ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

砕-Crush of musicコミュの連続砕小説『堕ちる』

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
砕のメンバー、そして彼らを取り巻く環境と、ほんの少しリンクした小説です。

素人が趣味で書いた小説ゆえ、誤字脱字、卑猥な表現等お許しください…。
(;´Д`)

コメント(7)

『序章』

土曜日の歌舞伎町は、今夜も熱気に包まれていた。

サラリーマン、カップル、キャバ嬢、風俗店の呼び込み、警察、ホームレス、ヤクザ、そしてホスト。
それぞれが全く異なる世界にいながら、唯一交わることを許されている街があるとするならば、歌舞伎町はその代表格たる繁華街であろう。

そして、それはすなわち欲望のはけ口であることを意味する。穏やかな日常では得られない快楽・悦楽が、ここにはある。
それと同時に、人間を一夜にして堕落させうる面もあるのだが…。


歌舞伎町のコマ劇場辺りから韓国人街の間に掛けては、ホストクラブや風俗店、そしてホテルが軒を連ねている。蝶ネクタイのボーイや、風俗店の看板プレートを掲げた男がサラリーマンに声をかけては、無線で店のスタッフと調整をした後に、サラリーマンと共に路地裏へと消えていく姿をよく目にする。
しかしながら、ここ最近では歌舞伎町を行き来した女性が次々と失踪しているとのニュースが流れた日には、同じく路地裏で1人…煙草をふかしている奥田青年も、単なる男女の秘め事で片付けるには納得がいかなかった。

奥田は世田谷の某派出所に勤務する、勤続六年目となる警視庁巡査。若手ながら、その行動力と勇敢さには上官からも一目置かれている。歌舞伎町は奥田の管轄外であるが、要人警護等で応援を要請され、何度か訪れたことはある。
しかし、今夜は非番。奥田は師走の底冷えのする寒さを、買ったばかりの皮ジャケットにくるまりながら耐えていた。

星の見えない…ただ灰色で薄明るい空。目の前に建つホテル『ムーン・リバー』という名前には、あまりにも相応しくない空。奥田はボーイの誘いも無視して、そのホテルにやって来るであろう「それ」をひたすら待っていた。

やがて、四人目の呼び込みに声を掛けられていた時、ハイヒールの甲高い足音が近づいてくるのがわかった。奥田が振り返ると、そこには若い女性がいる。20代前半だろうか…服装やメイクは大人びているが、どこか幼さを感じさせる。

「あの……もしかしてジャックさん…ですか?」
女性は唐突に奥田に問い掛けた。その様を見て、呼び込みのボーイは何かを感じ取ったのか、サッときびすを返してどこかへ行ってしまった。奥田は微笑を浮かべ
「はい、そうです。…ということは、あなたがエリカさん?」
奥田ことジャックが問い返すと、女性は
「はいっ。遅くなってしまい、すみませんでした。仕事がちょっと片付かなくて…。寒かったでしょう?」
眉間にしわを寄せ、心配そうな表情で奥田に話しかけた。

確かに、約束の時間から15分ほど過ぎていたかもしれないが、奥田はさほど気にしていなかった。
「いや、意外とそうでもなかったですよ。でも、早くエリカさんと暖まりたいな。」
顔を近づけ、囁くように女性に話しかける奥田。もう…と照れ笑いする女性の手を取り、奥田達は『ムーン・リバー』へと消えていった…。
『第一幕』

二杯目のビールを注文した後、西本はそっと煙草に火をつけた。平日の夜だというのに、サラリーマンやカップルで店内は賑わっている。かくいう西本も、ワイシャツに緩めたネクタイの姿を見ると、サラリーマン以外の何者でもないのだが。

「飲み放題のコース始めたからじゃない?90分で1000円なら、この辺りならなかなかの値段設定でしょ。」

向かい側の席に座っていた森藤が、お通しの小鉢をつつきながら話しかけてきた。注文した串焼き盛り合わせが来ないからか、先ほどから箸をブラブラと中に漂わせては視線を落としている。

「まぁね。ただ森藤…椎茸はちゃんと食べなよ。」

小鉢の中に残っている椎茸に目線を向け、西本はジョッキに残ったビールの泡をすすっている。二杯目のビールはまだ来ていない。

「俺が椎茸嫌いなの、知ってるでしょ?こんなグニュグニュしたやつ、人類の敵だよ。」
「マジ、それは大袈裟。」

こんなやり取りを、彼らは小学生の頃から続けている。西本と森藤は小学校からの幼なじみで、他にも三人の同級生と卒業後も親交があった。バンドを組んで定期的にライブを行ったりと
、もはや親友という域を越えた付き合いといっても過言ではない。
この日は、春のバンドに向けた打ち合わせも兼ねた飲み会であったのたが…

「なぁ、最近みんなと会ってる?」
「いや、全然だよ。西本は?」
「俺もだ。みんな忙しいんだろうな。松中なんて特にそうでしょうよ。あいつは夜勤もやってるし…。」

それぞれが違う職種に就いている為か、西本達はここ最近、まともにバンドの練習をしていなかった。それどころか、全員が揃うこと自体が困難になってきている有様である。森藤とこうして酒を酌み交わすのも、かれこれ3ヶ月ぶりのことであった。

「そうだね。あと、野田ももうすぐパパになるし、みんな…なにかと忙しいんだよ。」

メニューに手を伸ばしながら、森藤が答える。そろそろ日本酒に切り替える頃か?西本はそう思った。

「内村も、相変わらずお見合いパーティーに行きまくってるのかなぁ?」

森藤が幼なじみ最後の名前を告げた時、二杯目のビールが運ばれてきた。店員も西本達の顔を覚えているのか、去り際に「いつもありがとうございます」と会釈してきた。ジョッキから伝わるビールの冷たさに胸を弾ませながらも、西本はあることを思い出した。

「そういやさ…今朝、mixiニュースで見たんだけど、最近、新宿で女性の失踪事件が連発してんだって。」

ビールと共に運ばれてきた焼き鳥をかじりながら、森藤が上目遣いで西本を見て、うんと相づちを打った。
「歌舞伎町でなら無くもない話かもしれないんだけど、その被害にあった女性達には…とある共通点があるんだよ。」
手にしていた焼き鳥を皿に置き、口の周りについたタレをおしぼりで拭きながら森藤が答えた。
「共通点って?」
西本が森藤の顔に近付きながら
「全員、お見合いパーティーに行った後に失踪しるんだってさ。」
と、声のトーンを落とし、つぶやいた。聞かれてはまずい話ではないが、酒席で声高に話すには不謹慎だと思えたからだ。

「しかも…」
西本は尚も話し続ける
「内村がよく行ってるパーティーで…らしいんだよ。」





続く
森藤のメニューを持つ手が止まった。そして西本に視線を移し、答える。
「えっ、vivianで…ってこと?」

内村が登録しているお見合いパーティーの名前だ。多額の参加料が掛かるものの、詐欺紛いの悪質な出会い系が蔓延る中で、徹底した秘密主義・個人情報の取り扱い、そしてアフターサービスの良さには定評がある。
新宿駅の東口に行けば、山手線の高架横に大きな看板があることから、知名度の高さが伺えるだろう。

「ふ~ん。ある種の誘拐事件なのかなぁ?」
「さぁね、ただ…お見合いパーティーに参加した女性が…ってなると、やっぱりそのパーティーに参加してた男の犯行っていうのも考えられるよね。」

いつもはひょうきんな西本だが、珍しく難しい顔をして語り続ける。手元の煙草は、吸わないままにほとんど灰になってしまっているほどだ。

「でもさ、vivianのパーティーで男が女に話しかける時には、プロフィールカードを渡すでしょ?もしパーティー参加者の犯行なら、そのプロフィールカードを渡してきた奴らが怪しいんじゃない?」

森藤や西本はパーティーに参加した経験はないが、いつも内村が語る武勇伝を肴に酒を飲んでいた為、vivianのシステムには精通していた。確かに、まず怪しむべきは失踪した女性に接触してきた男性会員だろう。

「まぁね。でも、失踪した女性がまだ一人も発見されていないのとかを考えると、そもそもが誘拐事件なのかすらもわからない…。それに、犯行がプロフィールカードを渡した男だけとも限らないっしょ。遠くで狙いつつ、パーティー終了後に出待ちしてたとかさ。」

「なるほど、物事は多面的に捉えるべき…って訳だね。」
森藤が両手を開き、キャッチャーがボールを取るかのように眼前に構えながら話した。森藤らバンドメンバーの全員が好きな映画のワンシーンだ。

「マジ、そのシス具合!」
難しい話をしていると、タイミングを見計らって森藤が崩しにかかる。それが、いつもの酒席の流れだった。
久しぶりの再会である、西本も暗い話は切り上げ、次の酒を選ぶことにした。いよいよ人が増え始めた居酒屋の片隅で、西本と森藤のくだらない話は、終電間際まで続くのであった。

「ところで森藤…」
「…ん?なに?」

「椎茸食いなよ。」
「だからぁ………」



続く
『第二幕』

「烏山」という地名の由来は知らないが、この街には、さほど烏はいないと思われる。朝のゴミ捨て場で見掛ける事もあるが、地名となるほどに烏を目にする訳でもない。それでは何故烏山なのか?そんな事をぼんやりと考えながら、野田は部屋から持ってきたゴミ袋を烏よけのネットをかき分けながら放り投げた。

ポストに差し込まれた新聞紙を取り出し、リュックにねじ込む。昔は新聞など読むまいと誓い、独身時代には朝日だ読売だとしつこく迫る勧誘に対して徹底抗戦を強いられていたが、今や野田は経営者という肩書きとなった。
もはや、経済の流れ、巷の流行に対して鈍感ではいられない。客とのコミュニケーションに於いても、最新の話題は身に付けておかなければならないものである。

「俺が有楽町にいた時も、客はリーマンばっかりだったから会社絡みの話題で尽きなかったな。円高だチャイナマネーの流出だ…って、そんな事バーテンに聞かないでほしいよ。」

野田の共同経営者、浦三の言葉を思い出した。彼は野田と共に烏山でカフェバーを経営し、昼は野田が、夜は浦三が店長として働いていた。
銀行の融資がなかなか下りなかったが、半年に渡る必死の説得でついに重い腰を上げさせたのも記憶に新しい。

色々と大変だが、念願の自分達の城を手にし…そして、もうすぐ最愛の妻との子供が生まれる。野田の生活は今、人生で一番の煌めきを放っている。少なくとも、野田はそう信じていた。

北風にハンドルを取られながらも、マフラーで顔を覆い、野田は自転車で店に向かった。商店街へと続く道はイルミネーションで彩られ、クリスマス、そして年末が近付いている事を思い出させる。
店を構えてから初めて迎える年末であるが、野田にとって、締め作業の忙しさよりもクリスマスイベントによる客へのもてなしに胸を弾ませている。
西本に車を出してもらい、妻には内緒で買ったダース・ベーダーコスチュームでコーヒーを…。人影もまばらな早朝の商店街で、野田は一人ニヤついていた。

商店街の隅にある行きつけのラーメン屋を通り過ぎ、同じく頻繁に利用するコンビニまで来たときに、遠くでビールのアルミ樽を外に出している浦三の姿を確認した。どうやら夜の部はクローズにしたらしい。

「オス、おはよう。ビール1樽出たんだ?」
顔を覆っていたマフラーを首までずり下げながら、野田は自転車を降りた。浦三も皮手袋を外しながら答える。
「おはようさん。昨夜はクリスマスの特番があったっしょ?ほら、さんまの。若いリーマンの客たちが店でずっとテレビ見てて、ずっとビールを飲んでたから…」

野田達の店には、壁掛け式の巨体なテレビを装備している。スポーツ観戦やライブ映像等、様々な用途で利用してもらう為だ。スポーツが好きな浦三と、音楽の好きな野田の為でもあるのは言うまでもない。

「なるほどねぇ。それじゃ、昨夜の単価はそこそこいったな。お疲れさん。」
駅に向かう人々が横を通り過ぎていく。時刻は六時を過ぎた。モーニングサービスも提供している野田達の店も、そろそろ朝の部を始める準備に取りかからなくてはならない。

「それじゃあ、浦三はもう上がってよ。キッチンの始末は準備しがてら俺がやっとくから。」
「悪ぃな、頼むよ。…あっ、ペリエは二番冷蔵庫の中だから。下の方ね。」

あぁ…と野田は頷き、店に入った。客の吸った煙草で、店内はやや煙たい。きらきらと光るイルミネーションで飾り付けられた壁には、西本が作ったバンドのライブを告知するポスターが貼ってある。年末の忙しさを乗り越えたら、待ちに待ったライブが待っている…。
ノナはリュックを持つ手に力を込め、バックヤードへと消えた。新しい1日が、また始まろうとしている。




続く
バックルームに入り、まず、着ていたマフラーとジャケットを椅子に投げた。客室を広く確保する為に、バックルームは必要最小限のスペースしかなく、パソコンデスクぐらいが唯一、飲食に関係のない家具かもしれない。冷蔵庫や製氷機、コーヒーメーカーなど、いずれも知り合いに頼み込んで入手したり、リサイクルショップを浦三と回って買った品々である。

照明のスイッチの隣につまみ式のボタンがあり、野田は右に回した。店内で流す有線の電源である。アメリカの西海岸をイメージしたカフェバーは、洋画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で主人公とライバルが対峙するシーンを思い出してもらえれば、読者にもわかっていただけるだろう。
そんな店内で流す音楽はやはり、プレスリーに始まりストレイキャッツ等のロカビリーこそ相応しい。野田は毎朝、仕事を始める前に有線で音楽を聴きながらコーヒーを飲み、まず新聞を読むことが日課であった。

『落合新内閣発足』『震災復興予算案、可決』『丸太自動車会長中川氏、辞任』『人気子役の芦田玲奈ちゃん、「マルモッコリ体操」で紅白出場決定』
砂糖を抜いたモカコーヒーを口にし、野田は黙々と新聞に目を通す。大学時代から本を読みあさり、活字というものには抵抗はないものの、1人で来る客の多い野田達の店では、客との世間話が日常茶飯事。記事の深い部分まで感じ取るのもまた、客とのコミュニケーションを円滑にするために必要てある。

「…玲奈…って名前も良いなぁ…。」
誰もいない店内で、人気子役の名前を呟く野田。もうすぐ生まれる待望の第一子は女の子であることを、先日の検診で知らされていたのだ。いつかこの店で、家族や幼なじみを呼んでパーティーをするのが彼の夢である。話題の『マルモッコリ体操』のポーズを取る子役俳優の写真をぼんやりと眺めながら、野田は様々な妄想に浸るのであった。

その最中、芸能記事の横にある見出しが目に入った。小さな記事で、うっかり見落としてしまいそうだったが、見覚えのある名前に、野田の視線はその記事に釘付けになった。
男女のシルエットの周りをリボンで飾ったかのようなロゴ…。その下には『vivian』と書かれている。小さな枠内に添えられたらロゴの上に見出しがあり、こう書かれている。

『人気婚活クラブvivianで、失踪事件多発』

野田は瞬時に思いだした。このクラブは、幼なじみである内村が入会しているところだと。
恋愛相談を受けることの多い野田は、内村からもしばしば婚活の相談を受けることがあった。どのようにアピールすれば良いのか、デートへ誘うにはどうアプローチするのか等、内村と共に悩み、野田なりのアドバイスを伝えていた。そんな内村の参加しているパーティーで、そんな恐ろしいことが…。野田は被害にあった女性を案ずるのと同時に、内村が妙なトラブルに巻き込まれるのではないかを懸念した。

以前、まだ独身だった頃の西本が出会い系サイトを利用していて、そのようなサイトにはヤクザやマフィアが絡むことを話してくれた事を思い出す。確かに、このような情事の裏では大金が動いている。この甘い汁を、彼らが見逃すわけがない。しかも場所は新宿…ヤクザの巣窟のような街だ。

野田はケータイに手を伸ばし、メール作成画面を起動させた。宛先は「内村守」。妙な胸騒ぎをコーヒーで紛らわしつつ、野田はボタンを押し始める。

「内村…」
野田が呟くが、ロカビリーの軽快な音楽にかき消された。他に聞こえるのは、プチプチとケータイの文字を打つ音と、冷蔵庫の低い電子音だけであった。


続く
『第三幕』


煌々と輝く照明と、やや湿り気を帯びた空気。そしてアップテンポなトランスの曲が流れる室内。壁にはトレーニングスーツに身を包んだ若い男女が、ランニングやヨガのポーズをとっている。こういう類の写真というものは、何故に外国人モデルばかりが起用されるのだろうか?疑問ではあるが、これもまた、胴長短足の日本人に於けるコンプレックスの表れなのかもしれない。

しかし、例外もいる。先程からベンチプレスで150kgに及ぶバーベルを気合いと共に上げ下げしている男、松中がそうだ。地元である烏山の隣町、仙川の駅からほど近いスポーツジム『エクセレント仙川』で、松中は今日もトレーニングに励んでいた。190cmの長身に、まるで馬の剛脚を思わせるかのような太い腕。そして、スラリと延びた長い足。
モデルとまではいかないが、素人でありながらこのプロポーションを維持するのは至難の業であろう。事実、松中はエクセレント仙川のスタッフから何度も専属モデルの勧誘を受けている。
ジムのホームページに載せたいとの要望だが、松中はいつも

「俺なんかじゃ…みんなおっかながって来たくなくなると思いますよ、ハハ…。」

そう照れ笑いをし、誤魔化すのだった。豪快なルックスとは裏腹に、シャイで照れ屋。松中自身も、もっと積極的な性格になることを望んではいるが、その見た目と性格のギャップ故に、彼を慕う人々は多かった。

「良いんじゃないの?モデルぐらい。もしかしたら、ここの利用料がタダになるかもしれないよ。」

松中の隣で、バーベルを肩に担いだ状態でスクワットをしていた内村が話しかけてきた。彼もまた、松中と共にこのジムへ通っている。松中には及ばないものの、内村の担ぐバーベルも100kgに近い。しかし内村は、顔色一つ変えず一定のリズムでスクワットをこなしていた。彼の脚力が伺える。

内村は『エクセレント』の他にも空手の道場に通っているのたが、松中の誘いで入会したのだという。彼曰く、突きと蹴りを繰り返すだけの稽古では、一定の力を長時間維持する為のスタミナが養えないらしい。かつては松中も同じ道場の門下生であったが、中学の卒業と同時に辞めてしまった。

「タダになるとか、そんなんじゃなくてさ……ほら、恥ずかしいじゃん。」
松中がバーベルを上げながら答えた。すでにカウントは40回。遠くで見ている会員が、おぉ…と驚きの声を漏らしている。

「恥ずかしいって……。勿体ないなぁ。ホームページとかポスターに載れば、彼女にも自慢できるじゃん。」
「…いいんだって。そうでなくたって、俺の体なんか毎日見てるんだろうからさ…………50!!」

歯を食いしばり、震える腕に耐えながら、松中はバーベルをフックに戻した。額には汗がにじみ、顔も真っ赤になっている。その様を見て、内村もバーベルを戻した。ふと周りを見渡せば、客の数も大分減ってきている。時刻は22時、潮時だ。

2人はトレーニングを切り上げ、ロッカールームに向かった。上のスタジオからはパラパラでも踊るような音楽が流れてくる。どうやらAスタジオでの『ボディブート』はまだ終わっていないらしい。美人インストラクターで人気のエアロビクス教室であり、会員の3人に1人は通っているという。

「おい、早いとこサウナに逃げようぜ。ボディブートが終わったら、すげぇ人の数が押し寄せるだろうからなぁ。」
内村の問い掛けに、松中はただニヤリと笑って返した。


続く
ロッカールームとは言え自動販売機や体重・体脂肪計、ドレッサー等の設備が充実し、かつ、大浴場やプールに通じている為、行き交う人々の格好も様々だ。全裸でうろつく者など、たまに降る雨にも等しい…日常の一風景にすぎない。
例外も存在するが。

松中と内村はいそいそとトレーニングウェアを脱ぎ、タオルを肩に掛け大浴場に向かった。本来、トレーニング後はクールダウンという筋肉の熱を冷まし、常温に戻す作業を要するのだが(マラソン後のしばらくの徒歩や、ストレッチはまさにコレである)汗をかいた後の風呂はまた格別である。松中達も、トレーニング後のサウナ、そして風呂上がりにコーヒー牛乳を飲むことが日課であった。もちろん、腰に手を当てて。

松中達は一通り体を洗った後、まずはジャグジー付きの浴槽へ浸かった。細かく噴出される泡が、体を優しく刺激して、少しくすぐったいのだが、運動後の体には心地良い。地元の仲間と銭湯へ行くときも、やはりジャグジーは欠かさなかった。

「あぁ~!たまんね~!!この世の楽園だよ~。」
目を閉じながら、泡にその身を完全に預けている内村が唸った。松中も隣で、長い手足を水中に漂わせている。他にも浴槽はいくつかあるのだが、やはりこの浴槽が最も人が多かった。

「よう、最近はどうなんだよ?いい娘に会えたのか?」
松中が天井を見つめたまま、内村に問い掛けた。
「あぁ、この前も行ってきたよ。今回も気が合いそうな子はいなかったなぁ。年齢が上すぎて、話しててもなんかギクシャクしちゃったよ。共通の話題があんまなくて、会話が続かなかったなぁ…。」
内村はザバッとお湯をすくい、顔を洗った。その様子を見て、松中も「そうか…」とだけ言い、それ以上は尋ねなかった。

「あっ、でもこの前……」
ふと、何かを思い出したかのように内村が顔を上げた。
「おっ、なんだ?実はメアドを交換した子がいたとか?」
松中の表情が、少し明るくなった。

「違うよ。ただ、この前vivianに行った時、なんか変な人がいたんだよね。妙に挙動不審で、フリータイムになっても誰にも話しかけないで突っ立ってんの。あっ、年は俺らと同じぐらいだと思うんだけど、眼鏡を掛けてたし、遠くにいたからよくわかんないね。なんか…潜入捜査してる刑事みたいだったなっ、ハハッ。」

明るい口調で話す内村であったが、松中の表情が、再び曇り始めた。

「おい、それって……マジかもしれないぞ…。」
松中は内村に、お見合いパーティーに参加した女性が次々と失踪している事件について話した。そして、そのお見合いパーティーがvivianであることも…。警察としても、vivianのパーティー参加者やスタッフ自身が事件に関与しているというハッキリとした証拠がない以上、お見合いパーティーへの参加・中止を命ずる事は出来ない。
その為、警察は潜入捜査という形でvivianに接触し、女性失踪の原因、あるいは……誘拐犯を探しているに違いない。無論、当時件の原因がvivianにあると断定されたわけではないのだが。

「まぁ、いずれにしろ内村も気をつけろよな。…とは言え、気をつけようがないけど。」
捨て台詞のように内村へ言い放った後、松中はタオルを肩に掛け立ち上がった。その瞬間、その場にいた会員達すべての視線が松中の下半身に集中した。
「例外」がここにいた。

ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる内村に対し、松中は困惑した様子で
「…よせよ。」
と呟いた。



続く

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

砕-Crush of music 更新情報

砕-Crush of musicのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。