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あいだーぬんリレー小説コミュの付かず離れずオイル・アンド・ウォーター/前(個)

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 女心と秋の空とは言うけれど、わたしはそれほど気まぐれな性格じゃないと思う。少なくともユキエ程には──。

 彼女からシカトされるようになって二日が経った。相変わらず電話には出てくれないし、メールもスルーされている。受信拒否されてるわけじゃないのが、まだまだ救いの余地ありって感じ。それでも、毎日教室で顔を合わせる度に眼を背けられ、話しかけるなオーラをびんびんに感じてしまうと、なんだかずしーんとへこむ。あのむっつりとした唇は彼女のご機嫌斜めメーターで、それはどうやら最大値を示しているらしい。ところが、いったい彼女がなににご立腹しているのか、わたしにはぜんぜんわからない。
 なんだよ、文句あるならちゃんと言ってよ。言ってくれなきゃわからないじゃん? っていうかなんでムシするの? わたしがなにしたってわけ? メールでもいいからさ、訊いてるんだから答えてくれなきゃわかんねーじゃん? 授業中、前の席に座っている彼女の首筋辺りに、ひたすら無言のプレッシャーをかけていたおかげで、先生の話がまるで頭に入ってこなかった。残念ながら、ユキエがわたしの電波を受信した様子はまるでない。
 これまでずっとユキエと一緒に下校していたから、ここ数日は一人寂しく、とぼとぼと肩を落として帰ることにしている。ユキエは影でこそこそなにかをしているわけではなくて、わざと帰る時間をずらしているらしい。なんだよ、腹立つな。
 JRの駅で降りて、ロフトをぶらぶらと歩いた。なんだか気分が悪かったので、このまま帰宅しても親をジロリと睨んでしまいそう。そんな反抗的な態度はなるべく見せたくないから、自分の気持ちを落ち着かせるためにちょっと買い物をした。一時間ばかりブックコーナーをウロウロして、暗くなる前に駅へ戻ろうとしたとき、ふと思いついた。道を引き返す。
 さくらやの赤いネオンをちらりと見上げて、寒空の中、マフラーに顔を埋めて早足で歩いた。少し手前の繁華街とは違って、この辺りは小学校も近く、人通りも少なくて落ち着いた通りだ。怖い目のヤンキーがたむろしていることもないし、客引きのホスト風の男がウロウロしているわけでもない。酔っ払いに擦れ違わなくていいのは安心だ。けれどもう日が暮れていることに変わりはない。少しばかり足を急がせた。
 お店の入り口は半地下のようになっている。少しステップを下って、しゃれた硝子窓を押し開けると、暖房の空気が身体を優しく温めてくれた。暖房って、乾燥した空気のぬるっとしたイメージがあるんだけれど、このお店の空気はいつも綺麗だ。とはいえ、カウンターへ近付くとアルコールの匂いがして、こればかりはどうも好きになれない感じ。一年生のときに、こっそりとビールを飲んでみたことがあるけれど、大人達はあんなもののどこが美味しくてお酒を飲んでいるのか不思議でしょうがないよ。
 桜井さんはわたしに気付くと、お店の壁に飾られたアンティーク時計に視線を向けた。高校生を入れていい時間かどうかを気にしたんだと思う。大丈夫、わたしだってそれくらいの常識はわきまえてますよ。わたしがカウンター席に腰を降ろすと(ちょっと椅子が高くて、座りにくい)、彼女は「林檎ジュースでいい?」と返事を待たずに奥へ引っ込んでしまう。いつ見ても欲しくなってしまうくらいに可愛らしいグラスで、すぐに林檎ジュースが出てきた。
「桜井さん、わたしが林檎ジュースしか飲まないと思ってるでしょう?」
「じゃぁ、アップルティーにする?」
「ここ、紅茶もあるんですか?」
「日によるわね」
 まだこの時間はお客さんが少ないせいだろう、桜井さんはカウンターから身を乗り出して、わたしの顔を覗きこむと、にっこり微笑んだ。
「ところで、祥子ちゃん、今日はどんなご相談?」
 桜井さんは、わたしがこのお店にやってくる目的をお見通しらしい。彼女は悪戯っぽく目を細めると、テーブル席の方で仕事をしているはっちゃん(お店でバイトしてる子で、本名はわたしも知らない)に目を向けた。店内は照明が控え目で、少しばかり薄暗い。その代わり、テーブルに飾られたミニ・キャンドルの炎が、淡い雰囲気を彩っている。
「今はまだ手が空かないみたいね。わたしでよかったら、それまで話を聞くわよ」
 桜井さんは聞き上手だ。べつにはっちゃんを頼ってここへ来たわけじゃない。わたしは単に、自分の愚痴を誰かに聞いて欲しかった。こんなふうに落ち着いた場所で、ちょっぴり大人の雰囲気を味わいながら。だってさ、ずるいじゃない? わたしにだって、こんなすてきな場所で、飲み物を傾けながら静かに話をしたいときだってある。マックやサイゼリヤできゃーきゃー騒ぐのはもうウンザリ。
 わたしはストローを咥えていた唇を離し、上目遣いに桜井さんを見上げた。
 ユキエのご機嫌が唐突に斜めになった、あの日のことを思い出す──。

 *

 思えば、彼女のローファーに纏わるその日のエピソードを笑ったのがいけなかったのかもしれない。少なくとも、わたしが教室で爆笑してクラス中の女子にそのエピソードを光回線にも等しいスピードで広めたせいで、彼女のご機嫌斜めゲージは三ミリくらい上昇していた。
 その日、ユキエはローファーを履いて登校してこなかった。愛犬のゲッコー(ダックスフンドにこのネーミングセンスはいかがなものか?)が、玄関にうっかり出しっぱなしにしていたローファーに粗相をしてしまったのだという。一度ユキエの家に遊びに行ったことがあったけれど、確かにあの犬は頭の良さそうな子には見えなかったもん(まぁ、ユキエには言ってないけどね)。乾いても匂いはなかなか取れなかったそうで、泣く泣く無難なスニーカーを履いて登校してきたみたいだ。ホント、ご愁傷様。ユキエは可愛いスニーカーを持っていなかったみたいで、足元がダサくて仕方なく、周囲の視線が気になって仕方がないと嘆いていた。まぁ、確かに白くてほぼ無地のスニーカーは制服とはミスマッチで、思わず眺めているとぷぷぷっと吹き出してしまいそうになる。ウチの学校は下履きを使わないで校舎内もローファーのまま過ごすから、なおさら致命的だ。そんな恥ずかしい一日を過ごして、校門で先輩達を待つ間も、彼女はチラチラと足元を気にしていた。
「はぁ、もうサイッテー」何度目かに足元を見下ろして、彼女は溜息を漏らした。煙みたいに、白い吐息が溜息の形になって拡散する。「サイアク、なんなの? ああ、もうこっち見てるんじゃねーよって感じ」
「誰も見てないってば。気にしすぎ、自意識過剰だって」
 その様子に、申し訳ないけど笑いが込み上げてくる。ごめん、ユキエ、たぶんいちばん見てるのってわたし、わたしが犯人。
「だってもう、よりによってこんな日に」
 ユキエがブツクサ言う前に、杉本先輩と遼子先輩がやって来た。杉本先輩はどこかぬぼーっとした顔の背の高い人で、べつにイケメンってわけではないけれど穏やかな性格で話も面白く、女子からモテるタイプ。遼子先輩はキツイ印象の美人で、わりと周囲の人から避けられてる感じだけど凄く面倒見がいい。ド素人のわたしにフルートを丁寧に教えてくれたのも遼子先輩だ。わたしも含め、四人とも吹奏楽部のメンバーである(わたしがフルートやってる、っていうとたいていの人が驚くんだけど、なんでだろ? 桜井さんだって、珍獣を見るような目をしてたし)。
 先輩達二人は地元が同じで、帰るときはいつも一緒。もちろん、そこで当然湧き出てくるのは交際疑惑! いいねえ、面白いねぇ、熱いねぇ。身近な誰かが付き合っただの惚れただの好いただの、この手の話は聞いているぶんには本当に面白い。まぁ、聞いているぶんにはね。ところが、遼子先輩は演奏会で知り合った他校の先輩に想いを寄せているらしくって、この交際疑惑はあっさり破綻。なんだつまんねーのって感じ。まぁ、他ならぬ遼子先輩が直々にわたしにそう言ったのだから間違いはない。残念だ。
 先輩二人に声を掛け、一緒にマックにでも行きませんかー、と誘ったのは当然わたしだった。残念ながら、カラオケへ行くには資金も時間も足りない。わたしは喋るよりは歌う方が好きなんだけどね。遼子先輩からオッケーの返事を貰うと、途端にユキエの機嫌が良くなった。ホント、わかりやすい子だねぇ。まったく傍から見ていて恥ずかしいよ。よくよく見ると、ユキエ、朝よりスカート短くしてね? 青春だね、青春。四人で道を歩く途中、ユキエは延々と杉本先輩に話しかけていた。よく話のネタが尽きないなーと感心した。わたしだったら絶対に駄目だね。男子の話には付いていけないもん。組曲? え、服のことっしょ? デンドロビウム? 花じゃねーの? なんだよモビルスイーツって。とか、なんかそんな感じだもん。奴らの頭の中の辞書とか一度見てみたいわ。けれど、ユキエってば、もしかしたら逆にテンパってて、必死に話を繋げようとあたふたしてるだけかもしれない。っていうかその可能性の方が大きいし。ユキエってば、スニーカーの紐がほどけてしまってるのにも気付かない。ダサダサメーター上昇中。そんな彼女に気付かないフリをしてあげる心優しいわたしは、遼子先輩と練習中の曲に関して会話をしていた。まったくしおらしい限りだよね。
 駅前にあるマックは、たびたびみんなで利用する場所で、唯一の不満点は店内が狭くて、トイレが男女共用で汚いっていうことくらい。よく水漏れしてて、いいかげんそろそろ修理すればいいのにと苛々してしまう。
 この時間はよく混んでいるので、並ぶハメになってしまった。遼子先輩とユキエはわりと空いている列だったので羨ましい。どうもわたしってば、こうやってなにかを待っている時間が嫌いみたい。ディズニーランドの行列なんかホント信じられない。なんであんな一瞬で終わる乗り物のために何時間も並ばなきゃいけないの? お前らどんだけ暇なんだよ。そんだけあればカラオケで何曲歌えると思ってんのよ? 杉本先輩は親切にも、一番最後になったわたしを待っていてくれた。いやぁ、さすが好男子ですね。まぁ、わたしはなびきませんけどね。わたしはもう少し、こう、櫻井翔くんみたいな男子がいいんだけど。なんてことを前にユキエに言ったら、お前はどんだけ面食いなんだ身の程をわきまえろと小一時間説教されてしまった。
 アップルパイとコーヒーをトレイに乗せ、杉本先輩を先頭に階段を昇る。一番奥の隅にある四人席のテーブルに、ユキエと遼子先輩がいた。
 話題は主に部活内の交友関係に関してで、ウチの吹奏楽部は男子もそこそこいるから、その手の話には困らない。思わず杉本先輩の秘密情報に聞き入ってしまうわたし。最終的にはイケメン本田くんを巡る恋のトライアングルを越えてカルテットな関係を手帳にメモろうとまで思うところだった。まぁ、さすがに眼の前でメモる気はないけど、ちょっとトイレへ席を立ったときに、誰も見てないのをいいことにこっそり手帳にメモってしまった。あの子とこの子が、こういう関係で、えっと、学年とクラスは──。しかし、やっぱり今日も水漏れしているのか、トイレの床は少し濡れてて汚らしい。これって、あれだよね、水道水だよね? 男子がオシッコ引っ掛けて零したとか、そういうサイアクな話じゃないよね? うわ、やっべ、ヘンなこと想像しちゃった。
 テーブルに戻ったわたしは、恋のカルテットのことなんか忘れたように振る舞い、トイレの惨状をみんなに伝えた。三人とも、わたしが本田くんを巡る人間関係の複雑怪奇なトラブルに関してこそこそとメモっていたなんて知る由もないのである。
 まぁ、なんていうの、わたしも、べつに好奇心からこういう情報を集めてるわけじゃなくって、なんていうのかなぁ、こういう誰が誰を好きで、誰と付き合っているかっていう人間関係を把握していれば、コクる勇気がない友人を後押ししてプッシュすることも簡単になるんだよね。ユミコ、田口くんってば、この前ヨーコに振られちゃったんだって、だからユミコならいけるって! ヨーコよりぜんぜん優しいし、今なら押せるよ! 好きなら言っちゃえ告白しちゃえ! なんてね。
 だってさ、言わないと気持ちなんて伝わらないじゃん? ただうじうじ思い悩んでいるところを見るのって、わたし、嫌なんだもん。そういう友達がいたりすると、なんだか後押ししたくなって仕方なくなっちゃう。
 途中、ユキエがトイレに席を経った。よいしょと腰を上げて、わたしは彼女に道を開けた。トイレは左手を真っ直ぐ進んだ突き当たりにある。彼女がいなくなると、わたしは思い切って杉本先輩自身の恋バナを訊こうと身を乗り出した。もう事情聴取する刑事みたいに手帳とペンを取り出したい気分だった。しかし、杉本先輩はいっこうに口を割らない。容疑者、任意なので拘束できず、危うし。こうなったら奥の手のカツ丼か? そういえば、昔から取り調べシーンにはカツ丼っていうけれど、実際に取り調べシーンにカツ丼が出てくるところって見たことない。昔のドラマにそういうシーンがあったわけ?
 見事なディフェンスに挫けそうになったところで、ユキエが戻ってきた。思えば、ユキエってばこのときから機嫌が悪かったような気がする。トイレから戻ってきたきり、ずっと黙ったまま下を見ていて、その内、「あたしやっぱ帰るわ」って言い出す始末だし。え、なんなのわけわかんない。トイレ長かったし、お腹痛いの? それとも生理?
 ユキエはむっと唇を曲げてご立腹した様子で、鞄を持ってすたすたと階段を降りていく。先輩達に挨拶なし。おいコラ、どういうこと?
「先輩、すみません。ちょっと送ってきますね。すぐ戻りますんで」
 わたしは猛ダッシュでユキエを追いかけて、マックを出てとぼとぼ歩いている彼女の腕を後ろから掴んだ。
「ユキエ、どうしたの? 調子悪いの?」
 ユキエはなにも言わないで、ただ黙ってわたしを見た。そのときの表情ってば、彼女が春に花粉症で苦しんでいるときに似ていた。瞳はきらきら輝いて揺れていて、目元は赤く腫れていて──。その瞳は、じろりとわたしを睨んでいた。
 ユキエは勢い良くわたしの手を振り払うと、駆け足で駅の方へと消えていった。
 なに、なんなの? わけわかんない。どうして泣くわけ? どうして睨むわけ? え、なにに怒ってるの? マジメにわけわかんないんだけど──。

コメント(2)

文字数制限に引っ掛かった。後編パートへ続きます。
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=36912432&comm_id=3786423
・祥子たん
キャラはたってますし、彼女の思考は読みやすいです。
ですが…恋愛に対する考え方を統一すべきです。

「身近な誰かが付き合っただの惚れただの好いただの、この手の話は聞いているぶんには本当に面白い。」
上記抜粋部分の「聞いてる」受け身から後半は「プッシュ」の行動的に変化しています→「こういう誰が誰を好きで、誰と付き合っているかっていう人間関係を把握していれば、コクる勇気がない友人を後押ししてプッシュすることも簡単になるんだよね。」
どうも違和感を感じたので最初からプッシュ型でお願いします。

・桜井さん
聞き手(桜井さん)と探偵役(はっちゃん)を別にするのはおもしろいけれど聞き手のポジションが弱い。桜井さんを「助手」としての役割を強くすると良いかも?

・その他の先輩達ら
もう少し吹奏楽なら吹奏楽部っぽく。
例)ユキエと杉本先輩の楽器が一緒とか。楽器持って帰ってたりとか。

・遼子先輩を誘うと杉本先輩が付いてくるのはまず普通の友人関係では想像付かない…。
てか高校生にそれは無いかなーと。「部活帰りは必ず一緒に帰るから誘う」っていう流れがベターでしょう☆

そんな感じかなー。

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