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Pの『THE つだん部屋』コミュの【97】光

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【コピペ】



748 :光 ◆lWKWoo9iYU :2009/06/18(木) 00:30:46 ID:j0e1jDQW0
クライマックス。ジョンはそう言った。
社長が本丸の男を押さえ、ジョンが俺の除霊をする。
ついに、あの女との戦いに終止符が打たれようとしていた。
俺は吐きそうになりながらも、無理やり胃の中にメシを詰め込んだ。
生きるか死ぬかを超越して、俺は奴らにだけは負けたくなかった。
夕方。ジョンは俺をベッドの上に寝かせた。

「これから何が起こっても絶対に気持ちだけは負けないで下さい、お兄さん」

ジョンの言葉に俺は強く頷いた。
気持ちだけなら俺は絶対にあんな奴らに負けない。
ジョンは時計を見ながら、深呼吸をすると「そろそろですね」と言った。

「お兄さん、次に俺の携帯が鳴った時が合図です。
 俺は一気にお兄さんに侵入します。
 恐らく後ろ盾を失った女は、激しく暴れるはずです。
 俺がお兄さんの所に辿り着くまで持ち堪えて下さい」

俺はジョンの手を握った。

「信じているからな」

ジョンは真っ直ぐに俺を見つめながら頷いた。
その瞬間、ジョンの携帯の着信音が部屋中に響き渡った。


751 :光 ◆lWKWoo9iYU :2009/06/18(木) 00:31:26 ID:j0e1jDQW0
気が付くと俺は、見覚えの無い洋館らしき建物の中で
木製の椅子に座らされ、縛り付けられていた。
目の前には下った階段が見える。
俺は建物の中を見渡した。どこも古びた感じがする。
洋館の内部には夢の中のような違和感が在った。確かに以前より弱い。
俺はゆっくりと眼を閉じた。ジョンが俺を助けてくれる。そう信じていた。
俺の後方に人の気配を感じた。

「キチガイ女か?」

俺は問いかけた。
すると後方の人の気配は、這うように俺の首に腕を巻きつけてきた。
俺は確信した。キチガイ女だ。

「お前が何故こんなことをするのか、今はもうどうでもいい。
 俺はお前から逃げることばかりを考えてきた。本当に怖かった。
 でも、俺はもう一人じゃない。親友が出来た。
 もう、お前は怖くない」

キチガイ女は、強く俺を抱きしめた。

「一緒に居たい…」

俺は頭を横に振った。

「俺は生きている。お前は死んでいる。この差は絶対に埋まらない。
 お前には、お前の欲望があるのかもしれない。
 俺はそれに応える訳にはいかない。俺は生きたいんだ」

俺とキチガイ女の間に静寂が流れる。
キチガイ女は俺に抱きついたまま、静かに泣いていた。



752 :光 ◆lWKWoo9iYU :2009/06/18(木) 00:32:08 ID:j0e1jDQW0
泣いているキチガイ女に以前のような気味の悪さは無かった。
キチガイ女の声は、前に聞いた声と変わらない。
確かにキチガイ女だった。
それでも不思議なくらいに以前とは印象が違う。
俺は不思議だった。後ろ盾を失って暴れるかと思いきや
キチガイ女は俺に抱きつき、静かに泣いている。

「お前…もしかして…」

俺はそこまで言って言葉を呑んだ。俺にはその先の言葉が言えなかった。
その時、洋館の玄関が静かに開く。
そこにはジョンが居た。

「お兄さん、迎えに来ました」

ジョンはそう言うと階段を昇り、キチガイ女を睨む。
キチガイ女は何もすることなく、俺からゆっくり離れると
ジョンを素通りして階段を静かに降りていった。
階段の下で立ち止ったキチガイ女は、ゆっくりと振り返り、俺を見つめた。
女の顔に俺は驚いた。
以前のような禍々しさは無く、キレイな顔だった。
今までとは違う、少女のような切なく悲しい表情が俺の眼に焼き付いた。
女は踵を返し、振り返ることなく玄関の向こう側に消えていった。

「どういうことだ、あの女…」

俺は呟いた。想像した展開とはあまりにも違う幕切れだった。

「あの女の後ろ盾も、あの3人も消えていなくなりました。
 もう勝ち目は無いと諦めたのでしょう。
 あの女もお兄さんの中から完全に消えました。俺たちの勝ちです」

ジョンは、この戦いの勝利宣言をした。しかし俺の中に歓喜の感情は無かった。


754 :光 ◆lWKWoo9iYU :2009/06/18(木) 00:32:49 ID:j0e1jDQW0
俺を椅子に縛り付けていた拘束具をジョンは外した。
椅子から立ち上がった俺の体は、不思議なくらいに軽かった。
俺とジョンは連れ添い、ゆっくりと階段を降りた。
玄関の先には眩しい程に光が降り注いでいた。まるで希望の光だ。
俺たちは玄関の向こう側に進んだ。
その時、俺の視界の端に人影が見えた。
振り返ったその先には、俺の良く知る人物が立っていた。

「親父…」

親父は静かに頷くと、本当に優しく微笑んだ。
俺の眼からは止め処も無く涙が溢れた。親父の優しい笑顔に涙が止まらなかった。
俺は親父の前で子供のように号泣した。本当に子供のように…。

「お兄さん」

俺はジョンに呼ばれて目覚めた。
地上20階に位置する豪華なホテルの部屋。俺たちは戻ってきた。

「ああ…、長いこと悪い夢を見ていた気分だ。
 でも…最後は良かったよ…。ジョン、ありがとうな」
「いえ、俺だけじゃありません。社長や親父さんも頑張りました。勿論、お兄さんも。
 あの囮作戦の時、お兄さんは敵の手から逃れる為にビルから飛び降りましたよね。
 現実じゃないと判っていても、あんなことを普通は出来ません。
 しかも、敵の本丸に向かって啖呵まで切って。
 その、お兄さんの勇気があればこそですよ」
「いや、俺は…」

そう言って俺は黙り込んだ。俺は一人だったら、とっくに死んでいた。
そして、今も情けないことを考えていた。



755 :光 ◆lWKWoo9iYU :2009/06/18(木) 00:33:30 ID:j0e1jDQW0
「なあ、ジョン。あの女のことなんだが…」

ジョンは俺にコーヒーを差し出した。

「言いたいことは判ります。最後に俺もあの女に侵入しましたから…。
 でも、気にしないで下さい。全部、終わったんです」

俺はコーヒーを飲みながら、窓の外に広がる夜景を眺めた。
切ない思いを振り切るように、俺は夜景を眼に焼き付けた。
その後、俺は安堵からか、高熱を出し、病院に緊急入院した。
3日間程、高熱に苦しんだ後、俺は奇跡的な回復を遂げ
折れていた左腕の骨も、医者が眼を丸くする程の速さで回復した。
最悪だった体調も完全に復調し、俺は以前の健康な体を取り戻した。
入院中、ジョンが何度も見舞いに来てくれた。
こいつは本当に良い奴だ。
最悪と言える騒動の中で、ジョンと出会えたことだけは神に感謝したい。
後日、俺は改めて社長にお礼を言いに行った。
相変わらずのヒステリックぶりで俺が感謝の言葉を述べると

『感謝の言葉より感謝の金をよこせ!』

と言ってきた。ある意味、予想通りだったので問題はない。
それから社長に『絶対に父親の墓参りに行けよ』と言われた。
俺は久しぶりに、家族揃って親父の墓参りに行った。


768 :光 ◆lWKWoo9iYU :2009/06/18(木) 00:47:18 ID:j0e1jDQW0
久しぶりに来た親父の墓は土埃で汚れていた。
俺は予め用意していた掃除用具を取り出し、念入りに親父の墓を磨いた。

「家族を助けてくれて、ありがとう。守ってくれて、ありがとう」

そんな気持ちを込めて念入りに磨いた。
母も姉も必死に墓を磨く俺を眺めて、何故そんなに一生懸命に磨くのかと
不思議そうにしていた。
俺は母と姉の二人にも掃除道具を渡し、墓磨きに協力してもらった。
心なしか、親父の笑い声が聞こえた気がした。
その後、俺たちは家族でレストランに入った。
久しぶりの家族団欒だった。
食後に俺はトイレに入った。入り口を開け、トイレの中に入る。
そこは、ビルの屋上だった。
驚いた俺は周囲を見渡す。
俺の視線の先には、あの騒動の本丸の男がフェンスに寄りかかりながらタバコを咥えていた。

「よお」

気軽な挨拶をすると男は俺に近づく。

「俺に近付くんじゃねぇ!!」

俺は怒鳴った。

「はは、怖いねぇ。そんなに怒鳴るなよ。なにも危害を加える気はねぇよ」

男は尚も俺に近づく。

「なんのつもりだ!?いったい、何しに来た!?」

怒鳴る俺を無視して男は俺の眼前に立つと、思いがけない言葉を発した。

「事の顛末を知りたくないか?」

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