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Pの『THE つだん部屋』コミュの呪いの業

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【コピペ】



チクチクする。
明美はまた右手首の傷を確認した。
針で刺してしまったところが、ずっとチクチクと痛む。

「あの、針・・・変なバイ菌でも入ったんじゃないでしょうね」

テレビを消しベッドに座り、一人つぶやく。
傷は小さく、別に深くもないのに、その周りが痣のように変色している。
そこがチクチクと痛むのだ。

「まったく、サイテー・・・」

ラウンジにいたあの女かあのガキか、今度会ったら慰謝料でも請求してやろうか。
どうもイライラしてしょうがない。
携帯を取り、彼氏に電話してみる。

「あー、幸雄?ちょっと聞いてよー」

「ん、あぁ、どうした?」

夜も遅い時間だったが、すぐ電話に出てくる。
何でも言うことを聞いてくれるし、何でも買ってくれる。
幸雄は明美にとって自慢の・・・便利な彼氏だった。

「ほら、昨日さー、ラウンジで怪我したじゃない?あたし。あの汚いヌイグルミのせいでさー」

「あ、あぁ、あれな。ひでぇ奴らだったな」

「そう。でさぁ、その傷がずっと痛いのよねー。ちょっとさ、明日病院に連れていってくれない?」

「あ、おう。そんなに痛いのか?」

「うん・・・ずっと、すごく痛いの」

ちょっとチクチクする程度だが、すごく痛いと言っておこう。

「そう、か。俺もさ、何かさ、左目がずっと痒いんだよ」

「・・・はぁ?」

「だから、昨日からさ、何か目が痒くてさ」

「ちょっと、何?目が痒いのと、針で刺されて酷く痛がってる私と、一緒にしてるわけ?」

「いや、そんな訳じゃ」

「信じらんない。明日、朝早く迎えに来てよね。こっちはすごく痛くて大変なんだから」

「あ、ああ。うん。分かった。ごめんよ、朝一で行くよ」

明美は携帯を切り、ベッドに横になる。
これくらい言っておけばいいか。
そしてそのまま、これをネタに今度、何を買って貰おうか、などと考えつつ、寝てしまった。


チクチク・・・じゃない。ウズウズする。
気持ち悪い・・・なにか蠢いているような・・・
明美は嫌な感じに襲われ、目を覚ました。
体を起こしてベッドに座り、ベッドランプを付け、時計を見る。
2:30を過ぎたところだった。
そして眠りを妨げる忌々しい手首を見て、明美は凍りついた。
目だ。
手首の傷が横長に開いて・・・そこから目が覗いている。
瞼もまつ毛もない目がそこにあり、キョロキョロと動き・・・明美と目が合った。
明美は理解出来ず、口を開けたまま、声も出なかった。
ゆっくりと手首を裏返し、ベッドに伏せる。
いやな汗が出てきた。
夢・・・だ。
きっと悪い夢を見てるんだ。
しかし感覚がある。
手首で何かが蠢いている感覚が。
気持ち悪い・・・!
明美は助けを求めるように、何があるわけでもない暗い部屋を見渡した。
そこで、別のものを見てしまった。
部屋の隅に誰かいる。
ベッドランプの灯だけではよく見えない。
幸雄・・・?と思ったが、そんな訳はない。
誰なの?と言おうとしたところで、更なる異常が始まった。
壁から手が、天井から足が、床から頭が出てきた。
それも少しだけ出てきた、ということではない。
無数の真っ黒な人影が、壁や天井、床から沸いてくるのだ。
大して広くない部屋に、どんどん沸いてくる。
明美は目を見開き、唖然とする。
叫び声を上げたいのに、なぜか声が出ない。
何?一体、何?理解できない。
頭で、理解が、できない。
人影は増え続け、ベッドの上にも沸いてくる。
明美は完全に囲まれてしまった。
しかしそれらは襲い掛かってくる訳でもなく、ただ明美の方を向いて立っている。
顔も黒く、表情は見えない。
明美の頭は混乱し、いよいよその限界を超えそうになったとき、声が聞こえてきた。
クスクスと笑う声。
女の子の、笑い声だ。
ふと気付くと、人影の中、明美のすぐ目の前に小さな女の子が立っていた。
真っ白なワンピースを着ている。
ベッドランプだけの薄暗い中でも、その子の姿だけははっきりと見えた。

「ねぇ・・・どんな気分?」

少女はクスクスと笑いながら、明美に話しかけてきた。
しかし明美は何も答えることができない。

「そっか、もう話せなかったね」

言葉を発せないことを知っているようだ。
少女はフフフと妖しく笑う。
それを見て明美は思う・・・なんて・・・綺麗な子だろう。

「手首、気持ち悪いでしょ」

少女は明美の手首を持ち、目の前に掲げる。

「ほら、これで楽になるよ?」

そう言うと、少女は果物ナイフを明美に差し出した。
確か台所にあった小さな果物ナイフだ。
そうだ、これで・・・
明美は虚ろな表情でそれを受け取り、左手に逆手で持ち、右手首の目に狙いを定める。
ナイフを目に近付けると、明美の頭の中に声が響いた。

『やめてやめてやめてやめて―――――』

明美は思う。
いいぞ、こいつ、怖がってる。
私に散々嫌な思いをさせて・・・許さない。
明美はナイフを強く握り締めると、手首の目に突き刺した。
その瞬間、頭の中に叫び声が響く。
目から血が噴き出し、涙のように流れていく。
その声を聞いて、明美の口元に笑みが浮かぶ。
苦しめ、こいつめ・・・!
さらに力を込め、ナイフを一気に根元まで刺す。
血がますます噴き出すと共に、断末魔の叫び声が頭の中に響いた。
明美の顔に恍惚の笑みが浮かぶ。
やった・・・フフフ、やったんだ・・・アハハ・・・
そしてそのまま・・・明美は意識を失った。
その様子をじっと見ていた少女は、満足気な笑みを浮かべると、その姿を消した。
それと同時に、部屋中にいた人影も消えていった。


・・・数日後。
明美の死体が友人によって発見される。
死因は、自ら手首を切っての失血死。
それと時を同じくして、明美の交際相手であった幸雄の死体も発見される。
なんらかの刃物で、左目を奥深くまで突き刺された刺殺体であった。


都会の雑踏。
12月のこの時期、昼間から人々は忙しそうに行ったり来たりしている。
私はビルの屋上に座り、膝の上にお友達をのせ、何を考えるでもなく下を眺めていた。
寒い季節だが、私には関係ない。
いつでも、お気に入りの・・・ママが作ってくれた、お揃いの白いワンピースを着ていられる。
ママのことを思い出すと、未だに悲しくなる。
もうあれから・・・20年以上経っているのに。
誰かが来た。
誰か、と言ってもすぐ分かる。

「優理、こんなとこで何してるんだ?」

私は振り向かずに答える。

「兄様、お具合はいかがですか?」

兄様・・・暁彦(あつひこ)はそんな私の言葉を笑い飛ばす。

「にいさま、か。やめろやめろ、そんな気持ち悪い喋り方。もっと自由に話そうぜ?」

私は振り向き、その姿を見る。
長髪に、黒いジャケット。
ピアスに指輪・・・
私は兄様のそんな格好が嫌いだ。
昔は違ったのに・・・すっかり変わってしまった。
何もかも。

「なぁ、この前あの大学の学生2人が死んだの・・・おまえだろ」

「・・・うん」

「やっぱりなぁ・・・いやいや、怖いねぇ、優理は」

ニヤニヤと笑っている。
そんな表情も嫌いだ。
私はラットを抱え、立ち上がる。

「ん、今度はどこに行くんだ?」

「・・・パパとママのところ」

「そうか。親父とお袋も喜ぶよ、うんうん」

「・・・」

おやじ、おふくろ・・・
昔は兄様もパパ、ママと呼んでいた。
もう、姿かたちだけでなく、言葉使いも変わってしまった。

「そうだ、優理」

兄様は立ち去ろうとする私を呼び止める。

「お前さ、なんでお袋の姓を名乗ってるんだ?源川ってさ」

「・・・別に、意味なんてない」

「へぇ・・・ま、いいけどさ。寺坂の名が泣くぜ?」

「・・・」

私は姿を消し、その場を立ち去る。
ママの姓を名乗っているのは、意味がある。
ママの事、あの頃の事、まだママが生きていた頃のことを、忘れたくないからだ。
パパも兄様も優しく、幸せだった頃のこと。
そう、毎日が楽しく、幸せだった・・・ママが病気で亡くなるまでは。
あれ以来、パパが何だか怖くなり・・・兄様も変わり、いや変えられ、私も変えられてしまった。
あの頃、住んでいた洋館に着く。
パパが亡くなってから今はすっかり廃墟だが、ここは誰にも手を出させない。
私が全部守る、と決めたから。
私の大切なものを汚す人間は、誰であろうと容赦しない・・・
ここにはまだパパとママがいるんだ。
ママは・・・ママの一部は人里離れた一軒家で『生活』していたけど、誰かのせいで存在が消えてしまった。
でもここにはまだ残っている。
パパとママは一緒にここに・・・いるんだ。
兄様はバランスが崩れかけていて、もうダメかもしれないけど、私にはいくらでも時間がある。
私がきっと、あの頃の幸せな、暖かな時間を取り戻してみせる。
どんな手を使ってでも、きっと取り戻してみせる・・・

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