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Pの『THE つだん部屋』コミュの【1035】死んでる

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【コピペ】



俺は、今年の春、大学に通うために地方から上京してきた。
田舎から持ってきた、兄貴から餞別代りに貰ったパソコン、そして、念願の一人暮らし。
両親からの仕送りはないが、時給の良いバイトと奨学金で、何とか食い扶持には困らない生活をしている。


唯一の楽しみといえば、家に帰ってパソコンに向かい、インターネットに繋ぐことだ。
メッセンジャーを立ち上げれば、ネットで知り合った友達やら、普段から顔をあわせるような友達の名前が並ぶ。
そして、くだらない話しやら重い話やらを、したりされたりして、夜をすごす。
それだけが、俺の楽しみだった。


ある時、夏の蒸し暑い夜、アパートの俺の部屋のチャイムが鳴った。

「誰だ?誰だこんな時間に…」

俺は、文句を言いながらドアを開ける。
夏休みに入ってから、すぐに、バイト先の店長から、長い休みを貰った。
ちょうど、某巨大掲示板を見ながら、メッセンジャーで最近知り合った子から相談を受けていた所だった。

「よぉ、梅本」

笑いながら、コンビニの袋と、なにやら香ばしい匂いのする物が入った袋を手に提げた、大学の同級生の堀川が立っていた。

「なんだ、堀川か…なんだよ、こんな時間に」

「いや、お前の部屋エアコンついてんだろ。俺の部屋のは、今修理中なんよね。焼き鳥買ってきたぞ」

そういって、勝手に上がってくる。

堀川はいわゆる「見える人」だ。


思えば、大学の最初の合宿でも怖い思いをさせられた。
出会い頭に「後ろでおばあちゃんが心配してるから、パチスロはやめろよ」なんていわれたら、溜まったもんじゃない。
根っからのおばあちゃんっ子の俺は、すぐにパチスロをやめた。
ばあちゃんは、高校のときに他界している。

「マサ、ばあちゃんはまぁちゃんをずっと見でっからな。いでぇどごあったら、いづでもばあちゃんが治してやんがよ。その代わり、かまっけぇしすんなや、悪いごどすねぇっこ」

それがばあちゃんの口癖だった。
共働きの両親の代わりにに、じいちゃんとばあちゃんが俺を育てたようなものだ。
ちなみに、じいちゃんはまだ生きている。
近所でも有名なハッスルじいちゃんだ。今も現役で、海に船を出しているし。
つい一週間ほど前も、わざわざ東北の片田舎から一人で孫である俺の所に遊びに来て行ったところだ。


「いやー、快適快適!」

そういって、ソファに座って堀川はビールを口の中に流し込んでいる。

「お前も飲めよ!お前の好きな恵比寿ビールも在るぞっ!」

そういって、テーブルに何本もビールを並べる。

「ありがとよ」

「お前、さっきからなんでパソコン弄ってんだ?」

「んー、ちょうどこの子から相談受けてる時に、お前が来たんだよ」

「ついでに2ちゃんかよ」

「悪いか?」

どうやら、俺が見ている掲示板に目が行ったらしい。


「なぁ、梅本、知ってるか?」

俺の肩越しに、ディスプレイを覗き込んでいた堀川が、急に改まった声になった。

「ん?何をだ?」

「偶にな、こういう掲示板とかにも…その…ほら、死んじまった奴が書き込んでるんだ」

「なっ…怖い事言うなよっ!」

思わず俺は振り返って、堀川の顔を見た。
嘘は言っていない。

「ほら、こいつと、こいつ…あと、こいつも」

幾つかの書き込みを指差す。
何の変哲もない、書き込みだ。
俺が見ていたのは、オカルト系の掲示板だった。

「何も変わんない書き込みじゃねぇか」

「いや…お前がそう思うなら、俺は何も言わないよ」

そういって、堀川はまたソファに座って二本目のビールを開けた。


「その話してる女の子だって、ホントは死んでる」


三十分後、次に堀川が口を開いた時出たのは、厭な言葉だった。

「お前、暇だからってそんなこと言ってんだろっ!」

「いや?それは違うぞ?」

堀川は言う。

「ただ、お前が心配になったから、来てみたんだよ。本当は」

「え?」

「別にヤバい意味なんて無いけどよ。ただ、お前バイトとか行く以外は完全引きこもりらしいじゃん」

「あー、あんまりな。東京に来て、最初は物珍しくて結構出歩いてたけどな。今じゃぁ、ネットのほうが楽しいしなぁ」

「そうか…」

ため息をついて、堀川は煙草に火を点ける。

「堀川の実家って、長崎だっけ」

「あぁ…そうだ。あそこも結構色々居る」

「…なにがだよ」

「なぁ、梅本」

「ん?」

「お前は、自分が死んだらどうする?」

「んー、どうだろうなぁ」

俺は、画面を見たまま答える。

いや、敢えて堀川の表情は見ようとは思えなかった。
ディスプレイの、左下に表示されている小さなメッセンジャーの窓では、夕方からずっと、女の子と、苛めと受験について語っていた。

『あたしさ、苛められたんだ』

とあるチャットで、知り合った女の子。

知り合ってもう、長い。
何故か今日はいつもと違う雰囲気で、真面目な相談をしてきているから、俺も彼女に真面目に答えていた。
しかし、さっきの堀川の発言が、脳裏をよぎる。


「その話してる女の子だって、ホントは死んでる…」


まさか…


背筋を、嫌な汗が流れる。
と、ずっとつけっぱなしだったテレビではニュースが始まっていた。

「今日の夕方、N県T市の自宅で、高校二年生の飯田香奈子さんが、自宅付近の空き地で、焼身自殺をしているところを発見され、病院に運ばれましたが、まもなく息を引き取りました。部屋に残っていた、家族や友人らに宛てた遺書ともう一通の遺書が残っており、『苛められている、大学受験の勉強にも疲れた』と書き残されています。N県警は、捜査を急いでいます」

ハーフらしい女性ニュースキャスターが、記事を読み上げる。
画面では、その子の家の庭や、空き地、通っていた学校が写っている。


まさか…

堀川の言っていた事が的中したのか…?
嫌な感触を拭えぬまま、視線をディスプレイに戻す。

『でもね、もう楽になったの』

『もう、何も考えなくていいけれど…何処にもいけない、どうしたらいい?』

話している女の子は、そんなことを言い出した。

「なぁ…堀川?」

「ん、どうした梅本」

「死んでからキーボード打ってるってどういう気持ちだろうな」

「…さぁな」

俺の質問には答えずに、堀川はタバコに火をつける。

『あたしどうしたらいいかなぁ』

ディスプレイの向こうの少女は独り言のように、メッセンジャーの画面にそう描く。

『なんか、後ろのほうに知らない人がたくさんいるんだけど?』

そう言ってると、堀川に告げると、俺を押しのけて、キーボードを略奪し、

「その人たちについて行きなさい、そしたらきっと何処かにいけるから」

堀川がそう書き込むと、女の子…香奈子さんは『うん、わかった』と、返事をした。
それからすぐに、オフラインになった事を示す音が、静まり返った部屋の中に響いた。


「さぁ、もう寝るべ。明日はちょっと忙しくなりそうだ」

キーボードを置いて、伸びをするとソファに寝転がった。

「おい、風邪引くぞ?エアコンも聞いてることだし…」

「んじゃ、タオルケット借りるぞ。お前も寝ろよ」

クローゼットの中からタオルケットと枕を取り出して、堀川はまたソファに横になった。

「電気消すぞ」

人の家の電気を勝手に消すな…と、言いたいのはこの際置いておこう。






「本当に、申し訳ありません。うちの息子が…」

朝、親父の声で目が覚めた。なんで親父が?

ベッドから起き上がる、ワンルームのため起き上がってすぐに玄関が見える。

玄関では、両親と祖父、それに兄貴が立っていた。それに、堀川も。

「いえ、マサオ君には、仲良くしてもらってましたから、それに…こんな事になってしまって…申し訳ございません」

堀川は、神妙な面持ちで、俺の家族と話していた。

「おい!堀川!何があったんだよ!それに親父!お袋!なにやってんだよ!」

俺の声を無視して、家族たちは靴を脱いで上がってきた。

「あの子は、あの日、最後にこの部屋で何を思っていたのでしょうねぇ」

お袋は、部屋のカーテンをそっと開けて、フックを外し始めた。

「お袋!母さん!なんか言ってくれよ!」

「堀川さんがいてくれて、息子は本当に嬉しかったと思います」

親父も、何故か持ってきた大きなダンボールに、荷物を詰め始める。


「何が起こってるんだよ!!」


「梅本、おまえ…言いにくいんだが…」

心の中に、梅本の声がした。

「何だよ!!何があったんだよ!!俺の部屋だぞ!!」

「お前…もう、二日前に死んでる。事故で」




死んでる…?
二日前に…?




ふと、俺の目の前が真っ暗になった。
脳裏を掠めていく、やけに荒い画像のスライドショー。
歩道を歩く俺と堀川。そうだ、映画を見に行ったんだ。
頭上が暗くなる。
堀川めがけて落ちてくる鉄骨。
俺が堀川を押し退ける。
俺の上に落ちてくる鉄骨。




鉄骨の下から、一本の手。広がる血の海…


そうだ…
そうだった…


「まぁちゃーん、まぁちゃーん」

遠くで、ばあちゃんの声が俺を呼んでいる。
振り向くと、ばあちゃんが俺を迎えに来ていた…






「死んでからキーボード打ってるってどういう気持ちだろうな」




普通と、変わらなかったよ。
気づいてなかったんだから…。

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