これは、『日本語の分析と言語類型 - 柴谷方良教授還暦記念論文集』（くろしお出版；2004/7/4)に寄せられた定延利之氏の論考ですが、ここでは次のように論が展開されています。
（１）（a). 家の前【に】車を停めた。
(b). 家の前【で】車を停めた。
家の前が車を停めた場所であるということは、文（1a）では「に」【で】表現され、文（1b）では「で」【で】表現されている。このよう【に】場所の表現【に】現れる「に」と「で」【に】どのような違いがあるのかという問題は、多くの研究者によって論じられてきた。／／
（【】による強調は引用者）
このように、何の疑問もなく＜場所の表現に現れる「に」と「で」＞と一般化し問題提起がなされています。
しかし、この説明文の中だけでも、《「に」【で】表現され》、《「で」【で】表現され》、《このよう【に】場所の表現【に】現れる「に」と「で」【に】は》と、「に」と「で」が場所の表現以外に多用されていながら、この点を反省することなく《このよう【に】場所の表現【に】現れる「に」と「で」》と一般化することに全く疑問を感じていません。
そして、従来の論に次の３つの共通点を見出しています。
１．場所の具体的内容に関するもの。
「に」はモノの存在場所を表わすが、「で」はデキゴトの存在場所を表わす。
２．述語句が表す存在・状態・動作と場所との結びつきに関するもの。
「に」の場合は直接的だが、「で」の場合は間接的で場所は背景に過ぎないとされる場合がある。
３．述語句と、場所を表わす名詞句との結びつき関するもの。
「に」格名詞句は文の主語句と結びついており、述語句によって自然さが変わり易いのに対して「で」格名詞句は述語句とではなく文全体と結びついており、述語句によって自然さが基本的に変わりにくい。／／
この、「１．」に対しモノの存在が格助詞「で」で表わされているように見える現象が以下の通り、３例挙げられ、それぞれに対する解釈が示されている。
第１の現象
（2）a. 体育館に机がある。
b. ?？体育館で机がある。
（3）a. ?？体育館に入学式がある。
b. 体育館で入学式がある。
第２の現象
(６）a. 神戸出身なら、バンタム級に矢吹という選手がいる。
b. 神戸出身なら、バンタム級で矢吹という選手がいる。
（7）a. そんな田舎町にルーマニア料理の専門店がありますか？
b. そんな田舎町でルーマニア料理の専門店がありますか？
第３の現象
（19）�勝А量椶料阿稜柴Ε僖奪�を指して］こんなものは日本にしかないでしょうね。
Ｙ：a. それ、北京にありましたよ。
b. それ、北京でありましたよ。
（20） a. そういう人って、フランスとかに結構いそうだよね。
b. そういう人って、フランスとかで結構いそうだよね。／／
このそれぞれの成立動機を検討した後、次のような「まとめ」が記されている。
本稿の真の目的は、従来の考えを認めた上で、第１・第２の現象とは別に第３の現象があるということを、できるかぎりはっきり示し、「探索は状態をデキゴト化する」という考え、ひいては体験と知識の違いがこの現象の説明に有効だと論じることにあった。／／
このように、ここでは、
１．場所の具体的内容に関するもの。
「に」はモノの存在場所を表わすが、「で」はデキゴトの存在場所を表わす。／／
という「に」「で」が【存在場所を表わす】という従来の論に全く疑問を持たれていません。
しかし、助詞とは何か、助詞が何を表わすかについては、次のような提起がなされている。
「名詞や動詞などと違って、【助詞はそれ自体がある事物や動作・状態を指さない。】助詞の意味というときには、ここに問題点の一つがある。このことについて山田孝雄『日本文法論』は次のように言う。「そのあらわせる観念の上より観察すれば助詞は単独にては何らの観念をもあらはし得ず、他の観念語に付属して其の義を認むるを得るのみ」そして、「その機能によりて観察すれば、助詞は観念語たる体言用言副詞に付属して其の意義を明にし、又それらの間の関係を示すに用いられる。」山田は、助詞の分類（記述）として、意義を中心としたものと、それらが示す関係すわち職能に根拠を求めるものとがあり得るが、上の引用でも明らかなように、「独立しては何の観念をもあらわしえるに関せず、他の品詞につきて関係を示すことによりて始めて意義を認め得らるるものなれば、その意義は関係に依存する」（549頁）ことから、助詞の研究は意義を主眼としたものでなく、職能を中心としたものでなければならないと説く。／／
〔柴谷方良(まさよし)「助詞の意味と機能について―「は」と「が」を中心に―」：『文法と意味の間―国広哲弥教授還暦退官記念論文集』（くろしを出版,1990.6.1)
〔【】の強調は引用者〕
ここに指摘されているように、【助詞はそれ自体がある事物や動作・状態を指さない。】というのが日本語の真実です。つまり、助詞「に」や「で」が【ある事物や動作・状態】である【モノの存在場所を表わす】のではないということです。
こうした、助詞「に」や「で」が【モノの存在場所を表わす】という誤った教育を受けた日本語非母語話者がいかなる誤りを犯すかについて、
岡田 美穂／奥田 俊博「場所を表す名詞に下接する格助詞「に」「で」「を」について−日本語教育の観点に基づく先行研究の整理と課題−」
https:/
が論じていますが、問題はこの論者が、
「に」が人や物の存在場所・到着点を，「で」が動作場所を，「を」が動作の行われる場所であり起点・出発点を表すことを学習する．／／
と「に」や「で」が「存在場所・到着点」「動作場所」などの【モノの存在場所を表わす】とする誤った確信の基に論じ、《どのような用法の「に」と「で」の混同による可能性があるのかを探り，今後の課題として示すことを目的とする．》としているところにあります。
正されなければならないのは、
「に」が人や物の存在場所・到着点を，「で」が動作場所を，「を」が動作の行われる場所であり起点・出発点を表す
という誤りであるということです。
現在の文法論では助詞は自立語に対する付属語と区分されていますが、これは単に形式の相違による区分でしかなく、語の意義を明らかにしたものではありません。先ずは付属語なるものの本質を明らかにした上で助詞の意義を明確にし教育を行なわねばならないことを自覚するところにあると言わなければなりません。
この点を、日本語教育に携わる人々は一体どのように理解されているのでしょうか。■
（１）（a). 家の前【に】車を停めた。
(b). 家の前【で】車を停めた。
家の前が車を停めた場所であるということは、文（1a）では「に」【で】表現され、文（1b）では「で」【で】表現されている。このよう【に】場所の表現【に】現れる「に」と「で」【に】どのような違いがあるのかという問題は、多くの研究者によって論じられてきた。／／
（【】による強調は引用者）
このように、何の疑問もなく＜場所の表現に現れる「に」と「で」＞と一般化し問題提起がなされています。
しかし、この説明文の中だけでも、《「に」【で】表現され》、《「で」【で】表現され》、《このよう【に】場所の表現【に】現れる「に」と「で」【に】は》と、「に」と「で」が場所の表現以外に多用されていながら、この点を反省することなく《このよう【に】場所の表現【に】現れる「に」と「で」》と一般化することに全く疑問を感じていません。
そして、従来の論に次の３つの共通点を見出しています。
１．場所の具体的内容に関するもの。
「に」はモノの存在場所を表わすが、「で」はデキゴトの存在場所を表わす。
２．述語句が表す存在・状態・動作と場所との結びつきに関するもの。
「に」の場合は直接的だが、「で」の場合は間接的で場所は背景に過ぎないとされる場合がある。
３．述語句と、場所を表わす名詞句との結びつき関するもの。
「に」格名詞句は文の主語句と結びついており、述語句によって自然さが変わり易いのに対して「で」格名詞句は述語句とではなく文全体と結びついており、述語句によって自然さが基本的に変わりにくい。／／
この、「１．」に対しモノの存在が格助詞「で」で表わされているように見える現象が以下の通り、３例挙げられ、それぞれに対する解釈が示されている。
第１の現象
（2）a. 体育館に机がある。
b. ?？体育館で机がある。
（3）a. ?？体育館に入学式がある。
b. 体育館で入学式がある。
第２の現象
(６）a. 神戸出身なら、バンタム級に矢吹という選手がいる。
b. 神戸出身なら、バンタム級で矢吹という選手がいる。
（7）a. そんな田舎町にルーマニア料理の専門店がありますか？
b. そんな田舎町でルーマニア料理の専門店がありますか？
第３の現象
（19）�勝А量椶料阿稜柴Ε僖奪�を指して］こんなものは日本にしかないでしょうね。
Ｙ：a. それ、北京にありましたよ。
b. それ、北京でありましたよ。
（20） a. そういう人って、フランスとかに結構いそうだよね。
b. そういう人って、フランスとかで結構いそうだよね。／／
このそれぞれの成立動機を検討した後、次のような「まとめ」が記されている。
本稿の真の目的は、従来の考えを認めた上で、第１・第２の現象とは別に第３の現象があるということを、できるかぎりはっきり示し、「探索は状態をデキゴト化する」という考え、ひいては体験と知識の違いがこの現象の説明に有効だと論じることにあった。／／
このように、ここでは、
１．場所の具体的内容に関するもの。
「に」はモノの存在場所を表わすが、「で」はデキゴトの存在場所を表わす。／／
という「に」「で」が【存在場所を表わす】という従来の論に全く疑問を持たれていません。
しかし、助詞とは何か、助詞が何を表わすかについては、次のような提起がなされている。
「名詞や動詞などと違って、【助詞はそれ自体がある事物や動作・状態を指さない。】助詞の意味というときには、ここに問題点の一つがある。このことについて山田孝雄『日本文法論』は次のように言う。「そのあらわせる観念の上より観察すれば助詞は単独にては何らの観念をもあらはし得ず、他の観念語に付属して其の義を認むるを得るのみ」そして、「その機能によりて観察すれば、助詞は観念語たる体言用言副詞に付属して其の意義を明にし、又それらの間の関係を示すに用いられる。」山田は、助詞の分類（記述）として、意義を中心としたものと、それらが示す関係すわち職能に根拠を求めるものとがあり得るが、上の引用でも明らかなように、「独立しては何の観念をもあらわしえるに関せず、他の品詞につきて関係を示すことによりて始めて意義を認め得らるるものなれば、その意義は関係に依存する」（549頁）ことから、助詞の研究は意義を主眼としたものでなく、職能を中心としたものでなければならないと説く。／／
〔柴谷方良(まさよし)「助詞の意味と機能について―「は」と「が」を中心に―」：『文法と意味の間―国広哲弥教授還暦退官記念論文集』（くろしを出版,1990.6.1)
〔【】の強調は引用者〕
ここに指摘されているように、【助詞はそれ自体がある事物や動作・状態を指さない。】というのが日本語の真実です。つまり、助詞「に」や「で」が【ある事物や動作・状態】である【モノの存在場所を表わす】のではないということです。
こうした、助詞「に」や「で」が【モノの存在場所を表わす】という誤った教育を受けた日本語非母語話者がいかなる誤りを犯すかについて、
岡田 美穂／奥田 俊博「場所を表す名詞に下接する格助詞「に」「で」「を」について−日本語教育の観点に基づく先行研究の整理と課題−」
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が論じていますが、問題はこの論者が、
「に」が人や物の存在場所・到着点を，「で」が動作場所を，「を」が動作の行われる場所であり起点・出発点を表すことを学習する．／／
と「に」や「で」が「存在場所・到着点」「動作場所」などの【モノの存在場所を表わす】とする誤った確信の基に論じ、《どのような用法の「に」と「で」の混同による可能性があるのかを探り，今後の課題として示すことを目的とする．》としているところにあります。
正されなければならないのは、
「に」が人や物の存在場所・到着点を，「で」が動作場所を，「を」が動作の行われる場所であり起点・出発点を表す
という誤りであるということです。
現在の文法論では助詞は自立語に対する付属語と区分されていますが、これは単に形式の相違による区分でしかなく、語の意義を明らかにしたものではありません。先ずは付属語なるものの本質を明らかにした上で助詞の意義を明確にし教育を行なわねばならないことを自覚するところにあると言わなければなりません。
この点を、日本語教育に携わる人々は一体どのように理解されているのでしょうか。■
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