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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかたA child of Pinocchio〜捜査ファイル6『ブラッドチェイン』(2)

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、5月1日、午後09時40分、八王子、PCサービスセンター・地下〜〜


切が帰宅するためにメンテナンスルームを後にして数分後、リシルは端末を軽く叩き空中にモニターを展開させた。

「兄さんは帰ったからもういいよ」

そこに写されたのは、カプセルで眠っているはずのクラウスだった。
駆体こそ休眠しているが精神プログラムはずっと起きた状態だったクラウスはリシルに頼み切を遠ざけて貰っていた。

「感謝します」

モニターのクラウスは表情こそいつもと変わらないように見えるが、リシルには無理をしているのをよく判っていた。

だがそれも無理からぬ話だ。

クラウスはとある事件の際、切のしたことを赦すことが出来ずその手にかけてしまったのだ。
そしてそれを悔やんだクラウスは自ら殺した切を蘇生させるため、回路が焼き付く寸前になるほどのダメージを自ら負った。
その傷は躯体が治り切が赦しても、完全に回復するにはまだ時間がかかるのだろう。

「いえいえ。どう致しまして」

クラウスからの謝礼を軽く受け流し、リシルは切がいる間に聞けなかった事を尋ねた。

「それで、切と殺しあってどうだった?」
「……何が言いたいのですか?」

その声に、僅かだが凄みが含まれる。

「どういう意味って……ああ、そうか」

不可思議がるリシルだが、クラウスは自分が言いたい意味に気付いていないことを理解し、説明する。

「数分前、『イザナミ』から兄さん以外の全【OP】に通達があったんだよ。
カナと兄さん以外の全【OP】にオペレーション『カニバリズム』を開始しろってね」
「…なんですって!?」

オペレーション『カニバリズム』

本来は【PC】のトライアル戦闘を指す指示だが、そのオペレーションを【OP】同士で行えということはつまりは兄弟で共食いしろと『イザナミ』は告げたのだ。

「一体何が!?」
「落ち着いて。
順序立てて説明するから」

いきり立ち駆体を強制起動しようとするクラウスを制し、リシルは静かに語る。

「先々月の末、オーストラリアでドラゴンの代表ジルニトラ−−通称『緑』が殺害された」
「…それとオペレーションのどこに関連が?」
「話は最後まで聞きなよ。
殺害の発覚から数週間後、今度はヴァチカンで『宗教』の過激派が蜂起、現教皇を監禁してヴァチカンを支配下に置いたんだけど、数時間後に蜂起した『宗教』の主要部隊は壊滅した。
その際に確認されたんだ。
失われた筈の、7番目の『リ・ディアルの民』が」
「どちらがです」
「…え?」

クラウスの問いにリシルは耳を疑った。

かつて、『リ・ディアル』は現在の6種族に2種族を加えた8種族から成り立っていた。

『夜天』『鬼王』『神羅』『獣偉』『海帝』『甲皇』そして『白翼』と『巨人』。

しかし、当時を知る最古の『女王』クルールは『巨人』は『白翼』に滅ぼされたと語っていた。

そして、『白翼』の行方については一切触れない。

クルールの言葉を順当に加味し、普通に考えれば7番目の種族は『巨人』ではなく『白翼』になるのだが、何故かクラウスは『巨人』の可能性を含めてそう尋ねた。

「……確認されたのは『白翼』だよ。
クラウス、なんで『巨人』の可能性があると?」
「それは後で説明します。
それよりも続きを」

クラウスは一万年以上前に『リ・ディアル民』の一部がこちらに来ている事実を知っている。
故に、滅んだ筈の『巨人』の生き残りが滅亡を免れ、地球に来ている可能性に思い至ったのだ。
釈然としないながらも、リシルは説明の続きを口にする。

「…当然、『女王』はヴァチカンを相当数の部隊で持って包囲し鎮圧に乗り出そうとしたんだけど、攻撃命令は出せなかったんだ」
「脅迫ですか」
「うん。
彼等は蜂起と同時に南極と北極に潜ませていた伏兵を展開していてね。
常駐していた部隊は奮闘したけど壊滅。
現在、部隊の僅かな生き残りと非戦闘員や民間人は人質にされている。
『白翼』は交渉に応じなければ人質を皆殺しにし、両方の氷を即座に溶かすと脅したんだ」

そう一旦間を置くと、別に二分割されたモニターを展開する。
そこには北極と南極とを包むオーロラのような光が広がっていた。

「このオーロラは『断壁』と同じ性質を有しているんだ。
しかも範囲や強度は『断壁』とは桁違いで、クルールでも破るのは難しいそうだよ」
「それで、交渉に応じたと」

脅しがブラフだとは二人とも思わない。
かつて『リ・ディアルの民』は、『魔女戦争』でそれ以上の惨劇を引き起こしているのだ。
『白翼』にそれが出来ない理由は無い。

「今氷が溶かされたら被害は凄まじく、避難が間に合わないと判断した『女王』はその交渉に応じた。
そのテーブルにて『白翼』は、イタリア半島を明け渡し『魔法使い』を覚醒させる事を要求してきた」
「『魔法使い』? 『リ・ディアル』の伝承のですか?」

かつて『白翼』の支配体制だった『リ・ディアル』に革命を起こした英雄のことはクラウスも知識にはあるが、これも共食いとの関連性があるようには見受けられない。
しかし、リシルは首を横に振る。

「なんでも、『白翼』の指す『魔法使い』とは特殊な【Pナンバー】を指し示すそうなんだ」
「【Pナンバー】ですか…?」

確かに、クラウス達【OP】は【Pナンバー】でも例外と言える存在だが、致命的に歯車がズレているようにしか聞こえないクラウスだったが次に出た台詞に思考を停止した。

「『白翼』は『魔法使いの遺産』と称される11の内臓を再現した模型を使いこなす者が、『魔法使い』だと言ったんだ」
「なん……ですって……?」

リシルの言う『魔法使いの遺産』を、名称こそ違うが該当するその存在をクラウスはよく知っていた。
生物の臓器を模し、特殊な【Pナンバー】にしか扱えないモノ。

それは、

「……【RAIJIN】シリーズ」

リシルは無言で肯定する。

「一体何故!!??
それと、共食いに何の関係が!!
それよりも【RAIJIN】が11とはどういう事なのですか!?」

堪え切れずクラウスは駆体を強制起動し、カプセルの透明部分を砕きながら立ち上がるとリシルの襟首を掴んだ。
しかし、リシルは逆に冷めたようにカプセルを見ながら呟く。

「あーあ。せっかく修理したのに、また壊しちゃった」
「ふざけないでください。
仮に、【RAIJIN】が『リ・ディアル』の物だとして、なぜそれを『女王』は今まで放逐し、『イザナミ』は私達を殺し合うよう仕向けているのですか!!??」

なにもかもが出鱈目だ。

リシルの言葉通りなら、【RAIJIN】の所在を知っていながらわざと『女王』は見逃していたことになる。
英雄の遺産を放逐するなど、普通の神経とは思えない。
同時に、【RAIJIN】を扱える【OP】を『イザナミ』が潰し合わせる理由も解せない。

「…『完全解放』」

激昂するクラウスとは逆に、冷めた口調でリシルは言う。

「『白翼』曰く、『魔法使い』は【RAIJIN】を『完全解放』出来る者を指すそうだ。
でも、僕達に出来るのはせいぜい最大出力稼動まで。
それも『自分達が扱いきれる』最大出力だ。
……クラウス、『イザナミ』の狙いはもう解るだろ?」

クラウスはようやくリシルから手を離し、俯いた。

「………そういうことですか」

【OP】は【Pナンバー】の中で唯一成長する事が出来る。
そして【OP】の成長は感情が激しく揺れる経験が多ければ多いほど、急激な成長が見込めるのだ。

切がそのもっとも顕著な例だ。

【RAIJIN】を装着した当初、切は『ユーピテル』に振り回され何度も暴走しかけた。
だが、幾多の怒りや悲しみを経験し乗り越えて成長を重ね、今では【RAIJIN】と同じだけの負荷の掛かる『ダグザ』を同時に扱い手足のように使いこなしている。

だが、切でさえそこに至るまでに長い時間がかかっている。

「…期限は?」
「もう半月と無いよ。
半島を明け渡した事で与えられた猶予は今月の15日まで。
それまでに『魔法使い』を引き渡せなければ『白翼』は氷山を溶かすと言った」

普通に考えれば不可能だ。
後たった半月で【RAIJIN】を、己の限界を越えるなど夢物語でもありえない。

だが、たったひとつ可能性があった

「私達を殺し合わせる事で、『イザナミ』は不可能を現実にするつもりなのですね」

昨年、香港での激闘で切は今まで使う事すら不可能だった最強のプログラム『グラビティ』の稼動と、『グラビティ』の完成形であるブラックホールの精製を行っている。
『イザナミ』はその事例を再現させるために自分達を殺し合わせ、生き残った【OP】の誰かに『完全解放』させようとしているのだ。

「誰も彼も、果てしなく馬鹿げている」

感情を隠すことなく、クラウスはそう吐き捨てた。


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