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同人小説集「ちきゅう」コミュの第1回 テーマ:恋愛 「シカク」(その2)

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「いらっしゃい。待ってたわ」
玄関に出迎えた朱美は、何だか少し疲れてみえた。目を伏せているせいで、そう見えたのかもしれない。でも。私は何か微かな違和感を感じた。それはほんの微かで、私はその時は気のせいだと思った。朱美の背中越しに、部屋から強い芳香剤の匂いがしてくる。何度も来ているけど、初めての経験だった。これも出所がわからない違和感の原因かもしれない。部屋に入ってみると、新しい冷蔵庫が1つ増えている。しかも家庭用でもかなり大きいサイズだ。ドアが4段になっていて、しかも両開きになっている。前の冷蔵庫のすぐ横に、真新しい冷蔵庫が置かれている。
「すぐに、食事の支度ができるから、少し待っててね」
朱美はそういうと、DKのシンクの前に立った。私はいつものテーブルの、いつもの私のイスに座ると、キッチンで食事の支度をしている朱美に向かって、訊いてみた。
「ねえ、朱美。冷蔵庫買ったの?ずいぶん大きい冷蔵庫ね」
朱美は私に背中を向けたままで
「そう。昨日買ったんだけど、今日の午前中届いたばかりなの」
と答えた。
「ふ〜ん。なんかすごく大きいけど、古い冷蔵庫はそのままなのね」
私はなんとなく訊いた。
「そうなの。大きい方は、特別なモノを入れるためのものだから。特に冷凍庫が大きいやつを選んだのよ」
朱美の声は何となく弾んでいる。?。私はまた、少し違和感を覚えた。
「特別なもの?」
「そう。特別なモノ。そんなことより食事の用意ができたわ。香織も手伝って」
私は、イスを立ち、朱美の側まで近づいていった。
「はい。これが香織の分よ」
渡されたのはパスタだった。白いソースがかかっている。
「フォークも持っていって。それにサラダもね」
見るとキッチンには、大きめの深鍋がIHヒーターの上に載っている。
「朱美、それがスープ?」
私は訊いた。
「これ?これは私用のシチューよ」
朱美は楽しそうに答えた。

まただ。また違和感。今度はよりはっきり感じる。何だろう?朱美の部屋に入ったときから、いや、朱美の電話を受けたときから感じていたもの。何か、しっくりこない。何かが、ずれている。

すぐにテーブルには料理が並べられた。私のパスタと朱美のシチュー。それにサラダ。水の入ったコップ。食器類。テーブルの上はすごく普通。なのに私の心は、何故かひどく泡立っている。
「さあ。食べましょう」
あ、また違和感だ。
「いただきまーす」
私は表面上は普段通りを取り繕いながら、必死に違和感の原因をさぐっていた。電話、芳香剤、朱美の言葉、態度。全部間違いなく朱美だ。それは間違いない。
「おいしい?」
朱美が自分の取り皿にサラダを取りながら、訊いてきた。
「うん。悪くないわ。湯で加減が丁度いいみたい」
答えながら私は顔を上げ、朱美の方を向いた。瞬間、私は凍りついた。私はその日、その時初めて朱美の顔を正面から見た。その瞬間、朱美の元カレが言っていたことが、脳裏にフラッシュバックした。

「爺ちゃんは顔全体に感情が無いけど、朱美は目だけ無いから余計に怖いんだ。感情がどっかいっちゃってるっていうかさ。なんか俺らとは全然違う感じ」

私はその刹那、初めてその元カレが言いたかったことがわかった。違う。私が知っている朱美の目じゃない。それは、私が見たことのある、どの人間の目とも違っていた。もし、魚の目を、人間ぐらいの大きさにして人間の顔に貼り付けたら、こんな感じになるのかもしれない。冷蔵庫から賞味期限のはるかに切れた食材がふと見つかり「あら。しまったわ。そういえばこんなものもあったっけ」といって無造作にごみ箱に投げ捨てる時の人間の目は、もしかしたらこんな感じになるのかもしれない。感情がないというよりそれは、人間が人間に「向けるべき」眼差しではない。私は戦慄しながら、そう思った。

私は私の全身の毛が、一本一本怖気立っていくのを感じた。
「あら。香織、どうしたの?早く食べないとせっかくの料理が冷めてしまうわよ」
朱美はそう言いつつ、口の両端を微かに持ち上げた。笑ったらしいということがわかるまで、少し時間がかかった。目は相変わらず、私の上に無表情に止まっている。
「せっかく、香織の好きなパスタを用意したのに」
そう言うと、さらに口の両端を上げた。そして自分の皿にある、シチューを口に運ぶ。それでも、目は私から動かない。
「んふふふ。おいしいわあ。ん、ふふふふ」
相変わらず、目は私に張り付いたまま。機械のようにシチューが口に運ばれていく。
「そう、そう。香織。私、あなたにどうしても訊きたいことがあるのよ。私の隆志のことなんだけど」
強い違和感。「私の隆志」。「私の」?朱美はそんなこと言うような子じゃない。ああ、わかった。やっとわかった。違和感の原因。目の前にいるのは、朱美であって、朱美じゃないんだ。私の知っている朱美じゃない。外見はいっしょでも、中身が違うんだ。だから感じた違和感。
「ねえ。先週の、金曜の、夜なんだけど」
ドキン、と私の心臓が大きく脈打つ。
「私の隆志と、会ったわよねえ」
何故知っているんだろう?隆志が言ったんだろうか。鼓動が速まる。
「そこで、あなた、いったい何を言ったのかしら。全て正直に言って欲しいのよ」
「しょ、正直にって、な、何よ?た、ただ私は隆志から相談を受けただけよ。勘違いしないで」
私の声は自分でもはっきりわかるほど、震えを帯びていた。心臓は壊れそうなくらい脈打っている。何で朱美から、こんなに恐怖を感じるんだろう?
「勘違い?何を言っているのかしら?私はただ、本当のことが知りたいだけ。あなたの口から。それが、あなたが、有罪か、無罪か、の、決め手になるの」
有罪?無罪?なんのこと?
「ふ、ふざけないで!も、もうこれ以上付き合いきれないわ!」
私はとにかく、ここから、この空間から逃げなければと思った。逆上した振りをして逃げ出すしかない。イスから立ち上がり、玄関の方へ向き直った。その瞬間。急に眩暈がした。後ろ手にイスにしがみつこうとしたけれど、しがみつけず、私はそのままその場所にへたりこんでしまった。体が痺れたように動かない。力が入らない。私は座り込んだままイスにもたれ、かろうじて寝転がるのを防いでいた。

「ん、ふふふ」
朱美の含み笑いが聴こえる。
「うまい具合に効いてきたわね。あなたのパスタにだけ、お薬を入れさせておいてもらったの。少しだけ正直になってもらうためのお薬と、逃げられないようにするためのお薬。安心して。それだけでは、まだ、死なないから」
朱美は私の正面に回りこみながら言った。薬?何のこと?何で私の体は言うことを利かないの?まだ?まだってどういうこと?私は酷く混乱する。
「金曜の深夜、隆志が尋ねてきたわ。突然隆志は私に、しばらく距離をおこうって言い出したの。今、大学で変な事件が起きているから、その犯人が捕まるまでだって。私、ショックだった。隆志だったら、私を裏切らないって信じていたから。絶対私を守ってくれるって思っていたから。ジョンのように。隆志は私の安全のためだって言ったけど、そんなこと嘘。隆志の目を見たらわかったわ。隆志の目も、私から逃げていった男の子達と、同じ目だった。気味悪がってる。怖がってる。逃げたがってる。すごいショックだった。本当に信じていたから。だからね。私、ジョンと同じように、隆志とも一体になろうと思ったの」
ジョン?ジョンて誰のこと?益々私は混乱していく。朱美は私の前に屈みこみ、私の顔を、あの「目」で覗き込みながら言った。ショックだと言いながら、目には少しもそんな色は見えない。
「ジョンはね、私の昔の飼い犬。お父さんが私の14歳の誕生日に、プレゼントしてくれたの。こいつが俺のいないときでも、お前を守ってくれるんだって言って。私嬉しかった。そして本当に安心したわ。それからジョンはいつも私といっしょにいるようになった。ジョンは始めはそんなに大きくなかったけど、どんどん大きくなって。ジョンはシェパードだったから、黒くて大きくて逞しくなって。とても頼もしかった。いっしょにいるだけで、すごく安心できたし、ジョンは私が不安を覚える何にでも向かっていったわ。他の犬や、不審な人や、ゴロゴロ鳴る雷にさえも。頼もしかった。でも」
朱美は顔を近づけ、私の目をマジマジと見た。
「死んじゃったの。事故だったんだけど。家のドアに挟まれて。首の骨が折れてあっけなかったわ。私すごくショックだった。とっても好きだったから。信じていたから。それでね。お父さんはジョンは家族と同じだから、きちんとお墓を作って土葬しようって言ってくれたの。そしてジョンを冷蔵庫にいれて、お墓ができるまでしばらくの間、腐らないようにしたの」
朱美はさらに顔を近づける。私はもう、腕を動かすこともできなくなっていた。朱美は無表情にさらに話しを進める。
「次の日。私、学校の帰り道に本屋さんによって、お葬式とか埋葬とかの本を立ち読みしたの。少しでもジョンの役にたちたくて。そうしたら、そういう本のなかに、死体を食べるっていう本があったの」
「え!?」
私は驚きのあまり思わず声を出してしまった。声は出た。ひどく間延びした声だった。
「そう。私も始めはびっくりしたわ。死体を食べる?考えられないって。でも読んでいくうちに、なるほどって思った。今のあなたに理解しろっていっても無理ね。要は、食べることでいっしょになるの。死んだものの魂は抜けていってしまうけど、残った器である肉体にも、その魂の色がついているわ。そして食べることで一体となって、自分も相手も浄化するの」
私は、少しずつ朱美の言っている話がわかってきてしまった。芳香剤。大きい新品の冷蔵庫。連絡のこない隆志。ジョンと「同じように」。恐怖と嫌悪で涙が出てくる。髪の毛が逆立っていくのがわかった。
「私、少しずつジョンを食べていったわ。始めは中々おいしく料理できなかったけど、そのうち美味しく料理できるようになった。シチューがやっぱり一番おいしく料理できたわ」
恐ろしさで、私は全身ガタガタ震え始めた。
「食べ終わってしまうと、本当にジョンが私と一体になったのがわかったの。ジョンの体と魂が、私の肉体と魂と融合したことが。それで未来永劫私とジョンはいっしょになれたのよ」
朱美は震え始めた私を、相変わらず無表情に見つめている。まるで壊れて役にたたなくなった人形を見るように。そして微かに首を縦に動かした。
「そろそろ、いいわね」
私は視界が、かすれてきたのを感じた。
「知っていると思うけど、私のお父さんはお医者さんなのよ。体を動けなくする薬や、少し正直になってもらう薬とか、簡単に手に入るのよ。フフ。便利ね」
朱美は、また口だけで笑った。
「さあ、あなたに訊きたいことは2つだけ」
朱美は、私の正面に座りなおした。
「まず1つ。あなた、金曜の夜、隆志に私と離れるように勧めた?」
私はほとんど考えることができなくなっていた。ただ、答えなければという気がした。
「ええ。勧め、た」
私は、やっとのことで答えた。
「そう。やっぱりね。今日隆志の携帯に、あなたからのメールがくるまで、気付かなかったけど」
ああ。あのメールか。私は思考の焦点が定まらない頭で、鈍く後悔した。
「もうこれで、あなたの有罪は確定しちゃったけど、最後に1つだけ。あなた、隆志のこと、好きだった?」
私は答えたくないと心底思った。抵抗した。でも。口が勝手に動いてしまう。
「う、ん。す、き」

朱美の唇に、あきれたような、蔑むような歪みが浮かんだように見えた。朱美は目を閉じた。何か考えているんだろうか。

やがて目を開くと言った。
「・・・。これで香織の処分は決まったわ。香織も私と一体になるのよ。私の中で香織と隆志は一体になるの。未来永劫に。本当は、香織と一体になるつもりはなかった。でも」
あ、朱美だ。私の知っている朱美がそこにいる。朱美の目はいつのまにか、私が知っている朱美の目に戻っていた。表情がある、私が知っている、朱美の目に。

「私にとって、香織は私が思っている以上に大切な人間だったのね。香織は私にないものを沢山持っていた。勇気もあったし、さばさばしていた。ウジウジしていなかったし、いつでも自分の感情を表に出せていた。綺麗だったし男の子にも、もてた。私は全てその反対だったわ。そしていつも香織に憧れていた。何で同じ女の子なのに、こんなに違うんだろうって、妬みもした。でもそんな香織でも、やっぱり私と同じ人間だったのね。私は香織の行為は許せないけど、香織の気持ちは理解できる。だから。肉体は許せなくても魂は許せるわ。香織は私を裏切ったけど、私は香織を裏切らない。そしてそんな香織も、隆志も、全部私の中で浄化されて、一体になるの。それが今、私が香織にしてあげられることの、すべて」

そのとき私は、朱美の目が濡れているように見えた。視界が薄れつつある私には確かにはわからなかったけど。

そして。

「・・うなら」
そう聴こえて、再び朱美の目を追うと、もうそれは、私の知っている朱美の目じゃなかった。はっきりと。私は意識が遠のいていくのを感じながら、何故だか、少し安らぎを感じていることに気付いた。

ああ。

私に朱美の一部になる、シカクがあるんだろうか・・・

コメント(14)

読ませていただきました。

とても安定した文章でブレもなく、そして描写も的確で読みやすかったです。
不思議で、内面に怖さをもった朱美の存在もあらわせていた気がします。
これくらい安定した文章を書くのにはとても時間を要したのではないかなと推測します。

そうですね。僕は最後の一文に違和感を覚えました。朱美にとりこまれてもいいという風に最期になるのかなと。香織と朱美の関係はそういうものなのかなと思いました。
コメントありがとうございます。

時間はやはりかかりました。でも、書いている時間より、考える時間の方がかかりましたね。特に今回は、主人公が自分も決して好きなタイプ?ではなく、どちらかと言えば、友達になりたくないタイプでしたので、そこのところで少々葛藤のようなものがありました。自分の暗部に光があたる様で、苦しいというより怖くなりました。

最後の部分は、今読み返すと、自分的にはこれでよかったと思います。この一文で救われるというか。香織もモンスターではなく人間だったのだなあ、と。自分も救われたような気がしています。

書き終わった直後は、よくわかりませんでしたが。自分でもなんでこんなラストなんだろう?とか思っていました(笑)。お馬鹿丸出しです。

お読みいただきありがとうございます。
>マジマさん

コメントありがとうございます。

そうですね。少し、朱美についての物語が足りないかな、と思いました。始めは「その2」の部分だけで、構成しようと思っておりまして、それではあまりにも語るに不足だな、と思いました。それで「その1」の部分から書きました。そのせいで、こんな長さに(涙)。脱稿も、遅れまくりの状態に。すいません。いつもろくな設定も立てずに行き当たりばったりで書いているので、そんな状況に陥ります。まさに自分の人生そのものです(汗)。もう少し長くかけていれば、やはり朱美について書き増したでしょう。しかし、それは「たら」「れば」のお話しです。この小説は、これで完結しておりますし、その不足もこの小説の一部かな、と思います。(だらだら直していっても良かった試しがないので)

とても鋭いご指摘ありがとうございます。

今後ともよろしくお願い致します。
>流転さん

いつもコメントありがとうございます。

ホラーというより、ホラーもどきですね(笑)。最初はものすごく怖い物語を書こう、と思っておりましたが、結局いつもの自分になりました。狂った人間を書く難しさが、本当に今回身に沁みてわかりました。狂った人間を真に「書く」には、結局自分も狂うしかない。そこに本当の意味での恐怖があるような気がします。終わってみれば、この物語に、本当の意味で狂った人間はなく、朱美も香織も非人間的な一面を持ちながら、やはり通常の人間の範疇を超えない。それはつまるところ、自分という人間が狂っていないことを意味しているのかなと。逆説的に言えば、自分は狂わなくてよかったな、と思います。なんだか何をいっているんだかわかりませんね。すいません。

薬は苦肉の策です(笑)。これより他に、手が考えつかなかったというのが本音です。字数制限につながるのですが、朱美が問い詰める形にすると、また長くなりそうな予感と、非人間的な怖さが薄れてしまいそうな気がしたのです。実際にはどうなったかわかりませんが。やはり少し違和感を感じさせる結果になったということは、やはり失敗だったということでしょうか。

自分、ホラー小説はほとんど読まないので、先人たちの作品を知らないのですが、やはりカニバリズムは、ホラー小説ではよくでる題材かもしれません。それだけで嫌悪感と恐怖感を煽れますし。プラスαですか(汗)。なかなかそこまで頭が回りませんでした。参考にさせていただきます。

お読みいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願い致します。
大きな冷蔵庫からどきどきしてましたwww
こういうの、怖いくせに好きです!
手で目を覆って、隙間からのぞき見ているようなどきどきかんを感じながら読ませていただきました。

 拝読しました。
 まぁホラー作品っぽいので途中でなんとなくどこらへんに軟着陸するうのかなとは思っていたのですが、冷蔵庫は先の展開が読めてしまうのでもう少しさりげなく登場させた方が効果的なのかなと思いました。
 冷蔵庫が出た時点でカンバニズムの話だなと読めてしまうので。


最後の部分の
>そう聴こえて、再び朱美の目を追うと、もうそれは、私の知っている朱美の目じゃなかった。
が少し分かりませんでした。もともとのおどおどした目の朱美。狂気に支配された目の朱美。の二つの小説の中で提示されていて、今まさに狂気の朱美を見ていたのではないかと思ったので。


>シカクがあるんだろうか・・・

 どういう資格がひとつになることに必要なのかという事が朱美によって言及されていない気がしたので、この部分はすこし唐突な感じもしました。


>玖苑さん

コメントありがとうございます。

ドキドキしていただけましたか、ありがとうございます。

冷蔵庫の時点で、その後の展開を予感させてしまうのは、未熟な証拠ですね。

精進します。

お読みいただきありがとうございます。
>きんめさん

コメントありがとうございます。

自分どうしても、ストーリーとか展開よりも心理描写とリアリティを優先してしまう癖というか、嗜好があるようです。書いている時点では、ネタばれするかもとかは気付かなかったとかのレベルではなく、まったく思考の中に入っていませんでした。とにかくどれだけ、2人の心理にせまれるか、しか考えていなかったように思います。読み手のことを、慮れない、愚かな作者ですね。猛省させていただきます。

ご指摘の部分は、他の方にもわかりにくさを感じさせてしまっていたようで、二重の意味で拙さを痛感いたしております。1つはそのまま「伝える」力が未熟なこと。もう1つは、不可解ならばそれを理解しようとさせ得る文章(つまり何度も読み返そうという気にさせる文章)を書けない未熟さ。2つの未熟が重なり、恥じ入るばかりです。

本来は、自分の小説の説明などするべきではないと思うのですが、慙愧の念を反復させるための道標という観点で。

>そう聴こえて、再び朱美の目を追うと、もうそれは、私の知っている朱美の目じゃなかった。

の部分は、それ以前つまり

>あ、朱美だ。私の知っている朱美がそこにいる。朱美の目はいつのまにか、私が知っている朱美の目に戻っていた。表情がある、私が知っている、朱美の目に。

の部分において、香織のあまりにも稚拙で正直な、人間らしい過ちを感じた朱美が、呼応するかのように、瞬間、人間らしい心を蘇させる。そして本来ならば、ただ葬り去るだけにしようと思っていた香織と、一体になろうと決意する。それは現時点の朱美にとっては、香織を救うことであり、精一杯の友情の表現。だから「私は裏切らない」。

そして
>そう聴こえて、再び朱美の目を追うと、もうそれは、私の知っている朱美の目じゃなかった。

に、続きます。人間の心を持った朱美のままでは、香織に手を下すことは到底できない。また、朱美は「無表情」の朱美に戻る。そしてそれを見た香織は、自分の確実な死と、朱美に食されることを感じる。そう感じた瞬間、香織には朱美の最後の「友情?」が薄れゆく意識の中で「感じ」られる。そして最後に思ったことが

>シカクがあるんだろうか・・・

シカクとは、おそらく、朱美を裏切った自分が、自分を裏切らなかった朱美と一体となる資格があるのだろうか、そんな資格などありはしないのではないか、ということだろうと思います。

書いた直後は自分自身、そこまで考えられませんでしたが。日を経て読み返し、こういうことだったのだろう、と思った次第です。

自分でもよく理解できないものを、他人様に理解させようというのが、どだい無理なお話しです。もっと、読み手にわかり易く、ストレートに伝わるように書かなくてはいけませんね。反省しきりです。

ご指摘、心から感謝いたします。

これからもよろしくお願い致します。
>三章企画さん

コメントありがとうございます。

三章企画さんのような、たいへんな力量を持った書き手としての大先輩にコメントいただけること、望外の喜びです。重ねてありがとうございます。

朱美の「目」についてですが
作者としては、朱美の非人間的な一面(或る意味二重人格的な)の顕現としての意味合いで書いてみました。心象としての「怒り」や「憎しみ」などの負の感情が、ある一定の枠を超えると現出する、というイメージ?で。なので、信じていた隆志、香織には、最後の(つまり死を与える)場面まで見せたことがない、という考えで書き進めていました。

朱美にとって「食べる」という行為は、対象を「救う」こと。もちろん、好きで「救いたい」若しくは「一体になりたい」と思う対象でなければ、その範疇にも入らない。

すいません。こんな説明は本来不要にしなければなりません。全てを作品の中で感得させることができなければ、やはりそれは「駄作」でしょう。猛省しきりです。

冷蔵庫の使い方の御意見ですが
なるほど、と感嘆しています。そんな使い方があったのかと。自分の悪い癖で、書いていると兎に角、登場人物の心理にどれだけ迫れるか、文字の羅列のなかにいかに現実(の人間の心の動き)を現出させ得るか、という一点に夢中になってしまい、三章企画さんがご指摘になる「読み手への配慮」が、希薄になっていってしまうのです。ご指摘の点についても、もうそういう小物への配慮(=読み手への配慮)よりも、いかに朱美の精神世界に迫れるか、ばかり考えていたように思います。特にここ最近の自分の作品には、そういう傾向が強くでているようです。反省点です。ご指摘ありがとうございます。

最初は、怖いホラーを書こうと思って書き始めたのにも関わらず、途中では登場人物の精神世界をいかに顕すか、に主眼が移っていってしまっています。おそらく自分の修練すべき点は、いかにして二律をそのまま文字に顕すかというところかと。つまり、自分の顕したい心理の現象(自分の欲求)と、物語としての面白さ(読み手を引き込む手段)の二律。読む方がいなければ、どんなに優れた作品でもそれは存在する意味がない。また、読み手が多くても(経済的にいいのかもしれませんが)、自分的には小説を書いている意味がない。この二律をいかに融合させるか。これからの自分のテーマになりそうです。

お読みいただきありがとうございます。どうかこれからも、よろしくお願い致します。
>おおぼらふきこさん

 こちらこそはじめまして。コメントいただきありがとうございます。

 テンポよく読み進められましたか。嬉しいかぎりです。ですが、自分で読み返しても、全然怖くないので(笑)、ホラーものとしては失敗作ですね(涙)。

 少しでも恐ろしさを感じていただけたようでなによりです。

 朱美のバックボーンについてですが。自分でも少し薄いかな、とは思っておりました。しかし、ただでさえ長すぎ(汗)になっていたので、そこんところはスルー(笑)させていただいた次第です。すいません。力不足です。

 読んでいただきありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いいたします。

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