極短編・携帯小説を書くコミュの『夫婦は毎朝恋をする』

夫婦は、毎朝新しい恋に落ちます
妻は、恋したその人の心を射止める為
愛情たっぷりの朝食を作ります
夫は、その想いに応えるべく
いつも以上に仕事に熱意を注ぎます

会えない時間は誘惑がいっぱいです
メディアはゴシップを誇張して
他人の不幸は蜜の味なんでしょ？
と言わんばかりに伝えます
でもね
今朝最高の恋をしたばかりの彼女は
そんな嘘で固められたゴシップには
見向きもしませんよ
だってバカバカしいじゃない
夜になったら最愛の人に
会えるんですもの
今夜はどんなドレスで登場しようかしら
どんな料理でもてなそうかしら
そんなことばかり考えていたら
「ご愁傷様」って言ってもうお終いよ

外へ出ればいろんな人がいます
ティッシュに欲望を掻き立てるような
チラシを入れて渡してくる人
若さと美貌を武器に
視線を集めたがる女王蜂
「ごめんなさい」が口癖の
守ってもらわなくては生きていけない
か弱い小動物に一度手を差し伸べると
蟻地獄に引き摺り込まれてしまいます

お昼休みはウキウキウォッチング
あなたを狙っている人がいるとすれば
仕掛けてくるのはこの時間です
今夜お食事でもいかがです？
いえいえ、夜は夫が帰ってきますので
無粋な男の踏み入る余地は
どこにもございませんのよ

ランチご一緒しませんか？
ごめんね今日は弁当持ち
およそ男性らしからぬ
赤いチェックのハンケチーフは
愛妻弁当と言う名の鉄壁の盾
寂しがりやな貴女には
貴女だけを見てくれる人を見つけなさい

夕方過ぎれば心が自然に踊り出します
だってもうすぐ
愛しい人に会えるんですもの
今夜のドレスは
あの人好みのシンプルなもの
でもちょっとだけ指先のオシャレ
綺麗にした爪に気付いてくれるかしら

1日働けば体も心もクタクタです
でも、あと少し頑張れば
彼女の笑顔が待っています
今夜の彼女のもてなしを想像して
ラストスパート気合いを入れます

ピンポーン
チャイムが鳴り
素敵な晩餐会の始まりを報せます
今日1番のドレスで出迎えると
きっと彼は照れてしまって
抱きしめるのを忘れてしまいます
だからそっと腕を掴みます
たったそれだけで
貴女の思いは伝わります
だって彼もまた
貴女に会いたくて
誘惑だらけの街から
真っ直ぐ帰ってきたんですから

腕をとられまさかのエスコート
その先にはあと少しで出来上がる
今夜一番のディナーが待っています
照れ隠しにうまいと一言いってみて
それだけで貴方の最愛の人は
今日1日分の幸せを感じるはずだから

ディナーの後はまったりと
2人の時間を過ごしましょう
今日の愛はどんな味でしたか
今日の恋はどんな匂いでしょうか
そうやって深まっていく夜に
2人は今日1日分の幸福を得るのです

まどろみに落ちて行く頃

隣で眠る愛しい人の唇に

そっと口付けをします

少し長めにしてみてね

もちろんちゃんと目を閉じるのよ

一夜の夢ほどの時を感じて

ゆっくりと目を開けたとき

隣で眠るその人は

また新たな出会いとして

あなたの心に刻まれます

幸せな夢が見れたなら

それはまた明日

新しい恋が始まる予感

～fin～