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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかたA child of Pinocchio〜捜査ファイル5『シリアルマーダー』(6)

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〜〜新歴99年、3月19日、午後19時00分、鴨居〜〜


神奈川を流れる川に倉庫と工場とベッドタウンを仕切られたこの町を奇妙な二人組が騒がしく歩いていた。

「でよう、そいつが言うわけだ。『ミートローフは羊以外認めない』ってよ。
鹿肉のミートローフ喰いながら言うなっての」

自分の台詞が余程面白かったらしく、そいつは相手を無視してげらげらと笑う。
男の名はロディと言い、『三丁拳銃』と二つ名を名乗り賞金稼ぎを自称する男だった。
隣には、ロディの言葉をうんざりとした顔で聞く長身の『鬼王』の男。
元々はフリーランスの傭兵で、今はロディの相棒の『囚』といった。
囚は横浜に現れた高額賞金首を狩るため数時間前にロディに雇われたが、この数時間で雇用を承諾した事を後悔していた。
戦いに身を置き力を磨き続けるというカタチで在り続けた囚にとって、軽薄で口喧しロディはとても受け入れられる相手では無かった。

「でよ、俺は言ってやったんだよ。ミートローフの肉はビーフが一番だとな。
……おいおい。少しは笑ったらどうだい?
俺の小粋でエスプリの利いたジョークで笑わねえ奴はお前が初めてだぜ」
「生憎と笑うのは苦手でな」

興醒めだとばかりにオーバーアクションで不満を表すロディに囚は短い返答を返す。

「おおそうかい。
だったらよ、こんなのはどうだい?」

皮肉の混じった返答を額面通り受け取ったのか、ロディはまた話し出そうとするが囚はそれを腕を軽く持ち上げる動作で制した。

「……おい、なんのつもりだ?
折角俺の秘蔵っ子を披露してやろうって……そういうことかい」

囚の意図をようやく察し、ロディはいつでも動けるようさりげなく手を腰に回す。
ロディと囚、二人の前方から得物を携えたごろつきが歩いて来ていたのだ。
前から来るごろつきはいかにもな雰囲気を放ち、二人に対しても敵意を見せていた。
が、ロディはその敵意に遭え気付かない降りをしてごろつきに陽気な声色で声をかけてみた。

「いよう御同輩。
景気はどうだい?」
「まあまあといったところか。
…そっちはどうなんだよ?」

同業者か否か、それを見極めるためにロディが軽口を交えながら話し掛けると、リーダー格らしい一人が話を合わせながら応じ逆に尋ねてきた。

「こっちはさっぱりだな。
治安はだんまり。ブン屋はつまんねえポルノ記事追っかけてばっかだ」
「そうかい。
まあ、お互い頑張ろうや」

そう短い会話を交わすとロディは囚に「行くぞ」と言い、そのまま何事もなく終わった。
ごろつき達の姿が見えなくなるまで無言を貫いた囚だったか、姿が見えなくなるやロディに疑問をぶつけた。

「……殺らなくて良かったのかいいのか?」

傍目から見た限り、昨日まで囚が居た場所なら双方共に引き金を引いていて当たり前の状態だった。
少なくとも、確実に死体の一つは生産されていただろう。
それでも動かなかったのは「俺が抜くまで動くな」というロディとの契約があったからだ。

「今のは様子見だぜ?
あんなので抜いていたら、”タマ”がいくつあっても足んねえよ」

下品なジョークを交え陽気さの中に獰猛さをちらつかせてそうロディは笑う。

「ここがシカゴかなにかと勘違いして今ので簡単にぶっ放すような早漏野郎ならきっちり殺ってやったがよ、あいつらは『あっち側』のルールをきっちり守ってんだ。
殺るのは”奪い合い”になってからだぜ」

賞金稼ぎといえば賞金首を狩るだけと思われがちだが、実際は面子を保とうと駆けずり回っている治安組織や同じ獲物を狙う同業者との戦いのほうが縁が多い。
そんな禿鷹のような奪い合いだからこそ、暗黙のルールがある。
先程の掛け合いには、その暗黙のルールが生きているかどうかを確かめるためのものでもあった。
ロディも彼等もそれを弁えたからこそ、互いに殺気をぶつけながらもあの状況から殺し合いに至ろうとはしなかった。

「よく覚えときな。
狩人は常に狩られる側なんだ。
だから、俺とつるんでる間はねぐらに帰るまで背中に注意しとけ」
「……覚えておこう」

少しだけ、この軽薄な男に対する認識を改めながら囚はそう答えた。


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〜〜新歴99年、3月19日、午後19時00分、横浜、天野探偵事務所・三階〜〜


『それで、酒井さんは!!??』
「とりあえず山場に入った。
移動できるようになったら連絡するから、後はその時に」

酒井の部下で切が唯一『遠吠え』を繋げられる井上に状況を告げた切は、『遠吠え』を切ると軽く溜息を吐いた。

切は事務所へと戻るなり毛布に包まれた酒井を治療したのだが、その際にいくつか奇妙に引っ掛かる点があった。

一つは酒井の怪我。

酒井に刻まれた傷は大きく分けて三種類。
特に酷かったのは胸を逆袈裟に斬られていた裂傷だが、傷口自体は綺麗なものでそこから生じた大量の出血による一時的なショック以外は大してしたことは無く多少血が足りないぐらいで命に別状は無かった。

だが、残り二つが異常だった。

腕には彫刻刀で刔ったような傷が4本刻まれ、腿には喰い千切られかけたたような歯型が穿たれていた。

もしこれら全ての傷を一人に負わされたとしたら、どんな生き物と戦ったのか切には想像も着かない。

怪我を負わせた相手はともかく、それらの傷口は血の問題も含め処置を済ませたため後の問題は酒井の体力次第だが、様子を見る限りその心配は無いだろう。

手だれの酒井をここまで追い詰めた相手も気にはなるが、通恋の依頼もあるため今後の行動を少し考えねばならないなと思ったところで控えめに戸がノックされた。

「……キリ、もう入っていい?」
「……ああ」

クゥは部屋に入ると少しだけ躊躇ってから尋ねた。

「ご飯出来たけど、どうする?」
「……」

切としては、クゥと一緒に食べたいとは思う。
が、酒井を放置して仲良く食事というのも気が引けた。

「クゥはもう食べたか?」
「ううん。まだ」
「…そうか。
悪いが先に食っててくれ。
後で俺も食うから」
「……うん」

素直に応じると、クゥは部屋から出ていった。

「……クソッ」

せっかく日常に戻れたと思った矢先に起きた二つの面倒事。

「一日でいいから、俺を放っておいてくれよ……」

まるで、それらが自分を待っていたように思えて切は小さく毒吐いた。


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