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Pの『THE つだん部屋』コミュの【1015】新聞配達

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【コピペ】



森の中に丘があり、その頂上には小さな神社があった。

神社につながる石段を下りると狭い舗装道路があり、その横の竹薮の中には新旧の墓石が入り混じった墓所がある。不思議な事に誰が置いていったのか廃棄していったのか解らないが、家庭用の可愛らしい滑り台とブランコがポツンと墓所の広場に置いてあった。

僕は早朝の新聞配達をやっているので、どうしても、この薄気味の悪い神社前を通らなければならない。

そんなある日、自転車で通りかかる僕を見ている者がいる事に気づいた。滑り台とブランコの前にじっと立ってちょっと悲しげな表情をしていた。それは小さな男の子だった。可笑しな話だけれど不思議に恐怖は感じなかった。
とに角、僕にはこんな小さな子をほっぽりだして素通りするなんて事は出来なかったんだ。

それからと言うものは、毎日この神社前に来ると、この子と15分程遊んであげる様になった。後方の丘には神社がそびえ、その上には満月が輝いており星がきらめいていた。時折、森がざわざわと鳴いた。そんな所で僕達は遊んだ。


きいきいきい…と、男の子はブランコに乗る。滑り台に登り滑って行く…。


そんな時、この子の手に僕の手が触れた。冷たい感触が走った。ここで手を離したら可哀相だ。僕はその手を優しく握ってみた。男の子は嬉しそうに真っ白な顔で微笑んだ。

それじゃ、お兄さんはもう行くよ。残りの新聞を配りに行かなくちゃならないからね。




もちろん僕には、この子の正体は解っている。




それから十日程過ぎたある日。僕がいつもの様に神社前を通りかかると、滑り台とブランコのある広場で青白く輝く三つのオーラを発見した。
この時は流石に墓所の周辺を取り囲む雑木林に隠れた。じっと目を凝らして雑木林の影から見つめていると、三つのオーラの内一つは小さくて、あの男の子である事が解った。男の子は滑り台で遊んでいる。残りの二つのオーラはその子により添う様に立っている。

この道を通らないと残りの新聞が配れない。今日はあの子と遊んであげる必要は無さそうだ。自転車で足早に通りすぎよう。

僕が自転車に乗り組む時、あの男の子が僕を見つけた。右手で此方を指差しているのが解る。その時、寄り添う二つのオーラの内面がはっきりと見えた。
一人は女性だ。髪の長い綺麗な人だ。多分、あの男の子の母親なのだろう。
もう一人、男の子の手を握っているのは父親だと思う。がっしりとしているが優しそうな人だ。

二人も、いや、両親も僕の事を見つけた様だ。しばらく僕等は見つめ合っていたが、両親はゆっくりと僕にお辞儀をした。僕もつられるようにお辞儀ををした。男の子が僕の方に駆け寄りそうになる。父親の手が男の子の両肩に触れ制止しようとする。男の子は駄々をこねているのかな?可愛い小さな手で父親の胸をポカポカと叩いている。困惑している、お父さんに代わってお母さんがしゃがみ込み、男の子を自分の方に向けた。何か説得しているみたいだ。駄目みたいだな…。僕が行くしかなさそうだ、僕は歩き出していた。
男の子は両手を両目に当て大きな口を開けて泣き出してしまっていた。その時、両親が同時に僕の方を見て、びっくりした様な顔をして小さく両手を振った。

あっそうでした。今、男の子の所に行ったら僕の所に付いて来ちゃうもんな。

泣き止まない男の子をお母さんが優しく抱いた。ほっぺたを引っ付けて優しく優しく抱いた。二人はわずかに揺れあっていた。

その時、不思議な事が起こった。霧の様なものが、彼等の足元からモヤモヤと発生して来た。オーラに輝く親子はやがて膝近くまで霧状のものに包まれて行った。これが…エクト・プラズム?

どうした事だろう。親子が浮遊して霧の上を漂っていく。ある墓石の方角に霧と共に漂って行く。その時、再度、父親が威儀を正してお辞儀をした。母親も僕の方を見て男の子を抱きしめながら、お辞儀をした。男の子はべそをかきながら右手がバイバイと揺れている。

そうか、終わりなんだな。お別れなんだな。さようなら…優しい両親が迎えに来てくれて良かったね。君は両親と共に眠りに付くべきだ。僕ももう一度、お辞儀をして右手でゆっくりとバイバイをした。

やがて親子は墓石の前で停止し、巨大なオーラに包まれ同化した。光球体には既に実体は無く、急激に一本の直線になって霧と共に墓石に吸収されて行った。

全ては幻想的でこれが現実とは思えなかった。僕が気づいた時、滑り台とブランコも消えていた。

僕は彼等が消えていった墓石の前に行ってみた。斎藤家と刻まれていた。そうか斉藤さん一家だったのか。僕はあの男の子に出会い、ただ遊んでいただけではない。この墓所で小さい男の子が最近、埋葬されていないかという事を調べていた。


斉藤さん一家。彼等は一年前、不幸な交通事故で亡くなっている。


交通事故…僕と同じだ。実は僕の身体も青白く輝いているんだ。
僕は歩道の脇に自転車を止め新聞を配っていた。ちょっと強い風のある日だった。そこに…お酒を飲んでいたんだろうな、そんな車が蛇行運転で突っ込んで来た。僕は自転車ごと巻き込まれた。
気が付いた時、僕の身体は空中に浮遊していた。下を覗き込んだ時、運転手は潰された物体を見て両手を頭に付け、狂ったように何事かを絶叫していた。
だけど、そんな事はどうでも良かった。
僕の配る新聞を皆が待っている。僕は新聞を配らなきゃならないんだ。風に飛ばされる新聞を手で受け止めようとするんだけれど、みんな僕の手をすり抜けてしまう。身体で受け止め様とするんだけれど、身体をすり抜けてしまうんだ!



僕にはまだ、此方の世界に未練があるのかな?僕にも解らない。



だけど、一生懸命新聞を配っていれば、やがてあの親子の様に安らかな眠りに付く事が出来るような気がする。



新聞を配らなきゃいけない、皆が待っている。


さぁ新聞を配ろう。



新聞を配ろう…。

コメント(1)

これは…。穏やかなことです。感動もの。

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