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SOS団〜時代がやっと追いついたコミュのLegend of Kentaro〜キミのハートにスマイルブラッシュ

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コメント(13)

 人は何度同じ過ちを犯せば気が済むのだろう。ありきたりな言葉だ。つまらな
いクリシェ。でも、今の僕にはそれ以外の言葉は浮かばない。

 喧嘩は嫌いだ。殴るのも嫌だし、殴られるのはもちろん嫌だ。人を傷つけるの
を避け続け、人に傷つけられるのを避け続けた。他にも方法はあったのかもしれ
ないが、僕はまた安易な選択をしてしまった。

 目の前には一人の男が幸せそうな顔であおむけに倒れている。さっきまで、僕
に喧嘩をふっかけていた男だ。



 生まれた時のことを覚えているという人がいるが、僕もそのうちの一人だ。

 僕が生まれてはじめて見た人は、母さんではなく、看護士さんだった。たぶん
20代で、そこそこキレイな人だったと思う。その人の体が蛍光灯の光をさえぎ
っていて、母さんの体から出てきたときは、あっ、ちょっと明るいなくらいに思
っていたのだが、看護士さんが僕を抱えるためにか身をかがめたために、それま
でさえぎられていた蛍光灯の光が僕の目に飛び込んできて、僕は思わず目を力強
くつぶった。そのあとすぐに、ばたっという音がして、恐る恐る目を開けると、
看護士さんが幸せそうな顔で倒れていた。大丈夫かなと思って近寄ろうとしたの
だけれど、僕はすぐに母さんに抱きかかえられ、看護士さんにはその場にいた医
者がかけよった。今になって思えば、生まれたばかりの僕がかけよったところで
どうしようもなかったのだろうけれど。

 そう、今になって思えば、あれが僕の生まれてはじめてのスマイルブラッシュ
だった。


 僕は生まれて一ヶ月くらいするとあまり笑わない子供になった。理由は僕が笑
うと、それを見た人が気を失ってしまうからだ。控えめにいって、早熟聡明だっ
た僕は生まれて一ヶ月もしないうちにそのことに気がついた。でも、僕は楽しい
時には笑いたかったから、そのために毎日練習した。鏡にむかって笑ってみる。
そうすると、気がつくとあおむけに倒れている僕がいる。僕がそのときに立てた
仮説は、普通にしている時は気を失わないなら、きっと気を失う顔と気を失わな
い顔のボーダーがあるだろうと。練習をはじめて3日目の朝、鏡の中の笑った顔
を直視できている僕がいた。そして僕は相手を気絶させてしまう笑顔を便宜上、
スマイルブラッシュと呼ぶことにした。

幼稚園、小学校の間、僕はスマイルブラッシュを使うことなく過ごした。普通の
スマイルでも相手に好感を与えるには十分だったし、まわりの友達もいい人たち
ばかりだったからだ。時間は穏やかに過ぎていった。

中学に入学して、はじめの一ヶ月で2回もスマイルブラッシュを使うことになっ
た。

一度目は喧嘩の仲裁だった。同じクラスのやつが理由はわからないが、殴り合い
の喧嘩をしていて、それを止めようとしたのだけれど、止まらなくて、しょうが
ないから試しに十年ぶりとかでスマイルブラッシュをしてみたらふたりとも倒れ
てしまって。それを見た周りのクラスメイトには、僕がふたりを気絶させたよう
に見えたらしく、まぁ実際その通りなんだけど、そのせいで僕がは喧嘩が強いみ
たいな噂が流れて、しかも小学校の頃からサッカーをやっていて、やたらガタイ
がよかったせいで無駄に説得力が増して、気がついたら学年最強みたいな話にな
っていた。

二度目はその噂を聞いたやつに喧嘩を売られた時だ。小学校の頃から喧嘩自慢で
ならしたそいつには僕の存在が気に食わなかったのだろう。僕は別に学年最強と
かじゃなくていいから喧嘩はやめないかと提案したのだけれど、そいつは聞き入
れてくれなくて、結局、十人以上もギャラリーがいる前で喧嘩することになった
。僕とそいつは体育館でむかいあって、五歩くらい間をあけて立っていた。相手
は首を回したり、腱を伸ばしたりとやたらやる気満々だったが、僕は殴られるの
はいやだからスマイルブラッシュで決めてしまおうと考えていた。問題はどのタ
イミングで決めるかだ。あんまり離れすぎていると、まわりのギャラリーに不審
に思われるだろうし。そんなことを考えていたら、相手が吠えながらこっちへ足
を踏み出してきた。僕は相手に殴られる寸前でスマイルブラッシュした。相手の
動きが止まったところで、相手の腹を軽く殴って倒れさせた。まわりには僕が一
撃で相手をしとめたように見えたのだろう。それから一撃必殺健太郎というセン
スのかけらもない通り名がつき、月一くらいのペースで喧嘩を売られることにな
った。中には他校の生徒もいた。

僕がスマイルブラッシュで倒した生徒は僕のこと太郎さんと呼ぶようになって、
僕の子分みたいな立ち位置になったんだけど、僕がそれを嫌がったら、今度は一
匹狼太郎とか呼ばれるようになった。ちなみに僕に倒された相手は倒された時の
ことを覚えていないらしかった。みんな口をそろえて、なんだか幸せな気持ちに
なって、気がついたら倒れていたという。

僕が受験して私立の中学校を選んだのもよくなかったのかもしれない。小学校の
頃の僕を知る人間はいなくて、部の仲間でさえもはじめのうちは僕を避けていた
ような気がする。そんな風に夏休みくらいまで過ごして。夏の合宿で部の仲間と
打ち解けて、そのへんから変な誤解が解けていった気がする。

高校2年になった今でも喧嘩を売られることはあるけれど、総じて楽しい毎日だ
と僕は思っている。


「ケン遅い」

 玄関の戸を開けると、すぐそこにひかりが立っていた。

「別に俺待たないで先に行ってていいって」

「べっべつに、あんたのことを待ってたんじゃなくて、あんたのお母さんが仲良
くしてあげてっていうから」

 ひかりは僕の家の隣に住んでいて、家族ぐるみで付き合っていたりする。なぜ
かうちの母さんとやたら仲がよく、一緒に買い物に行ったりしている。

 僕がひかりの横を通り、学校の方へ歩き出すと、待ってよとひかりがついてく
る。

「昨日も喧嘩したんだって?」

「喧嘩っていうか、相手が勝手に突っかかってくるだけだし。別にやりたくてや
ってるわけじゃないし、昨日もってほど毎日してるわけじゃないし」

 だいたい昨日のやつはお前が原因だろと思ってみる。ひかり自身は知らないだ
ろうけれど。

「だったら断ればいいじゃない」

「断れないから困ってんじゃん」

 それにしても眠い。大きくのびをすると、自然にあくびが漏れる。

「なんで、女の子と歩いてる時にあくびとかするかな」

「昨日は夜遅くまで勉強してて……」

「十時前には電気が消えてたけど、暗い中で勉強してたの?」

 ひかりはそういって、嫌な笑顔をする。スマイルブラック。

 これだから、隣の家に同級生が住んでいるというのは嫌だ。しかも部屋同士が
窓を開いてすぐのところにあるから、寝ているか寝ていないかくらいすぐにわか
ってしまう。

「人の部屋覗くなよ」

「ばっ、ばっかじゃないの。誰があんたの部屋なんか」

「じゃあ、なんで電気消えたのわかるんだよ」

「それは、カーテン開けたら、部屋が暗かったから……」

 同い年の女の子に覗きのカミングアウトうけたんだけど。うん、聞かなかった
ことにしよう。

 家から学校までは十五分くらいだ。ひとつだけ信号を渡る。今日は赤信号だ。
信号待ちの間にむかいの道路に怪しい人影を見る。うちの学校の制服を着ていな
がら、登校時間に学校と反対方向をむいて立っているやつがいる。知ってるやつ
かなと考え、若干ほのかな気合を入れて見てみる。丸坊主、身長は百七十弱とい
ったところだろうか、ブレザー、革靴で、いかつい顔だから、そのへんのヤンキ
ーに見えなくもない。しかし、実際はそのへんの漫才師だ。

「なんか、むかいの道路に立ってる人、こっち見てない?」

「ごめん、ちょっと知り合い」

「ちょっと?」

「うん、ちょっと」

 本当にちょっとだった。

 信号は青信号になる。

 僕とひかりが歩いていくのを、そいつはむかいの道路で待っていた。

「昨日はご指導ありがとうございました」

 信号を六割ほど渡ったところで、そいつは大声で頭を下げた。学校の近く、う
ちの学校の生徒十数人がいっせいにこちらを見る。

 ひかりを見ると、眉を寄せ、はからずも上目づかい。ネコ系より、イヌ系の顔
のひかりには、そういう表情がよく似合う。どこか頼りなさげで守りたくなるよ
うな顔だ。実際、守る必要などこれっぽちもないほどタフな女だけど。

 信号を渡り終えたところで、小さくため息をつく。朝からめんどくせぇ。

 昨日の昼休みのことだ。食堂で飯を食って、教室に帰る途中にトイレに寄って
、用をたしていたところ、背後から肩をつかまれた。

「古賀さん、ちょっと付き合ってもらいやしょうか?」

 ちなみに僕はまだチャックを閉めていない状態だった。

「君誰?」

振り向かずに聞く。

「名乗るほどのもんじゃございやせん。まぁ、しいて名乗ることがあるとすれば
、上野ひかり親衛隊隊長、ふたつ名をシュールなボケ男、高校一年三組、田中次
郎というものでござる」

「……長ぇな」

「クール! そして的確なツッコミ! やはりただものではないと見た」

 どうみてもお前の方がただものじゃねぇよ。

「で、俺に何の用?」

「用という用じゃございやせんが……」

「じゃあこれで」

 僕はチャックを閉め、振り返る。

「ちょーっと待った。話はまだ終わっちゃいませんぜ」

「じゃあ、手短に話せ」

「承知でごわす」

「3秒な」

「みじかっ! そしてドS!」

 めんどくせぇ。もういいか、いいよな。

 僕は手を洗い、トイレを後にしようとする。

 後ろから今度は肩に手を回される。

「ひかりさんと隣の家だということをばらされたくなかったら、おとなしく従う
んだな」


 これまでのふざけた口調から一変、ドスの効いた声を出す田中。

 ……こいつ、なんで知ってんだよ。

 僕とひかりが隣の家同士だということは同級生でも知らない。理由はばれたら
何言われるか、わからないからだ。高校生という無駄に多感な時期。友人の小説
家気取りにノベライズされでもしたらたまらないし、そうでなくても、サッカー
部のやつらは勝手な妄想をおっぱじめるだろう。

家に友達を呼んだことはないし、僕もひかりも極力隠す方向に頑張っているから
、今のところ、誰にもばれていないはずだった。それなのにこいつは。

「どうして知ってるんだ?」

「ひかりさんが家まで無事に帰るか見届けていたら、おまえの隣の家だというこ
とがわかった」

 それってもしかしてストーカーなんじゃないか?

「勘違いするなよ、もちろん後ろからこっそりと見届けた」

 認めたっ! しかもクールに!

「で、お前は俺に何をして欲しいんだ?」

 正直めんどくさい相手だけど、ここでスルーするのもかなりめんどくさそうだ
から、手短に終わらせる作戦に出た。

「ひかりさんを僕にくださいっ!」

「話急だな、おい。ってか、俺は誰だよっ!」

「えっと、古賀健太郎さんですよね?」

「名前じゃねぇよ」

「じゃあ、サッカー部で二年四組、部活でのポジションはMF、クラスでのポジ
ションは中心からちょっと外れた安全な位置の古賀健太郎さん?」

「俺のクラスでのポジション、勝手に分析してんじゃねぇよっ!」

 ひとつわかったのは、この田中ってやつが結構危ないやつだってこと。ひかり
を狙って、そのまわりにいる俺まで調査するくらいだから。

「どうしても譲れないというのであれば、僕と勝負してもらいましょうか?」

 譲るとか譲らないとか、別にあいつは僕の彼女とかではないし。まぁでも、こ
いつがひかりにちょっかい出すのは避けたいよな。

「喧嘩するならやめといた方がいいよ。正直、俺、洒落にならないくらい強いか
ら」

「噂はかねがねうかがっております。とりあえず、体育館裏行きましょうか?」

 おいおい、こいつ本気じゃねぇかよ。そう思いながら、僕は田中についていく
。人がいる前で喧嘩をするほど、僕はバカではない。
うちの学校はくさっても私立だ。俗に体育館裏と称されるような場所はない。意
図的に作らなかったのか、偶然かはわからないが、校内にどこからも見えない死
角のようなところは存在しない。まぁ、そこも少し考えればわかることなのだが
、全く死角のない学校なんてものはよっぽど注意して作らないと作れない。そし
て、うちの学校も例外ではない。ある程度の広さを必要とするなら死角がない場
所はないが、狭い場所なら死角として機能する場所もある。例えば、通路のよう
な場所。

 僕と田中が今いるのは、体育館裏近くの通路だ。長さ十メートル、幅二メート
ルほどだろうか。白い壁面には、ボールペンやらマジックやらで書かれた意味不
明な言葉の数々。さすがにスプレーでやられたあとはないのは公立との違いだろ
うか。しかし、校長今日も絶好調などと書かれているところを見る限り、私立だ
からといって頭がいいというのは間違いだろうと思う。

 通路の中ほどで田中は足を止め、振り向く。

「ここが何の場所だか知っているか?」

 田中が僕を見据えていう。

 僕は考える。これはフリなのだろうか? フリと見せかけたトラップで、日本
とか学校とかいわせて、僕を滑らせるつもりなのだろうか。

「知らない」

 無難な答え。

「ふっ、そういうと思ったぜ。おまえみたいに光の当たる場所で生活しているや
つには、おれたちの苦労はわからないだろうな」

「どういうことだ?」

「ここはっ」

 そう一度叫んで、田中は間を取る。

「ここは、おれたち、漫才研究会の練習場所なんだよ。おまえらみたいに、でっ
かいグラウンドがあって、マネージャーがいて、おまえみたいにひかりさんと一
緒に帰っているやつには想像できないだろうが、音楽部のうっさい音に渾身のボ
ケをかき消されるような場所なんだよ、ここは」

「それはわかったけど、ひかりは関係ないだろ」

「うるさい、うるさい。こうなったらマクドナルドゲームで勝負だ」

「なんだそれ?」

「知らないのか、おっくれてる〜」

 そろそろスマイルブラッシュで黙らせてやろうか、この野郎。

「マクドナルドゲームはだな。漫才研究会発信でブームを起こそうと計画されて
いる遊びで、楽しくかつ漫才の練習にもなるという画期的なゲームなのだ」

「まず起こんねぇよ」

「ゲームのルールも聞いていないのに決めつけていいのかな?」

「そんなに自信があるのか?」

「ふっ、まぁな。マクドナルドに行ったことはあるか?」

「まぁ、そりゃな」

「トレーの上に紙が乗ってるだろう。私×マックとかいうやつだ。そこにこんな
記述がある。制服を着ると○○が変わる。それを見た時に俺はひらめいた。これ
は使えると。ここからが本番だ。マクドナルドゲームは誰でも遊べるようにルー
ルを簡単にしている。そもそもブームというのは誰でもできるからブームになる
のであって、難しいものはブームになりにくいからな」

「口上はいいから、はやくルールいえよ」

「ルールは簡単だ。対戦者はボケ役とツッコミ役に分かれる。ボケ役が制服を着
ると○○が変わる、といい、ツッコミ役は○○に対する突っ込みを考える。考え
る時間はボケ役が制服を着ると○○が変わる、私×マック、といっている間だ。
どうだ、簡単だろ?」

「……マック、ほとんど関係ねぇ」

「そこはあれだよ、いかにマックを絡めてこられるかが腕の見せ所というか、と
にかくやるぞ。セット!」

 そういって、田中は何やら怪しげな構えをした。

「ほほぅ、おまえはそのフォームか」

 なぜか、僕のフォームを評価する田中。ちなみに僕はここについてからずっと
ポケットに手を突っ込んだままだ。

「制服を着ると瞳の色が変わる」

 マジ中途半端なボケだな。突っ込みにくい、というかめんどい。

「私×マック」

「欧米かっ!」

 適当なツッコミ。

 うっ、とよろける田中。

「中々やるな。普通、瞳の色じゃなくて目の色だろと突っ込むところを、欧米か
っと突っ込むことにより、スピード感を出し、テンポのいい漫才を演出している
」

 なんでだろう、なんでこんなに恥ずかしいんだろう。こんなに恥ずかしいこと
をこいつは毎日のようにやっているのだろうか。
「次いくぞ、セット!」

「ボケ役は変わらないのか?」

「普段は変わるが、俺はボケ専門だからな。ボケでいかせてもらう」

「自己中っ!」

「制服を着ると髪の色が変わる」

 こいつ色が変わるの好きだな。

「私×マック」

「サイヤ人かっ!」

「くっ、やるな。おぬしもしや、二回同じツッコミをしたら反則というルールを
知っていたのか?」

「知らねぇよ。ってか、はじめにいえよっ!」

「今のは、再び欧米かっ! と突っ込ませて反則勝ちを狙ったのだが」

「姑息っ!」

「うるさいっ! 勝てばいいんだ、勝てば。今度はおまえがボケ役だ。セット!
」

 マジかよ、めんどくさい。というか、恥ずかしい。そろそろスマイルブラッシ
ュしちまうかな……いや、それをした時、後が怖い。

「制服を着ると羽がはえる」

 やばい滑った。

「私×マック」

 こうなりゃやけだ。もうどうにでもなれ。

 待つが、田中からのツッコミはない。

 3秒ほど経っただろうか、田中が崩れ落ちた。

「完敗やわ」

「はぁ?」

「飛行機なんかの力を使わないと飛べない人間という存在と、羽があっても飛べ
ない鶏という存在を組み合わせた哲学性。そして、マクドナルドのマックチキン
、チキンフィレオ、ジューシーチキン赤とうがらしといったメニューと組み合わ
せる、合わせ技。さらに、普通ならチキン野郎っ! と突っ込むところだが、残
念ながら俺はマックチキンが好きだから突っ込めない。そのあたりも調べてあっ
たのだろう」

 調べてねぇ。ってか、そんな深いこと考えてねぇ。

「完敗です、太郎さん」

 呼び方変わってるし。

「それじゃあ、ひかりのことは諦めて」

「ひかりさんのことは諦めます。ただし、太郎さんのことは諦めません」

「フラグが立った!」

「漫才研究会に入ってもらいます。いや、漫才研究会を引っ張っていってくださ
い」

「なんでそうなんだよ」

「MFなんていっぱいいるじゃないですか」

「さっきから勘違いしてるみたいだけど。俺はMFじゃなくてDFだ。めんどく
さいから訂正しなかったけど」

「じゃあなおさら、DFなんて目立たないポジション」

 その一言は僕の神経に触れる。

「DFは確かに攻撃にはあんまり絡まねぇかもしれねぇ。でも、重要なポジショ
ンだ。よく考えてみろ。例えば野球。一見目立つのはピッチャーだ。キャッチャ
ーなんて球を受けているだけに見えるかもしれない。しかし、キャッチャーは重
要なポジションだ。いうなれば司令塔だ。その他でもバンドでもそうだ。ボーカ
ルは目立つけれど、真に重要なのはベースとドラムのリズムセクションなんだよ
。おまえのやってる漫才だってそうだ。一見、ボケがウケをとってるように見え
るかもしれないが、ツッコミあってのウケなんだよ。派手じゃねぇから重要じゃ
ねぇなんてことはねぇんだよ。地味なやつが頑張ってるから派手なやつが輝けん
だよ」

「……なおさら、太郎さんが欲しくなりましたね。こうなったら力づくでも」

 そういって、田中は飛び掛ってきた。

 スマイルブラッシュ!!

 倒れる田中。

「……またやっちまった」



「で、朝から何の用だ? 言っとくが、漫研には入んねぇぞ」

「それはもう諦めました。今日お伺いしたのは、初心表明というか、これからは
ボケとツッコミ両方できる漫才師を目指していこうと思います」

「おっおう、頑張れよ」

「はいっ、ありがとうございます。それと」

 そういって、ひかりの方をむく田中。

「ひかりさん、大好きでした。でも、太郎さんには敵いませんでした。そうか、
いつまでも太郎さんとお幸せに」

 そういって、田中は学校の方へ走っていった。

 なんだったんだろう。

「めんどくせぇやつだな」

「かわいい子じゃない」

「おまえ、自分が褒められたからいってるだけだろ」

「ああいう純粋な子、私嫌いじゃないな」

「ふ〜ん、じゃあ付き合ってみれば、あいつもおまえのこと好きみたいだし」

 ひかりから返事はない。横をむくと、目を細くして僕を睨んでいる。

 ひかりはすぅーっと息を吸い込む。

「ケンのバカァ!!」

 思い切り吐き出し、僕の横っ面を引っぱたいて、学校の方へ走っていった。

「いってぇ」

 マジなんなんだよ。


ひかりに引っぱたかれた跡は、思いのほかくっきりと残っていたらしい。教室に
入って席に座った瞬間、クラスメイトの中島ハジメが寄ってきて。古賀さん何か
あったんすか? といってきて、そこに福島ワタルとか海老原ホクトとか、そう
いう僕の取り巻きみたいなやつらが近づいてきて、いつもみたいに騒ぎ始めて、
どうやら頬が赤いらしいみたいなことがわかって、トイレの鏡で見てみたら、こ
りゃ赤いわって話になって、それからずっと頬杖をついて過ごすことにした。

 うちの学校はどの教室も、黒板の方を向いている状態で、右側に廊下、左側に
窓がある。ひかりに引っぱたかれて赤くなっている方の頬は右の頬だ。ひかりが
左利きなのだから当然といえば当然なのだが。僕は窓際から三列目の席で、右手
で頬杖をつくと外の風景が見えたりして、中学に入ってから丸四年が経って見慣
れた風景だけれど、退屈な授業から逃避させてくれるくらいの効果はある。

 四月の末、桜はもう散ってしまったけれど、代わりに緑の葉が生い茂っている
。花びらは一瞬の輝きのために散り、緑の葉は長き安らぎのために茂る。桜には
永遠と刹那が共生する。そういう部分が古くから日本人の心に触れてきたのだろ
うかなどと柄にもなく考えたりする。

 緑の葉が陽の光を照り返すのを見ているのは、ほっこりして気持ちのいいもの
だが、それにしても暑い。もう春ではなく夏だ。半袖にしたいのは山々だが、う
ちの学校の制服は長袖に比べて、半袖がダサすぎる。あんなのを着ているやつの
気が知れない。うちのクラスで着ているのは左隣の大場くらいのものだろう。

 教室を見渡すと、他のやつらも暑そうにしている。たしか天気予報では二十五
度を超える夏日だとかいっていたような気がする。

 日本史の授業は内職し放題だ。ゲームをやってるやつもいるし、本を読んでい
るやつもいる。真面目に授業を聞いているやつもごく少数だがいるにはいる。

「古賀君、ひかりさんと喧嘩したんだって?」

 ぼーっとしていると、隣の大場が話しかけてきた。

「別に何にもないよ」

 関係ないだろくらいのことはいってやりたいところだが、まだ新しいクラスに
なって一月も経っていない。この時期に敵を作るのはクレバーな生き方といえな
いだろう。それに、この大場という男、謎が多く、あまり敵にしたくないタイプ
の人間だからだ。部活をやっていない、普段何をやっているのか、何を考えてい
るのかいまいちよくわからない。休み時間などは小説を読んでいる一見物静かに
見えるやつなのに、高校一年までの噂からのイメージは暴れ者というか、正直苦
手なタイプといえば苦手なタイプだ。まぁでも、今まで話したことはなかったし
、もしかしたらものすごくいい奴かもしれない。

「ひかりさんと付き合ってるんだよね?」

 ベタなラブコメなら、僕が噴出すシーンだろうが、残念ながら今までこの質問
を十回以上されてきて、噴出す時期はとうに過ぎてしまっている。そりゃ、ほと
んど毎日一緒に登校してりゃそういう話になるわな。

「いや、付き合ってないよ」

「そうなんだ。じゃあ、俺がひかりさんと付き合っても問題ないんだよね?」

 はぁ? 今こいつなんていった? ひかりと付き合う?

「別に俺がどうこういうことじゃないけど」

「そっか、じゃあさっそく行ってくるかな」

 てかなんでこいつ、こんなに自信満々なんだ。ひかりのことがもし本当に好き
ならあいつの伝説について知っていてもおかしくないはずなのに。
チャイムが鳴る。

教師は簡単に挨拶を済ませ教室を出て行く。

大場も席を立ち教室を出て行く。右に曲がったのを見て少し不安になる。トイレ
に行くにも食堂に行くにも左に曲がるからだ。

上野ひかり伝説。カミヤヒカリという名前とかけられて、俗に神の怒り伝説と呼
ばれていたりもする。これまでの四年間であいつに告ったことのある奴は片手じ
ゃ数えられないだろう。下手したら両手の指でも足りないかもしれない。何人か
は僕も直接知っているやつだ。四年で十人近くもしくはそれ以上に告られたとな
れば、それだけでも伝説ものだが、上野ひかり伝説の伝説たる所以はその全てに
対してNOと答えたところにある。この四年の間に百合なんじゃないかとか、他
校に彼氏がいるんじゃないかとか様々な憶測が飛び交い、最近では、大場も勘違
いしていたように僕と付き合っているというところに落ち着いている。あいつも
その方が、都合がいいから、その憶測を利用しているふしがある。そのせいで、
昨日の田中みたいな奴に絡まれたりすることがあるわけだが。

ひかりもな、まぁいい奴なんだけど、もう少しかわいければなとか思ったりする
こともある。僕はどちらかというと、守ってあげたくなるような女の子が好みで
、あいつはセルフディフェンスが強すぎで、例えば、あくまで例えばの話だけど
、僕とあいつが付き合ったとすると、守ろうとしたら、逆に殴れらるくらいのレ
ベルだと思う。身長が百六十以上もある女子としては長身な方だし、バスケ部の
エースで、しかも成績も優秀で、伝説作るくらいの鉄壁のハートを持っていて、
守れそうな部分がない。これまでひかりにアタックして敗れていった奴らは守っ
て欲しかったのだろうか?

顔立ちは整っている部類に入るのだろうが、いや、そのへんのモデルくらいのレ
ベルかもしれない。それに、ある種のカリスマ性というか、オーラみたいなもの
があるのかもしれない。やっぱり魅力があるからモテルのだろう。僕みたいに、
モデルはモテルとかいうくだらないギャグを考えているやつがモテナイのもきっ
と道理なのだろう。

そんなことを考えている間に、僕の席のまわりにいつものメンバーが集まってき
て、机をくっつけての昼飯になった。いつもみたいに他愛もない話をしながら弁
当を食べ、全員ほぼ同時くらいに食べ終えて、そろそろトランプでもするかって
いう段になって、大場がやたら勝ち誇った顔で教室に戻ってきて、僕の顔を見て
、にやりとした。

付き合うことになった? まさか。大場に聞くのはなんかめんどくさいことにな
りそうだ。だとしたら、ひかりに聞くことになるんだろうな。直接行く? それ
はねぇな。もし勘違いとかだったらやだし。電話? 学校で電話て。やっぱメー
ルか。

携帯を取り出し、メールを打つ。

《さっき大場が行かなかった?》

 送信完了っと。

 じゃあ、いつもみたいにナポレオン始めますかって話になって、ハジメがトラ
ンプを切り始めたところで、携帯が震えた。あいつ返信早ぇなと思って、見てみ
たら電話で、ディスプレイには上野ひかりの文字。なんか色々めんどくさいこと
になりそうだ。


「ごめん、ちょっと」

 そう断って、席を立つ。

 ワタルが、ないですわ〜といって、ハジメは三人でナポレオンとか初なんだけ
どとかいって、エビはこれっすか? といって小指を立てる。まぁ、これっちゃ
これなんだけど。

 とりあえず、ノーマルスマイルでそういうやり取りをスルーする。

「どうした?」

 教室の隅で電話に出る。

「……」

「大場に何かされたのか?」

 いやな想像が頭をよぎる。

「大場くんが教室に来て、話あるって言われて、教室出て、図書室の方に歩いて
って」


 図書室がある棟は、僕たちの教室がある棟とは別の棟だ。ふたりきりで話そう
としたら僕でもそっち方面を選ぶかもしれない。

「それで?」

「告白されて……」

 ひかりが呼吸する音が電話越しに聴こえる。一定でない。何キロ走っても息が
乱れないひかりの呼吸がだ。もしかして、泣いてるのか?

「OKしたのか?」

 鼻をすするような音が聴こえる。

「ケンにも了解取ったからって」

 電話が切れる。

 大場の方を見る。

 大場はこっちに視線を投げている。口元を一瞬歪め、机の中から本を取り出し
読み始める。

 大場の胸倉でもつかんで問いただしたいのは山々だが、今はひかりの方が優先
事項だ。


 僕は走る。教室を出る。昼休みももうすぐ終わりで、そこそこの人口密度の廊
下をテンポよく走る。ドリブルで相手の選手をかわすように。階段を二段飛ばし
でくだる。渡り廊下を走る。タンッタンッタンッタンッ。角を曲がる時にキュッ
。そして階段を登る。
 図書館の前まで全速力で来てみたはいいが、ひかりの姿はない。

 もう教室に戻ったのだろうか? 考えてすぐその可能性を打ち消す。僕が電話
をかけたんじゃない。ひかりが電話をかけたんだ。あいつが学校で、誰かいる前
で僕に電話するなんてことはまずない。ということは、今はまわりに誰もいない
状況のはずだ。

 僕はあたりをつけ、図書室前の廊下を早歩きする。女子トイレを軽く覗く。ひ
かりの姿はない。だとすれば、廊下の端までペースを上げ歩く。

 人の気配のない、学園内のエアポケットのような場所。まず昼休みにこの場所
を通る生徒はいないだろう。図書館奥の階段。そこにひかりはいた。

 白い壁によりかかり、左手に閉じられた携帯を持って、目を閉じてうつむきが
ちに。右手の人差し指が右の太ももを小刻みに叩いている。イラついている時の
ひかりの癖だ。着衣の乱れはない。当然だけど一応安心。

 ひかりは僕が来たことに気付いていないようだ。

 近づいて、ひかりの右頬を左手で軽く叩く。

 ひかりは驚いてこっちを見る。

「今朝の仕返し」

「なんでここにいるの?」

「いきなり電話切れるから」

「あぁ、あれは電源切れただけ」

 肩から力が抜ける。

「まぁ、なんにせよ無事でよかったよ」

「無事ってそんな、大げさな」

 そういいながら、ひかりは鼻をすんとする。

無事っちゃ無事なんだろうけど、何にもなかったわけじゃないんだろうなっての
は何となくわかる。

「で、ついにおまえにも初彼氏か」

「はぁ? 大場くんがそんなこといってたの?」

「いや、いってないけど、さっき電話で否定しなかったし」

「大場くんとはアドレス交換しただけ。そんな今まで話したことない人と付き合
うとかありえないから」

「なんだ」

「なんだって何よ。その前に」

 そういって、僕の胸をグーで殴るひかり。地味に痛い。

「なんで私が付き合うかどうかあんたが許可出してんのよ。私が付き合うか付き
合わないかは私が決めんの。わかった?」

 グーをそのままにひかりは体重を僕に預けてくる。僕はそれをただ受け止める
。

「悪かったよ」

 昼休み終了十分前のチャイムが鳴る。

 そろそろ行こうかといおうとするけれど、それより前にひかりが口を開く。

「ねぇ、五分だけ、五分だけこのままでいい?」

 そういって、僕の胸に顔をつける。ワイシャツの下に何も着ていない僕の肌に
、ひかりの体温と涙か鼻水かはわからないけれど水分が伝わる。

 僕はうなずこうとするけれど、この角度からじゃひかりから見えないなと思い
直して、ひかりの後頭部に手を当てて軽くなでる。こうすることが正しいかはわ
からないけれど、今の僕にできることはきっとこれくらいだと思うから。


 図書館の前まで全速力で来てみたはいいが、ひかりの姿はない。

 もう教室に戻ったのだろうか? 考えてすぐその可能性を打ち消す。僕が電話
をかけたんじゃない。ひかりが電話をかけたんだ。あいつが学校で、誰かいる前
で僕に電話するなんてことはまずない。ということは、今はまわりに誰もいない
状況のはずだ。

 僕はあたりをつけ、図書室前の廊下を早歩きする。女子トイレを軽く覗く。ひ
かりの姿はない。だとすれば、廊下の端までペースを上げ歩く。

 人の気配のない、学園内のエアポケットのような場所。まず昼休みにこの場所
を通る生徒はいないだろう。図書館奥の階段。そこにひかりはいた。

 白い壁によりかかり、左手に閉じられた携帯を持って、目を閉じてうつむきが
ちに。右手の人差し指が右の太ももを小刻みに叩いている。イラついている時の
ひかりの癖だ。着衣の乱れはない。当然だけど一応安心。

 ひかりは僕が来たことに気付いていないようだ。

 近づいて、ひかりの右頬を左手で軽く叩く。

 ひかりは驚いてこっちを見る。

「今朝の仕返し」

「なんでここにいるの?」

「いきなり電話切れるから」

「あぁ、あれは電源切れただけ」

 肩から力が抜ける。

「まぁ、なんにせよ無事でよかったよ」

「無事ってそんな、大げさな」

 そういいながら、ひかりは鼻をすんとする。

無事っちゃ無事なんだろうけど、何にもなかったわけじゃないんだろうなっての
は何となくわかる。

「で、ついにおまえにも初彼氏か」

「はぁ? 大場くんがそんなこといってたの?」

「いや、いってないけど、さっき電話で否定しなかったし」

「大場くんとはアドレス交換しただけ。そんな今まで話したことない人と付き合
うとかありえないから」

「なんだ」

「なんだって何よ。その前に」

 そういって、僕の胸をグーで殴るひかり。地味に痛い。

「なんで私が付き合うかどうかあんたが許可出してんのよ。私が付き合うか付き
合わないかは私が決めんの。わかった?」

 グーをそのままにひかりは体重を僕に預けてくる。僕はそれをただ受け止める
。

「悪かったよ」

 昼休み終了十分前のチャイムが鳴る。

 そろそろ行こうかといおうとするけれど、それより前にひかりが口を開く。

「ねぇ、五分だけ、五分だけこのままでいい?」

 そういって、僕の胸に顔をつける。ワイシャツの下に何も着ていない僕の肌に
、ひかりの体温と涙か鼻水かはわからないけれど水分が伝わる。

 僕はうなずこうとするけれど、この角度からじゃひかりから見えないなと思い
直して、ひかりの後頭部に手を当てて軽くなでる。こうすることが正しいかはわ
からないけれど、今の僕にできることはきっとこれくらいだと思うから。


それにしても大場は何を考えているのだろう。メルアドを聞けば勝ちだくらいに
思っているのだろうか。それほどモテルという噂も聞かないし。それとも何か別
の目的があるのだろうか。もしくは何も考えていないのかも。正直、気にならな
いわけじゃないけど、いちいち話しかけるのも面倒だな。まぁ、隣の席だし、用
があればあっちから話しかけてくるだろう。そのぐらいに考えていたのだが、大
場は昼休み後の五限、六限と爆睡し、帰りのホームルームの挨拶が終わると、ク
ラス一早く帰っていった。そんなに早く帰って何をやっているのだろう。マジで
謎だ。 謎といえば、付き合うわけでもなく、告られて、メルアドだけ教えてっ
て。そういえば、ひかりに詳細を全然聞いていなかった。何がどうなって、どう
いう状況なのだろう。色々とめんどくさいけど、今はとりあえずサッカーだ。本
当にこのために学校来ているようなもんだから。授業とかつまんないし。友達と
話すのは楽しいけど。
 机を下げ、カバンだけ持って窓際に移動する。掃除当番が掃除している中、堂
々と着替える。もちろん、共学だから教室には女子もいる。その点に関しては恥
ずかしいという気持ちより申し訳ないという気持ちが大きい。もう見慣れた光景
だから、別に騒ぐようなこともないし、日常の一部になっている。スルッスルッ
パッパッってな具合で着替えて、ワタルと一緒にサッカー場へむかう。

 サッカー場へ着くと、誰もいなくて、早く来すぎたなって話しになって、ワタ
ルはトイレ行ってきます、頻尿なんすよとかいういらないプチ情報を発して、野
球場横のトイレに行った。俺も行くよとかいうと、連れションみたいで嫌だなっ
て思って、ワタルがトイレ行ってる間、軽く体伸ばしとくかって感じでアキレス
腱伸ばしたりしていたら、ワタルと入れ違いで、ボールカートを押してくるやつ
がいて、学校指定のジャージを着ていて、誰だろうと思って近寄って見るとマネ
ージャーの水城美月だった。女子がボールカート押してるのを黙って見てるって
いうのは、なんか違うなって思って、僕も手伝うことにする。

「おっす、早いな」

 そういって、横から声をかけると、水城はビクッとして

「古賀……ケンシロウ君?」

「そうそう、おまえはもう死んでいる……っておい!」

「サンシロウ?」

「漱石!? 姿!? それともセガ!?」

「サンシ」

「いらっしゃ〜い!」

「サンゴ」

「十五! って何言わせんだよ! 俺の名前は健太郎。クラスも部活も一緒なん
だから覚えようぜ」

 ハードなフリを連発しているにも関わらず、水城の表情はぴくりとも動かなか
った。マジでなに考えてるかわかんねぇ。

 水城の隣から手が伸びてきたと思ったらワタルで、サッカーボールをひとつつ
かんで、グラウンドにバウンドさせて、ヨッヨッヨッってな具合にリフティング
→ドリブル→シュートみたいにして、ひとりで勝手に盛り上がってて、相変わら
ずKYだなぁとか思って、でも僕もワタルを見てたらシュートしたくなってきて
、ボールカートをタッタッタッって運んで、ボール出してドリブル→シュート→
自己満みたいなバカみたいなことをやっていたら、サッカー部のいつものメンバ
ーが集まってきて、ひとつのゴールに十人くらいでしゅーとするとかいうカオス
な状況が発動して、そろそろ真面目に練習すっかってことになって、ランニング
を始めた。

 水城の方に目を走らせると、赤いラインカーを持って、サッカー場に白線を引
いていた。マネージャーは水城しかいなくて、正直、マネージャーが絶対必要と
かそういう状況じゃなくて、そういう中で水城は何を思ってマネージャーをやっ
ているのだろう。




 水城は今年の春にうちの学校に転校してきた。それから、特に仲のいい友達が
できたようにも見えないし、前の学校でもやってたってだけで、こんな男ばっか
なサッカー部のマネージャーになって、ますます女子との間が広がって、これは
男子にも女子にもいえると思うけれど、仲のいい同姓の友達は結構大事だと思う
。まぁ、僕も水城を四六時中観察していたわけじゃないから、もしかしたら僕の
知らないところで親友チックなやつがいたりするかもしれないけれど。

 うちのサッカー部のやつらもいいやつらだし、シャイボーイ軍団ってわけでも
ないから、マネージャーが入ってくるっていって、はじめのうちは水城に積極的
に話しかけたりしていたのだけれど、水城がずっとさっきみたいな調子だから、
最近はあんまり話さなくなってしまっている。よくよく見ると、水城は結構いい
線いってる顔立ちをしていて、もったいないなと思う。あれで、性格が明るかっ
たら、人気が出そうな気がする。おそらく、天然なんだろうけどパーマがかかっ
ていて、それが美容院でかけたみたいないい感じに仕上がっていて、なんかいい
なと思ったりした。

 ランニングとストレッチが終わる頃には、水城のことは頭の中から消え去って
いて、僕の意識はボールに集中していた。パスとかシュートとかそういう基礎的
なことをやって、ミニゲームをやるくだりになると、もう楽しくて、終わった時
には、なんか達成感みたいなものがあって、色々あったけど、今日も楽しかった
なって帰ろうとしたけど、というか家には無事に帰ったんだけど、それからまた
一悶着あった。

 家に帰って、犬の散歩をして帰ってきて、自分の部屋で漫画を読んでいると、
窓が叩かれて、開けてみると、当然ながらひかりで、どうしたと聞くと、大場君
からメールが来てとかいって、僕はなんか変なこといわれたのかなと思って心配
になるけど、そのあとひかりがいったことは、僕の予想を上回ることだった。

「ねぇ、スマイルブラッシュって何?」

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