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あいだーぬんリレー小説コミュの付かず離れずオイル・アンド・ウォーター/後(個)

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 後編です。
 前編はこちら。
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=36912429&comm_id=3786423
 

 *

「もう、ホント、わけわかんないって感じでしょー?」
 喋り疲れて喉がカラカラになってしまった。林檎ジュースをストローでちゅるちゅる吸い上げると、それは瞬く間にカラッポになってしまった。名残惜しい気持ちで、溶ける氷が残している水っぽい部分を吸い上げる。
 桜井さんはときどき質問を挟んだり同意したりする程度で、静かにわたしの話を聞いてくれていた。お仕事の邪魔にならないのかと今になって思い至ったけど、お客さんが増える気配は未だにないようで、白髭のマスター一人で仕事は事足りるらしい。
「そうねぇ。はっちゃん、どう思う?」
 桜井さんは、そう言って傍らのはっちゃんに視線を向けた。はっちゃんは話の途中からカウンターに戻ってきて、わたしが話した壮大なスケールの物語の全貌は掴めていないはずだった。けれど、はっちゃんは柔らかく微笑んで、「そうですね。ユキエさんの気持ち、なんとなくわかるかもしれません」と言った。
「ええっー! ど、どういうことですかっ?」
 はっちゃんは、羨ましいくらいに長くてさらさらの黒髪が良く似合う美人さんだ。メイクは最低限しかしていないんだろうけれど、彼女の年齢が、わたしにはどうもよくわからない。大学生のようにも見えるし、ときおり高校生みたいに幼くて無邪気な表情を見せることもある。バーテンの制服をおしゃれに着こなしている彼女は、しかし、けれどただの給仕さんではない。
「もちろん、これはわたしの想像ですけれど」はっちゃんは少し考え込むように、人差し指を唇に押し当てて言う。「杉本さんは、遼子さんとお付き合いをしているんじゃありませんか? そのことに、マクドナルドの会話の途中で、ユキエさんが気付いてしまったんです」
 さらりと言われたとんでもない事実に、わたしは暫く面食らって学校の図書室にあるパソコンのウィンドウズみたいにフリーズしていた。
「え……。うえええ?」情けない声が上がる。「ど、どういう、ことですか?」
 はっちゃんは、他人を驚かせることに慣れているのだろう。くすっと笑って説明してくれた。
「単純に、そう考えれば全て説明できるんじゃないか、ということなんです。ユキエさんは、杉本さんのことが好きなんでしょう? その杉本さんを誘って食事をするように提案したのは、祥子さんなんじゃないですか?」
「そりゃ、そうですけど……」
「祥子さんは、恋のお手伝いをするのが得意でしょう? 悩んでいる子の力になりたいっていう、そういう気持ち、とてもよくわかります」はっちゃんは真剣な表情で言う。「けれどね、逆にそれがあだになってしまうことだってあるんです。それは、覚悟しておかないといけません」
「え、ど、どういうことなんですか? っていうか、その、杉本先輩と遼子先輩が付き合ってるって、どういうことです?」
 頭の中、パニック中。不正な処理が行われたため強制終了しますって感じだった。
「遼子さんの意中の男性は他校の男子だっていうことを、祥子さんはご本人から直接聞いたんですよね。だから、杉本さんは遼子さんと付き合っているわけじゃないと結論付けた。その結果、ユキエさんを後押しして、取り合えず杉本さんとの会話の機会を作ろうと提案した。それが、この前のマクドナルドでのお食事。違いますか?」
「いや、それは、そうですけど……」
「祥子さんが恋の保証をしてくれて、取り合えず最初のステップの場所をセッティングしてくれた。それなのに、会話の途中で、実は杉本さんと遼子さんが付き合っているのだと知ってしまったら……。当然、ユキエさんは誰を信じたらいいのかわからなくなるし、祥子さんがいったいどこまで知っているのか、疑わしく思えてしまう。やり場のない気持ちをぶつけるように祥子さんを恨んで、避けるようになってしまう気持ちも、わからなくはないんです」
「で、ですから……」わたしは降参するように両手を上げてしまった。外国人みたいなポーズだった。ヘルプミーって感じだ。「どうして、先輩達が付き合ってるってことになるんです? そうだとして、なんでユキエだけが気付くわけ?」
「ユキエさんの機嫌が悪くなったのは、彼女がトイレに立ったときですよね」
「そう、ですけれど……」
「これは、あくまで想像だけれど──」
 はっちゃんは、黒くて水晶のような瞳を虚空に向けて、見えない空間にある文字を読んでいるみたいに、そこをじっと見上げていた。右手の指先はくるくると動いて、自分の長い黒髪を弄んでいる。左手が、その右肘を支えるようにしていて、なんだか学校の先生みたいだった。
 はっちゃんは言う。
「最初にマックの二階へ行ったのは、ユキエさんと遼子さんの二人でしたよね。当然、最初に二人で席に付くときは、よほど仲が良くない限りは、向かい合って腰掛けるでしょう? だから、ユキエさんと遼子さんは、向かい合って座っていた。違いますか? そして祥子さんなら、たぶん杉本さんを、ユキエさんの隣の席へ座らせたいと思うはず」
「そりゃ、そうですけど──」
「けれど、それは失敗しました。ユキエさんがトイレへ行くときに、祥子さんが腰を上げたということは、二人が並んで座っていたってことですもの。ああいうのってタイミングもあるし、言葉に出さない限りは難しいですしね。この場合、祥子さんが先に遼子さんの隣に座ってしまえば、試みは成功します。けれど、祥子さんより先に杉本さんが前を歩いていたのなら、杉本さんの方が先にテーブルに到着する。祥子さんはコーヒーをトレイに載せていたのだし、杉本さんを追い越してテーブルの席に付くなんて不自然なこと、できなかったでしょうしね」
「えっと……」わたしの脳味噌フル回転中。「杉本先輩が、ユキエじゃなくて、遼子先輩の隣に座ったから、二人が付き合ってるってことですか?」
「ユキエさんはその日、スニーカーを履いていて、靴紐もほどけていた」はっちゃんてば、わたしの質問をシカトして指先にくるくる髪を巻きつけている。話をするときのくせみたいだ。「たぶん、憧れの先輩と会話していることに夢中で、そのことにずっと気付かなかったんだと思います。マックでの会話の途中で、ユキエさんはトイレに立ったけれど、そのときに靴紐がほどけていることに気付いたんです」
「えーと……。ど、どういうことですか?」
 助け舟を求めて桜井さんを見ると、彼女はわたし達を放置して別のお客さんの相手をしていた。ああ、ひどい。無情な世の中。はっちゃんは説明を続ける。
「そのときに、絶対に靴紐を結ぶでしょう? だって、事前に祥子さんが、トイレの床は水漏れしているって教えてるんですもの。靴紐がほどけていることに気付かなくても、トイレへ入るときには足元に意識が行くでしょうし、遅くともそのときに靴紐がほどけていることに気付くと思います。そして、トイレのそんな床に、スニーカーの靴底はまだしも、靴紐を浸したいと思うでしょうか?」
「あー、それは……。おお、確かに」
 わたしなら、絶対に靴紐を結んでおく。靴紐がほどけたまま、まーいいやと足を踏み入れる気にはなれない。いやしかし。
「えっと、え、それが、どう関係するんですか?」
「スカート、短かったのでしょう?」
「は?」
 はっちゃんの質問は、突飛すぎた。彼女はくすっと悪戯っぽく笑う。
「ユキエさんはスカートを短くしていたんですよね。当然、靴紐を結ぶために屈むとき、人の視線を意識すると思います。けれど、トイレの方へ背を向けて靴紐を結べば、まず誰かに見られる心配はありません。まぁ、トイレから誰かが出てこなければ、だけれど」
「えーと……?」
「そのとき、ユキエさんには、当然、三人のテーブルが目に映る。普通では見られない視線の高さでね。そのときに、ユキエさんは見てしまったんです」
「あ……」
 そこまで言われて、ようやくわかったような気がした。
「そう。周囲に秘密にしているカップルならよくやると思うけれど──」
「そっか──。先輩達、テーブルの下で、手を繋いでいたんですね」
「そうです。普通の目線からは絶対に見れないこと──。それを、偶然、ユキエさんは見てしまったんじゃないですか? だから、三人から裏切られたような気がした」
「ああ……」
 なるほど……。
 思わず息が漏れて、わたしはカウンターに項垂れるように突っ伏してしまった。ようやく、ユキエのご機嫌斜めな理由を知ることができた。知ることはできた、けれど……。
 むくり、と身を起こして、はっちゃんを見る。
「え、でも、ひどくないですか。わたし、二人が付き合ってるなんて知らなかったし、ユキエに、べつに、そんな悪気あったわけじゃないし……。そんなつもりじゃ……」
 優しく見守るように、ふてくされたわたしの顔を覗きこんで、はっちゃんは言う。
「そのことを、ちゃんとユキエさんに伝えた?」
「それは……。え、だって、わたしが謝らないといけないわけ?」そんなの、なんか理不尽じゃない? わたし、なんも悪いことしてないし。「なんかひどくないですか?」
「謝るとか、誰が悪いとか、そういう問題じゃないと思います」
 彼女はまっすぐにわたしを見て、言い聞かせるように頷いた。
 そりゃ、そうかもしれないけれど。けど、ユキエ、かなりご機嫌斜めだし。杉本先輩のこと、本気だったし……。
「もし、わたしが謝ったら、ユキエ、赦してくれるのかな……」
 かなり本気だったみたいだし、彼女、気難しいところあるし。もしかしたら誤解が解けずに、このまま絶交、なんてことに……。
 どうしよう。あれ、なんか、単なる可能性の問題なのに、なんだか怖くなってきた。寒いわけじゃないのに、身体が震えて、わたしは縋るようにはっちゃんを見ていた。
「祥子さん、知ってる? 水と油はね。決して混ざることはないんです──」
 彼女はそう言って、わたしの近くにあるミニ・キャンドルへ指先を近づけた。危ない、と悲鳴を上げそうになったとき、勢いよく蝋燭の炎が燃え上がって、彼女の手に煙草の箱みたいな、白いトランプのケースが現われていた。唖然と、彼女を見上げる。本当に、毎回思うんだけど、この人、本当に魔法使いなんじゃない──?
 はっちゃんは、ただのアルバイト店員でもなければ、バーテンさんでもない。このおしゃれなレストラン・バーですてきなマジックを見せてくれる、マジシャンなのだ。
 彼女は何事もなかったかのように笑って、炎の中から現われたトランプをカウンターの上に置いた。そのケースの中から、何枚かのカードを取り出す。
「水と油ってね。その性質から、絶対に混ざることがないんです。トランプのカードにある二色もそうなの。赤いカードと黒いカードって、絶対に混ざらないんですよ」
 そう言ってカウンターに並べられたカードは、赤い数字のカードが四枚と、黒い数字のカードが四枚の、合計八枚だった。わたしはちょっぴり唖然としたまま、それを見ていた。
「赤いカードと黒いカードは、インクの成分が違っているから、絶対に混じったりしません。本当ですよ? ほら、こんなふうに交互に置いていっても──」
 赤、黒、赤、黒──。と数えながら、彼女はカウンターの上に、カードを一つに重ねていく。わたしの目の前で、二色のカードが、確かに交互に積み重ねられていった。
 八枚のカードが、一つに束ねられる。
「こんなふうにしても、赤と黒は、決して混ざりません」
 ぱちん、と彼女が指を鳴らした。その音は、いつ聞いても心地良い。
 彼女の指先がカードに添えられて、重なっているそれをそっと広げていく。
「え、うそっ?」
 思わず、悲鳴を上げた。赤いカードと黒いカードと、確かに交互に重ねられたはずなのに、彼女が指先で広げたそのカードの束は、今はもう、赤と黒四枚ずつ綺麗に二分されていたからだった。ど、どうなってるの? カードに仕掛けがあるわけ? え、でも、どんな仕掛けならこんなことができるの?
「こんなふうにね、水と油は、絶対に混ざったりしないんです。けれどね、これって、人間に関しても言えることなんじゃないかしらって」
「え?」
 はっちゃんは、もう一度カードを、赤と黒交互に重ねていく。八枚すべて重ねたところで、トランプのカードを裏向きに伏せた。
「人間って、どんなに仲が良くっても、決して混ざることはないんです。だって、違う生き物なんだから、仕方ないでしょう? けれどね、面白いことに水と油って、喩え話に出てくるときはいつも一緒なのよ。混ざらないけれど、絶対に一緒なの。トランプのカードもそうね。赤と黒は混ざらないけれど、赤と黒は常にトランプ一組の中に存在している。この二色がなければ、ゲームもできないし、マジックもできない」
 はっちゃんの言葉は、正直あんまり理解できなかった。彼女は言いながら、指を鳴らしてさっきのカードを表向きにした。上が赤いカード四枚で、下が黒いカード四枚だった。また分離していた。正直、気持ち悪かった。はっちゃん、やっぱり現代に生き残った魔女なんじゃない?
「くっ付いたり、離れたり……。人間って、そういうものなんです。けれど、逆に考えれば、離れることもあれば、くっ付くことだってあるってこと。祥子さんは、人をくっつけるの、好きなんでしょう?」
 はっちゃんは、わたしを見てにっこりと笑う。
 わたしは勢い込んで、カウンターに身を乗り出すみたいにして訊いていた。
「あ、あのっ……。なんて、謝ればいいんでしょう……?」
 彼女は見惚れてしまうくらいの笑顔を浮かべて、自信たっぷりに言う。
「謝る必要なんてありません。ただ誤解を解けばいいの。祥子さんは、自分の気持ちをちゃんとユキエさんに伝えた? 言葉にしないと伝わらないことって、たくさんあると思います」
 わたしは林檎ジュース一杯のお金を払って、お店を出た。外はすっかり暗くなっていて、冷たい風がびゅーびゅー吹いていた。思わず鼻水が垂れそうになって、制服の袖でごしごし鼻を擦った。駆け足で、駅まで走った。
 前の席に座ってるユキエに黙々と電波を送るだけじゃだめだ。ユキエがなにを考えているのかわからないように、ユキエだって、わたしがなにを考えているのかわからないのだ。言ってくれなきゃわからないじゃん? そりゃ当然だ。気持ちは、言葉にしないと伝わらない。
 人間って、くっ付いたり離れたりする。わたしがお節介を焼いて成立させたカップルだって、くっ付いたり離れたりを繰り返している。
 けれど、最終的には、やっぱりくっ付きたい。くっ付けたいな。そういうのの達人になれたらいいと思う。
 明日はユキエを誘ってカラオケへ行こう。
 歌うのは、ちょっぴり情けなくて、可笑しくて、それでも泣けちゃう、バンプのラフ・メイカーがいい。

 "oil and water" end.

コメント(8)

日常の謎を短く書いてみる練習。惜しくも一万文字のmixiの制限に引っ掛かった。

スピンオフ的な。
トリックのネタ思い出して吹いた(笑)

やっぱキャラがしっかりたってるぴかぴか(新しい)
マジシャンの女の子、連載で書いてたからキャラが出来上がってるなぁーって
>「赤いカードと黒いカードは、インクの成分が違っているから、絶対に混じったりしません。本当ですよ? ほら、こんなふうに交互に置いていっても──」
 赤、黒、赤、黒──。と数えながら、彼女はカウンターの上に、カードを一つに重ねていく。わたしの目の前で、二色のカードが、確かに交互に積み重ねられていった。



水と油が混ざらない問いかけの前に
酉乃「赤と黒は混ざったら、何色になるとおもいますか?」
祥子「紫・・でしょう?」
酉乃「赤いカードと黒いカードは、インクの成分が違っているから、絶対に混じったりしません。本当ですよ? ほら、こんなふうに交互に置いていっても──」
> 前の席に座ってるユキエに黙々と電波を送るだけじゃだめだ。ユキエがなにを考えているのかわからないように、ユキエだって、わたしがなにを考えているのかわからないのだ。言ってくれなきゃわからないじゃん? そりゃ当然だ。気持ちは、言葉にしないと伝わらない。
 人間って、くっ付いたり離れたりする。わたしがお節介を焼いて成立させたカップルだって、くっ付いたり離れたりを繰り返している。


→くっついたり離れたりするっていう表現より
「人は出合ったり、別れたりするけど、でも私はユキエとは友達だから仲良くしていたい。」的な表現はいかが?
>けれど、最終的には、やっぱりくっ付きたい。くっ付けたいな。そういうのの達人になれたらいいと思う。

この表現にある「くっつきたい」って水の上に油が浮いている状態ですか??
水と油はそもそもがソリが合わない、ある種「犬猿の仲」みたいな表現ですよね?
喧嘩するほど仲が良いという意味合いで使用されてるならまぁかまわないですが。

 水と油はくっつきません。ちなみに無駄知識水と油は乳化材を与えることでまざります(卵をまぜるとマヨネーズです)逆にオイル&ウォーターの中に祥子ちゃんが乳化材となって人々をくっつけるなら良いかもしれません。

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