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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかたA child of Pinocchio〜捜査ファイル5『シリアルマーダー』25

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〜〜新歴99年、3月20日、午後19時20分、横浜〜〜


切とロディの戦いが苛烈さを増す中、囚と酒井の戦いに決着が着こうとしていた。

「ふんっ!!」

深く踏み込んでのショートブローが放たれ、それをモロに喰らった囚の身体が大きく吹き飛ぶ。
足ががりがりと地を削り体勢を崩さないよう耐えるが、その身体は酒井の拳を数発喰らっただけで膝が笑い出していた。
解せない。
確かに酒井の一撃は重く、絶大だ。
だが、拳の威力だけでいうなら歳老いた『頭角』の酒井より、若く戦い続けている『肘角』の囚のほうが上。
鍛練の差だとしても、年齢的な衰えが著しい酒井が鍛練だけで衰えを克服しているとは考えづらい。
それに加え、囚は防御力を高める『硬』の『魔式』を起動している。
にもかかわらずそれを貫く酒井の拳は、どう考えてもおかしかった。
囚自身、負けるのは怖くない。
戦いに身を置き、殺しあいを糧にする以上負けて死ぬことは当たり前と思っている。
だが、

「一体、お前の拳はなんなんだ!!??『竜拳』!!??」

どうやって殺されたのか、それすら理由が解らない死はお断りだった。

「・・・仕掛けなんぞあるかよ。」

拳を構えたまま、酒井は言う。

「確かに『鬼王』の拳は砕く拳だ。
故に、俺達は『固く』なる道を、地球風にいうなら進化を歩んだ。
確かにそいつは正しい。
『固い』って事は、砕かれる前に相手を砕けんだ。
シンプルで解りやすい答えだ。
でもよ、6種族1『固く』なった俺達よりもドラゴンは硬い。
なら、どうすりゃああいつらの硬い鱗を砕いて、ぶち殺せる?」

ゴキリと、拳が更に固く握られ骨が音を鳴らす。

「そいつがたどり着いた答えはこうだった。
砕けねえなら、硬い鱗の内側に拳をぶち込めばいいってな。
地球にも、『鎧通し』っつう似たような考えがあるが、あれと同じだ。」

その答えに、囚は絶句する。
理屈は理解できる。
いくら外側を固くしようが、その後ろの柔らかい内側を直接殴られれば防御の意味は無い。
だが、その技を体得し極めようとすれば、どれほどの血の滲む修練が必要なのか想像も着かない。

「『鬼王』の拳は相手の防御ごと砕く『鎧砕き』の剛拳だ。
だが、この拳は真逆。
防御無視の、『鬼王』の拳を否定する『鎧通し』の柔拳だ。
理解したな?
なら、」

腰を落として右の拳を開き、指を揃え折り畳んだ掌底に握り直す。

「殺しはしねえが、暫くは寝てて貰う。」

放たれる闘気に、囚の身体からぶわりと汗が吹き出し武者震いを始める。

これが、『竜拳』か。

口の中がからからに乾き、自然と笑みが浮かぶ。

「ただではやられない。」

低い声で告げる囚もまた構えをとる。
負けるのが解っていようと、ただ座してそれを待つの理由は無い。

腕の、いや、指の一本は貰っていく!!

「・・・悪くねえ。
そのまま後30年も鍛えりゃあ、俺なんかは軽く越えていくだろうよ。」

ゴウッと酒井の『魔』が火となって右掌に燃え盛る。

「『壊炎掌』」

技の名を告げ、酒井が始めて先を切る。

「おおおおおおおおお!!」

相打ち覚悟の囚の咆哮、互いの武器が最高の威力を放つタイミングが重なった刹那、

バガンッ

今まで鳴ったことの無かった種類の銃声が響く。

「ブルズアイだピノッキオ!!」
「先生!?」

ロディの勝利を確信した雄叫びに酒井の注意が一瞬逸れる。

「りゅうぅぅけぇぇぇええん!!!!!」

その刹那の隙を逃さなかった囚の雄叫びと共に、銀光が翻り酒井の拳より先に振り下ろされた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、3月20日、午後19時30分、横浜〜〜


処置室では血生臭さと消毒液のない混ぜになった凄まじい臭気の中、通恋がメスを手に片っ端から患者達を引き戻すため戦っていた。

「残りの縫合は任せる。
次!!」

体内に潜り込んでいた異物を取り除き、血管など難しい縫合だけを済ませると新たな患者を運ばせる。

「火傷、深度は2です!!」
「分かった。冷却ジェルと抗生物質を!!」
「はい!!」

応じる看護士や医者達は、最初こそ突然現れ、竜神会から場を預けられたと治療を始めた通恋に疑念を感じたのだが、その的確な技術と判断力、人手が足りないという現状に加え、

「さっさと助けるぞ!!
こんなふざけた馬鹿騒ぎで、誰ひとり殺してなんかやれるか!!」

なによりも、患者を救いたいとそう怒鳴った通恋を信頼することを選んだ。

「低体温にならないよう毛布を。」
「はい!!」

ジェルと感染を防ぐ処置を終えたところで新たな怪我人が運び込まれて来た。

「急患だ!!
足が落とされている!!」
「くっ!?、落とされた足は!?」
「凍らせて持ってきてあるそうだが・・」
「なら繋げてやる。
連れてこい!!」

キャスターに乗せられた件の患者に、目にした殆どの者が吐き気を覚えた。
麻酔が効いているらしく患者に意識はないが、その足の切断面はミキサーにでも突っ込んだようにぐずぐずになっていた。
その傷口に、繋げるのは不可能だと誰もが思った。

「解凍急げ。」

冷徹なまでにそう指示を下した通恋ただ一人を除いて。

「無茶を言うな!?
筋肉も骨も削られているんだぞ!?
仮に繋がったとして、長さが揃わない!!」

至極真っ当な意見に、それでも通恋は引き下がらない。

「なら、無くなった分のパーツを補充してやればいいんだよ!!」

そう言うと、解凍された足をふとももに合わせナノマシンユニットを展開する。

「『タケミカヅチ』最大出力稼動!!『ライフセイフティ』!!」

通恋の言葉に従いナノマシンが緑色に発光しながらユニットから放出され、切断された脚部へと集う。

「血管接続。酸素供給開始。
細胞増殖速度安定。癒着行程正常。
断劣繊維結合確認。」

ぶちゅりと切断面が膨れ上がると、グロテスクな新しい骨や筋繊維が作られ、切断面がくっつきみるみるうちにぐずぐずだった皮膚が元に戻る。

「行程・・終了。
足を固定して輸血と栄養剤を投与。
ボサッとするな!!」
「は、はい!!」

常識を覆す通恋の医術に言葉を失っていた看護士達が、通恋の喝に我を取り戻して指示通り後処置を始める。

「次!!」

ナノマシンユニットを閉じ新たな患者へと向かおうとする通恋に向け、一人が堪らず尋ねた。

「……あんた、何者なんだ?」

その問いに、通恋は首だけ向けると漢を感じさせる笑みを浮かべ、言った。

「ただの、世界一忙しい兼業主婦だ。」


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