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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかたA child of Pinocchio〜捜査ファイル5『シリアルマーダー』(5)

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、3月19日、午後17時30分、町田〜〜


「4万」
「駄目だ。そんな安い金額で兄貴は使えない。
9万」
「だから使いきらねえって。
4万5千」
「だから安すぎるって!!
だったら前額込み8万。それ以上は下げないからな」

わりとムキになって支払いを高くしようと努力していた通恋だったが、ふと本件には関係ないがずっと気にしていたことを思い出して尋ねた。

「そうだ。
兄貴、あの娘の様子はどうなんだ?」
「クゥの事か?
……特に、変わった様子は無かったぜ」
「……そうか」

今日の様子を思い出し答える切に複雑な感情を抱えながらも表に出さず通恋はそう言った。

去年の末に起きた、切の過去を巡る戦いでクゥは渦中の一人として在りそして死亡した。

だがその後、クゥの亡きがらを横浜へと運ぶために戦線を離脱した通恋の前に現れた『女王』ディーの手により、死者の蘇生という禁断の『魔式』をクゥは施された。

結果、奇跡的な偶然と幸運が重なりクゥは生き返る事に成功した。

しかし、代償が無かった訳では無い。

精密検査の結果、僅かだが大脳の一部が損傷していることが確認され、クゥはあの戦いの記憶を失っていた。

「気をつけてくれよ。
奇跡は何度も起きないから奇跡っていうんだ。
私が言うのもなんだが、子供は大事にしろよ」

念を押してそう忠告する通恋に「分かっている。……二度と、失うものか」と強い感情を込めて言った。

「それはそうと、そろそろ晩飯に間に合わなくなるから帰りたいんだが、なんだったら一緒に来るか?」

時計に視線を落としてみれば、時刻は既に18時を回ろうとしている。
騒がしい食卓を好むクゥを思い出して聞いた切に対し、通恋は笑ってそれを辞した。

「あはは。残念だけど遠慮しとくよ。
それに、私だって似たようなもんだしな」

そう言うと通恋は着物の裾を調え階段へと足を向ける。

「急がないでいいから、なんか分かったら連絡をくれ。
それと、きっちり払うからな」
「ああ、余り待たせないよう努力する。
それと、多過ぎたら受け取らないからな」

お互いに諦めないと言外に言いつつ、そう二人は別れた。


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〜〜新歴99年、3月19日、午後18時00分、横浜〜〜


「……俺も、老いたな」

力の入りきらない身体を引きずり、酒井は路地裏から脱出しようと壁に手をつき赤いラインを描きながら進んでいた。

15分程前、人喰いの殺人犯を捜していた酒井は犯人としか思えない者を見付け、即座に始末しようと襲い掛かった。

だが、結果は悲惨なものだ。

犯人を殺すどころか、逆に酒井自身が致命傷に近い重傷を負わされ必死になって逃走したのだから。
治療しようにも竜神会の支部までは大分距離があり、さらに今向かっている先は酒井自身が向かいたくは無いと思っていた場所だ。

だが、意思とは無関係に身体が死を拒絶し目的地へと誘う。

「先生……すいやせん」

朦朧とした意識の中、酒井は切への謝罪の言葉を漏らし目の前の『天野探偵事務所』があるビルへと入っていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、3月19日、午後18時00分、横浜・天野探偵事務所〜〜


楽しい気持ちでいっぱいなクゥはキッチンでメインの仕上げに取り掛かりながら満面の笑顔を浮かべていた。
切がいない間バイト先の同僚や頻繁に顔を出してくれたアルのおかげで寂しくはなかったが、やはり切がいないというのは嫌だった。
久し振りに切と一緒に食べれるという気持ちを現すように、今日の夕食はいつもより腕によりをかけ量も多めに作っていた。

「『見えない希望は、いつも儚くて
諦めたくなるときもある
だけれど、焦がれた想いだけは褪せない……わぅ?」

カナの歌を口ずさむクゥの耳が階段を昇る足音を捉え帰って来た思い出迎えようと戸へと向かうが、足音の主は事務所の扉の前で止まるとドンドンと重いノックをした。

「は〜い」

切でなかった事を残念に思いつつ、昼間切に言われた事を思い出してクゥはドアを開いた。

「天野探偵事務所にようこそ。
…って、酒井さん?」

ドアを開けた先に居たのは酒井だった。
逆光で表情が見えないが、どうも様子がおかしいということは判る。

「こんな時間にどうしたの……キャウ!?」

突然、酒井は体勢を崩すと来訪の理由を尋ねようとしたクゥを押し潰すようにのしかかって来た。

「ちょっ、なにすん…」

押し退けようと身体に触れたクゥは、そこでようやく酒井の異変を察した。
今まで気付かなかったのがおかしいほど、酒井から濃厚な血の匂いが放たれているのだ。
それに、酒井に触れた手はたっぷりと水を含ませた雑巾のような独特の感覚を返している。
それがなにを意味するのか解らないほど、クゥも鈍感ではなかった。

「と、とにかく治療しないと」

意識が無い事を焦りながらも、切に教わった通りソファーに寝かせ自分の爪で服を斬り傷口を確認する。

「……うぁ」

服の下から現れた酒井の身体は、全身に大量の古傷が残された壮絶なモノだった。
その沢山の古傷に慄くが、一刻を争うかもしれないとクゥは気を持ち直し、改めて傷口を確認する。

「……よかった。
これならボクでもなんとか出来る」

出血の割りには傷自体は意外と浅く筋肉より下には届いていないのはクゥにも解り、とりあえず安心し消毒と止血を施す。
だが、別の問題があった。

「でも、血が流れすぎてる。
どうしたら……」

一応止血はしたが応急処置以上のものではなく、これ以上の知識の無いクゥにはどうすることも出来なかった。

「そ、そだ。キリに聞けばなんとかしてくれる」

ツナギのポケットから急いで『遠吠え』を取り出すと、炭を使うのももどかしいと自身の『魔』を使って起動する。
幸運にも、切とはすぐに繋がった。

『どうした?
今さっき出たから、もう10分ぐらいで帰れる…』
「キリ、大変なんだよ!!
酒井さんが大怪我で血が足りなくて!!??」

自分でもよく解らない説明をするクゥに、切は一瞬で真剣な声に切り替えて言う。

『クゥ、酒井の出血はどれぐらいなんだ?』
「わかんないけど、上着が重たくなるぐらいいっぱい出てるよ」
『だったら、戸棚から薬箱を持ってこい』
「もうもって来てる!!」
『そうか。
なら、中の上段に入っている注射器を出せ』
「ちゅ、ちゅうしゃきって、このおもちゃの銃みたいなやつだよね?」

それらしいモノを手に取り切に確認を取る。

『そうだ。
そうしたら今度は中段の小ビンの中から英語で増血剤と書いてアンプルを出せ』
「え、えと…どれか分かんない!!??」

それまで必死に平静を保っていたクゥだったが、切の指示に従おうとして焦り完全にパニックに陥り英語で書かれたラベルの意味が分からずそう答えてしまう。

『落ち着け!!
とにかく、もうすぐ着くからそれまで酒井を温めろ。後は俺がなんとかする』

説明している間に辿り着けると切は判断しそう告げると『遠吠え』を切り、クゥは言われた通り酒井を温めるため『温暖』を起動し毛布を取りに駆け出した。


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