるをえません(笑)。兄の病を契機として、語り手は、戦争や夢やオカルティズムに関心を抱きます。これらは一見、人生の負の部分のようですが、その実、日常を相対化し、語り手により包括的な視野を与えてくれるものなのではないか(などと眉唾的なことを言ってみたり…笑)? まだ1巻しか読んでないのでわかりませんが、この本は家族の闘病記であると同時に、1人の作家のイニシエーションの記録でもあるようです。1巻を読む限りでは割とハッピーな方向に向かっている一家におそらくは過酷な運命が待っており、先の巻では感動必死ということなので、サクサク読める日本語版を楽しみにしないわけにはいきません。9月にはぜひBD研究会で取り上げたいですね!