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ガンダムSEED 【逆襲のカズイ】コミュの機動戦士ガンダムSEED 逆襲のカズイ 16話〜

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第16話 守るべきもの

――ヘリオポリス襲撃事件1ヶ月前。
 ヘリオポリスに創設された工業カレッジの一室――カトウゼミの研究室には二人の男の
姿がある。
 まだ幼さの残る少年が、眺めるようにPCのモニターを見ており、彼の背後に控えるよ
うに立っている中年の男性の男性もまた、それに見入っていた。
カズイ・バスカークと、その部屋の主たるカトウという名の教授である。
「いかがされましたかな?」
 カズイの表情の変化を敏感に察知した教授が、心なしか不安げに問い掛ける。
「これは、アナタの仕事だったはずだが?」
「いえ、それはそうなんですが、納期の問題もあって、その・・・すみません」
 後ろを振り返って一瞥するカズイ。その眼光の鋭さに、すべてが見透かされていると悟
った教授が頭を下げる。
「・・・キラか?」
「・・・はい。そうです。しかし、またどうして?」
 小さなため息を吐きながら、カズイはモニターの一部分を指し示した。
「ほら、所々アレンジが入っているだろう? カトウ教授。アナタの論文は読んでいるが、
このようなパターンの考え方はしていなかったはずだ。そうなると、別の人間がやったと
いうことになる。しかし、この仕事を外部の人間に任せるとは思えない。と、なると残り
は、このゼミの生徒ぐらいだろう。あとは消去法だ。こんな真似ができるのは奴しかいな
い」
「すべて、お見通しという訳ですか。・・・ところで、どこか問題でもございましたか?」
 開き直って苦笑する教授に、半ば呆れた表情で、
「いいや。むしろ良くなっている。問題点もいくつか改善されているし・・・正直な所、
脱帽だ。オレにはここまでできないよ。全く、知っていたつもりだったんだがな・・・」
 カズイもまた、苦笑を交えて答えた。
「プライドが傷つけられましたかな? だが、彼はコーディネーターだ。仕方が無いこと
だと思われますが・・・」
「かもしれん。だが、それを言い分けにするのは・・・な」
「彼は特別ですよ。私も、ここまで優秀なコーディネーターは見たことが無い」
「オレもそう思う。だが、世界は広いんだ。キラ以上のコーディネーターも山ほどいるか
も知れない。そう考えると、ちょっとやってられないな」
「それはないでしょう。少なくとも、今の技術では。そうですね。私の知る限りで、彼を
超える才能を持っていると考えられるのは、暗殺されたヒビキ博士が研究していたという
『最高のコーディネーター』ぐらいじゃないでしょうか」
「――スーパーコーディネーターか」
 数々の犠牲と途方も無い資金を浪費した果てに生み出された究極のコーディネーター。
その存在は原理主義者のブルーコスモスから最大の標的にされてしまい、生まれて間もな
く死亡したとされている。
「確か、うちも出資していたな?」
「ええ。データも残っているはずですよ。ただ、成功率があまりにも低すぎるらしいです
ね。その上、コーディネーターは出生率低下問題が解決していない。あまり実用的でない
と判断されたのではないですか?」
「違うな。親父は怖かったんだろう。あれの頭はブルーコスモス寄りだしな。外の問題が
あるから、その技術自体は押さえておきたかっただけだ。だから、一応は出資者の立場を
とった。そして、成功したらデータは取り上げて、被験体は排除する。反吐がでるな」
 不快さをあらわにしながら、カズイは強い調子で吐き捨てた。
 一族の所業、自らの運命を受け入れた上で、それを否定したくなるのは、若さゆえ、未
だの潔癖な部分が大きく残っているのであろう。
 そんな彼の様子に、教授は肩をすくめながら、これ以上この話題に触れることを止めて、
少しばかり話しを逸らす。
「それ程までに、彼を評価されているのであれば、連れて行ったらどうですか?」
「アレはオレの仕事だ。それに奴も一般人である以上、守られるべき人間だ。こんなこと
に巻き込むつもりは無い」
 心底くだらないと思ったカズイは、教授からモニターに視線を戻した。教授はまたもや、
肩をすくめて見せたが、すぐに、その表情を硬くする。彼にとっての本題はここからであ
るからだ。
「それと、ザフトの件ですが、本当によろしいのですか?」
 確認するように教授は問う。彼自身、覆るとは思っていない。しかし、ずっと手塩をか
けてきた物である。簡単に手放したくはない。
「気持ちは解らんでもないがな。でも、しかたないだろう。MSの運用はあっちの方が上
なんだ。とにかく今は時間が無い。少しでも有用なデータを取るには、あっちにまわした
方がいいんだ」
「しかし・・・何も5機全部を渡さなくたって・・・」
「変わりにアストレイへの出資は増やす。フィードバックしたデータも、ちゃんと回す。
それで納得してくれ」
 嘆息しながら、申し訳なさそうな表情をするカズイに、彼もまた納得せざるを得なかっ
た。
――彼等の思惑通りに、ヘリオポリスは襲撃されMSは強奪された。ただ、それは彼等の
予定よりも早く、また、一人の少年が一機のMSに乗り込むという誤算があったが・・・。

 他の人間から告げられたのであれば、信じることもなかったかもしれない。だが、それ
は彼にとって一番大切な人物から発せられたものである。
工業カレッジ時代の友人たちと過ごした日々が、脳裏を駆けた。そして、そのうちの一
人が今回の事件の中心にいると言う。困惑と動揺が入り混じり、また、それが信じられな
いという想い。心がかき乱されて何も考えられなかった。
「キラ、何か知っているなら、話してもらいたいな。今は少しでも情報が必要なんだ」
 ただならぬ様子のキラに、無情であると感じつつ、バルトフェルドは問わざるを得なか
った。
 いつもであれば、キラが落ち着くまで時間を取ったことだろう。しかし、今は時間が惜
しい。限られた時間の中で、手元に集められる情報は、可能な限り集める必要がある。
「いや、だって、彼は・・・普通の学生で・・・戦うだなんて・・・」
「主観的なことはいい。客観的なことだけ述べろ!」
 歯切れの悪いキラに、バルトフェルドは冷淡に言い放った。無駄な感情の入った報告な
ど意味がないことを、歴戦の軍人たるバルトフェルドは良く知っている。キラもそれを理
解したのだろう。幾分、冷静さを取り戻したキラは、淡々と事実のみを語りだした。
「ヘリオポリスで通っていた工業カレッジで、同じゼミに所属してました。それで、僕と
一緒に、MSの強奪事件に巻き込まれてからは、一緒にアークエンジェルに乗って・・・
オーブで別れて、その後の行方は・・・知りません」
 学生時代から終戦までを、走馬灯のようにキラは思い出していた。
 まだ、何も知らなかったあの頃。中立を謳うオーブでは、戦争は別の世界に出来事に
過ぎなかった。学生として生活は、それなりに楽しいと思っていた。
 運命の悪戯からストライクに乗り込んでからは、ただ戦場を駆け抜けた。幾ばくかの
出会いがあり、友と戦い、また、死んでいった。
揺れ動く情勢の中で、何と戦わなければならなかったのか。そう、自問しながらも、
自分の選択は間違っていなかったという自負もある。
そして、やっと掴みとった平和の中で、かつて仲間達と過ごしていた日々が、どれだけ
大事なことだったかは痛感していた。もちろん、その思い出の中には彼もいる。
「キラ。あなたはヘリオポリスでカトウ教授が何をしていたかは、ご存知ですか?」
「えっ!? それは・・・」
 もちろんキラは知っていた。自分も幾つか手伝っていたし、彼が行っていた仕事から、
一つの出会いが生まれている。
 ――カガリ・ユラ・アスハ。自分の分身たる双子の片割れ。
 彼女が何をしにヘリオポリスにやってきたのか。何故、自分の師たるカトウ教授を訪ね
てきたのか。
「ストライクを始めとするXナンバーの開発・・・まさか!?」
 答えにたどり着いたことを理解したラクスは、ゆっくりと頷いた。
「オーブ側ではエリカ・シモンズ氏経由で確認はとっております。ザフト経由の情報でも
間違いありません。それに、彼程の人物がそこにいたという事実が全てを物語っています」
「そん・・・な・・・ことって・・・」
 目を見開いて絶句するキラ。しかし、そんな彼とは違い、沈黙を保っていたアスランが、
彼女の言葉の重要性に気が付く。
「どういうことだ、ラクス? ザフト側っていうのは?」
「あの強奪事件は、彼・・・というよりも、ロゴスからリークされた情報を元に実行され
ています。いくらMS開発をしていたといっても、オーブは中立国です。確固たる情報が
なければ、あのように強引な手法をとらなかったのではありませんか?」
「それは・・・」
 確かにそうであろう。今度はアスランが絶句する番だった。戦争をコントロールしてい
たというロゴスの存在の巨大さを、改めて実感する。まるで、全てが彼等の掌の上にある
のではないのかという衝動に陥った。
 そんな彼等のやり取りをよそに、キラはこの時、初めて気が付いた。自分がカズイの
ことを何も知らないということを。
 思えば、彼はどこか自分・・・否、全ての人間に対して、どこか一線を置いているよう
に見えた。特に、アークエンジェルに乗ってからは、それが顕著に現れていたような気す
らする。
(君はいったい・・・)
「――ラ・・・キラ!」
「は、はい」
 怒気を孕んだバルトフェルドの声に、キラは顔を上げると、周りの視線が自分に集中
している。それを見て、何度も自分の名が呼ばれていたことに気が付いた。
「大丈夫なのか?」
「えっ!? はい。大丈夫です」
「そうじゃない」
 首を横に振るバルトフェルド。キラには彼の言葉が意図していることが解らない。
「戦えるのか? と聞いているんだ。このままだとオーブ・・・いや、世界はどうなるか
解らない。それで、敵の頭はお前の友達なんだろう? どうなんだ?」
(僕が・・・戦う? カズイ・・・と?)
 過去にはアスランと戦った。彼はザフトの兵士として立ちはだかり、自分はストライク
を動かせる唯一の力を持ったものとして・・・。
「だけど、あの船には・・・守りたい人たちが・・・友達がいるんだ!」
 戦場で相対したアスランの誘いに、キラは、そう答えた。
 ――そう。少なくとも、自分にとって守るべき存在だったはずなのだ。彼等・・・
そして彼は。
 そんな彼が、今度は自分が守るべきものに対しての脅威として立ちはだかっている。
(信じられない。信じたくは無い。けど・・・)
「彼が・・・。カズイがオーブを・・・世界をまた戦乱に導こうとしているならば、止め
なければなりません。もう、あんなことを繰り返しちゃいけないんだ! たとえ、他の国
が彼等の存在を認めようとも、こんなやりかたが許されるはずが無い」
 覚悟はあるはずだった。たとえ、相手が誰であろうとも。自分はあの時、そう決めたの
だから・・・。

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第17話 回答

 ヤキン・ドゥーエの司令室に矢継ぎ早に入る各国の回答。その一つ一つをアビーが読み上げるのを、カズイは腕を組みながら聞いていた。
「全て、予定通り、予想通りと言ったところか・・・」
 今回の作戦の主な目的は三つ。敵対分子のいぶり出しと、それの排除。そして、自らの力を世界に示すことである。
 末端であるとはいえ、デュランダルの策謀により、その存在が大衆に露呈、殲滅された為、ロゴスの権威は失墜したと言っても過言ではない。ロゴス、ひいてはバスカークという名の神通力も、かなり弱体化してしまっているとカズイは感じた。
現に、ユーラシア、アフリカといった真っ先にコンタクトを取ってきた大国は随分と足元をうかがってきた。
かの国等が、オーブ、プラント主導の連合軍からの離反、造反に対して求めてきた代価――軍事技術のフィードバックから新体制での主導権争い等、は野心に溢れていた。
表向きは友好的に接触してきても、混乱するであろう戦後の覇権争いを視野に入れているのは間違いない。油断をすれば簡単に寝首を掻かれることであろう。
もっとも、それは今までも変わらなかったことなのではあるのだろうが。
 
カズイが地球を発った後、全ての予定が狂いだした。ロゴスのスケジュールには、当時の戦争は、妥当なところで停戦されると記載されていたのである。
しかし、カズイを始めとするロゴスの主戦力が外に出てしまった為、抑止力が無くなってしまった。戦争という盤上で動いていた駒が勝手に動き出したのである。
その後の戦争は、ロゴスの目的から人の本質へと様相を呈した。
プラントでは、暴走を始めたパトリック・ザラをクライン派の議員は抑えきれず、連合でも、ロゴスの名を借りたブルーコスモスのムルタ・アズラエルの独走を許してしまう。
互いに憎しみ、いがみ合い、お互いを違う種として戦っていたのは、その指導者達だけではないだろう。
その戦いが終結しても、僅かな時を得て、再び悲しみは始まってしまう。
ロゴスの手段とブルーコスモスの思想を利用したジブリール。自らの思想を具現化しようとしたデュランダル。
憎悪、欲望、思想・・・その全てが悪であった訳ではないだろう。各々の主義や主張、祖国の発展や人の未来を憂いた結果だったのかもしれない。しかし、真のロゴスの手を離れた戦争は、様々な思惑が入り混じった中で、ただ、ひたすらに破壊の爪あとを残していった。
甚大な被害が広がる中で、保身に走るのは仕方のないことかもしれない。この期に乗じて野心が生まれるのはしかたのないことかもしれない。だが、ここ数年、途方も無い代償を払って、彼等は何も学ばなかったのであろうか?
(どうせなら・・・オレという脅威に対し、一つにまとまってみせて欲しかったがな)
ふと湧き出した感情に、カズイは自嘲的に笑みを零した。
カズイにそのつもりが無くとも、今までと同じように、バスカークが世界に影響を与えるようになれば、歴史は繰り返すと予想するはずなのである。
再び、計算され尽くした戦争と、それで生み出された金がロゴスという名の組織に流れる世に戻ってしまう。しかし、ここで討ってしまえば、その危険性は消えてしまうはずなのだ。それなのに・・・結局、彼等は自らのことしか考えていない。
(いっそ、全ての国を滅ぼしてしまおうか・・・)
そんな衝動にすら駆られてしまう。不可能ではないだろう。しかし、それ自体に意味は殆どないし、何よりも、弊害が大きすぎる。結局の所、裏の世界で暗躍する方が、何かと都合がいいのだ。
(こんな奴等を守る価値なんてあったのか?)
 幾度も繰り返した自問を、カズイは今一度投げかけた。

「本当によろしかったのですか?」
 傍らに控えていたアーサーが厳しい顔で報告を聞いていたカズイに問う。彼が確認したかったのは、助力を申し出た国々の言葉を、全て断ってしまったことについてである。
「いらんよ。あんな奴等がいなくても勝てる。仮に全てが敵に回っても、負けるつもりはなかったしな。お前だって、そこまで考えて、あんな物まで用意させたんだろう?」
「まあ。それはそうなんですがね」
カズイは顎でモニターに映し出されているジェネシスを指し示すと、アーサーは、ため息を漏らしつつ、肩をすくめた。
確かに、その可能性を考えなくもなかった。だから、あんなものを用意したのである。
しかし、恫喝にはなったであろうが、ジェネシスなど無くっても結果は同じだったろう。
(総帥は舐められたと思ったようだけど・・・必死なんだよな。彼等も何とか生き残ろうとね)
この数年間、戦の中心にあったのはオーブ・・・いや、そこ存在する力である。驚異的な力を持った自由と正義という名の2機のMS。浮沈艦とも称されるアークエンジェルと、圧倒的なカリスマを持つラクス・クラインのエターナル。彼等は自らを、ことごとく勝利に導かれてきた。
 そして、その力は、今再び、この場に集結している。
莫大な戦力差をものともせず、戦況を引っくり返し続けた彼らがまた、簡単に敗北を記するとは、他の国々も思えないはずなのである。
(それなのに、こっちに手を貸そうっていうのは・・・やっぱり、この名は怖いか。)
 それでも彼等の天秤は、一瞬でこちらに傾いた。その選択に様々な危険を孕んだなかで幾ばくかの要求が入るのは、仕方の無いこと。政治とは、そういうものである。
(総帥も若いからな。勘にさわっても仕方ないか)
 その思いは、アーサーは胸のうちで留めたままにする。政治上の問題は自分の管轄であるし、今はそれでいいと思う。やがては身につくものなのだ。
「あんな奴等が役に立つと思うのか?」
「いいえ。思いませんね」
 自分の嘘をアーサーは自覚していた。いくらでも、利用する方法は思いつく。壁として、囮として、捨て駒として。だが、カズイがそれを認めないのも解っている。だから、そ知らぬ顔で即答した。
「なら聞くな」
「はい。すいません」
 苦笑交じりに謝るアーサーに、カズイは一瞥するだけで視線を戻す。
 自分用のモニターに各国の回答が羅列されている。結局、表立って敵対しようとする国はないようであった。
 ――未だ回答を示さない二国以外は・・・
「では、次のフェイズに移行しますか?」
 モニターを覗き込むアーサーに、カズイはゆっくりと頷いた。
 彼等がなびく可能性は極めて低い。それは、カズイもアーサーも同じ考えである。ならば、時間を無駄にせずに、次に移ったほうがいい。
「よし。全艦隊発進命令を出せ! あちらと合流する。発進と同時に再度の通達を送信!準備急げよ!」
 カズイの命を受けたアビーの音声が、ヤキン・ドゥーエ内に響き渡った。
第18話 決断

 オーブ軍の旗艦であるアークエンジェルに戻ったキラは、ひとり自室で自国の首長から、
方針を決定する為の連絡を受けていた。
「首長会はもうメチャクチャだ。もう、何が何だが・・・」
 通信モニター越しのカガリ・ユラ・アスハは、右手で頭を掻き毟っている。
――尚、降伏を受け入れない場合、貴国を炎に包む準備がある。
 二度目の通告が、オーブとプラントの両国に届いたのは二時間前。すぐさまオーブでは緊急集会が行われたが、そんな短時間では意見が纏まるはずもなかった。
「それで、どうするの?」
 今更ながらに、政治上のことでは殆ど彼女の役に立てないという辛さを感じつつ、キラは姉に問う。
「避難勧告はもう出した」
先に威嚇で放たれたジェネシスのことは、オーブの上層部は皆知っているだろう。その上で出された避難勧告の意味を察し、
「いいの? それで・・・」
 キラは神妙な面持ちで確認する。
「さすがに反対は多かったがな・・・責任は私が取る。」
 正直な所、キラには不安があった。自国を守る為に連合との条約を締結したように、ユウナ・ロマ・セイランとの結婚を決めたように・・・最終的に首長達の意見に流されるようなことにならないかと。それに、何よりもオーブのことを第一に考えているのが彼女である。再び母国を戦火に包むような決定を簡単に出来るはずもない。降伏という選択肢を選ぶ可能性も少なくなかったはずなのだ。
「どうした、意外か?」
「いや、そんなことはないけど・・・」
「オーブが一番大事なのは変わらない。けど、世界があってのオーブなんだ。その世界があんな奴等の言いなりになってまともになるとは思わない。違うか?」
 彼女の顔に迷いはなかった。自分の力不足にただ泣いていた、あの頃とは違う顔である。
そんな彼女を見つめながら、キラは小さく頷いた。
「だからキラ、全力で阻止に向かってくれ」
「うん、大丈夫。オーブは・・・世界は僕たちが守ってみせる」
「 “貴国”ってことは、次はオレ達ってことなんだろうな」
「ふん! そんなことは関係ない! ここで殲滅すれば同じことだ!」
アスランの言葉を直接訊きたかったイザークとディアッカがミネルバに入った時、彼は既にモニターに対して怒鳴りつけるようにしていた。その会話の内容から、敵の要求を呑むつもりが無いことに安堵したイザーク達は、そのまま通信が終わるのを待っていた。
 そんな様子をアスランは耳だけで把握しながら、ヴェサリウス時代から変わらない調子のディアッカとイザークに内心で苦笑を漏らしていた。しかし、目だけは通信モニターに映し出された議員のしかめっ面から動かさない。
「本当によろしいのですな? 万一の時は責任問題になりますぞ!」
 本国から連絡用の高速艇を飛ばしてきた議員の様子は鬼気迫るものだった。何を言っても理解してもらえないと思いつつ、彼の立場を考えて議論を続けていたが、もう時間的にも精神的にも限界だった。
「解ってますよ・・・では、作戦準備で忙しいので」
「ぎ、議長!」
 視線を合図にメイリンが一方的に通信を切断した。そして、モニターが消えたのを確認したアスランが大きく吐息を漏らすと、イザーク達が隣に歩み寄ってくる。
「いいのかよ? 責任問題らしいぜ?」
 シートに座っている自分の肩を叩くディアッカに、
「どんなことでも、その可能性はあるもんだ。特に、こっちの世界はな」
 首を捻って見上げたアスランは、苦笑交じりに愚痴をこぼした。
「まあ、そうなんだろうけどさ。・・・それにしても、大変ですねぇ? ザラ議長閣下」
「なんなら変わろうか?」
「いいえ。ご遠慮させていただきます」
 軽口を叩きながら、小さく吹き出す二人をイザークが睨みつける。重苦しくなったアスランの気持ちを考えてのやり取りなのは理解しているが、そんなことをしている場合でないという感情の方が強い。
「それで、どうするんだ?」
「まずは、ジェネシスを破壊する」
 詰問するようなイザークに、議長の顔に戻ったアスランが静かに決定を伝える。
「ヤキンはどうする?」
「各国の決定を見る限り、敵対を表明するのはオーブとオレ達だけだ。だったら、アレをオーブ意外に落とすことはないだろう。オーブに落とすにしても、侵入角の問題もある。
それならば、ジェネシスを落とした後でも間に合うはずだ」
「なるほどな・・・。よし、ディアッカ! ボルテールに戻るぞ!」
 忙しく動き回ろうとするイザークに肩をすくめながら、ディアッカはアスランに手で別れを告げて、イザークの背に続く。
「アスラン。先陣は切らせてもらえるな?」
 扉の前で足を止め、イザークは背を向けたまま首だけ振り返った。
「ああ。頼む」
 アスランの言葉に満足げな笑みを一瞬だけ浮かべると、イザークはディアッカと共に扉の向こうへ消えていった。
 オーブ・プラント連合軍の壁を、彼等に気付かれないように大きく迂回するコースを取りながら、目に見えぬ船団が移動していた。
 その旗艦たるガーティ・ルー二番艦のMSデッキに、カズイ・バスカークの姿がある。
闇色のパイロットスーツに身を包み愛機の整備ログに目を通していた彼は、腹心から先ほど入ったという返答を伝えられていた。
「まあ、こうなるでしょうね」
 本来の居場所ではない所にまで下りてきたアーサーは、簡単な数式を解くかのように、こともなげに言い放つ。
 オーブとプラントは、やはり抗戦を表明してきた。最初からこの二国が黙って屈服するとは、この艦の乗員は誰も思っていないだろう。
「だろうな。アレも無駄にならずに済んだというわけか」
 見上げるカズイの視線の先にあるものは、MA状態に変形しているセイバーではなく、その後部に接続されている巨大なブースターユニットである。
「行かれますか?」
「ああ。シン達だけでは荷が重いだろう。今すぐに奴等が動いても、アレがあれば何とか割り込める。お前達は作戦どおりに裏を衝け。それぐらいの時間は稼いでやる」
「こっちの見せ場も取っておいて欲しいのですがね」
「その約束はできないな」
 挑発するように意地悪く頬を緩ませるカズイに、アーサーもまた小さく笑みを零した。
 ひょっとするとその可能性もあるとアーサーは思う。敵の象徴たるフリーダムや旗艦であるアークエンジェルを落としさえすれば、この戦いは終わったも同然であるからだ。
もっとも、敵の頭がおめおめと先陣を切ってくるとは思えないが・・・。
 それに対して、こちらはカズイが前線に立たなければならないというのが、アーサーには歯がゆかった。
 指揮官である以上に、パイロットとしての技量が惜しかった。ひとつひとつを客観的に駒として見れば、彼以上に優秀なものは手元にはない。シンには策を与えてはいるが、それだけでは万全とは言えない以上、カズイが出るのやむを得ないことだった。
(まあ、総帥が落ちるわけがないんだけどさ)
 いつもは理論的に物事を進めようとする彼ではありえない、崇拝にも似た想いで自分自身を納得させる。
「ヤキンの方は予定通りでよろしいですか?」
「ああ。仕置きは必要だろう? 後は任せる」
「オペレーターがそんな顔をしていたら、安心して出撃できんだろうが・・・」
 セイバーのコクピット、そのモニターに浮かび上がる小さなウインドウに向かってカズイは嘆息した。
「すみません。総帥・・・どうか、ご無事で・・・」
「安心しろ。やることが残っている以上、オレは死なん」
 今にも泣き出しそうなアビーの顔と声に笑って応えるカズイ。そして、仕事を続けろという意味を込めて小さく頷く。
「進路クリア。オールグリーン・・・セイバー発進どうぞ!」
 大きく高揚する気持ちを抑えるかのように、カズイは軽く目を閉じて小さく息を飲み込んだ。
 それが先に見据える未来の為か、旧友との再開を待ちわびてのものかは解らない。ただ、何かに決着がつくのは確かなことだと感じていた。
(止められるものならば、止めて見せろ・・・世界はオレが導く!)
吐き出した息と共に開かれた瞳に映るのは無数に光り瞬く星の海。
「カズイ・バスカーク、セイバー出る!」
 艦を離れて程なくすると、ブースターに火が入った。尋常でない加速を始めたセイバーは、長く続く光の帯を残して闇に消えていった。
第19話 宣戦

 セイバーの引く光の帯が消えていくのを、アーサーはジッと見つめていた。
(総帥、どうかご無事で)
 そう胸中で呟くとアーサーはブリッジを見渡した。そこにいるクルーは全て同じような目をしている。恐らくは、みんな自分と同じ思いなのだろう。
「それじゃあ、仕事をしないとな」
 そんな思いを忘ようとするかのように、アーサーは自分用のモニターに宙域図を呼び出した。
 総帥たるカズイが出撃した今、指揮系統の全てはアーサーに委任されている。そして、艦隊の指揮以外で残された大きな仕事の1つが、ヤキン・ドゥーエの処理ある。
(戦いはここで終わりじゃない。だからこそ敵の戦力は徹底的に裂く)
絶対的な指揮官と歴戦のパイロット達、最先端を行く技術力――どれをとっても敵を凌駕している。しかし、数だけはその限りではなかった。外への監視が必要な以上、木星圏の部隊は動かせない。その為、今ここにいる部隊は全体の3分の1にも満たなかった。
 それだけの戦力でも、正面を切って戦っても負けはしない。そんな確信めいた思いもある。ただし、それではこちらの損害も莫大なものになってしまうだろう。
敵には最大限の損害を与え、味方の被害は最小限に抑える。その為の策を労するのが参謀たる自分の役目である。
(さあ、どう出る? アスラン!)
 アーサーの口元が僅かににやける。
「ヤキンに信号を送れ! そして敵軍に宣戦布告! 末尾には総帥の言葉通り――」

「――健闘を祈る? ふざけるな!」
 ミネルバのブリッジにアスランの怒号が響き渡った。普段は温厚な彼の激昂ぶりに、その場の人間は目を丸くする。
 馬鹿にされている、そうアスランは感じていた。陽動にひっかかった挙句、オーブにジェネシスを突きつけられている状況で、敵である自分達に投げかけられた言葉は人を見下しているとしか思えなかった。
 唇を噛みながらアスランは激しく不快の表情を露わにしていた。しかし、ふと周りの視線に気がついて慌てて微笑を浮かべて見せる。
「すまん。何でもない」
(全く、オレって奴は・・・)
 自分が感情に流されては兵の士気に関わる恐れがある。一国の議長、一国の指揮官である以上、もっと冷静でならねばと反省した。
 しかし、そんな思いも長くは続かない。
「議長! ヤキン・ドゥーエが動き出しました!」
 メイリンの報告に、アスランの感情は再び大きく揺り動かされ始める。
「どういうことだ!?」
「宣戦布告とほぼ同時刻に移動を開始しました! それも、もの凄いスピードで・・・ただ・・・」
「ただ?」
「元来たコースを戻っています」
 それが意味するところを理解できず、眉をしかめたアスランが腕を組んで自問し始めると、メイリンはそれを補助するようにヤキン・ドゥーエの情報をスクリーンに投影させた。
 進路は地球とは逆方向。移動してきたコースをトレースするように動いている。ただし、速度は今までの3倍以上。これまでゆっくり動いていた為、そのギャップからアスランには数字以上に速く感じられた。
(これは・・・どういう・・・)
 せっかくここまで運んだヤキン・ドゥーエが戻る意味・・・地球に落とさなくとも要塞としての価値は非常に大きい。それもこの速度で後退する・・・。確実に何かの意図があるはずである。
 そうして思考を巡らせながら、スクリーンを凝視していると、
「アスランさん。もしかして、これ・・・」
 駆け寄ったメイリンが耳打ちして、アスランの手元のモニターに文章を表示させた。

――――尚、降伏を受け入れない場合、貴国を炎に包む準備がある。
「・・・そういうことか!」
 苦虫を噛み潰したような顔でアスランはうめいた。そして、先ほどの通告の真の意味を理解する。
 このコースを辿って行けば、ヤキン・ドゥーエは元いた宙域に戻るであろう。そして、さらにその先にあるものは・・・。
「やっぱり、そう思いますか?」
「ああ。間違いないだろう。奴等の狙いは・・・・・・アプリリウスだ」
 彼女にだけ聞こえるように、アスランは囁くように声を出した。
 プラント首都アプリリウス。最高評議会の置かれたプラントの中枢とも呼べるコロニーである。ここが崩壊すれば、プラントの国家としての機能の大部分が麻痺し、その被害は国全体に大きな影響を与えてしまう。自分達にとって最も落とされてはならないコロニーの一つなのだ。
(どうする・・・?)
 再びアスランは自問する。
 このまま放置する訳には行かないのは解っている。問題なのは、どの程度の戦力があれば止められるかということだ。
 いくら速度が速いと言っても、艦の方が足は速い。プラントのコロニー郡に入るまでには余裕で間に合うし、全軍を持ってすれば止められなくはないはずだ。ただし、その場合・・・。
(・・・オーブは滅びる)
 戦力差以上に時間の問題がある。キラがいれば多少の戦力差は引っくり返せるだろうが、それでもジェネシスの発射を止める程の早さで敵を撃退できるとは思えない。
 ヤキンが停止した位置と速度から解析した結果、どちらかを止めてからから間に合わないギリギリのポイントで動き出してしまっているのだ。
(それが狙いか・・・!)
 執拗に繰り返される戦力の分断。戦力に自信がない為だとは思わなかったが、それにしても敵の策は周到すぎる。そして、それに乗ってばかりでは、こちらの戦力も削がれるばかりなのだ。
 しかし、それが解っていてもプラントの議長として、一人のコーディネーターとして、ヤキンを放置することができようもない。
「もぬけの殻・・・なんてことはないですよね?」
「いや、その可能性はある」
 おずおずと意見を述べるメイリンにアスランは小さく頷いた。その可能性が最も高いと思っていたし、それこそが彼が最も危惧していることである。それでも・・・
「動かすしかないか・・・」
 思うように動かされているという悔しさから、奥歯を強くかみ締めた。
 仮にオーブを見捨ててヤキンを止めたとしても、滅んだオーブに対する責任の所在はプラントに押し付けられるだろう。かつてのユニウスセブンのように。
 まして、地球の国家の殆どは敵の味方と大差はない状況である。スケープゴートにされるのは避けられない事実であろう。
「ヤキン破砕の別働隊を編成する! 持ってきた破砕用の武装はそっちに回せ! それと周辺の廃棄コロニーに回した部隊もヤキンに当たらせろ!」
「・・・いいんですか? 廃棄コロニーの部隊まで動かしても?」
「多分、そっちは大丈夫だ。奴等の目標はオレ達とオーブだけだけだからな」
 オーブにコロニー落としをかけるよりも、ジェネシスを発射した方が手っ取り早いのは明白だ。自分ならジェネシスを陽動に使ってまでコロニーを落とそうとは思わない。それに、仮に陽動であったとしても、コロニーの座標の再確認は終わっているのだ。少しでも動いたら次の手を打つ準備は出来ている。その目標がプラントであったとしても、変わらず対処できるはず。
「本隊は今すぐに進軍を開始! 何としてもジェネシスの発射を阻止する!」

「なるほどね・・・やるじゃないか」
 偵察機からの通信を受けたアーサーの声には感嘆の色が混じった。
 思ったよりも動いた敵艦は少ない。ヤキン・ドゥーエを潰すのに必要な数には絶対的に足りないだろうが、それが解らぬアスランではないはずだ。
 本国防衛用の部隊を動かすか、それとも廃棄コロニーの監視に回した部隊を使うのか・・・。
自分なら後者だろう。本国防衛用の部隊を動かすのは危険すぎる。
「やれやれ。でも、まあいいか」
 少し悔しい気もするが、本来の目的は達成されたのである。予想よりは少ないものの、ザフトは艦を裂かざるを得なかったのだから。
(結局、こっちの掌の上にいることには変わりはない。詰むまでは時間の問題なのさ)
 大きく高笑いしたい感情を腹の奥で抑えるアーサーだったが、その思いはしっかりと表情に表れていた。
第20話 それぞれの立ち位置

 当初展開した艦隊の数は半分近くに減ってしまった。しかし、それでも50隻を優に超える艦艇が整然と隊列を成して進んでいる姿は、現存しているどの子国家にとっても脅威であろう。そして、その先頭を行くのはボルテール――イザーク・ジュールが指揮を執る艦である。
「議長、最後にお願いがあります」
 約束どおり第一陣としての出撃命令を受けたイザークの面持ちが神妙なものに変わった。
その眼差しの先にある巨大なスクリーンには、かつての友、そして今の主君が佇んでいる。
「なんだ?」
 ミネルバのブリッジでアスランは眉をひそめた。スクリーン越しのイザークは、今までの彼が見せたことがない顔だったからである。今のように、上下関係をわきまえて会話を交わさねばならない時には多少硬い表情を作ることがあったものの、それとはどこか違うものがある。
「出来る限り議長には後方で指揮に専念していただきたい」
 自分の身を案じての申し出なのだろうか。そんなことを考えながら、彼の後ろで直立していたディアッカに視線を向けると、バツが悪そうに視線を落とした。
(独断ではなく、二人の総意ということか)
 しかし、アスランにそれを受け入れられるつもりはなかった。オーブ、そしてプラントが危機に瀕しているというのに後ろでのうのうとしている訳にはいかない。
「この作戦は絶対に成功させなければならない。オレも前線に出る」
「私達が信用できないと?」
「そうは言ってない・・・だが!」
「だったら、後ろで待機していてください。絶対にオレ達が沈めて見せます。ジェネシスも、セイバーも!」
「しかし!」
「お願いします!」
 あまりの迫力に、アスランは言葉を詰まらせた。そして、イザークの真意を推し量るかのようにスクリーン越しの瞳を覗き込む。
 クルーゼ隊の時のように、功を焦っている様子も見受けられなければ、ストライクに敗れた時のように、セイバーに対する復讐心に凝り固まっているようでもない。
「本来ならば、あなたはここまで出てきちゃいけない人です。もう、ザフトの兵士ではないんですよ?」
一分近く続いた沈黙を打ち破ったのはディアッカだった。先ほどとは違い、彼もイザークと同じように、何かを内に秘めているような顔になっていた。
「それは・・・そうかもしれないが・・・」
 否定をできるはずもない。一国の議長が進んで戦場に立つことなど、本来であれば絶対に避けるべきことである。しかし、アスランは自分がこの場所で役に立てるのを知っている。例え立場が変わっても、自分の能力が変わるはずもないのだから。
「あなたが優秀なMSのパイロットであることは、プラントの全国民が知っています。しかし、あなたの戦場はここじゃない」
「オレがいるべきなのは政治の世界だということは解っている。だが、しかし!」
「アナタはプラントの希望なんです。これから先、プラントを引っ張っていくのは、議長、アナタなんだ。こんな所で危険を冒すべきじゃないし、オレ達はアナタがそうしなくていいように戦い続けるつもりだった。本当は、戦場に出てきて欲しくもなかったんだ。だけど、もしもというときもある」
 ディアッカがそこまで言うと、イザークも一緒に悔しそうに顔を歪めた。
「・・・敵は強大だ。こんなことは言いたくないが、オレ達だけでは勝てないかもしれない。しかし、絶対に負けられない戦いです。だから・・・」
「後方で待機していろ・・・と?」
「そういうことです。アナタとジャスティスはもしもの時・・・オレ達だけでは、どうしようも無くなった時の為の切り札です。そして、切り札なんてものは、出来る限り使わない方がいい」
「・・・だが」
「ああああああ! グダグダ言ってないでお前は黙って後ろにいればいいんだ! 絶対にオレ達がなんとかしてやる! それでいいだろ!」
 なかなか承知しないアスランに、イザークが怒鳴り声を上げつつ割って入った。
「ダメだと思ったら出て来い! そんなことにはならないだろうがな!」
「おい・・・ちょっ・・・イザーク!」
 場所と立場を忘れた言葉使いにディアッカは焦った。当のイザークは苛立ちを露わに、そっぽを向いてしまう。
 少々驚いたアスランは、そんな二人を眺めるように一瞥すると、俯いて苦笑を漏らした。二人の気持ちが嬉しかった。身を案じてくれているのはもとより、プラントの行く末に自分が真に必要だと考えてくれていることが。
(だが・・・アイツ等は・・・)
 新しい機体を任せたとはいえ、ディアッカの言うように敵の力は強大だ。一筋縄で勝てる相手ではないことを、アスランも身をもって知っている。
「解った。だが、戦況が少しでも怪しくなったら、オレは出るぞ」
 これが最大限の妥協だった。そうならなければ良いと願いつつも、そうなることは無いだろうという予感がある。それに、
「――やはり貴様の相手はアイツに任せることにするよ」
 セイバーのパイロットの言葉が耳から離れない。間違いなく、シン・アスカは現れるだろう。再び、その銃口を自分に向ける為に。
(絶対に説得しなくちゃならない。それがダメならせめてオレの手で・・・)
 説得には失敗するかもしれない。前のようにコクピットを避けて撃墜できるとは限らない。場合によっては命を奪ってしまう可能性もある。だが、いずれにせよ、それは自らの手で行うべきだとアスランは思いを固めていた。

「解りました。オレもそれで納得することにします。しかし、そんなことにはなりませんよ」
 アスランにも譲れないものがあることを、雰囲気から察したイザークは、小さく吐息を漏らしつつ渋々納得することにした。
「イザーク・ジュール、ソード・インパルス、出るぞ!」
「ディアッカ・エルスマン、ブラスト・インパルス、行くぜ!」
 赤と白、緑と白のコントラストが映える二機がボルテールから飛び立った。
 それを合図にするように、他の艦からも次々に、ザクとグフが飛び立っていく。
 その光景に目を奪われながら、アスランはジッとしていなければならないことに、違和感を覚えざるを得なかった。
 ザフトに入隊してからというものの、常に自分は最前線で戦ってきたのだ。確かに進んで戦いたいとは思わない。だが、この状況で大人しくしている方が彼にとっては辛かった。

「それじゃあ、キラ。エターナルに移ってもらおうか」
「ちょっと待ってくださいよ! ムゥさん! いったい何で!」
アーク・エンジェルのブリッジから引きずられるように出されたキラは、そのままMSデッキのフリーダムの前まで連れて来られていた。
「何でも何も、アーク・エンジェルは最前線で戦うからだろうが・・・」
「解ってますよ! でも、だからって僕がエターナルに移る理由にはならないでしょう?」
「あのなぁ、今やお前さんはオーブの大将なんだ。そんなものが前線に出張ったら、部下のオレ達が安心して戦えないだろう? 後ろでふんぞり返っていればいいんだよ」
「そうよ、キラ君。あなたの仕事はオーブ軍全体の指揮を執ることなの。カガリさんにだって、そう言われたはずよ?」
 諭すように言うムゥとマリューにキラは尚もごねる。
「・・・それは・・・そうかもしれませんが、でも!」
「でも、じゃない! だいたい戦争において味方の大将が落とされるってことは、負けにも等しいことなんだ。そんなことが解らないお前じゃないだろう?」
「何も戦うなとはいってないの。ただ、アナタには別の仕事があるでしょう?」
(別の仕事・・・)
繰り返される二人の言葉に、キラは自らの立場を再確認する。
 今回、キラはオーブ軍の最高司令官として戦場における全権を委任されていた。その仕事の内容といえば軍の指揮に他ならず、一パイロットとは比較にならないほど仕事が山積している。
 その上、敵軍にいいように翻弄されてザフトの艦隊は戦力を落としている。これ以上連合軍が敵の策にはまり続けるということは、敗北を意味しているといっても過言ではない。
そんな状況になるのを避けるためにも、指揮官が戦局を見渡して的確に指示を出しつづける必要がある。だが・・・
(解ってはいるんだ・・・)
 理屈で解っていても、感情がついていかなかった。自分が出撃すれば死人は減る。それは、味方も敵も同じこ。憎しみや悲しみを増やさないように出来るのならば・・・いや、
少しでもそうする為には、自分が出撃する必要があるはずなのだ。
 それに加えて先ほどから心に引っかかって離れないものが一つ。
(カズイが出てくるかもしれない)
 ラクスの話を聞く限り、分かり合うことは出来ないのかもしれない。そうは思っても、直接会って話がしたかった。そうすれば、こんな馬鹿げたことは止めてくれるかもしれない。そんな願望にも似た思いもあった。

「いざというときは、エターナルの方が何かと都合がいいと思うの。ミーティアだってあそこにあるしね。それに、あの艦はオーブとプラントの両国にとって象徴のような存在になっているわ。絶対に落としてはならないのよ。だから、アナタが守ってあげなさい」
「それに足が速い。何かの時に迅速に対応できるのは、間違いなくエターナルだ。伏兵で
も潜ませられた時には、戦場が混乱しちまうからな。そうなった時にはエターナルの速度
とフリーダムのような強い力を持った機体が役に立つ」
彼等の言うことにも一理ある。感情に支配されて少し冷静さを欠いているのかもしれな
い。少なくとも、全体を見渡すことを忘れていたのは事実であろう。そう思ったキラは諦めるように首を縦に振った。
「大事なのはこの戦いに勝つことですよね」
 そうしなければオーブは守れない。プラントと天秤にかけながら苦汁の決断を下したアスランの想いも無駄になる。自分の感情よりも勝利を優先するのであれば、きっとその方が良いだろう。
「解りました。前線はお任せします」
 そういい残すとキラは、フリーダムを発進させた。その姿を見送ったマリューは、
「これで良かったのよね?」
 視線はそのままに呟くように訊く。
「ああ。これからのオーブを支えるのはキラと嬢ちゃんだ。なるべく危険な目には会わせたくない。それに、何となく入れ込んでいるようにも見えたしな・・・」
 エターナルでの会談の内容と、敵軍の戦闘データは二人にも伝えられていた。敵のトップが旧友であるならば、それも仕方の無いことだとも二人も思う。しかし、
「ちょっと、信じられないわよね」
 言葉の意味を察したマリューが怪訝な表情でムゥを見上げる。
「まあ、な。でも、人は多かれ少なかれ仮面を付けている。あの小僧がそんな大層な奴だ
とはとても考えられないが・・・事実は事実だ。受け入れるしかない」
 そうは言っては見たものの、ムゥも半信半疑であった。アーク・エンジェルにいたあの少年が、映像で見たセイバーのパイロットだと言われても、釈然とするはずもなかった。
 しかし、それはどうでもいいことだと思う。敵であり、自らの脅威となるのであれば戦わなければならないことを軍人であるムゥは重々承知していた。
「さて、と・・・」
 ムゥは黄金色に輝く機体を一瞥すると、
「オレも出るわ」
「大丈夫よ・・・ね?」
「オレは不可能を可能にする男だ。それはよく知ってるだろ?」
「そうね。よく知ってるわ」
 微笑むマリューだったが、その笑みは力なく、どこか儚げだった。
「大丈夫。オレは生きて帰ってくるさ。今も、そしてこれからも」
 ムゥはマリューの瞳を見つめながら、そっと肩を抱き寄せた。そして、静かに唇を奪う。
「じゃあ、いってくるよ」
「ええ。いってらっしゃい」
「ムゥ・ラ・フラガ、アカツキ、出る!」
 アーク・エンジェルから射出されたアカツキに追従するように、ムラサメの小隊が次々
にクサナギ級から発進した。
 その一部に着いてくるように命令を出したムゥは、艦隊の先頭に向かって最大戦速で加速させる。
 ザフトの艦隊を追い抜いて、目的の位置にたどり着いた時、他の量産期とは明らかに違う二機がムゥの目に飛び込んできた。
(アレは・・・インパルス?)
 ネオ・ロアノークであった頃の記憶がフラッシュバックする。幾度も戦って果てに結局は落とせなかった一機。
 アウルを殺し、ステラを救おうとした少年の真っ直ぐな赤い瞳が甦る。戦争という世界の中で、彼と交わした約束を守れる訳もなかった。そして、守るつもりがあったとも言えない。しかし、その約束を破った果てに、ステラを殺してしまったことへの罪悪感だけは
今もしっかりと残っている。
(もう、あんなことは繰り返させない・・・)
 改めて自らの戦う理由を確かめながら、改めて決意を固めていると、不意に懐かしい声がコクピットに響いた。
「おっさんか?」
「誰がおっさ・・・て、お前、ディアッカか!」
 オーブとザフトが共同戦線を張っている以上、再会は予期していたものである。それでも、かつて共に戦った戦友との再会に、二人の顔は自然にほころんだ。
「・・・あっちには?」
「ああ。ソードにはイザークが乗ってる」
「アイツか。しかし、ザフトはインパルスを量産してたのか?」
「いいや、これは有事の為にアスランが用意していた機体だ。二機しかない。どうにもプラントは財政難でねぇ」
 ディアッカ大きくため息を吐いて肩をすくめた。戦争続きで大変なのはムゥも知っている。
議長となった少年の苦労が目に浮かび、その胸中で同情した。
「なるほどね。ザフトもそれなりに準備をしていたってことか。・・・で、そのアスランは?」
「プラントの議長様を前線に立たせられる訳ないだろ? そっちこそキラはどうしたんだ
よ?」
 ディアッカの答えにムゥは苦笑した。どうやら、考えることはどちらも一緒らしい。
「同じ理由だ。今のアイツはオーブ艦隊の司令官殿だからな」
「なんだ、そういうことか」
「できればキラを出さずに済ませたい。それはお前達も同じじゃないのか?」
 真顔に戻って問うムゥに、ディアッカの瞳も真剣なものになる。
「まあね。だったら、オレ達だけで終わらせてやろうぜ!」
 膨大な数にに膨れ上がったMSの軍勢を引き連れて、二機のインパルスとアカツキはジェネシスに向かって進んでいった。

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