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セノスケ ノベルズ(Mixi支部)コミュのオ空ノムコウ 第2話

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2.

「お。月乃ちゃんからメール来た。今、秋葉原で地下鉄に乗るとこだって。神谷町から歩くってさ」

 そらが携帯電話片手に言った。大洋はリビングの壁掛け時計を見上げると、7時15分を回っている。大洋はしばし迷ったが、リダイアルボタンを押した。

「もしもし。うん。野菜を買って、部屋に戻ってきたよ。そうそう。そらも一緒。ううん。急いではいないんだけど、道に迷っちゃったのかなって」

(ひかりちゃんに電話してるのか。そういえば7時過ぎに麻布十番って言ってたな)

 生野菜の入った段ボールとエコバッグが並ぶ食卓で、大洋がひかりと通話している。そらは携帯電話を片手に背を丸めたその後ろ姿を見ている内に、不意に翔平を思い出した。

 翔平とは9月初頭から交際している男子である。そらの地元、青梅市内の都立高校に通う18歳で、そらより5歳年上、大洋達より1歳年下となる。部活動は実質的に夏休み前に終わり、進路も自宅から通える専門学校への進学がほぼ決定している。この時期の高校3年生としては、比較的余裕のある日々を過ごしていると言えよう。

(あー。激ムカなこと思い出しちった。ヤバい。明日は空気壊さないようにしないと。はぁ〜あ。大洋なんて彼女が道に迷ってると思って、すかさず電話してるのにさ)

 そらのいう‘激ムカなこと’。その原因は先ほど大洋が見せたエクセルシートの中にあった。幹事役に翔平の名がない。上述の通り、翔平の放課後はこの時期の高校3年生としては余裕がある。早い話が暇だ。にもかかわらず、大洋らの

〜まあ、青梅から前日移動してあれこれ作業するのも大変だろうから。一般参加者として当日現地集合でいいんじゃないかな〜

との言葉を額面通り受け止め裏方作業に背を向けた翔平に、そらは不満だった。

(知らない人に会って気遣いながら話すのがウザかったんだ。みんなでここに泊まるとなれば、ウチが拒否ってヤレないなとか。どーせそんな打算があったんだろ。要はガキなんだよ、ガキ。ウチに恥じかかせてるの、なんで気付かねーんだっつーの。彼女の兄貴とその彼女だよ?普通あり得なくね?)

「ん?そら、どうしたの?」

 そらは我に返ると、大洋を睨み付けていた自分に気付いた。通話を終え、椅子の背もたれにかけたアウターを羽織ろうと、立ち上がった大洋と目が合う。

「ごめんごめん。ちょっと考え事してた。あれ?ひかりちゃん、遂にギブアップ?駅からここまでって、何気にややこしいしね」

 そらは話題をひかりに向けた。大洋は少し困り顔となり頷く。

「うん。ひかりは大丈夫だから待っててって言うんだけどね。迷ってるっぽいから、ちょっと迎えに行ってくる。野菜はこのまま置いておけばいいから。あ、豚肉だけは冷蔵庫入れておこうか」

 大洋はエコバッグの中から、豚バラ肉の薄切りを取り出して冷蔵庫に入れた。明日の食材の中で唯一の、A5ランクではない肉だ。大きな寸胴で作る豚汁の具材である。散々肉を食べた後に食することを考慮し、脂の風味を付ける程度の量にしてある。

 そらは大洋を送り出すと、玄関で小さく溜息をついた。多少なりとも段取りを良くしようと考え、食卓に戻ると買ってきた野菜を広げた。野菜の包装材をはがし、ピーラーや亀の子たわしを並べ出す。

(彼女を大切にしてたら、普通はさっきの大洋みたいになるよな〜。寒い中道に迷ってて可哀想だなとか、準備作業を嫌な顔しないで手伝ってくれてありがとうとか思ってさ。あいつ「肉?タダで食えるの?ヤベぇじゃん。食いてぇ食いてぇ。超腹空かせて行くし」しか言ってなかったな)

 悪びれた様子も気兼ねのカケラも感じない、屈託のない笑顔が鮮明に蘇ると、そらは深い溜息をついた。危うくピーラーで指先を切るところだった。

(高校卒業前と後だと、男ってそこまで精神年齢変わるの?イヤイヤ違うよ。その辺で変わるのってオナゴの方だ。じゃあなんだ。地の人柄か?確かに大洋も大地も、高校3年の時だって、今と同じようにしてるだろうし)

 独り部屋に残ったそらは、唇を尖らせながらキャベツの外葉をむしり始めた。キャベツは締めの和風焼きうどんの具として用いる予定だ。

………
「ひかりっ」

「あ〜っ。大洋クンっ」

 ヴィラ飯倉(マンションの名称)から歩いて1分程度の路上で、大洋はひかりを見つけた。この年の6月下旬に発売となったアップル社のiPhone4を片手に、周囲の建物を見回しているひかりの肩を叩く。ひかりは2週間ほど前にスマートフォンを購入したばかりで、大幅に機能を向上させたiPhoneのマップ機能を試していたようだ。

「来てくれたんだぁ。実はねぇ、ちょっと迷ってたの。きゃははっ」

「もう暗くなっちゃったし、今までは車で来ることの方が多かったしね」

 大洋は言葉を交わしながら、マンションにひかりを先導した。大洋の左側に従うひかりは、笑顔で続ける。

「やっぱりまだまだスマホに慣れないよぉ。ちゃんと使えるようになるのかなぁ。ねぇ大洋クンもiPhoneに機種変して。分からない時に質問しまくるの。きゃははっ」

「えー?だって僕は3月に買ったばっかりだよ。最低でも後1年半は使わないと」

「1年くらい使ったら、違約金も安めになるのぉ」

「そうなの?でも、もったいないよ。僕もこの携帯に慣れてきたしね。ひかりとメールや電話するのも支障ないし」

「そっかぁ」

 ひかりはFacetimeと呼ばれる、アップル社のビデオチャット機能を大洋と使ってみたかった。しかしその言葉は、そっと胸に留めた。大洋の金銭感覚や物持ちが昔と変わらないのが、無性に嬉しかったからだ。

「はっ。そうだ。弟君と妹さん、お待たせしちゃってるのかなぁ。それで大洋君が見に来てくれたとか?」

「ううん。妹は部屋にいるよ。僕と一緒に野菜を買ってきて、さっき戻ったところ。弟はまだ帰ってきてないよ。お肉屋さんに行ったり、明日使うワゴンを借りたり、バーベキュー道具を手配したり、いろいろやってくれてる。多分戻ってくるのは9時過ぎになると思う。あ、あと月乃さん。弟の同級生ね。彼女は8時頃かな」

「はぁ〜。遂に弟君と妹さんに会う日が来たねぇ。楽しみだけどちょっと不安。仲良しになれるかなぁ。月乃さんって子は、メイド喫茶で働いてるんでしょ?そういう子とお話しするの、初めて」

「うーん。まあ、そんなに気を遣わなくていいよ。僕はどちらかというと、そらがひかりに不心得な言動をするんじゃないかって方が心配で…」

「それ、こないだも言ってた。大丈夫だよぉ」

 ひかりはスマートフォンをバッグに入れると、軽く胸元を押さえた。もう片方の手は、大きな紙袋を提げている。エプロン、包丁やピーラーなど使い慣れた調理器具、手作りのカップケーキ。そして未使用のパジャマが入っていた。

(もうすぐ妹さんと会うんだ。あんまりよそよそしいのも良くないよね。大洋君と血の繋がった、大切な妹さん。仲良しになれますように…)


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コメント(8)

今回も楽しく読ませてもらいました!
彼氏の精神年齢上がったのに気づいたのは20歳のときに1回お別れしてからですね。
けいこの入院→病気判明→視覚失い→退院して
視覚障害リハセン入所して復縁したら変な束縛がなくなって、
喫煙再会しても文句言われず、
‘期待するから裏切られる’と言うようになり、
大学は違ってもモメることもなくなっていい感じにラクになって
彼は院まで進み修了とけいこの学部卒がちょうど同じ年で、
社会人になった彼は初年度は東京の本社勤務で有距離恋愛になりましたがつき合って通産10年目やったしだいたい月1回帰阪してくれるのでそれで充分だと思えました!
距離が愛を育てるって真なんやな。と思いましたwww
入社2年目から大阪の本店勤務になり近距離恋愛に戻りましたが近くなってもどうせ週末しか逢えません。
それでも、やっぱり片道5時間と1時間の距離では気楽さが違いました。
近距離万歳www
4年目になって再び東京異動辞令が出てプロポーズされました♪
単身赴任ですが、入籍してたら手当もつくし月2回の帰省費用も会社持ちになったので
1年目より寂しさは軽減されました。
有距離婚になって3カ月弱で大阪再移動となり同居婚です!
空もこれからに期待!!
束縛がなくなるっていいことでした◎
うっわぁ、そうなんですか×
束縛されるのってほんま大嫌い!
信じられへんの?と思ってしまいます。
だから、「期待するから裏切られる!」って言い出してくれたことにはホッとしましたwww
お互いが信頼関係持てたってことなんでしょうね。
思いっきり村上春樹小説の登場人物が言ってたことですけどねwww
読書のおもしろさなんて全く知らんかったバリバリ理系男でしたが、
高校在学中やったか卒業してからやったかに読むのん途中で嫌にならなさそうな1巻完結の読みやすそうでおもしろく思ってもらえそうな村上龍の「69」を勧めたらまんまと読書にはまってくれましてw
それからはどんどん上下巻や3巻完結の村上春樹小説を貸したり勧めたりしだして、
今ではなかなかの読書好きに育ちました!
新潮文庫のパンダyonda?という企画でついてる本のカバーの角の応募券集めてもらえる有名作家の顔写真入り腕時計(赤いバンドで太宰治の写真やったと思います)
あげて愛用してくれてましたwww

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