ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

Pの『THE つだん部屋』コミュの【517】蔵

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
【コピペ】



僕の家族の話です。

母方の祖父の家は庭はもちろんの事、池や家畜小屋まである。
祖父の父が相当の地主だったらしく、何度か訪れてはいるが、いまだにすべての部屋を見たことが無いほどだ。

中でも一番気になったのが、離れの裏にある大きな二階建ての蔵だ。
外からは木に囲まれていて見づらくなっており、敷地内からも離れ自体が今となっては廃屋と化しているので、僕も存在に気づいたのは中学を卒業する少し前だった。

昔から祖父に「離れにはお化けが出るから行っちゃいかん」と言われており、子供心にはただ怖いものであり、高校に上がっても「お化け」と言われているが、ただ単純に行っちゃいけないところなんだと認識していた。


話は高校2年まで遡る。

お盆で祖父の家に訪れた時の事である。
毎年のように、スイカやトウモロコシ等を食べ、少しボケ始めた祖父の相手をして夕方を過ごしていた。

ふと何を思ったのか、初めて祖父に尋ねてみた。

「じぃちゃん、そういえばさぁ 裏にあるでっかい蔵は何が入ってんのさ?」

祖父はそれまでほのぼのした表情を浮かべていたが、僕の質問が出るなり急に真面目な顔になり、

「ほんなもんは気にせんでえぇ、あそこにゃぁなんも入っとりゃあせん」

と言うと、またほのぼのした顔になった。

僕はそれでは納得できず、

「嘘やろぉ、あんなでっかいんや、絶対なんか入っとるってぇ、じぃちゃん鍵無いんか? 探検させてよ」

半分冗談のつもりでそう言うと祖父が今まで見たこともない怒りの表情で、

「たわけがぁ! 子供が偉そうに物言うとんなあ! あそこにゃなんも無いんじゃ!! ええな!!」

あまりの剣幕に正直ビビってしまい、それ以上何も言えなかった。
祖父は我に返ったように、

「すまんすまん、あそこにゃほんまになんも無いんや、頼むでじぃちゃん困らさんでや」

と優しく言うと、バツが悪そうに仏間に入って行った。

その時の僕は何か触ってはいけない物を触ったような気がしていたと同時に、例の蔵への好奇心が抑えられなくなっていた。


その夜のことだった、僕は案の定客間を抜け出した。

蔵に行くにはまず離れを越えねばならなかった。
「お化け」が出ると言われても信じてはいなかった僕だったが、正直昔から離れは苦手だった。

母屋で使われていない古い道具だったり、昔の人形が置いてあり、夜になると月明かりでそれらがうっすら見える。
その奥は昼でも真っ暗なほどで、夜は吸い込まれそうなほどだった。

なんとか離れを越えると、初めて見る場所にたどり着いた。
鬱蒼と茂る背の高い雑草と大きな木の奥に白壁の大きな二階建ての蔵があった。

(まじで…こんなでかかったのかよ…)

隙間からチラチラ見るのとは違い、実際の蔵は驚くほど大きかった。
不思議と恐怖はさほど感じておらず、僕は蔵の扉へと向かった。

扉は蔵の大きさに比べ小さかったが、それでも普通の扉よりは大きい。
鍵は南京錠が三つもついており、埃や錆の具合からもう何年も開けてなさそうだった。

(これじゃ無理じゃねぇかよぉ…)

  ―うぅ…―

「!」

諦めて帰ろうとしていた僕の背後から、かすかに人の呻き声のような物が聞こえた気がした。
確かに蔵の中から聞こえたと思い、扉に耳をあててみた。

「うぅ…ぁぁあ……ぎぃぃ…」

確かに何かが声を出している。

もしかしたら何かがこすれて出ている音かもしれないが、確かめられずにはいられない。
開くはずの内扉を思い切り引っ張ってみた。

カチャ…

鍵がひとつボロっと崩れ落ちた。
たぶん長年の錆が耐久を限界まで脆くしていたんだろう。

僕は残りの鍵も壊してやろうと力いっぱい扉を揺さぶった。
やがてすべての鍵が外れ、ゆっくりと扉が開いた。

真っ暗で何も見えない。
夜中で多少目が闇に慣れていても、光が一切届いていない蔵の中は全く見えなかった。

呻くような音だけが響いている。
僕はこの時点で恐怖で漏らしそうだったが、声の正体を確認するまでは逃げないとバカな誓いをたてていた。

ゆっくりと声のする方を確認し、タバコ用のライターを取り出した。
そして火を点けた瞬間、何かの塊が見えた。

火は火花だけで終わったため、確認ができなかった。
そして再度、火をつけた…。

火の先に浮かんでいたのは、手足が無い人間だった。
手足だけではなく、髪の毛も耳も唇も舌も無い。目すらえぐり取られている。胴体と頭だけの人間が鎖で繋がれて苦しそうに蠢いていた。

僕は恐怖でパニックになり声も出せなくなっていた。
よく見ると、その人間は一体だけではなかったようだ。もう一体同じような物と、あと小さく蠢く肉の塊…。



僕はそこで気を失ってしまい、気がついたら朝になっていた。

客間で寝ていた僕は、昨日の事が夢だと思い、ホッとしていたが、自分の手を見て愕然とした。
手に錆がびっちりついていたのだ。

現実を認識した僕は急いで祖父のいる仏間に向かったが、なにやら周りがあわただしい。

祖父が死んでいた。
老衰というには無理がある程唐突な死に方だった。



葬式を終え、暫くしてから僕は母に問いただした。
祖母はもうだいぶ前に他界していたため、あの蔵の事を聞くには母しかいなかった。

僕は祖父の死は絶対にあの蔵が関係していると思っていた。
母も最初はとぼけたり、怒ったりしていたが、僕があまりにしつこいので落ち着いて聞けとゆっくり話し出した。

もともと祖父の父が相当な地主だったのは前述の通りだが、もちろんいきなり地主になった訳では無い。
祖父の父の父もその父も地主だった。

話の発端は祖父の父の叔父。わかりやすく以降は名前で、「與佐朗」。

與佐朗は子供の頃から性根が悪く。ただのいたずらをするならまだしも、近所の家畜を殺したり、子供達を容赦なくいじめる子供だった。
その頃の與佐朗の家は最も栄えた時期であり、村人も誰一人文句を言えない状況であったらしい。

大人になった與佐朗はさらに性根が腐り、村の女を次々に強姦してまわっていた。
それでも子供ができなかったのは、彼が生殖不能者であったとされている。

その事でさらに手がつけられなくなった與佐朗は、この辺りの守り神とされていた大岩に自分が犯した女の中でも取り分け美人と当時のその旦那、そしてあろうことかその赤子までも手にかけ、その血肉をぶちまけた。

さすがにやりすぎた與佐朗は親に見放され、村人に追い回された。
もう捕まる、もう殺す、と寸での所で與佐朗に異変が起きた。

突然発狂し、地獄にいるかの如く苦しみだした與佐朗は指先、足先、目や口から霧状の血をまき散らせた。
そしてその血を浴びた村人も同じように苦しみだし、次々に倒れていった。

その時村人に向け守り神の大岩から声が聞こえた。

「この男はモラウ…この一族もモラウ…片方をモラウ…この男を呪う…この男にナリカワル…」


それから3日目の昼。與佐朗の弟が村に戻ってきた。
彼は與佐朗とは違い、好青年で村人からも慕われている人物だった。

村は誰も人がおらず、死体があちこちにあるだけだった。
皆、與佐朗を恐れ家から出てこなかったのである。

弟は村人に約束した。

「兄がした事は家の汚点であり、父亡き今それを償うのは私しかおりませぬ! 私は兄を我が蔵に押し込み、五支を切り取り未来永劫閉じ込め置きます! それでこの疫病も収まるはず!」

弟は約束を果たし、兄の体を切断し、肉をはぎ、舌を抜き、目をえぐり取った。
そのまま蔵に閉じ込め、自らは疫病で死んでいった。そして與佐朗もまた同じくして死んだという。

しかしそれで終わってはいなかった。
弟の子は双子だった。そのうちの兄の方が程無くして、苦しみだし体の先端から血を噴き出し始めた。

母は村人に悟られぬよう、吹き出す場所を切り取り、疫病が広まらぬように体を切り刻んだ。そうするしか無かった。
與佐朗と同じ体になった双子の兄を見ていられない母は、双子の兄を與佐朗と同じ蔵に入れて閉じ込めてしまった。

その双子の弟が祖父だと言うのだ。


一族の生死はすべてあの蔵の中で決められるとも母は言った。

祖父が死んだということは祖父の兄が死んだという事らしい。
つまり祖父の兄はあの体のまま70歳まで苦しみ続けていたということになる。

僕は恐ろしくて恐ろしくて、ガタガタ震えていた。
母はそんな僕に

「大丈夫。あんたはなんにも心配しなくてもいいからね」

と、優しく言ってくれた。

どうやら母も双子で生まれたらしく、母の姉は生まれてすぐ兆候が出ていたとの事だった。
産婆さんが当時の事を覚えており、話を聞いた祖父と祖母は泣く泣く母の姉を蔵に閉じ込めたらしい。

でも僕は自分に兄がいるなんて一度も聞いた事が無かった。
ここで終わったんだと思って母に伝えたら、今にも死んでしまいそうな程の寂しそうで悲しそうな顔で優しく僕に告げた。

「お兄ちゃんはもう入ってるよ…」



結局、祖父がなぜ死んだのかは分からずじまいだった。


でもそんな事よりも、今目の前にいる僕の愛おしい息子達。
今年で小学3年生になる。今年も祖父の家に遊びに来ている。

僕の両親は僕が家を出た後、祖父の家を守る為に引っ越した。
母は数年前から体を壊して寝たきりになっている。

母が死んだらマズイ…。

コメント(1)

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

Pの『THE つだん部屋』 更新情報

Pの『THE つだん部屋』のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング