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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかたA child of Pinocchio〜捜査ファイル6『ブラッドチェイン』(5)

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、5月1日、午前11時30分、横浜、天野探偵事務所・上空〜〜


リシルが会長を勤めるアイラーヴァタ社のロゴが入った中型輸送ヘリが事務所のビルの屋上へと着陸すると同時に、クラウスは戸を壊す勢いでヘリから飛び出し中へと駆け込んだ。

「切!!」

センサーが捕らえた熱源反応へと向かい反射的に切の名を呼んだクラウスだったが、そこに居たのは切ではなく上着を脱ぎ両腕を失った状態で脇腹に外部供給装置を取り付けられた通恋だった。

「兄貴なら行ったよ。クラウス兄貴」
「行った? どこにです!?」

おそらくは薙の居所だろうとクラウスはその所在を確かめようとするが、通恋は首を横に振る。

「行き先は分からない。
だけど、多分あれに記されていたはずだ」

そう顎をしゃくりクラウスを促す先には、握り潰されたと思しきホログラム映写機が残されていた。

「クラウス兄貴なら修復出来るだろ? 頼む、兄貴を止めてくれ」
「……切を……ですか?」

切を”助ける”のではなく”止めろ”と言う通恋に不可解だと眉を寄せるクラウスだが、震えながら放たれた次の句に言葉を失う。

「兄貴はなにもかも壊す気だ。【P1】も、あの娘に手を出そうとした奴らも、その関係者どころか支持する全部まで殺す気なんだ」
「そんな……」

狂人としか思えない行動に出たことにクラウスは思考が一瞬フリーズを起こす。
切が先の件に置いて精神の一部に異常をきたすほどのメンタルダメージを負ったという話はクラウスも聞いている。
だが、八王子に来てからの切は別建て異常な行動を起こすこともなく、探りも込めたリシルのあまり笑えない冗談にも苦笑を零し受け流す程に平常そのものだった。
そのため、そのダメージは一過性で終わり癒えたのだろうとリシルと二人考えていた。

「やっぱりそうだったんだね」
「リシル?」

遅れて現れたリシルは通恋の着物を直すと顔に手を翳し「今は休みな」と通恋を強制スリープさせる。

「今の兄さんは、あいつと同じなんだ」
「あいつ? 誰のことですか?」

その問いに、リシルは苦いものを噛み砕くように言う。

「……ベルガーだよ」
「っ!!??」

その名は、かつてクゥを殺し世界を死滅させるナノマシンを解放しようとした【Pナンバー】の名だった。

「今の兄さんに倫理や道徳なんて、目的のためになら平然と切り捨てられる狂気が潜んでいる。
あいつと同じ、表層の下に歪んだ、他者によって歪まされたもう一つの人格が潜んでいるんだ。
奴との違いは、表に出ているのが逆だということさ」
「そんな……どうにか出来なかったのですか!!??」

気付いていたなら施す手段はあっただろうとクラウスが詰問するが、リシルは首を横に振る。

「それが出来るなら、とっくにやっていたよ」
「ならっ……すみません」

詰問を続けようとしたクラウスだったが、そもそもにして自分にそんなことを言う資格は無いと気付き謝罪する。
クラウスもまた、切に深い憎悪を抱いた際程度は違えど歪みを抱え、その歪みを押さえ込むことは出来ても消し去ることは困難だと身を持って知っていたからだ。
ばつが悪そうなクラウスにリシルはいつもの笑みを浮かべたまま「謝るならやることをやってからだよ」と言い立ち上がる。

「さて、まずは兄さんがどこに行ったか捜さないとね」

そう言うと通恋が示した映写機を拾い上げクラウスに手渡し通恋を抱え上げる。

「僕は通恋を八王子に運ぶ手配をしておくから、そっちは任せたよ」
「……わかりました」

今は切を止めること最優先に。
そう思考を切り替えクラウスは切の行方を捜すため映写機へのハッキングを開始した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、5月1日、午後13時00分、東京・皇居〜〜


アルはゆっくりと赤い絨毯の上を歩いていた。
両の手には銀製の『魔式』を封じる特殊な式が施された鎖を巻かれ、その鎖は両足と翼にも巻かれている。
この鎖が有る限り、アルは『夜天』としての力を使うことは叶わず、元々膂力もさほど無いアルは今は外見相応の力しか有さない少女でしかない。
にもかかわらず、更に両側前後を十六弁八重表菊紋のバッジを付けた屈強な者が包囲し、アルに対して過剰を通り越した警戒を為されている。

−−ある種、それも仕方ない。

今から会う人物は、日本に住む人間にとって絶対に危害が加わってはいけない存在。
『彼』を敵に回せば、かつて日本と名乗っていたこの島全部が敵に回るのだ。

因果な事に、国という枠が無くなってから『日本人』と枠組みされていた者達の一部は、異常なまでに『彼』に対しての畏敬を示し始めた。

国が滅びようとも『彼』が有る限り日本は滅びていない。

『彼』が有る限り、日本は不滅なのだと。

アルが通された先は竹の間と呼ばれる部屋で、中に入ると御簾が立て掛けられ、その前には一人の男が正座で座していた。
アルが男の前に用意された座布団の上に座ると、御簾の奥が僅かに揺らぎ男はアルに向け声を放つ。

「『古き友人よ、ようこそいらして頂いた。
このような状態でお話することをお許し頂きたい』と申しております」
「聞きしに勝る衰弱ぶりね。
そろそろ『魔』に還って次に行ったら?」

無礼とも言えるアルの言葉に回りを固める者達が僅かに怒気を滲ませる殺気を放つが、「控えよ。御前なるぞ」と男の言葉に殺気を消した。

「『申し訳ありません。
彼等は、私を想うあまり行きすぎてしまいますのです』」
「こちらも言い方が悪かったのは認めるわ。それに、この程度で気に障るほど繊細じゃないわよ。
それよりも、私が来た理由、分かっているわよね?」
「『解っております。
菫の娘『智子(としこ)』の事ですね』」

その言葉に、アルが明確な険気を立てる。

「菫とリューイが与えたあの娘の名は『クゥ』よ。
あの時、『菫が私達と縁を切った以上、あの娘とその子々孫々は私達とは無関係とする』と、貴方は言ったはず。
切ともそう約束したのを、今更、反故にした理由は何?」

答えによっては…と、暗に含ませたアルの言葉に御簾の奥が揺れる。

「『すまないと思っています。
しかし、私が存命のうちに決着を着けなければ、いずれあの娘にも害意が及ぶと思い、行いました』」

その答えにアルは険気を静める。

「……理由は納得したわ。
それでも、やり過ぎよ。
クゥを、よもや『皇』の第一継承者に指名するなんて」

御簾の奥に居る現『皇』は、定められた一族としての在り方より愛した男と共に家を捨てることを選んだ菫の娘『クゥ』に、自分の『座』を与えると言い出したのだ。

そうなれば当然、それまで時期『皇』として第一継承者として定められていた者は黙ってはいなかった。

『皇』がその旨を告げてから半日と経たずに、第一継承者はクゥを亡き者にしようと横浜でナノマシン感染体による騒乱を隠れみのに行動を起こしたのだ。

−−そして、クゥは切の目の前で撃たれた。

その後、クゥの死亡を聞き届けられた第一継承者は再び立場を取り戻したかに見えたのだが、それは薙の手により虚構だったと知らされ、再び行動を起こした。

「もしこのまま事態が進めば……貴方なら何が起きるか分かっているわよね?」

死の淵へと落とされたクゥを救うため、切は禁忌に手を染めた。

『イザナミ』が禁じたナノマシンシステムの人体への使用と『女王』が禁じた脳科学研究

その二つによりクゥは命を取り留めると共に、その身に『災厄』を内包する存在となった。

その内容は『彼』にも告げられていたが、『彼』は勅を下げず、結果、今まさに『災厄』の蓋が開きかねない事態へと状況は進行していた。

「『だからこそです。
私達は変わらねばならない。
それが、致命的な痛みを伴うというのならそれを受け入れるのが私達の運命です』」
「それがお前の答えか」

その言葉に第三者の声が割って入った。


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