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Pの『THE つだん部屋』コミュの【769】幽霊船

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【コピペ】



しばらく前になるが,友達と自家用のクルーザー(海外まで航行できるサイズ)で,船旅をした時に体験した話.

8月1日
晴天の穏やかな海に俺達の船は出港した.
行き先はハワイ.
予定航行時間は約1週間.

8月3日
出航から2日後,それに出くわした.
辺りが急に寒気を帯びて,海が静かになった.
友人が船のソナーに見入っている.

「おい,何か外の雰囲気やばくない?
台風でも来るんじゃねーの?」

「・・・・.ちょっと,これ見てみ.」

友人はソナーの右端を指差して言った.

無機質な暗いソナーの画面には,方位を示すラインの他に,大きな影・・・
レーダー上のその影は大きさ的に200メートル程だろうか?
ちょっとした客船級の大きさだ.


「えっ!?これって他の船じゃねえの?」

「ああ,そうだな.」

「これ超でかいぞ!
て言うか,進路変えないとまずいだろ?
この船の進路の直線上にいるぞ.」

「わかってる.さっきから無線で呼びかけてるんだけど,応答が無いんだよ.」

「外国籍の船で日本語通じないんじゃないの?」

「・・・,いや,俺一応7ヶ国語位は話せるんだけど.」

そうだった.こいつは俺と違って頭いいんだった.

「それよりも気になるのが,この影の進む速度,普通じゃねえよ.」

確かに.
友人の一言で冷静に考えたら,その影に対して寒気がした.
ソナー上の影の航行速度は,目測だが約45ノット(1ノットは約2?/h).
普通の客船はこんな速度で航行できない.

「もしかして,どっかの軍隊の船じゃねえの?」

「いや,どんな所属の船でもこの大きさでこの速度は有り得ない.」

友人は正体不明のソナーの陰に顔面蒼白.
俺はとりあえず早く船の進路変えろよと,万が一の沈没に備えて脱出の準備.

すでに2隻の距離は船同士が急速旋回して互いを避ける事ができるギリギリまで縮まっていた.

「おい,とにかく舵切れ!!」

「・・・!!?
あ,ああ.何かに掴まってろ!」

友人が思いっきり舵を切った.船体が大きく揺れ,操舵室の机にあった物が床に落ちた.

「おい,大丈夫か!?」

「ああ,大丈夫だ!」

俺達の船は急速で進路を変えた.
お陰で,正体不明の影との正面衝突は避けることができた.

「・・・あと2分もしないうちにすれ違う.」

「・・・ああ.」

友人のその言葉に何か意味深なものを感じた.

後2分足らず,正体不明の影が俺達の船の真横に現れる・・・

緊張?いや,恐怖だ.
得体の知れないもの・・・
それが何なのかも分らずに,俺達はそれに近付いていく・・・

「来るぞ・・・」

「・・・.」

霧のかかった静かな海上.波の音も,風の音も,自分達の船のエンジン音すら聞こえない.
そんな中,正体不明の影は静かに,その姿を現した.俺達は,操舵室の大きな窓から外の様子を伺った.
とてもじゃないが,この状況で操舵室の外に出る勇気は俺達には無かった.

「・・・・!?」

「・・・・!!」

言葉が出なかった.
代わりに,冷や汗と異常な悪寒が俺達を襲った.

中世の帆が破れたボロイ帆船?
いや,違う.確かに帆船だが,帆の部分にはマストからぶら下げられた首吊り死体のような人,人,人・・・
そのすべてが,白濁した眼球を見開き,一斉に俺達を見る.

「駄目だ,眼を合わせるな!!」

友人が叫んだ.
俺は必死に帆船から視線をそらそうとした.
そんな俺達に,マストにぶら下げられた者達が呼びかけてくる.

「Wanna・・・
Wanna be die...」

出来る事なら殺してくれ・・・,
早く死にたい・・・.

そんな意味合い・・・

「・・・マジかよ.」

「何だ,これ?」

帆船はちょうど,俺達の船の真横.
そしてさっきソナーで確認していた速度が嘘かのようにゆっくりと航行している・・・

「な,何かしてくるつもりか?」

「・・・落ち着け,落ち着け.」

うろたえる友人を俺は必死になだめた.
しかし,俺だって気が気ではない.

その時だった.
首吊り人達の声が一斉に止み,代わりに帆船の甲板を誰かが歩く音が響きだす.

コツンッ,コツンッ

ドアをノックするような,,,

いや,違う.これはこの船の操舵室のドアをノックする音そのものだ.

「Please Please open the door...」

「・・・まさか,あの船の生き残りか?」

「バカ,んな訳ねえだろ!あれは明らかにこの世のものじゃない!!」

「だけど,外で助けを求める声が・・・」

「おい!一体どうしたんだ!?」

友人の様子がおかしい.

「開けなきゃ,このドアを,開けなきゃ・・・」

「バカ!やめろっ!!」

俺の制止を振り切り,友人は操舵室のドアを開けた.

「・・・・・・!!」

戦慄の光景とはまさにこの事.

ドアの前には誰もいなかった.・・・が,友人の顔が映りこんだ操舵室の大窓.
そこにヤツは居た.
ドアを開けっぱなした友人の真横に立つ感じで,ボロボロの軍服(今時のものじゃなくてもっと昔のナポレオンみたいな)を着た腐乱死体が薄暗い操舵室の中で口元に薄笑みを浮かべている.

「!!!!」





・・・・数時間?
いや,もっとだろう.






「・・・・た.おい,見つけたぞ!!」

「大丈夫か!?意識はあるか!!?」

「ん?・・・・・」

俺達は,船に乗ったまま意識を失っていたらしい.気づいた頃には海上警備隊の船の甲板に寝かされていた.

「一体何があったんだ?いつから漂流していたんだ?」

矢継ぎ早に海上警備隊の質問が続く.
意味が理解できない俺達・・・

「あの,僕達の船は・・・」

「船?ああ,この船の船尾に繋いである.」

友人が突然,走って船尾に向かう.唖然とする海上警備隊の隊員.
慌てて友人の後を追う俺達.

・・・そこにはコケとフジツボにまみれて古ぼけた俺達のクルーザーがあった.まるで何十年も海の上を彷徨っていたかのように・・・

「生きてただけでも・・・運がよかったのかな?」

友人が力なく呟いた.

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