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ワライアル★自己紹介よろコミュのKS5−6 サトヲ→ようじ→ウー

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★サトヲ



「それでは、本日、千秋楽の曲です。聞いて下さい。」



何も聞こえない 何も聞かせてくれない

僕の身体が昔より 大人になったからなのか

土俵に置いていた 初めて買った黒いマワシ

いくつもの決まり手が いくつもの時代を作った

思春期に小結から 関脇に変わる

マゲを探していた 汚れもないままに

飾られた行きばのない 押し寄せる座布団に

本当の「寄り切り」教えてよ

琴みつきのRadio



「物言い、は無しで」

俺は歌い終えると、最後に観衆に向かって言った。少し俯いて、相撲界を追放された時の事を思い返していた。

確かにあの時は土俵際だった。いや、違う。土俵際なんて言葉を使ったら「上手い事言った」なんて思いつつ、誰かと被ってしまいそうだ。がぶり四つだった事にしよう。
確かにあの時はがぶり四つだったし、勇み足だった。うーん、何だかしっくりこない。やはり、土俵際だったのかもしれない。まあ、よしとするか。

だって、俺は今こうして琴MITUKIとして歌手デビューし、成功したのだから。

デビュー曲の【琴みつきのRadio】はCDが売れないと言われるこんな時代に300万枚も売り上げたし、口癖の「MITUKIうっちゃり」は流行語大賞を受賞した。マゲを結っただけのMITUKIカットなんてヘアスタイルを街でよく見掛ける様にもなった。
俺はそんな金星ラッシュに、ただ驚くばかりだった。


「は、は、は、、、はっけよいっっ!!」

・・・ごめん、くしゃみ。MITUKIうっちゃり。


こんな俺は一体、この先、何処へと向かうのだろうか。
そんな事をふと考えながら、俺は顔を上げた。

「ノコッタ ノコッタ」

そんな俺の思いを無視するかの様に、観衆は俺を急かしていた。にしても「ノコッタ」って、おかしくないか?それを言うなら「アンコール」だろう。

それでも俺は、ぺちんとオシリを一叩き。ぷるんとオシリは応えた。いける。


「では、仕切りなおしで【おっととと 夏場所】。行こうぜ、両国っ!!」

俺は叫んだ。



★ようじ



【おっととと 夏場所】


この地球で この都会(へや)で 何が出来るの?

愛しくて 切なくて 角番

(Everybody come on!)
(Ah Yeah...Fu-! Come on KOTO MITSUKI)
(Here We Go! Hiromi Go!)

明荷ってなんだ しょっきりってなんだ
土俵際だ 被るとしても(Likishida! Yo!)

そんなもんや ミツル・ヤクー
あんたなんや マキコ・ウチダテー(Chanko Dining Waka!)

おっととっと 夏場所!

興業しようよ(ごっつあん!) 両国行こう(はっけよい!)

Ah 座布団という名の打ち上げ花火




歌った。俺は歌いきった。
途中だいぶ端折っちゃったが、とにかく俺はやりきった。
ちょいちょい意味不明であっても、意味なんて後づけでどうにでもなる。


怖い。 怖かった。


満員御礼の観衆の前で歌うことが、俺にとってこれほどまでの恐怖だったとは驚きだ。恐怖のあまり途中の「おっととっと」をずぶねりってしまったよ。MITUKIうっちゃり。

−オレに歌手なんて、しょせん死に体なのかもしれない。

いや、違う。そんなはずはない。むしろかばい手のはずだ。オレは負けない。負けられない。

弱気な心を奮い立たせるように、ぺちんとホッペを一叩き。大銀杏が夜の蝶になった(?)。まだ、いける。


「ノコッタ ノコッタ」


−2度目のノコッタ、か。
俺は摺り足でステージ中央へと向かう。


「決まり手の一曲、聴いてください。【相撲部屋とYシャツと私】」


そして静かに、歌いはじめた。



★ウー



【相撲部屋とYシャツと私】


取組があるのよ 幕下の白星になる私

疑問に思うならば ちょっと聞いて欲しい

張りすぎて負けたの 2連敗までは許すけど

3連敗決めた楽天 その上口止めと強請らないで


(相撲)部屋とYシャツと私 愛する角界のため

毎日磨いていたいから 時々マゲを結ってね

愛する角界のため 力士でいさせて


いつわらないでいて 力士の勘は鋭いもの

あなたは強請るとき 右の拳が上がる

あなた恐喝したら 任意の事情聴取に気をつけて

私は痛み分け覚悟 芋づる式で一緒に逝こう


(相撲)部屋とYシャツと私 愛するちゃんこのたれ

毎日湯がいていたいから 床山の誘うパーティー

愛するあなたのため おしゃれに張らせて





人は、音に酔う。

人は、歓声に酔う。

満員御礼の向正面から押し寄せる声援を軽くいなしたつもりの俺も、既にその音圧に酔っ払っていたのかも知れない。
それでも俺は背を向け、勝ち名乗りを上げる。


「ノコッタ ノコッタ」

・・・取り直しは無しだ、もう俺の勝ち越しだよ。
それに今日は随分かわいがってやったはずだ、御免蒙るぜ。



踵を返して袖に消える俺に、それでも歓声は鳴り止まなかった。



★サトヲ



やっぱり【しこ名もなき詩】にすれば良かったかな。
俺はステージ裏から控え室に向かいながら考えていた。観声は、まだ響いている。俺は小声でそれに応えた。

「誰か寄り切りゃ汗が飛び 自分の胸に突き倒し〜♪だけど・・・」


だけど・・・

俺が口ずさんでいたら、廊下に女性が1人、立っていた。出待ちにしては、あまりにも猫だまし。そんな行動は、あまりにも勇み足。
俺は、近づき女性に物言いをしようとした。はっけよい、はっけよい。

「あなた、一体どこから・・・」

俺はそこまで言い掛けた所で、止まってしまった。それは、その女性があまりにも美しかったからだ。
例えるなら、高嶺の花・・・そう、まるで、貴乃花。いや違うな。若乃花(先代)ぐらい、花だった。落ち着いた雰囲気から察するに、血液型は雲龍型だろうし、出身地は九重県に違いない。















そういや、最近、どす恋なんてしてなかった。

いつも、独り相撲ばかりだった。

俺は、俺は、女性に声を掛けた。


「はっけよい?」



★ようじ



「は? なんですか、それ?どういう意味ですか?」

俺の甘い囁きに、高嶺の花がつれなく答えた。高嶺の花、っていうか、若乃花(先代)似が。そりゃそうだ。なんだよ、「はっけよい?」て。俺この人に何聞こうとしてたんだよ。

「誰が若乃花(先代)だよ。てめぇその口、細かく刻んでちゃんこの具材にしたろか?」

若が、凄みのある低い声で俺を威嚇する。どす恋からの、どす声。

「あの、あなた、誰ですか?」恐々尋ねると、彼女はうんざりしたように答えた。

「MITUKIさん、一体どうしちゃったんですか?あたし、佐藤です。あなたのマネージャーの、さ・と・ウ。」

ああ、そうだ。彼女はマネージャーだ。マネージャーの、佐藤。
ここにきてのぶちかましの女子投入にも関わらず、佐藤。この流れにあって「ケイコ」でも「ちゃん子」でもなく、佐藤。

「あの、そういうの、もうやめにしませんか?」

佐藤が物言いった。

「え?なに?やめるって、なにを?」

「ですから、その、知識もないくせに無理やり相撲用語ねじ込もうとするやつです。正直、飽きてきましたし。…それにMITUKIさん自身、やりづらそうですし。」

「えっ そうなの?」

佐藤的にはそれでオッケーなの?
俺、解放されるの?
いいの?
ほんとに、いいの?


「はっけ、よいの?」


「だから、それもさっきからなんですか?MITUKIさん、ちゃんこしてください!ほんとに、もう!らしくないですよ!」

佐藤がいつになくぷりぷりしている。

「ごめんよ、ほら、ここのところ過密スケジュール気味だっただろ? 疲れてるんだよ、きっと。 MITUKIぐったり。」

俺は彼女のご機嫌取りに徹してせいいっぱいおどけて見せた。

らしくない、か。

「なあ、俺らしさって、一体なんだろうな。」

ぶっちゃけ俺は、俺自身のことをほとんど何も知らない。
『なんやかんやあっておすもうやめちゃった元力士の人』という以外、ほぼ一切の知識がない。(そしてWikiるつもりもない。)

「はぁあ?」めんどくせぇな、という表情を佐藤が返す。

俺は俺のことをほとんど何も知らない。
俺が言いたいのはつまり、俺は俺という最も近しいはずの人間のことを、わかっているようでいて実は何もわかっちゃいないということだ。それはなにも俺だけに言えることではない。大抵のやつは皆そうなんじゃないか?
俺を取り巻く環境が激変したせいなのかもしれない。相撲界を追われてからというもの、俺は同じことばかりをいつまでもずっとぐるぐるぐるぐる、ぐるぐる舞の海りながら考えている。曰く、

―俺らしさ、って、何だ?―

かつては、相撲をとってさえいればそれが自分らしさなのだと思っていた。「自分らしさ」とは確固たる何かなのだと、信じて疑わなかった。それがどうだ?自分らしさなんて、実のところ薄っぺらでがらんどうで脆いものじゃないか。それこそ小指の爪先程度のひっかき傷で如何様にも揺るがされて破壊されて崩壊する。いまとなっちゃかつてそう信じたはずの俺なんて、もうどこにもいないじゃないか。そうだ、言ってみればつまり自分らしさなんてものは ―――ぐふぅぅぅ!!

突如、俺の横隔膜が激しく痙攣を起こした。
佐藤が慌てて駆け寄ってくる。こんな時ばかりは、さすがマネージャーだ。

「MITUKIさん!? どうしました!?MITUKIさん!大丈夫ですか!?」
















「・・・・・・。   なんですか?今の。」

「いや、俺もああいうのやってみたくて・・・。ごめんなさい。ただただ、ごめんなさい。」

ああまた怒られると思ったが、意外にも佐藤はうふふ、とかわいらしい笑みを見せた。

「ふふふ、MITUKIさんたら、だいぶ「らしさ」が戻ってきましたね。 もう!さっきは心配しちゃいましたよ。」

・・・そうか、これが俺らしさか。やっぱわかんないや。もういいや、どうでも。

「そんなことより、じゃーーーん!!」佐藤が鼻息荒くおっつけてきたのは、俺にとって初場所となる、ベストアルバムだった。

「待望のMITUKIさんベストアルバム、いよいよ今日発売ですよ!ほら!」佐藤が嬉しそうに言う。ああ。こいつの笑顔を守ってやりたいな、なんとなく、そんな気分になってしまう。こいつと、それから相撲界の今後を見守っていきたいな。

「そうか。ついにか。どれどれ」俺はベストアルバムを手にとって眺めた。


1 おっととと・・・夏場所
2 悲しみは雪駄のように
3 コトミズキ
4 バンザイ〜桟敷でよかった〜
5 夢見る序二段じゃいられない
6 相撲部屋とYシャツと私
7 しこ名もなき詩


ふふふ・・・  いいじゃないか。
俺自身、選曲にはこだわり抜いたんだ。 「何も言えなくて夏場所」は被るからはずしたし、「チャンコの海岸物語」もイマイチだからやめたんだ。
なんだか愛しいな。
今日は、いい日だ。コンサートも大成功だったし、同日にベストアルバムまで発売できるなんて、MITUKIうっちゃり。ああ、興奮して使い方を間違ってしまった。正解なんてあるのか?

なんだか今日は気分がいい。

よし、歌ってみようかな。1曲目から7曲目まで、通しで歌ってみようかな。もちろん次話で、だが。

「それにね、今日はもうひとつMITUKIさんに嬉しい報告があるんです! な   ん   と  ! ドラマの主演、決まりましたーーー!!」

「えっ、ほんとに?」

「嘘ついてどーするんですか! えっとですね、タイトルは【愛というしこ名のもとに】です。」

「えっ、それって仲間っていいな!友情っていいな!がテーマの1990年代を代表するトレンディードラマじゃん!」

「よくご存じですね?あ、もちろん主題歌はMITUKIさんの【悲しみは雪駄のように】ですよ!」

「すげぇ。」

「がんばってくださいよ!MITUKIさん、ここが正念場ですよ! 言いにくいですけどMITUKIさん、ananの『今年消えそうなタレント』2位にランキングしてますからね。 たしかにMITUKIさんのその、裸に海パンスタイル、小島よしおとダダかぶりですしね! きゃは」

ドラマが決まったことがよっぽど嬉しいのだろう。
すっかりご機嫌の直った佐藤は「ほら、あの夕陽まで競争!ハッケヨーイ、ドン小西!」と言うやいなや駈け出した。


「ちょ! オレのこれ、海パンじゃねーし!!!」


俺は遠ざかっていく佐藤の背中を追いかけて、走った。

やってやろうじゃないか。なんだって、どす来いだ。


俺らしさなんて、今はどうだっていい。



★ウー



―あれからどれくらいの月日が経っただろう。

月9の枠で初主演したドラマの視聴率は初回から10%を割り、異例の3話寄り切り、ベストアルバムの売上も見込みには大きく届かず、俺は力士だったあの頃のように、坂道を転げ落ちるように芸能界から姿を消した。
デブだから、デブだから転げるのが速いとでもいうのか。
俺は躓いたつもりなんてなかったのに。















なんて言ってみても、もはやオヤジギャグにすらならない。
密やかに「あの人は今」的なオファーを待つ毎日だ。

手元にノコッタものは、少し老いた人よりぽっちゃりのこの体だけ。



・・・いや、違う、か。



「MITUKIさん、今日はタマゴが安かったんですよ!」

スーパーの袋をひらひらさせて、佐藤が嬉しそうに帰って来る。

「そんなに振り回すとタマゴが割れるぞ」

「割る手間が省けるってもんですよ!」



いそいそとエプロンをして台所に向う佐藤。
俺のマネージャーだった佐藤は、俺がプロダクションをクビになった時、一緒にプロダクションを辞めた。

『あたし、MITUKIさん以外をマネジられません!』

なんて言って。



「なぁ佐藤」

「なんですかMITUKIさん?」

「すまなかったな、俺がもうちょっとうっちゃっていれば・・・」

「またですか?その話もこじつけ相撲単語も聞き飽きました、それに」

「それに?」

「ごめんなさいよりも、ありがとうを言い合える二人でいようって、約束したじゃないですか」

「そうだったな・・・ありがとう、ありがとう佐藤」

「こちらこそありがとうございます」



ごめんなさいは、ありがとうに変換できるんだって、俺は佐藤と会うまで知らなかった。
台所に立つ佐藤の後姿に頭を下げ、もう一度ありがとうと心の中で呟いた。





―知らぬ間に築いてた

 自分らしさの土俵の中でもがいてるなら

 誰だってそう 僕だってそうなんだ―



いつかの歌。
人生は取捨選択の連続だと誰かが言った。
だけど、人よりぽっちゃりな俺の選択肢はさほど多くはなかった様に思う。
やりたいこと、やりたくないこと、出来ること、出来ないことは日増しに俺に現実を突きつけた。

自分らしく、自分らしくあろうといつも思っていた。

でも、自分らしさなんてものは、ある少ない選択肢の中から、言うなれば選ばされただけの虚像に過ぎないのかも知れない。



「さぁ、ご飯もできたし乾杯しましょう」

「ああ、でもな佐藤」

「はい?」

「ワンカップ大関は、ちょいと皮肉過ぎやしないかい?」

「きゃは、気付きました?」


いつも、唯一無二の自分でと、自分らしく振舞う事ばかりを考えていた。
でもケラケラと笑う佐藤を見て、自分らしさなんてなんの意味も持たないんじゃないかと思う。俺は、らしいなんて曖昧な定義じゃなく俺だ。背伸びしようが身を屈めようが俺自身でしかありえないのだ。なら―



***エンドロール***


【しこ名もなき詩】


 ちょっとぐらいの残り物ならば

 残さずに全部食べてやる

 Oh kawari

 ごまだれ

 どんぶりを握りしめる


 君が僕を寄り切るってんなら

 その喉取って投げてやる

 NO dowa NAGE 僕はノーダメージ

 大盛りの塩も投げる


 あるがままの心で生きられぬ弱さを

 誰かのせいにして相撲してる

 知らぬ間に築いてた自分らしさの土俵の中で

 もがいてるなら

 僕だってそうなんだ


 幕内 十両

 何をくすぶってんだ

 ライス カレー うどん 米

 足元をごらんよきっと転がってるさ



************



琴の歌光り喜びの酒。

大関横綱七転び八起き。

取り直しの機会は無いけれど、躓いて、転がって、這い蹲ったって、人生は、待ったなしだ。





「はっけよい?」



コメント(22)

すごいです。
一票入れさせてください!
とんだドスコイですね!
いっぴょう!
やばい!マジおもしれぇー!

ちょっと感動までいきかけましたよ!
まさかのホロリ!
最高でした。
一票!
うまい!!
感動しました!

一票です!
かっこいいー!!最初から最後まで全部面白かったです!一票です!
すげー!!!読みながら脳内でそれぞれの曲が流れましたwww
どれも名曲www
そして最後に感動しました!!

一票!


名曲がwww
脳内再生力ハンパないですw

一票!
チームワークすげぇ!

完成度高いですね

一票です!
面白すぎてちょっとゲロ出ました

一票です

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