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Pの『THE つだん部屋』コミュの【854】件

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【コピペ】



はじめはほんの些細なイタズラのつもりだったみたいなんです。


件てご存知ですか?


牛の体に人間の頭をもつ、半身半獣の妖怪。
戦争や大震災などの大凶事を予言して、予言を伝え終えると死んでしまうとか。人間の体に牛の頭の説もあるそうです。
薄気味の悪い都市伝説です。


その当時、彼らは高校生でした。
この気味の悪い伝説を、漫画か何かで知ったみたいです。
まだインターネットが一般に普及する前の時代でしたから。
彼らのうちのひとりが、たまたま牛の頭の被り物を持っていたそうです。
ゴム製のバッファローだったそうです。
彼がそれを持っていなければ、あんないたずらは実行されなかったと言っていました。
わざわざ買ってきてまでするには、お金も根気も無かったから。


まず手始めに、彼らのうちのひとりの弟を驚かす事にしたそうです。
家に着くと、いつもはいるはずの母親がいませんでした。
近所に住む祖母の具合が良くないので、今日は戻らないかもしれない。と書き置きがありました。
弟はあと1時間もすると、部活が終わって帰ってくるはず。

居間のテーブルに件の漫画だか雑誌だかをさり気なく配置して、電気を消して、弟の帰りを待ちました。

弟が帰ってきました。
真っ直ぐに居間に向かい、部屋の電気をつけると、母の書き置きを読んでいます。
母の指示通りにカップラーメンを食べようと、お湯を沸かしてから、テーブルの漫画雑誌に気付いたようです。
はじめはパラパラと気の無い素振りで捲っていたのですが、いつの間にか夢中になって読んでいます。

ひとりがキッチンの電気をそっと消しました。
居間にいる弟は気付いていません。
もうひとりが、コツコツと窓を叩きました。
キッチンに背を向けて座っている弟の体がびくっと、軽く飛び跳ねました。
彼らはおかしくて笑いをこらえるのに必死だったそうです。

もう一度コツコツ…。
コツコツコツコツコツコツコツコツ……。

弟は恐る恐る振り返ります。

真っ暗なキッチンからぬっと浮かび上がるように、上半身裸の体に牛の首の妖怪が立っていました。

一瞬の間の後に
「ぎゃああああああ」
弟は椅子から転げ落ちて、テーブルの下でもがきながら、必死に逃げようとしました。

彼らは全員大爆笑だったそうです。

これに味を占めた彼らは、身近な友人たちを2〜3人驚かせて楽しみました。
誰もが予想以上のリアクションをとり、彼らの良い暇潰しになったそうです。

しかし、この年頃の少年たちはハマるのも早ければ、飽きるのも早いものです。
そろそろ飽きてきたから、次のターゲットで終わりにしようという事になりました。
最後のターゲットは、うんと恐がらせよう。
誰がいいだろうか?
どうせなら、普段から気に食わない奴がいい。
いつも怒鳴ってばかりいる担任のAがいいか…、意地悪な部活の先輩Bがいいか…、もしくは生意気でチクリ魔のクラスの女子C…。
結局イタズラがばれた時に、最も被害の少なそうなCをターゲットにすることにしました。

彼らが言うには、彼女はクラスの大半の人間から疎まれていたそうです。
校外での喫煙や、バイク通学などを見つけると、すぐに教師に言い付けていたらしいのです。
いい気になっている、Cへの制裁。


彼らの些細なイタズラが、いつの間にか悪意に変わってしまったんです。


彼らは入念に計画を練りました。
件についても、もう一度調べ直しました。
今度はただ立って現れるだけではなくて、予言をさせよう。
予言の内容は……
Cの死
予言する場所は、放課後の教室。
しかし、うまく彼女ひとりになるタイミングができるだろうか?
彼らは協力者を募ることにしました。
Cに反感を抱いていた男子がポツポツと…それに呼応して、女子もちらほら。
Cの仲の良い女子生徒がどうしても必要だという事になり、数人の女子がCの悪口を吹き込みながら、口説き落としたのです。

最終的にはクラスの殆んどの人間がこの計画を知る事になりました。
実行するのは男子3人、女子3人の計6人。

彼ら6人は計画の為にファミレスなどに集まっては、Cの悪口を言い合いました。
その中にはCがやったとは思えない事も、沢山あったそうです。
いいえ、本当は殆んどなんでもCのせいにして、自分たちを正当化したと、彼らは認めました。



決行される前から、Cは何か不穏な空気を感じていたのではないでしょうか?
表面上は普段通りのクラスメイトたちから、彼女は今まで以上に孤立していました。



決行の時がきました。

件の都市伝説は、下準備の段階でさり気なくクラスメイトたちの間に流布させてありました。


全ての授業が終わった後に、Cと友人だけが教室に残るように手配していました。
日は刻々と暮れて行きます。
くだらない話をダラダラと続けて、帰ろうとしない友人に、Cは苛ついていたようです。
しかし、クラスで孤立気味だったCは、彼女に強く言うことが出来なかったようです。


とうとう完全に日が暮れました。
友人は最後にトイレに行くから、絶対にここで待っていて!と、不自然な程強く言い残して出て行きました。
そして、廊下でスタンバイしていた、残り5人の仲間に加わりました。


Cは不安そうに、机に腰掛けていたそうです。
いつの間にか、廊下の電気も消えています。
自分のいる教室以外は暗闇でした。

コツコツ………
教室の後ろのドアを叩きます。
Cの肩が震えました。

今度は教室の違う方のドアから、ギィ…ギギィ…と木の軋む音。

Cは立ち上がっていました。
不安気に辺りを見回します。
ふと、前のドアが開いている事に気付きました。
「誰…?」
震える声で問い掛けました……すると、どこからともなく聞こえてきたのです。

『○○田C子(Cのフルネーム)はぁ…水害で死ぬぅ……水…ミズ…ミズで死ぬ』

あらかじめテープレコーダーに録音して置いた、機械的な低い声を流しました。

バン!と後ろの扉が開きます。
そこには、大凶事を予言するという妖怪件゙が闇の中に立っていました。

Cの目は飛び出してしまうのではないかと言うほどに、まん丸だったそうです

一瞬の間を置いて、
「ぎぃやぁああああ」
この世のものとは思えないような大絶叫でした。

彼らは教師が駆け付けてくる!ヤバイ!と感じて、咄嗟に逃げてしまったのです。
そして、逃げながら大笑いしたのです。



しかし、Cの友人は、流石に後ろめたさを感じて、教室に戻る事にしたそうです。
そして、全て本当の事を話そうと思いました。


ところが、教室の近くまで戻ると、教師を中心に人ごみが出来ていました。

Cは錯乱しており、医務室に担がれていくところでした。

予想を上回るような事態になってしまったのだと、この時にやっと気付いたのです。

やばくね…?
まじかよ?

そんな言葉をポツポツと交わす以外に、彼らは為す術もありませんでした。

そして、自分たちの持っているラジカセや被り物が見つかれば、罰則を受けるかもしれない…と、あわてて証拠隠滅の為に解散しました。



翌日、Cはもちろん学校には来ませんでした。
教師からは、変質者が学校に侵入した恐れがあるので、放課後は早々に帰宅するようにとの話がありました。
部活動も当面は禁止になりました。


クラスの殆んど全員が、何があったのかを知っていましたが、告げ口する者はいなかったそうです。



本当は、この悪質なイタズラにはまだ続きがありました。
Cに対して行った水害の予言を実行しようとしていたのです。
ちょっと水をひっかけたりする程度のつもりだったらしいのですが、流石にそれは実行されませんでした。
どちらにしても、Cはそれから学校に来ることは無かったので、実行することが出来なかったのです。



Cの友人だった女生徒は、げっそりと痩せてしまいました。
Cのお見舞いに行ったのですが、Cの変わりぶりに驚愕したそうです。
Cは水を恐がって、風呂に入る事も、摂取する事も拒み、点滴と安定剤で病院のベッドに臥していたそうです。


Cは、病院のドアの隙間やカーテンの隙間から件が覗いて、水を飲むなと言うと言っていました。
そんなはずはない。迷信だと、彼女が言っても聞き入れずに、ガタガタと震えて回りを警戒していました。

彼女は自分のした事を呪い、後悔しましたが、打ち明ける事は出来ませんでした。


彼女はCの母親に挨拶して、病室を出ようとしました。
すると母親がふと思い出したように、話し出しました。

「実はね……Cを霊能者の先生に見て頂いたの。」

Cの母親は看病疲れからか、とてもやつれていたそうです。

「そうしたらね、Cにはね…牛の顔の…沢山の生霊がついているんですって…。半分人間の顔の者もいれば、完全に牛の顔の者もいるんですって。」


Cの母親の顔は、いつの間にか責めるような表情になっていました。

「その者たちの中でも、特に強いのが6人で、そのうちの1人は昨日四つんばいになっているそうよ。」

「え…?」

「ああ、今ね、呪咀返し?とかいうのをしていただいているのよ。」


Cの母親はにこりと微笑むと、扉を閉めました。



彼女は、彼らのうちのひとりが、今日学校を休んでいる事を思い出しました。

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