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ワライアル★自己紹介よろコミュのカーニバル  緑と赤の覚醒

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お前が2010年か。

まあ、短い付き合いになると思うけれど、よろしく頼むよ。

そう言って出した右手に、結果的につばを吐きかけられた気分だ。


2010年も、僕は僕なりに頑張ってみたのですが、あれをしてもこれをしてもうまくいかず、

なんだかなあという気になってミントグリーン色をした気色の悪いPSPをずっといじっていたのです。


その日も僕は虚脱感を持て余しながら、何とはなしに迷惑メール専用と成り下がったメールボックスを開いてみた。

未読メッセージに目を通す。

大抵がわけのわからないメールなのだが、一通のメールの件名に目がいった。


件名 : ★☆★クリスマスパーティーのご案内★☆★


 (ああ、これは確か)


ずいぶん昔に、合コン紹介サービスにメルマガ登録した際のもので、

2010年のクリスマスパーティのお誘いメールだった。

確か2年前だ、と僕は思った。

ずいぶんと煮え湯を飲まされ、夜風に存分に震えた記憶がよみがえった。

もうあれから2年もたったのかと思い、独り部屋で背中を丸めて息を吐いた。


そのメールを開き、横目で汚れきった独り暮らしの部屋を眺め、そうして行こうかなと思った。

今年ももうすぐ終わってしまうけれど、最後にもうひと頑張りしてみようかなと思った。


本稿は2年ぶりに集団クリスマスパーティというカーニバルに参加した潜入レポートである。

結論からいえば、遺書にすら近い。 そんな記事となる。

見るな。こんな惨めでいやしい僕を見るな。




会場は名古屋のおしゃれなバー、と記載されていたが、

何のことはなく、2年前に開いた会場と同じところだった。

運営会社は全員が全員、完全に頭に蛆がわいているなと思いながら、

参加費を握りしめて僕は地下鉄に乗った。


電車内で作戦を練った。

なんだかんだ言っても、2度目の合戦である。

いくら女性との接触機能にクリティカルな損傷をきたしている僕でも、

前回の失敗を振り返った傾向と対策くらい練れる。

まずは、2年前のクリスマスパーティでの失敗を並べ、対策を考えた。


 前回 : あまり早くに到着すると、がっついているみたいで恰好悪いと思って、少し遅れて行った
     ⇒ 奴隷船と化したバーの中で身動きが取れず、入口付近でうろうろするしかなかった

 対策 : 恰好がつかなくてもいいので、少し早めに到着して場所を確保。あわよくば住む。



 前回 : 女性との会話ができず、得意分野であるロマンシング サ・ガ2の話をまくしたてた

     ⇒ 「わたし向こう行きますね」

 対策 : ロマサガの話はなるべく控える。可能ならするが、なるべく控える。可能ならする。



 前回 : 四文字熟語をつくるグループワークで、『死』という呪いの漢字をひいた

     ⇒ 忌避される

 対策 : カードは事前にチェックし、意味不明な漢字を引いたら運営に交換してもらう。交換が不可な場合、他の参加者との交換の交渉をする。拒否された際には、殺しも辞さない。



大きく分けてこの3つの失敗についての教訓を生かせば、まず大丈夫だろうと車内で謎の自信を身に付けた。

そしてあれよあれよと女性との会話が弾み、

なんだったらもう会場の隅でペッティングの是非について強く懇願すらしてみようとまで思うようになっていた。


きもち高揚した気分で会場につく。

バーは相も変わらず地下にあるので、階段を下り扉に手をかけた。

前回では、60人参加スペースに200人が寿司詰めにされた光景を見た瞬間に軽いパニックに落ち入り、

そこからペースの全てが乱れてしまったわけだけれど、

今回は時間にも余裕があるし、大丈夫だろうと思って扉を開けた。


 「それみたことか」


唇が少しつり上がる。

計画通り、会場はまだまだ人が少なく、20人から30人ほどしかいない。

これでバー内を全て自由に歩き回れるし、女性の周りにも陣取ることも可能だろう。

前回の失敗がこうして一つ生きるごとに、僕が子孫を残せる(膣内に射精する)可能性が上がるわけだ。

RPGでいうレベルアップを実感した気分で、2年前は到達することが叶わなかった奥にポジションを確保することにした。




開始五分前。

人の入りが増え、会場も十分に歩けるスペースが少なくなってきたころ合いに、僕は独りそわそわして見せた。


 (おかしい……)


2年前のパーティの反省を材料に、今回の≪プロジェクト子孫≫の詳細を計画したわけだけれど、

これが十分に生かしきれない事態が起きてきた。

まずポジショニングである。

前回は奥に女性が集団で集まっていたので、今回はその集団に混ざろうと思い陣取りに成功したのだけれど、

僕の周囲にはいかつい中年男性がこれでもかというほど揃い、

ちょっとした週末のゲイパーティのような模様を呈していた。

そう思ったのは僕だけではないらしく、周りの男性もどこか腑に落ちない顔で、

会場に女性の姿を控えめに目で探してまわっていた。

奥のスペースに男性が集まってしまったことは誤算と言えば誤算だけれど、

これは場所を移動すればある程度解決できる問題なので計画の修正自体は可能だった。

しかしここにきて根本的ともいえる問題が生じていることに、

僕はオレンジジュースをちびちびと飲みながら気がつき始めていた。


 (女性がすこぶる少ない……)


少なかった。

前回は男女比率が5:5と予想以上に悪くない状況で、

中にはドレスやらを着た比較的めかしこみ系のアラサー女子がたくさんいたのだけれど、

今回は女性の比率がかなり少なかったのである。

男女比率8:2、好意的に見ても7:3ほどの極めてサバイバルな環境でのミッションとなっていた。

また、その過酷な状態に追い打ちをかけるように、
 ?女性のグレードが若干低下 
 ?男性のグレードがかなり上昇
というスーパーコンピュータMAGIですらショートしかねない異常事態が発生していた。

僕はオレンジジュースを飲み干し、うん、と思った。

頭には、ファミリーコンピュータ用ゲーム『コンボイの謎』のイントロが流れ始めていた。

つまりこれは無理ゲーだと、僕のゲーム脳に潜む理性がささやいた。




 「えー、それでは開始時間となりました。みなさん、どうぞ楽しんでください」


トナカイの恰好をした運営の男がマイクを持って言った。

その頃には女性も若干増えてきていたが、それでもまだまだ少ない状況だった。

僕はせっかく陣取った奥の陣地を離れ、女性の視察へとバー内を練り歩いた。

店内を一通り物色し元の場所に戻ると、案の定僕の座っていた席がなくなっていたので、

結局入口付近の便所の前に居場所を見出した。

なんだかんだで、ここが一番落ち着いた。 

ご小水の際には、わたくしトイレボーイにお申し付けください。

 
 「えー、クリスマスパーティということで、乾杯の音頭は≪メリークリスマス!≫といきましょう」


運営は言う。

どう考えても完敗の音頭の間違いだろうと思った。会場もざわつき始めた。


 「えー、それではみなさん! メリークリスマス!!」

 「……ェリー ゥィスマゥ……」


イケメンのバーテンダーが思わず顔を伏せたところを、僕は見逃さなかった。




クリスマスパーティの洞窟内。







開始してしばらくは周りの同性と軽い挨拶を交わした。

一人ですか? 

このサービスは初めてですか? 

ロマンシングと聞くと何を想像されますか?

とかたわいもないおしゃべりが広がり、さあこれから女性に話しかけるぞという鼓舞にも似た儀式だった。

僕もたがわず、本番前の軽い練習を兼ねて、近くの歳が近そうな男性と話していた。


しばらくして会場内の人の動きが盛んになり、僕の周りの男性は女性を求めて裸一貫で飛び込んで行った。

僕もそれに続こうと便所付近を拠点として遠征に出かけたのだけれど、

もともと女性の数が圧倒的に少ない苛烈な環境下において、

敵地仕様に全く対応していない超自室型ユニットの僕が力を発揮できるはずもなく、

誰にも話しかけることができず、変な真顔で便所付近に戻りエネルギーをチャージをしに戻った。

その繰り返しを5回くらい続けた。

会話の練習はしてきたのだ。

前回の場の雰囲気に倣い、まず女性にあいさつした後、

どこから来られたんですか?

と聞けばとりあえずの場がつながる、ということを学んでいた僕は、

(今から思えば滑稽なことだけれど)そのウェポン一つで自信をつけパーティに乗り込んでいた。

ところが女性の比率の想定外の低さにより、そもそも話相手がいないという事態に陥り、

正直僕はどうしたらよいのかが分からなくなってきて、ずっとイケメンバーテンダーに


 「オレンジジュースを。ロックで」


と低い声で囁いては、彼に何度か聞き返されとぼとぼと便所拠点に戻ってくることをさらに続けた。


それから30分後。

とうとう僕の周りに女性がやってきた。

口元の果汁を舐めとり、僕は彼女を見上げた。


 (見上げた?)


巨大だった。 強大だった。

180cmに届くかどうかの巨体だった。

僕は見上げてすぐに彼女の足元をチェックした。

高めのヒールを履いているならば、この高さもまだ自身に正常に落とし込むことが可能なのだが、

と思い一瞬で目をやりチェックしてみたのだけれど、そのジーンズから伸びる足元はまごうことなきスニーカーだった。

改めて顔を向ける。


 (でけえ)


こうして、巨人族の末裔と禁断の接触を果たしたのだった。



といっても、僕は特に身長に対して思うところはない。

そりゃ、可能ならば120cmのランドセラーに対しての性的欲求が暴れまわることもあるのだけれど、

多々あるのだけれど、頻繁に幼稚園の周りでニンテンドーDSで遊んでいるのだけれど、

別に背の高い女性に対しての魅力を感じないというわけでもなかった。

例え彼女のように僕より頭一つ高い身長であっても、

デートのときに僕がシークレットブーツを履くかもしくは竹馬に乗れば釣り合いがとれる。

だから身長でどうこう言うわけでもないのだが、問題は彼女のルックスだった。

もちろん僕も底辺人類代表として、それはもうひどいぐちゃぐちゃの顔面性を保持しているのだけれど、

彼女のそれはタンポポという女性芸人コンビの川村エミコに酷似していた。

アパホテルの社長に酷似していると置き換えても差し支えはない。

高身長とその特徴のある顔つきから、僕は魔界の巨木とエンカウントしたと改めて錯覚を起こした。


 (喰われるっ!)


初撃を凌ごうと、僕は自分のみっともない顔面を腕で覆う。

しかし彼女は僕に致命的な先制攻撃を繰り出すわけでもなく、簡単に挨拶をしてくれた。


 「こんにちは」

 「あ、こ、こ、こんぶりほ」


噛んだ。そして彼女に恥じ、詫びた。

巨人族の末裔だとか魔界の巨木だとかアパホテルの魔女だとかひどいことを思っていた僕に、

物腰の柔らかい言葉をかけてくれた彼女に、改めて詫びた。

そして彼女と少し話をすることにした。

見上げる。


 「お一人ですか」

 「はい。そうです」

 「僕も一人なんですよ」

 「はい」

 「少しお話でも」

 「はい」


自分にしたら悪くない滑舌だった。

大抵は緊張のあまり、短いセンテンスでも噛み倒し、その場でえ?え?と聞き返されるのだけれど、

今回は練習の成果か比較的スムーズに会話に持ち込めた。

よし、と手のひらを握った。

ここで早くもメインウェポンにして、


 「どちらから来られたんですか?」


ファイナルウェポンが渾身のドヤ顔の僕の口から発動された。

彼女はにこりと笑ってそれに返した。


 「わたし、ァヴェリィホから来たんですよ」


思考が乱れた。

彼女が何を言ったのか、全く聞き取れなかった。

会場のガヤが原因か僕の内耳が腐っているのかが原因かの判断はつかなかったが、

彼女がどこから来訪したのかがまったくわからない、本日何度か目のイレギュラーにぶち当たった。

僕は意を決して聞き返した。


 「ごめんなさい。いま一度」


彼女も会場がうるさくてうまく伝わらなかったことに気がついた(あるいは僕の内耳が爛れていることを察した)のか

柔らかな声でもう一度繰り返してくれた。


 「ノホゥイエプです。あの、クィボテェーの」


汗をかいた。

聞き返しても、肝心な地名が再び、全く聞き取れなかった。

おまけに謎の単語が追加されていた。


 (やばい、どうしよう。また聞き取れなかった。やばい。尿漏れしそう)


僕は焦った。

さすがにもう一度聞き返すことは失礼にあたると思ったので、

そのまま彼女の出身については謎を残した状態で会話を続けることにした。

けれど。


 「へえ、遠いところから来られたんですね」

 「すごく近くですけど」


こういうことになる。なるなる。そりゃなる。

会話のバリエーションが全くない僕は、

どこから来たのかを聞く

 回答パターンA : へえ、遠くから来られたんですね

 回答パターンB : へえ、近くにお住まいなんですね

 回答パターンC : 僕はロマサガが大好きなんですよ

しか用意してこなかったので、早速のチョイスミスを犯す羽目になった。

彼女の笑みに陰りを見た。


 「僕は**から来たんですよ」

 「へえ」

 「あ、はい。そうなんです」


このときに、僕がドヤ顔で掲げたメインウェポンが、主砲ではなくただの輪ゴム鉄砲か何かだということに、

ようやく気がついた。顎が外れそうになった。

用意していた会話が終わり、自分にとってエクストラステージへの突入を余儀なくされた僕は、

小刻みに震えながら声を絞り出した。


 「あの、あ、あの」

 「はい」


彼女に聞き出した地名を活用し、ご当地ステージに進もうと思ったのだけれど、

肝心の地名がわからない。再び聞き出すこともかなわない。

ァヴェリィホってどこだよ。ノホゥイエプの名産は何だよ。クィボテェーの水揚げ量はいくらだよ。

僕はもうやけになり、これだけ周りがうるさいなら僕も多少聞き取れないことを言っても会話が続くのではないかと思い、

一か八かの精神で言ってみた。


 「ブルァァフュッポだと、最寄駅はどこになるんですか?」

 「ワガサンチュになります」


通った!

通ってしまった。ブルァァヒュッポで通った!!ブルァァフュッポの最寄りはワガサンチュ駅らしいよ!!

地下鉄かJRか私鉄か詳細は全く分からないのだけれど、とにかく会話が成ったことに僕は勇気づけられ、

その騙し騙しでのトークを再開さることにした。うるさくて本当にありがとう。


 「僕の最寄りは**駅なんです。ここから30分くらいです」

 「わたしも20分くらいですね」

 「休日のせいか、少し地下鉄込んでました」

 「そうですね」


確実に拾っていく。

ワガサンチュ駅は地下にある。


 「お仕事は何をされているんですか?」

 「わたしは会社でOLをしています」

 「へえ。恰好いいですね」

 「そんなことないです」

 「会社は家から結構遠いんですか?」

 「そうですね、ここより少し遠いといった感じです」

 「会社にもワガサンチュ駅で?」

 「ワガサンチュ駅ってなんですか?」


そりゃこうなる。なるなる。こうなるわな。

ガヤとガヤの間の、ぽっかり空いたサイレントタームにうっかりワガサンチュを放り投げてしまった僕は、

彼女の思いのほか訝しげな視線で見下ろされた。

動悸が激しくなった。

ここで上手く素早くフォローをしなければ、この魔界の巨木に骨という骨を砕かれてしまう。

すぐに返した。


 「あ、あの、ブルァァフュッポには……」

 「ブル……、はい?」


死亡推定時刻、午後20:50。

死因:ァヴェリィホ(=クィボテェーのノホゥイエプ=ブルァァフュッポ)のワガサンチュ駅から来た巨人族の末裔との会話に失敗。

その後、僕からなけなしの経験値を奪っていった彼女は去り、僕は再び便所ボーイの任に就いた。



頃合いとなり、四文字熟語のグループワークが始まった。

この四文字熟語のグループワークというのは、なかなか秀逸な企画だ。

あらかじめ皆に配布されていたビンゴカードの裏に、一つの漢字が書かれている。

その漢字で4人一組となり、四文字熟語を作ろうという企画だ。

自分の漢字を確認し騒ぎ、欲しい漢字の相手を探しに会場内を歩き回れ、

あわよくばそれをきっかけに女の子とセッションできるという蛆の湧ききった運営にしてはナイスな企画だ。


 「えー、それでは、みなさん頑張って四文字熟語を作ってください。早くできたグループには、景品があります」


がやがやと騒がしくなる。

運営のスタートという言葉と共に、会場がうねった。


僕はポケットに忍ばせたビンゴカードを誇らしげに出し、再び確認する。


 『一』


四文字熟語において、これほど有利なカードはない。

トランプで言うところのジョーカーを引いた気分だ。

完全に運が回ってきた僕は慌てふためく愚民を縫うように、比較的盛り上がっている集団に突入した。

僕の考えではこうだ。


 「おやおや、お譲さん方。どうされましたかな」

 「なかなか漢字があつまらなくて」

 「それはお困りのようだ。どれ、僕が一肌」

 「あ、あなたはまさか」

 「『一』です」

 「素敵。わたしの『喜』と組みましょう」

 「お安いご用」

 「ああ、『一』の方。どうか私の『日』と『一日千秋』を探す旅に」

 「やれやれ、困ったな」

 「『一』様。あの、わたしと『一心同体』になってください」

 「こらこら、押すな」

 「わたしと」

 「いいえ、わたしと」

 「よし、わかった」

 「え?」

 「抱こう。みんなだ」


笑む。

『一』という無敵無敗のカードを手にした僕は現実間際の妄想を引き下げ、集団に入って行った。

がやがやわいわい。

みんなはお目当ての漢字が見つかっていないようだった。

僕はクールに顔を出した。

 
 「あの、僕、『一』ですが」


 「俺も『一』だよ」

 「僕も『一』」

 「わたしも『一』です」

 「あ、俺も『一』だ」


馬鹿野郎!

運営馬鹿野郎!!

この『一』率はどうなってんだよ!!

入り込んだ10人強の集団で『一』が5割弱を占めるって尋常じゃねえぞ!!!


 「えー、なかなかそろわないようなので、ヒントを出します」


運営がマイクを通して言った。


 「作れる四文字熟語にはすべて……、数字が入ります!!」


わかっとるわ!!

身に染みとるわ!!

なんだったら『一一一一』の愚連隊でお前のところ突貫したろか!!


完璧ともいえるカードを手にしたはずが、意味不明なインフレ現象によってこの企画でも結局僕は何もできず、

『海千山千』だとか『十中八九』だとかのグループが景品を奪っていくところを哀れな顔で見続けていた。



その後、恒例ともいえるビンゴ大会が始まった。

前回の景品はニンテンドーDSiだったのだけれど、

不景気のせいか目玉景品はipod shuffleへとかなりのランクダウンをしていた。

会場の盛り上がりもいまひとつだったが、どういうわけかビンゴは大の大人すら虜にする魔力があるので、

みな真剣に数字を確認しては厚紙に穴をあける作業に勤しんだ。

今年はPSPくらいの景品がでるだという高を括っていた僕は、

景品がipodと分かるや否や、目に見えてテンションがさがり、トイレのドアの前で暗く独りでビンゴに励んだ。

当然だが、僕がビンゴすることはなく、会場の盛り上がりもそこそこに時間は過ぎた。

残り10分。

僕は番号交換に盛り上がる集団から離れた、敗戦ムード漂う集団に身を置いていた。

もういい、と終了前にたまらず外に出た。


いつもならば、この会場から地下鉄に乗り込むタイミングで、何かしらのアクシデント、

つまりは会場の女性と帰るタイミングが重なり


 「あの、先ほどはお話できなかったですけれど」

 「ふむ」

 「電話番号の交換でも」

 「マイ・プレジャー」

 「ありがとうございます」

 「ところでこのあと」

 「え?」

 「少し遊びにでも行きませんか」

 「それって」

 「愛のままに、そしてわがままに」


こういったことが起こる一縷の希望を胸に宿すのだけれど、

よくよく考えるまでもなく、パーティで接触したのはあの魔界の巨木ただの一人だったので、

どうしようもないため息とともにすぐに地下鉄に飛び乗った。

こうして僕の2010年最後のカーニバルはたわいもなく終わったのだ。




電車内では浮かれたカップルが声高に話していた。

なんだなんだ、うるさいな、と窓に映る気色の悪い顔をした自分の奥にそのカップルを見た。

大学生くらいだろうか。

お互いの身体を不必要に密着させ、幸せそうな顔で見つめ合っていた。


 「なあ、カーニバルって知ってる?」

 「知ってるよー、それくらい」


カップルが騒ぐ。

ちょうど僕はお前のいうそのカーニバルを終えたところだ。

見るな、こんな死臭激しい僕を見るんじゃない。


 「じゃあさ、そのカーニバルの語源って知ってる?」

 「えー、知らなーい」

 「カニバリズムってあるじゃん」

 「知らないー」

 「人喰いってやつ」

 「えー」

 「カーニバルの語源て、そのカニバリズムから来てるんだって」

 「えー、怖ーい」

 「だから語呂も似てるんだって」

 「カズくん超物知りー」


カップルはわいわい騒ぎながら、次の駅で降りて行った。

その後ろ姿を追う。そしてその背中に向かって息をもらした。


それは違う。

違うのだ若者よ。幸福な若者よ。

僕も以前、気になって調べたことがあった。

カーニバルとカニバリズムの関係を。その語源性を。

カニバリズムは人喰いを、人肉嗜食を表わすに対し、カーニバルは謝肉祭を意味する。

同じ肉とで関係があるように思えるが意味合いが異なる。

カーニバルはラテン語のカルネ・ウァレという言葉が語源だったような、と僕は記憶を引きずりだしてみた。

カルネ・ウァレ。

……カルネ・ウァレ。


 (なんだ、ずいぶんと気のきいたことするじゃないか)


鼻から息をもらし、僕は少しだけ笑って見せた。

そして閉まったドアの向こうにいるはずの若者らを探したが、電車が発進して見つけることができなかった。

カルネ・ウァレ、つまり日本語に置くと。


 「肉よ、さらば」


小さく呟き、僕は2010年最後の肉に、簡単に別れを告げた。

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