カール・ポパーコミュの「批判的合理主義」を考える

他者との意見交換を得て、より深かく思索するためのトピックです。

現在、次の課題についてご教示頂けたら幸いです。

　突然失礼します。研究者が主宰のコミュに相談し正確な回答を望むので、宜しければカール・ライムント・ポパー氏の哲学においては、どの様に回答すべきかご教示下さい。

下記の文献の引用に対し①②③の質問にどの様に回答することが「批判的合理主義」に則った回答と言えるのでしょうか？

①そのポパーの提案自体は帰納法なのか演繹法なのか？

②それから、ヒュームからカントの持ち出す自然の斉一性は、倫理のような判断にも適用されるのでしょうか？

③「あらゆる人生は、問題解決のプロセスである」としていますが、単に犯罪や権力争いで負けたりして、不具者にされたとして、それも通常の人と同様の問題解決のプロセス扱いなのでしょうか？

『よき
　リーダーは
　　　哲学に学ぶ』
　ロンドン・ビジネススクール
　A・レイノルズ/D・ホウルダー
　J・ゴダード/D・ルイス
　訳:石井ひろみ
　株式会社CCCメディアハウス
　2020年8月7日　初版発行

　より引用
　　
　「ポパーの「科学的発見の論理」

◎帰納法を捨てる
　ポパーは、帰納法、つまり一般法則を個々の事実から導き出す推論のプロセスは「迷信」だと主張した。16世紀にフランシス・ベーコンが科学の手法を体系化しようと試みて以来、自然科学は帰納法の科学とみなされてきた。その考えのもとでは、科学における発見はデータを整理した結果であり、客観的な観察を繰り返してデータを収集・分類することが理論や原理の形成や正当化(根拠づけ)につながっていた。
　もちろん、こうした手法はいまも社会科学の領域に横行しており、多変量統計分析は長く定番的な研究手法となっている。また同様の傾向は、今日のビジネスでの「ビッグデータ」や「アナリスティクス」の流行にもうかがえる。
　だが、帰納することなどは実際不可能だ。普遍的な理論は、特定の事実(単称言明)から推理できるものではないからだ。有名なたとえを用いるなら、「すべての白鳥は白い」という理論を証明することは、どれだけ多くの白鳥を観察しても不可能である。黒い白鳥が一羽見つかっただけで誤りとなってしまうからだ。
　一方、反論するには、たったひとつ事例があればいい。科学の発展は、帰納的な検証を通してではなく、演繹的な仮定とその反証を通して行われてきた。言い換えれば、科学では証明よりも反証が重視される傾向がある。

◎批判的合理主義の提唱
　ポパーは、演繹的ーーー彼が「批判的合理主義」と呼んだ、試行錯誤のプロセスーーーを支持し、帰納法を切り捨てた。

「あらゆる人生は、問題解決のプロセスである」(カール・ポパー)

　科学的思考は、共同での問題解決以外の何物でもない。過去の科学者たちから継承した大量の理論が前提としてあることもその証拠だ。このとき、ある人が自分自身の問題を解決するために考案した理論は、あくまでも推定上の概念であり、その人がつくりだしたでたらめな推論にすぎない可能性もある。ポパーはこの点を指摘する際、「私たちの知性は、法則を自然から導き出すのではない。自然に課すのである」というカントの言葉を引用している。
　すなわち、自分の理論を自然や事象などの対象から導き出すのではなく直接構築しようとして、想像の世界、つまり現実世界の事象説明するための概念体系を演繹法でつくり出すのだ。こうして私たちが知識とみなすものは、反証されないかぎり完全なる仮定上の存在として生き残る。ポパーは、こうした理論を「存在する現実をつかまえようとして投げかける網」のようなものだと説明している。

◎「誤りをおかす危険性」をみとめる
　ポパーは、人間が合理的な行動をとるためには自からの信念に忠実でなくてはならないという一般通念を疑問視している。彼は、信念はけっして合理的ではないとし、合理的であるためには、むしろ自分の信念に懐疑的であり続ける必要があると主張した。
　合理性は、人間の「誤りをおかす可能性」と密接な関係がある。自らの信念体系のもろさを自覚することで、人は合理的になれる。要するに、合理的になることは批判的なることでもある。自分の批判能力を総動員して、重要な問題を解決するカギと自称するものと対峙するのだ。合理的であるためには現在主流の科学や科学界の動向にも留意すべきだが、それらに振り回されてはならない。」