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自作小説を公開しようコミュの『上海探偵物語』 東

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第一話『いつもの様に』

その日の上海は相変わらず埃っぽい空気の健康に悪い秋空だった。

朝、環状高速沿いの自宅で目覚めると、相変わらず隣のロシア人が、痴話喧嘩をしていた。
騒音には騒音で対抗するため、起き抜けにCCTVを点けると、国慶節のパレードが流れていた。

少しワインの残ったグラスが2つ、ベッドサイドに有る。
あいつは、いつの間に帰ったのだろうか。
まぁ、いつも通り、洗濯機に下着が放り込んであったが。

枕元に外してあったロレックスを見ると、そろそろ8時を指そうとしていた。

今日は朝から事務所に客が来る予定になっていた。
取り合えず着替えてから、冷蔵庫からヨーグルトを取り出すと、パックのまま少し飲み、
この前、ユニクロで買った合成皮革のジャンパーを羽織って、そのまま鍵束を持って外に出る。

このままでは、人民広場近くの事務所での待ち合わせに間に合わない。
駐車場から駆け出した電動バイクを一気に70キロまで加速して、延安高速の下を飛ばす。
リミッターを切っていないと、せいぜい40キロ止まりだが、こいつは太い径のタイヤの御蔭で、高速を出しても安心だ。
もっとも、テクニックが付いていかないと、あっという間に田舎者の運転するダンプの車輪で挽き肉にされてしまうが。
あちこち路面の剥がされた道路のギャップを乗り越えながら走る度、日本から持ち帰った何故かメイドインチャイナのライディングブーツが、時折コンクリート道路の縁石を擦る。
無秩序で混沌とした車の激流をもがきながら抜け、バッテリーが咳き込む前に、ようやく事務所に着いた。

ビル地下の駐輪スペースに電動バイクを潜り込ませると、警備員に1元硬貨を放って充電器を壁のコンセントに繋ぐ。
これで帰りのバッテリーは保つだろう。

22階の事務所にエレベーターで上がると、秘書が朝飯の揚げ餃子を食いながらPCの画面を覗き込みQQで遊んでいる。
(ちゃっかりと自分だけシャワーを浴びてから事務所に来たようだが、お前の下着は俺が洗っているのを忘れるなよ。)
口元に垂れる餃子の汁を見て、昨夜のベッドで秘書の唇の隙間から嗅いだ、黒酢の匂いが鼻腔の奥に蘇った。
二晩続きであの臭いは嗅ぎたくないので、今夜はイタリアンに連れて行ってやろう。

私に気付いた秘書は、顔を少しだけ上げ、あごで右手の会議室に既に客が来ていると素振りで教えた。

会議室のスモークを張ったガラスの扉を開けると、マホガニーの会議机の奥に、律儀にネクタイを締めてい座る、如何にも日本人然とした眼鏡面の男がこちらに顔を向けた。

「吉川様ですね。大変お待たせしました。早朝から足を運んで頂いて申し訳ありません。」

「いえ、私共の事務所ではお話できない内容ですから。」

「奥様の素行調査の件でしたね。」

「契約前に、こういったお願いするのは気が引けるのですが。」

表向きはコンプライアンスを中心にしたコンサルタント事務所だが、内実はほとんど何でも屋だ。
高い顧問料を払っているクライアント、特に駐在総経理からは時々こういった依頼がある。
吉川の会社は、上顧客予定リストのトップに名前を載せていた。

まさか、この後に続くあの悪夢の様なひと月の始まりだとは・・・。
知っていたら、この時吉川を追い返した事だろう。

次回第二話『有閑太太』
乞うご期待。

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