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国立かにぬ研究所(クニタチ)コミュの匂いの持つ魔力  匂いには色があるという。味もあるらしい。音楽も映像もあるといてってもいい。それらは「記憶」とも呼ばれる。

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遠い記憶が匂いという記号と一緒になって脳の奥に圧縮されてしまってあるのだ。その匂いを嗅いだとき記号が解けて過去の記憶がよみがえる。
まるで夢を見るように。
匂いが呼び覚ます記憶の世界はまるで妄想の世界となって私を過去へと引き込んでいくのだった。




深夜までの仕事がいつもより早く終わった。
まだ終電に間に合う時間なのでネットで乗り換えを調べて帰宅ルートを決めた。我が家までのルートは幾通りもある。
今夜はユルカモメ&オオエロに決めた。
この時間のユルカモメは空いていた。
オドメでユルカモメをおりてオオエロに乗り換えた。
座ろうと思えば座れた、しかしおばさんの様に自分のケツよりか少し小さいスペースに割り込むのはいかがなモノかと辞めた。
その前に立つのもいやなので反対側の網棚に荷物を置いて立つ。
網棚にあった雑誌を手に取り、眺めているとデーモンで先ほどの席がずらっと空いた。
しかし雑誌を読むのに夢中で気づくのが遅れたため、座り損ねた。
金曜日の終電、ポンギからは大量の人がなだれ込んでくるはずだ。
おそくまで仕事して満員電車にゆられるのも辛いが仕方がない。
一瞬、見栄を張って座らなかった自分を責めたがこれもまた人生。
つりかわに身を任せて雑誌に目を落とす。
ポンギのホームは酔っぱらい達で埋め尽くされていた。
ドアが開くなりなだれ込んできた。
若いネーチャンが男友達と大声を出しながら、じゃれ合っている。
iPodのイヤホンごしでも、耳につくほど悪ふざけしている。
うるさいし絡まれるのもいやなので、網棚に荷物を置いたままつりかわ二つ分奥に移動した。
すると前方からなにやら不思議な匂いがしてきた。
なま暖かい獣の香りとでもいおうか、普段嗅ぐことがない香りだ。
それに香水の香りが入り交じって独特のフレーバーになっていた。
しかし決していやな匂いではない。妙に懐かしい感じがする。
私は自然に目を閉じた。
こうすることで記憶がより鮮明に脳裏に浮かぶからだ。

もしや…
目を開けると斜め前の席に黒人の若い女性が座っていた。黒くボリュームある細く縮れた長い髪、はっきりとした大きな目、分厚い唇。濃紺でウール素材のネイビーダッフルコートをびしっと着こなしていた。
彼女はホイットニー・ヒューストンのようにかわいくてしかもずっと色が黒かった。
それは手の甲と手のひらのコントラストがくっきりと見て取れるほどだった。
指には銀の指輪が二つ、耳にはダイアのピアス。
化粧は薄かった。口紅も目立たない程度。
黒人特有の体臭に香水が溶け合って汗と油と体温と湿りけ、そして甘い香り。
ねっとりと鼻腔をくすぐるようにからみつく匂いは、まさにFUNKそのものだった。

元来匂いには敏感な方だった。
まして汗の匂いやワキガは言うに及ばず。
しかし、彼女の薫りは違った。
懐かしさの中にいとおしさも漂う記憶が次から次へとどんどん湧き上がってくるのだった。
                          つづく…

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匂いの持つ魔力 2


時は17年前に遡る、西アフリカのある国。
仕事でアフリカを廻っていた私は彼女と出会った。
彼女は二つとなりの国から出稼ぎに来ていた。
昼間は美容師をしていて夜は外国人専用のディスコに通っていた。

選んだのは彼女の方だった。
私の前に現れると、にっこり微笑み隣に腰を下ろした。
上質とはいえないソファは深く沈み込み横にべったりとくっつくように座った彼女の顔が目の前に迫った。
暑くまったりとまとわりつく空気にさらに体温を感じさせる薫り。
体臭と香水が絶妙な割合で混ざっていて、まるで雑然としたごちゃごちゃにごった返しているアフリカの風景のようだった。
彼女は自分でボーイを呼びよせ、カクテルを注文した。
二人で乾杯、彼女の濃厚な薫りにむせそうになるのを隠すように私はグラスを傾けた。

お互いに自己紹介をした
名前は思い出せないがフランス系の良くある名前だった。
片言しか話せないフランス語、でも言葉などいらなかった。
彼女はわたしの手を取ってフロアで腰に手を回して踊った。
背は私より15センチは大きかった。
大きく開いたドレスから半分はみ出た胸が喉元に当たった。
お尻はくびれた腰の下に大きく突き出て棚の様だった。

ソファに戻ると私は彼女の唇にキッスした。
彼女が照れるのが少し不思議な気がした。
それはこの店に入ってきた時から彼女の手慣れた仕草やそぶりとはかなりギャップがあった。
ぎゅうっと抱きしめて舌を絡ませるようにするとちょっと驚いた様子だった。

深夜1時を過ぎ、ホテルへ帰ることにした。
彼女の手を取り外へ出た。
外にはスーパーカブのタクシーが待っていた。
約50円払って2台のスーパーカブは深夜の町を走ってホテルへ向かった。
フロントで鍵を受け取るとき、彼女はなにやらフロントマントもめて、しぶしぶパスポートを渡した。
外国人だからだそうだ。

彼女は部屋にはいるとシャワーを浴びたいといった。
私はベッドで天井を見ながら待った。
匂いの持つ魔力 3


旧式のクーラーがガーガーうなる部屋で天井のやもりを眺めていた。
彼女と入れ替わりにシャワーを浴びた。
このホテルはこの国では最高級ではないが外国人向けリゾートホテルだった。
バスルームはかなり広く、シャワーの他バスタブもビデもついていた。
シャワーから出ると部屋の明かりは消され、月明かりだけでうっすらと見える程度だった。
ベッドに入ると彼女はこちらを向いてほほえんで私の名前を呼んだ。

肌は思いの外柔らかくきめが細かく吸い付くようなもち肌だった。
大きな胸やおなかには妊娠線があった。

故郷には子供と夫が待っているのだろうか?

シャワーの後だというのに強烈な臭いが私を包み込んだ。
今までに嗅いだことのない質の臭いだ。
うっとうしくなるほど濃い体臭を感じながらも、しだいになれていくのだった。

汗がしたたり落ちた。いくらでもあふれてくるのだった。
彼女の大きな身体に私は立ち向かうが汗だくになるばかりだった。
かなりの時間愛し合っていたと思う。
若かったので何度も何度も…


シャワーの音で気がついた。いつの間にか寝てしまっていた。
彼女がバスローブを着てうれしそうな顔で出てきた。
わたしもシャワーを浴びて再びベッドへ入った。
一緒に天井のヤモリを見ながら、かたことのフランス語で会話した。
5人兄弟の末っ子だということ。美容師の仕事が好きなこと。毎日楽しいこと。
私の話もした。日本から来たこと、仕事で30日あまりいること、仕事があまり順調ではないこと。もう暫くはここに滞在すること。
私はしばらく話すしてるうちに寝てしまった。

朝目覚めると、二人でプールサイドで朝食を食べた。
プールのすぐ向こうには大西洋が見えた。断崖のため海水浴はできないそうだ。こちらでは海水浴(海で泳ぐ)はしないそうだ。
クロワッサンにキャフェ・オ・レ
食後プールで泳いだ。午後までのんびり過ごした。

午後にはタクシーでマルシェに行った。
闇両替商から米ドルを現地通貨に交換して、手にした札束を持って彼女は私の手を引いてマルシェの大きな建物の奥へと連れて行った。
銀の指輪とニセダイヤと金メッキのピアスをねだった。
何度も何度も値切っていた。買ってあげると子供のように目を輝かせて喜んだ。
彼女とはマルシェで別れた。友達と遊びに行くという。
また逢おうねと何度も何度も言うと、お互いタクシーにまたがって走り去っていった。
匂いの持つ魔力 4

ホテルに戻ると日本から電話があったという。
メッセージには明日早朝隣の国に出国して別な取引相手と交渉しろと言うものだった。
30日過ぎて成果が上がらず本社もしびれをきらしたようだ。
彼女と連絡の手段もなく、ホテルを後にした。

隣国は元イギリス領の国だった。
軍事クーデターの最中だった。国境からトラブルだった。
パスポートを取り上げられ、6時間個室に監禁された。
大金を払い、やっとのことで入国を許されたが、すっかり日が暮れていた。
首都に着いたのは深夜だった。
街中に軍人がバリケードを築いていた、そこら中を戦車が走り回っていたがホテルは静かでほっとした。
窓のない圧迫感のある部屋で天井を見上げながら私は彼女のことが気になっていた。
別れも言わないで出てきたことが気になった。
今夜も逢うつもりだった。お互いそうするつもりだった。
昼間彼女は仕事して、私はホテルで本夜読んで過ごした。夜は一緒に食事して寝て、朝また仕事にいくといった日々がしばらくは続くはずだった。
すくなくとも私が望む限りは。

かさかさなシーツで肌がちくちくして寝付けなかった。

次の日もそのまた次の日も取引先は現れなかった。
電話も通じない。国際電話で日本に連絡入れるがもう少し待てというだけだった。
5日間むだに過ごした。結局本社の判断を待たずに出国することを決めた。
もう一度あの国に戻ろう。
このまま滞在するのも危険な感じがしたからだ。
相変わらず戦車は走り回り、大統領候補は暗殺された。
パリ行きの飛行機に乗れるまで3日あった、もう1日たりともこの国には居たくなかった。
それに彼女のことが気になってしょうがなかった。
国境までヒッチハイクを繰り返し12時間かけてやっと国境を越えた。
海辺のリゾートホテルに着いた時にはすっかり日が暮れていた。

居ても立っても居られなかった。私はタクシーにまたがると運転手にディスコと言った。
匂いの持つ魔力 5


ディスコの中は相変わらず真っ暗だった。
ソファに座るとビールを頼んだ。周りを見渡すと暗闇に目と歯だけが白く光っていた。
ビールが届くと私はボーイに彼女の名を告げた。
ボーイは首をよこに振るだけだった。
2時間ほ待ったが彼女は現れなかった。

翌日も私は日本に帰る気にはなれなかった。
このまま彼女に会わずに帰れないと思った。
とにかく謝りたかった、そしてお別れの言葉を言いたかった。

プールサイドで食べるクロワッサンもキャフェ・オ・レもおいしくはなかった。
美容院を探してみたが判らなかった。
夜、もう一度ディスコに向かった。

ビールを飲んで2時間ほどたったときだった。
私の名を呼ぶ声がした。
彼女だった。
私はきつく抱きしめられた。彼女は涙で声にならなかった。
毎日泣いて過ごしていたのだろうか、目がひどく腫れていた。
彼女はあの日の夕方、ホテルに行って驚いた。ホテルの人は隣国へ旅立ったと伝えた。
それから毎日ホテルの前で待った。翌日もその翌日も。
3日してあきらめて、仕事もディスコも行く気がなくなって、2日ほど部屋に引きこもっていたといって泣いた。
今日友達がディスコに東洋人が来ているという話を聞きつけて教えてくれたそうだ。
まさかと思い飛んできたと言った。
そうしたら私だったといって涙でマスカラが流れた顔で笑った。
私は強く強く抱きしめごめんごめんとなんども謝った。

ホテルの支配人も喜んでくれた。あえて良かったと抱きしめてくれた。
二人はいままで以上に強く抱き合い愛し合った。
何度も何度も…
彼女の匂いがした。ねっとりと鼻腔をくすぐるようにからみつく強烈でしかもやさしい、なま暖かい獣の香りだった。


翌日朝食を食べながら私は言い出せないでいた。もう帰らなければいけないことを。
会社からはとっくに帰国命令が出ていた。全く成果の上がっていないこと、命令を無視して隣国を出た翌日取引先がホテルに現れたこと。
もうこの仕事は続けられないだろう、自分には何も残っていないことなど。
彼女は不安を見せずにはしゃいでいた。私がこのままずっとここにいると思っているのだろうか?
今夜泊まっていってもいいか聞いてきた。
私はうなずいてほほえんだが、今夜こそはなさなくてはいけない、そして明日日本に旅立つことに決めた。
匂いの持つ魔力 6


地下鉄はヨギに差しかかっていた。満員の車内で彼女にさらに近づくことはままならなかった。
雑誌に目を落とすふりをして、さらに彼女を観察した。
化粧は色がなかった。肌の色のナチュラルなままのようだ。マニキュアもクリアだった。奥まった大きな二重まぶたの大きな黒目が様子をうかがうようにこちらを見ていた。
私ほほえんで見たかったが顔がこわばってにこりとも出来なかった。きっと怖い顔でもしていたのだろう。彼女は怪訝な顔をして目をそらした。
私はさらに深く呼吸して鼻からたっぷりと彼女の匂いを嗅いだ。
もっともっと記憶を呼び覚ますために…


荷物をまとめていた時、彼女が部屋に入ってきた。
様子を見て悟った彼女はは何もいわずに私を後ろから抱きしめた。
大きな胸が背中に当たってさらに強く押しつけられた。
息が苦しくなってそのままベッドに倒れ込んだ。
彼女は泣いていた。私も涙がこみ上げてきて唇を強く噛み彼女の胸に顔を埋めた。
彼女はわたしの髪を両手で優しく、時に強くかき回すと唇にキッスをした。
涙の味がした。
二人とも言葉はなかった、力強く抱き締め合い互いを求めあった。
こんな事がこれから先もう二度とないと思うほど激しく愛し合った。

天井を見上げ彼女の大きな体を支えながらなんていおうか考えた。頭は冴え渡りエアコンのうなる音がだんだん遠くなるほど集中していた。
しかし肝心の言葉がなかなか決まらない。明日の朝、別れることをうまく伝える方法が浮かばなかった。

でも彼女はすべてわかっているようだった。私の名前を繰り返し呼び、もっともっと欲しがるばかりだった。
彼女の目を見ないでやっと明日の朝発つことを伝えた。
彼女は私の目を見つめ、ただうなずいてくれた。

早朝ホテルの前には彼女の友達が数名来ていた。
彼女は友達の姿を見ると大きな声で泣き出した。彼女の大きな身体を二人の友達が両側から支えた。
見送るホテルの人たちと彼女の友達ももらい泣きした。
私は涙をこらえ空を見上げた。うす空色に雲は一つもなかった。
果物売りのおばさんから大きなパパイアを二つ買った。一つを彼女に渡すともう一つを手に持ってエアポートタクシーに乗った。
なぜそうしたかはわからない、けれどパパイアを渡した。
もう言葉はかけられなかった。
彼女の友達が私に英語で話しかけてきた。
彼女はあなたを愛しています、とってもとっても愛していますとというような事を繰り返し言った。
私は日本に着いたら手紙と写真を送る事を約束した。それ以上は無理だった。
運転手に発つように伝えると車は走り出した。私は窓から身体を乗り出し大きく手を振った。
果物売りのおばさんの子供が車を走って追いかけながら手を振ってくれた。
見えなくなるまでずっと手を振っていた。元気で生きてくれよ、私もこれからどうするかわからないけれど強く生きていくよと伝えたくて、いつまでもずっと大きく手を振っていた。
砂煙で見えなくなっても何度も何度も。                          
匂いの持つ魔力 7



帰国して1ヶ月たった。会社はクビになった。
とりあえず深夜バイトをしながら過ごしていた。
暑い日の昼下がり、エアコンのないワンルームのアパートでは寝苦しく、寝返りを繰り返していた。
バイクの音とともに新聞受けに郵便物の落ちる音がした。
汗びっしょりで布団から出ると玄関に落ちた郵便物を拾った。

彼女からのエアメールだった。
英語で書かれた便せんには彼女の友人が英語で代筆したことが書かれていた。
毎日泣いて過ごしていること、仕事もやる気が湧かないこと、出来たら日本に行きたいけれどいくら働いても無理なことなどが書かれていた。
航空券を送って欲しいとも書かれていた。
バイト生活では彼女を呼ぶことなど出来なかった。
ましてアフリカの黒人女性と日本で暮らすという事を現実として捉えることが出来なかった。
私は戸棚からアフリカ出張の時の写真を持ってきて彼女と私の写った写真を手に取った。
一枚一枚見ながら思い出を一つ一つ思い出していく、時間をかけてゆっくりと思い出していくことで彼女との関係を心の奥にしまっていくことにした。
それは辛い作業だった。でもこの思いを持ちながら日本で生活していくのはさらに辛い事だった。
手紙を読み返しては写真に目をやった。
一枚一枚めくっては思い出を封印していく。

一週間後私は自分なりに整理でき、けじめが付けられたと思い彼女に手紙を書いた。
私も毎日彼女のことが忘れられなかった事、今はバイトで食いつないでいること、アフリカに行くことも彼女を日本に呼び寄せることもままならないこと。
こころのずっと奥の方にだいじにしまっておくことなど和英辞書を見ながら英語で書いた。
そして手元に残っていた現地のお札を入れて送った。
匂いの持つ魔力 8


地下鉄はジュクに着き大勢の人が降りた。彼女の隣の席が空いた。
私の真ん前だった。
急に胸がドキドキしてきた。雑誌を顔の前から降ろし、彼女の顔を見た。
彼女もこちらを見ていた。私はわざとゆっくり隣に腰を下ろした。
彼女の頭が真横に来たため、さらに強烈な薫りが私の鼻を捉え私はもう一度目を閉じた。



その後、彼女から手紙は来なかった。
私から送ることもなかった。
再就職してアパートも引っ越した。
また世界中を旅するようになり、いろいろな国でいろいろな経験をした。
新しい人と出逢い、恋もした。そして別れも。
出会いと別れの繰り返しの中、記憶の奥にしまった事を再び思い出すこともなく時が経っていった。



私は、はっとして目を開けて横を向いた。
彼女が私の名前を呼んだ、確かに私の名だ!
目を丸くして彼女の顔を覗き込んだ。
彼女はしっかりとした目で私の目を見つめながらもう一度はっきり私の名前を言った。
私はただ、うなずくだけで言葉が出なかった。
すると鞄の中から写真を取り出して私に渡した。
ぼろぼろで色あせていたが、プールサイドで水着を着た男女が笑っていた。
彼女は真っ黒い肌にピチピチでふたサイズくらい小さい黄色いビキニを着ていて似合ってなかった。
男は黒い半ズボンで色が白く、手足だけ日焼けしていた。
それは17年前のアフリカの写真だった。
間違いなく彼女と私だった。
びっくりして言葉が出なかった、頭の中いっぱいに彼女の顔が浮かび声が聞こえ、後頭部に衝撃を感じた。
紅潮した顔から血の気が下がり一気に冷たくなっていくようだった。
騒音が一瞬にして消え、彼女の薫りが頭の中に充満していく感覚、君は誰なんだ?
言葉にならなかった。
彼女はうろたえる私をしりめにこの写真の彼女の娘だといった、私はやっとの事で声が出た、そして彼女の年齢を聞いた。
まさか…!
彼女は20歳だと言った。アフリカ某国の交換留学生として日本に来たこと。
母は離婚して彼女は祖母に預け、某国の二つ隣の国まで出稼ぎに出ていたこと、そこで私と出会った話を聞いたことなどをゆっくり話してくれた。
一瞬私の娘なのかと思った。もし子供が出来ていたら16,7歳になっているはずだ。しかしそうではなかった。
こんなことがあるのだろうか、今度は身体全体が熱くなってた来た。
私はただ、この娘の顔と写真を見比べては、うなずくばかりだった。
お母さんは元気なのか聞こうとした、今どこで暮らしているのか、幸せなのか、家族は、次々と頭に浮かぶが口に出せないでいた。
もどかしかった、何かの力で口をふさがれているかのように息苦しかった。

彼女は次々にまくし立てた。
あなたを探していました。私は母のかわりに来ました。あなたに会うためにきました。
母はあなたを愛していました、今もあなたのことを思っています、知っていましたか?どうしてあなたは帰ってしまったのですか?
どうしてあなたは母を迎えてあげなかったのですか?
あなたは母を愛していなかったのですか?………


突然叫び声がした。
私は目を開けた。つり革に捕まった手が汗ばんでいた。
酔っぱらったカップルが空いた席に座ろうとして転びそうになって叫んでいた。
地下鉄はミズバシに止まっていた。
目の前の座席は空いていた。
車内を見回しても彼女はいなかった。
夢を見ていた。懐かしい夢を。
立ったまま眠ってしまったようだ。
ドアが閉まり地下鉄は動き出した。
窓の外を見るとスタイルのいい黒人の若い女性がいた。こちらには目もくれないで歩いていった。
お尻がぽっこり突き出していて何か乗せられるほどに小さくて丸いお尻がかっこよかった。


たとえ夢でも幻でも妄想でもかまうもんか
一瞬でも彼女のおもいでがよみがえったことで私は幸せな気持ちになった。
ただ心残りは
彼女は元気に暮らしていますか?
幸せですか?
それが聞けなかった。




地下鉄は下車駅に着いた。
彼女の薫りがまだそこに残っていた。

                        終わり
感想をお聞かせください。
                         ☆BF所長

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