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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかたA child of Pinocchio〜捜査ファイル6『ブラッドチェイン』(1)

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜西暦2×××年、×月××日、午後14時00分、場所不明〜〜


誰かが私に呟いた


「世界を変えてくれ」


誰かが私に願った


「世界を守ってくれ」


誰かが私に祈った


「世界を救ってくれ」


故に、私は私に命じる


「修正プログラム『メシア』。フェイズ1開始。
これより私は与えられた『メサイア』の名に従い世界に聖油を注ぎに向かいます」


−−それは、純粋故に誓われた終わりの始まりを告げる誓約だった


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、5月1日、午前8時02分、八王子、PCサービスセンター・地下〜〜


壁の白と機械の色に覆われた広い部屋に作業行程の経過を告げる合成音のアナウンスが響き渡る。

『擬装人口皮膚適合調整終了
ナノマシン循環速度安定
シークエンス、最終レベルに移項します』

部屋の中心に設置された溶液に満たされたカプセルに浮かぶ金属の塊で出来たヒトガタが、ゆっくりと床に足を付け満たされていた液体が排出され地に足を着ける。

『バイオグラフィカル数値安定
精神プログラム活性化レベルBへの移行確認
各種アクティブセンサーイエローからグリーンに移行
溶液ジェル洗浄開始
ジェネレーター『ユーピテル』及び『ダグザ』出力安定
コンデンサ内電力稼動可能レベルに充填確認』

カプセル内に生じた高圧のシャワーに人形は洗われ、次いで吹き出した風に乾燥を進められていく。
水気が全て飛ばされると、カプセルが上にスライドし人形は解放される。

『システムロック解除
【P0】を起動します』

人形の目が開き、【P0】−−『天野切』は覚醒した。

「おはよう兄さん。
新しい身体は如何かな?」

双眸を閉じたままカプセルの前で経過を観察していたその者は、用意されていた真新しいスーツに手を伸ばす切にそう問う。

「……やり過ぎだな。リシル」

下着を穿き、インナーに袖を通しながら彼の名を口にし更に言う。

「こいつは経費度外視の試作機だからまだしも、こんな高コストの躯体じゃ量産には向かないだろ?」
「まあ、それを正式量産しろって言われても正直困るね。
でも、兄さんは無茶をし過ぎる気来があるからその躯体のテストモデルにはぴったりなんだよ」

切の言葉を余所に、【P4】リシルは明け透けに笑う。

「まあ、いいけどな」

そんなリシルの言葉に切は呆れ混じりにごちる。

「しかし本当にいいのか?
この躯体をただで譲ってもらってよ」

慣らしと微調整のため何度も試運転を行った切だから解る。
この躯体は市場に出していいレベルを越えた怪物であり、ましてや無償で譲っていい代物ではない。
だが、切の懸念をリシルは笑い飛ばす。

「言ったでしょ。
それは現在作り得る最新鋭の技術を注ぎ込めるだけ注ぎ込んだテストモデル。
『ユーピテル』と『ダグザ』を併用する兄さん用に調整してはあるけど、その躯体から得られたデータは今後生まれていく後継機に引き継がれるんだ。
それに、試作機に値札を付けるなんて経営者としては納得行かないよ」

着替えた切と二人、廊下を歩きながらリシルはそう言う。
その言葉を聞く切は、逆に苦笑を禁じえない。

「だからってよ、製造に一千万近くもする躯体をただで渡すか?」

現在量産体制がなされている一般的な【PC】で数十万前後。
完全なオーダーメイトとなる【OP】用の躯体ですら百万前後だということから、切の躯体がどれだけ馬鹿げた品か解る。

だが、それも仕方ない。

切の躯体のフレームに使われている素材は、従来の技術で加工された複合金属ではなく、無重力下で合成された新素材なのだ。
現在では成層圏に出る技術すら少なくなっているために、その先の大気圏外に出るという話になればまず頭を疑われる。
もっとも、過去の英知を納めた【Mother'S】のデータベースにはその方法が眠ってはいるため宇宙に上がることが不可能という訳ではなく、現在の地球にはわざわざ高い金を払ってまで宇宙に出る理由が無く需要もまったくないためだからだ。

しかし、リシルは敢えてその金の掛かる方法を採用し、結果今までからは考えられないほどの高性能な合金を製造してみせた。

その無重力下で製造された合金は、既存の複合金属に比べ高い硬度と靭性を持ちながらも20%以上の軽量化に成功し、既存の金属概念を覆す品となった。
他にも、この躯体にはレアメタルやレアアース等の高価な素材も数多く使われているため、この躯体は精製から輸送に至る全てにおいて最悪と言えるほどのコストパフォーマンスを発揮し、これを量産しようと考えることは会社を潰したいとしか考えられないと言える。

「いいんだよ。
その躯体のデータ収集の先行投資と考えれば、そんなに高い買い物でもないからね。
そのかわり…」
「まめなメンテナンスとデータの提供をしてくれと?」
「そういうこと」

リシルの条件は切にしても悪い話では無く、疑問こそ残るが相互利益という筋は通っているとそれ以上の追求はやめにした。

「それはそれとして、クラウスはどうなんだ?」
「そちらも問題無いよ。
と言ってもまだカプセルで寝ててもらってるけどね」
「……そうか」

切の弟でありリシルの兄である【P3】クラウスは現在もなお修理中の身となっている。
その一件の当事者たる切としては経過が気になっているのだ。
切の様子からリシルは察し経過を言う。

「といっても、現在は主な箇所の修理は完了して今は強化した部分の調整段階というところだよ」
「会えるか?」
「1時間前に休眠に入らせたから、すぐとなると顔を見るぐらいしか出来ないね」

スケジュールの都合が合わず切が八王子に来てから一度も顔を合わせていなかったため、帰宅する今日こそはと思っていたが…

「……仕方ないか。まあ、ちゃんと顔を合わせるのはエセロリチャイナが来た時にでいいか」

クラウスとちゃんと話したかったが、切にはすぐに帰りたい理由があった。

「じゃあ、クラウスによろしくと言っといてくれ」
「任せてよ。
ああ、それとこれを渡しそこねてた」

そう言うとリシルは掌に隠せるほど小さなスタンガンが一ダース入ったケースを渡す。

「そいつは?」
「うちの企画課が造った高性能スタンガンなんだけど、コストの問題でお蔵入りになっちゃった代物。
そのままだと勿体ないから兄さんの躯体を作る際にブーストパーツとして組込んでおいたんだ」
「勝手に俺のシステムを魔改造するな。
それで、使い方と効果は?」
「増設した手首のバッテリースロットに入れれば威力の加圧が可能だよ。
『ユーピテル』用のバッテリースロットにも使えるけど、イメージでいうと起こすのに覚醒剤を打ち込む感じ」
「……乱用は控えとく」
「賢明だね。
それはそうと、ヘリを出さなくていいの?」

リシルの問いに「当てにし過ぎるのも悪いからな」と答え、切はリシルに別れを告げるとエレベーターに乗った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、午前8時30分、横浜、天野探偵事務所〜〜


それは、形容のしようがない轟音から始まった。

朝の喧騒に包まれるはずの横浜の街は何故かゴーストタウンのように静まり返っており、その天野探偵事務所を内側から破壊した爆音はとてもよく響いた。

「……う〜ん。
やっぱり防がれたか」

粉塵の舞うビルの中、破壊を齎した薙はどこか楽しげに結果を見て言う。

「……テメエ」

がらがらと瓦礫を掻き分け、粉塵の中一人の女性が身を起こした。
鮮やかであっただろう着物は無惨に破れ、薙が放ったレールガンの一撃を防ぐための代償として左腕を失っていた。

「残念だな。
その娘を殺すためだから君が巻き込まれないよう手加減してあげたのに、まさか片腕を犠牲にして護るなんてね」

そう宣う薙の前、【P7】通恋の背後には中型カプセルが設置されていた。

「冗談も大概にしろよ!!」

その台詞に本気で怒りを露にする通恋。

薙は通恋ではなく、通恋の背後に設置されたカプセルの中で眠る少女を狙いレールガンを放った。
当たっていれば当然ながら、掠っただけでも少女はカプセルごと挽肉にされていた。
それを防ぐため通恋は己の被害を無視し彼女を庇ったのだ。

「何のためにこの娘を殺す!?」
「何を聞くかと思えば…」

通恋の問いに薙は呆れたと身体で表現し言う。

「理由があるからその娘を殺す。
そんな当たり前の事が解らないの?」
「その理由を聞いているんだろうが!!」

からかっているとしか聞こえない答えに通恋が噛み付くが、薙は薄っぺらい笑みを貼付けたまま言った。

「秘密」

直後、腕を突き出した通恋の右袖から三本の鋼線が蛇の様に放たれる。
しかし、鋼線は薙を貫く直前に展開した光の百合に両断され力を失い地に伏せた。

「手加減抜きとは酷いね。
『アイン』が無かったら中枢が壊れてたよ?」

なんでもなさそうに言う薙だが、通恋は言葉を失うほど本気で戦慄していた。
薙が封印されているはずの専用兵器『ワルキューレ』を所持しているのもそうだが、以前に比べ『ヴリュンヒルデ』の展開速度が上がっているのだ。
警戒する通恋を尻目に薙は貼付けた笑みに三日月を刻む。

「さて、あんまり順番を変えたくはなかったけどめんどくさいから先に片付けるか」
「っ!?」

光の百合を消させた薙は酷薄に告げると「『ラシャプ』最大出力稼動開始」とジェネレーターの出力を引き上げた。

「くっ、『タケミカヅチ』最大出力稼動開始!! ベーシックプログラムNo.8『シール』起動!!」

通恋もまたジェネレーターの出力を上げ、薙に対抗しようとプログラムを起動する。

しかし……

「……残念だよ」

何故か薙は通恋の行動に侮蔑の感情を向けた。

「状況を考えれば防御用の『シール』ではなく『プラズマ』を起動するのが正しいのに、君はその娘を守るために間違いを犯した。
まったく、家族ごっこのし過ぎで腐ったみたいだね」
「……テメエ、今、なんつった?」

薙の言葉に通恋から全ての感情が失せた。

「家族ごっこって言ったんだよ。
一時的な感情に流されておままごと嗜む程度なら可愛いげもあってほほえましいけど、遊びすぎで判断まで鈍るようじゃダメだよ」
「…………」

感情の失せた貌でその音を聞く通恋は、静かに理性が崩れていくのを自覚していた。

こいつは、私の最も大事な物を愚弄し否定した

燃える炭の様に静かに、それでいて生半可な事では消せないほどの怒りに通恋は短い宣告を告げた。

「……………………シネ」

数秒後、一度だけ轟音が響き再び静寂が訪れた。


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