ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

新選組の鉄ちゃん(市村鉄之助)コミュの大河ドラマを観ていて書きたくなりまして……

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
「としちゃんとはじめちゃん」とタイトルをつけたものなんですが。
大河ドラマのあのふたり、あの声を思い浮かべて読んで下さい。
くれぐれも怒らないで下さいね。
ほんの冗談です……いいわけでした。

04/9/9

ちょっとした一幕

 市中見回りから帰ってきた斎藤一が、怪訝な顔をしてしきりに首をひねっている。土方歳三はなんの気なしに声をかけた。
「ご苦労さん。どうした、奇妙な顔をして。なにかあったのか」
「いや、このごろよく会う娘がいるんだが」
「娘?」
「そうなんだ。いつごろからかは忘れたが、俺が見回りに出るとよく出くわす。私用で出かけるときにもたまに顔を見る」
「ふむ、それで?」
「その娘が近頃ひどく赤い顔をしているんだ。熱でもあるんだろうか」
「……それはなにか。おまえの顔を見ると赤くなるのか」
「そうかもしれない」
「綺麗な娘か」
「そんなところまでは見てないからわからん」
 赤い顔をしてるのは見てるんじゃねえか。顔立ちは見ていないとは、この男はどういう目をしているのだと、土方は呆れた。
「で、それがどういう意味なのかわからんのか」
「意味? 娘の顔が赤い意味か。だから、熱でもあるのかと」
「もういい、好きにしろ」
「なにか別の意味があるのか。土方さんにはわかるのか」
「もういいって」
 なんだかわからないがむかむかするので、土方は縁側で寝そべっていた若い隊士の腕枕を蹴飛ばした。わっ、と叫んで隊士が飛び起きる。
「副長! 副長のご面前で居眠りなどしまして……まことに、あの、まことに……ご無礼を……」
「いいさ。疲れてるんだろ。寝てろ」
「は、はあ」
 歩み去っていく土方の背後に、飛び起きた隊士と斎藤の会話が聞こえた。
「土方さん、なんか変だな」
「そうですかぁ。どうかされたんでしょうか」
「さあ」
 変なのはおまえのほうじゃないか、勝手にしろ、と土方はひとり毒づいたのであった。


04/9/17 

恋の道

 おまえは恋をしたことがないのか、と土方は斎藤に尋ねた。ないなあ、が返事だった。
「知れば迷い、知らねば迷わぬ恋の道というが……」
「それは誰の言葉だ。聞いたことがない」
「いや、俺だがな」
「土方さん?」
「いいんだよ、どうでも。にしたってよ、おまえって野郎は鈍感至極だ。相手の娘が気の毒になってくる」
「相手の娘なんてものはいないから大丈夫だ。俺からすれば土方さんの相手の娘のほうが気の毒だと思うがね」
「なんでだよ」
「おのれの胸に聞いてみればいい」
 ううっ、と土方は返答に詰まった。こほこほ咳をしてから、斎藤が見ている男に目を向けた。
「恋に迷うとああなる、のかな」
 視線の先をたどっていってみると、ほっそりと少年じみた姿がある。斎藤よりも年長なのだが、改めて考えてみてはじめて、ああ、そうだったか、忘れてた、となる彼は沖田総司。のほほんとした顔で若い隊士たちと冗談を言い合って笑っている。
「彼は恋をしているのか」
「いないのか」
「俺にはそうは思えん。八木家の娘はあきらかに彼に惚れてるようだが、沖田がなにをどう考えているのかはわからない。彼は謎だ。女以上に謎だ」
「おまえ……」
 ふたりの視線がからまり合う。
「実は案外……」
「案外、なんだろうか」
「いや、いいよ」
「土方さんはこの間からそればかりだ。言いたいことがあるならはっきり言ってくれ」
「いや」
 言いたいことがあるような気もするのだが、考えがまとまらないのでどうしようもない。斎藤は案外恋の道を知っているのかもしれない、と考えてみたり、まさか、あり得ない、と打ち消してみたりする土方だった。
「言いたいのはだな、今の俺たちには恋どころじゃねぇってことさ。そうだろ」
「その通りだ」
「わかればいい。しっかり励んでくれ」
「そのつもりだが」
 あんたはいったいなにが言いたいんだ、と見上げる斎藤に曖昧な微笑を投げかけてから、土方は沖田のほうへと近づいていった。

                         
04/9/21

 そして……

 不純な動機なのは重々承知しているが、好奇心に勝てなくなって、土方は斎藤の率いる彼の部下たちとともに町に出た。あれだ、とそちらは見ずにしゃくった斎藤の顎の先には、頬をぽっと染めた美しい娘がいた。
「……もったいねえ」
「なにが?」
「おまえ、本気でなんとも思っていないのか。あの娘になんの気もないのか」
「気もなにも、知らない娘じゃないか」
「これから知り合うんだよ。最初は誰だって知らない同士だ」
「ふむ」
「いいんだな」
「だから、なにが」
 泰然自若の斎藤と、こういうときにはどうしても気もそぞろになってしまう土方と、土方が斎藤よりも十も年上だなどとは、信じない者が大勢いそうに思える。近藤勇にこんなところを見られたら、おまえはいい年していつまでそんななんだ、みっともない、と叱りつけられるであろうが、こればっかりは男の性だ、しようがねえんだよ、と土方は心でいいわけした。
「先に行ってろ」
「土方さん?」
「いいから行ってろ。俺はちと野暮用ができた」
 ため息ひとつ残して、斎藤が隊士たちを連れて行ってしまうと、土方は娘に近づいた。娘が一歩後退する。
「あ、あの……」
 怖気づいたのか顔色をなくしている娘を、土方はためつすがめつした。若いころはこんなことばっかりやってたっけな。久しぶりにこうして若い娘に近づいて声をかけようとしている。京の町では玄人の女だけを相手にしていたから、こんな行為は新鮮だった。
「あんな鈍感野郎はほっときな」
「あの……ええと……」
「あいつは斎藤一というんだが、知ってたか」
「はい、あの、お名前だけは」
「そうか。斎藤は仕事が忙しい。恋をしてる暇もないんだそうだ」
「……そうどすか。そんならうち……すんまへん。お仕事の邪魔になるんどすな。わかりました。もうこんなことはしまへん」
「俺だったらいいんだけどな」
「え?」
「ちょっと歩かないか。俺は暇なんだ」
「……けっこうどす」
「まあそう言わずに」
「あの、いったいどういう意味どすんやろか」
「あんたもなかなか鈍感だな。あんな奴のことは俺が忘れさせてやろうと言ってるんだよ」
「そんなん、けっこうどす。忘れんでもええんやもん。邪魔にならへんかったらええんどすやろ。二度とあの方に顔は見せんといて、胸のうちで想うてるだけにします。うちはそれだけでええんどす」
「うー……ん、そうなのか」
「おなごはそういうもんどす。ほんなら」
 腕が鈍ってきやがったかな、土方は苦笑した。素人娘にいきなりああ出るのはまずかったかもしれない。ま、いいか。ふられたのも久しぶりで新鮮だ。土方は娘が小走りで去っていったほうを見つめてから、早足で斎藤たちのあとを追った。
「おまえの邪魔は二度としないんだそうだ」
 やがて追いついた斎藤に、土方は言った。隊士たちにまでは斎藤と土方のさきほどの内緒話は聞こえていなかっただろう。やや離れて歩いていたのが好都合だった。
「土方さんはあの娘を追い払いにいったのか」
「そうだ。よけいなお世話だったか」
「べつだん邪魔になるわけでもないが、俺はどっちでもいい」
「まったく、つめたい男だね」
「そうかもしれない」
 うなずいておいて、斎藤は皮肉な笑みを見せた。皮肉と感じるのは、あるいは土方だけだったかもしれないが。
「あんたは意外に暇人なんだな」
「俺はおまえのために……いいよ。なんとでも言え」
 実はなにもかも察してやがるんじゃないのか、こいつ、と斎藤の顔を凝視してみたが、その澄まし顔からはなにひとつ読み取れなかった。

                     おしまい



コメント(5)

待ってました!清涼感たっぷりの短編ですねぇ。
謎の多い齊藤一の恋がらみの話、新鮮でした。
僕は剣道を多少たしなむのですが、イメージだけで言うと、撃剣術の憧れは齊藤さんです。近藤の剛、沖田の華、永倉の技。
斉藤さんの場合、そういう形容が出来ない、無の剣ってイメージが強く(だから謎なんだろうけど)、生き方も、ストイックで、無我の境地だったのではないかと勝手に想像しているのです。それだけに、この短編の斉藤さんのイメージはいかにもふさわしく、それでいて多少ユーモラスで・・・大変楽しめました!
こたさん、ハトリさん、ご感想ありがとうございます。
いろいろ書いていただけるととっても励みになります。
これからもご愛読よろしく、です。
こたさんって剣道をなさってたんですか。
私が新選組を書く場合、もっとも苦手なのが「剣」なのですね。よくわからないものですから。
今度、ご教示くださいませ。

私の日記にもちょっとだけ新選組と関りのある小説を載せました。
よろしかったら覗いて下さいね。
ご教示なんて、お恥ずかしい。

何となくカッコいいなぁ、なんて不順な動機(小学生時代ですけど)ではじめたものですから、士道や精神鍛錬なんてものとは無縁なんです。ただ、性格的に合っていたのか決して嫌にはならなかった武道でした。

司馬遼太郎先生の作品は、殺陣の描写が大変ダイナミックで、確かに経験者じゃなければ書けないなといった部分は多々ありましたね。でも反面、女性作家の書かれている新選組のような、女性のきめ細やかさ(というか女性視点)には、やや偏りがあったような気がします。

思うのですが、三谷さんの「新選組!」のように、剣技より人間の義を描く事も、新選組には必要なのかも知れませんよ。彼らが本当に強い剣士だったことは誰でも知っています。でも彼らの人間性については、本当に一部の人しか知らないわけですから。

これからも、もっと人間の魅力あふれる新選組、書き続けてください!
司馬先生は女性を描くのが下手、って定評がありますねぇ。わ、生意気言ってますね。
私は北原亜以子さんの描く歳さんが大好きです。
ああいう感じに書けたらいいだろうなぁ、って思ってます。
もともと龍馬の妻、おりょうさんが好きでそこから新選組にたどりついたのです、私は。
おりょうさんから見た龍馬が素晴らしく魅力的で、私もそんなふうに、彼に恋する女の視点で歳さんを書いてみたりしたいなぁ、といいますか。
鉄ちゃんの恋物語みたいなのも書いたことはあるんですが、とにかく古いのはすべてワープロ原稿でして、PCとは互換性がないので、日の目を見せてやれません。

でも、やっぱり時代小説を書いてて「剣」が全然なのは困りものですので、この次そんな場面を書くときには、こたさん、ぜひ教えて下さいね。期待してます。
なんかとりとめのない文章ですみません。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

新選組の鉄ちゃん(市村鉄之助) 更新情報

新選組の鉄ちゃん(市村鉄之助)のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。