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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかた〜A child of Pinocchio〜#捜査ファイル4『オールドシード』(10)

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、3月12日、午後20時30分、『里』〜〜


その決定に四人を始め、外に控えていた者達も驚愕した。

「待ってくれ長!!
私達は…」
「ではどうする?」
「っ!?」

押し留まるよう苦言しようとしたが、長の言葉に雪は言葉を失う。

「我々を導きし尊き『みしゃぐじ』は告げたわ。
『もし我が血族が害為すものとなれば、躊躇わず屠り捧げよ』と。
私とて『みしゃぐじ』の血が絶える事は避けたかった。
が、『みしゃぐじ』との誓いを反古にするわけにはいかない」
「だが……なんだ?」

なお食い下がろうとする雪だったが、表が騒がしい事に気付いた。

「失礼する」

騒がしさは徐々に近づきつつあるようで、ぶん殴って静めようと雪は長に断ると様子を見に向かった。

「なんの騒ぎだ!!
……って、テメエ、もう目が醒めたのかよ」

騒ぎは原因は、再起動を完了し覚醒したクラウスだった。
クラウスは雪に気付くと、回りを気にせず声をかける。

「貴女は…雪様でしたね。
失礼ですが、現在状況の把握が難しいので説明をいただけますか?」
「……お前、そんな奴だったか?」

先程の命懸けの戦いの時とは全く違う、無機質なイメージを抱かされた雪は思わずそう聞いてしまう。
実際、クラウスは里の者達に好奇と警戒で満ちた目線でねめつけられているというのに、その本人は無警戒とさえ言えるほど平然としているのだ。
雪に問われ、クラウスはいつも通りに答える。

「先程は記憶の欠落のために余裕をがありませんでしたのでかなりお見苦しい様を晒してしまいましたが、記憶領域の閲覧権限を含む全ての再起動が完了した現在であれば先程はお見せできなかった手管も使用可能になっておりますので、御望みであれば今すぐ先程の勝負を再開してもよろしいですよ」

その挑発的とも取れる言葉に回りがざわめく。
しかし、当の雪はそんな暇は無かった。

「あれはテメエの勝ちでいい。
こっちは今忙しいんだ。
それが済めばテメエを人里まで送ってやるよ」

負けず嫌いで知られていた雪が勝ちを譲ると言い里の者達が目を皿にしたが、今度はクラウスが眉を潜める。

「先程もそうでしたが、随分と奇妙な言い回しをなさりますね。
それに加え、失礼ですが『リ・ディアルの民』らしくないというかかなり時代錯誤な衣服を纏ってらっしゃいますし」
「本気で失礼だなおい。
第一、『リ・ディアルの民』ってのはなんだ?」
「……はい?」

雪の答えにクラウスは最初から感じていた違和感が更に膨らむ。

ここに居る者達は、その殆どが『リ・ディアルの民』の種族的特徴を有し、その特徴も6種族の全てが揃っている。
にも関わらず、彼等は『リ・ディアルの民』の事を知らないと言った。

それに、疑問は他にもある。

そもそもの始まりであり、クラウスが機能停止に追い込まれた原因の存在。
自分の情報が正しければ、あれはドラゴンの原種と呼ばれる個体だった。
が、日本に居る原種は大室山の『白』のみだったはず。
クラウスが考え伏せるのを怪訝に思った雪は、聞いたほうが早いなと思い聞いてみた。

「なあ、さっき言ってた『リ・ディアルの民』ってのは、そんなに私達に似ているのか?」

問われ、思考から脱却したクラウスは反射的に解答する

「ええ。
差異はありますが、あなた方と同じ6種の特徴を有する……」

そこまで言いかけ、クラウスは先程からずっと気になっていた違和感の正体にようやく気付いた。

「二種族以上の特徴……ですって?」

雪の頭に生えた角、それに加え雪の腕にはうっすらとだが虎柄の獣毛が生えているのだ

雪だけでは無い。

肩に角を有した『甲皇』。

翼を有した『神羅』。

獣尾を持つ『鬼王』。

他にも、ありえない事に複数が組み合わされた者まで確認出来る。

「何故!?
あなた方は……」
「『えみし』だ」

困惑しクラウスから漏れた問いに、雪は静かに言う。

「『国津神』、『妖怪』、『化物』、『物気』、『あやかし』、『土蜘蛛』、『安曇』……そんなふうにお前等人間達は私たちをそうやって違うモノだと勝手に名付けて、姿身だけで勝手に畏れて、そして最後には勝手に忘れた。
私達は、そうやってお前達が否定して忘れた者達だよ」
「……そんな、まさか」

雪の言葉に、クラウスは言葉を失った。
クラウスのデータベースには、確かに『えみし』という言葉が載っている。
が、それは漢字で『蝦夷』と書く本来は土着の民であったアイヌ等を指す言葉だ。
だが、雪の言葉が真実なら『えみし』とは『リ・ディアルの民』と酷似した者達のことであり、『国津神』と呼ばれたということは神話の時代の人類の有史以前から彼等はここに居たということになる。

だが、それだけでは彼等が『リ・ディアルの民』のそれも複数種の特徴を有している事の説明にはならない。

異世界『リ・ディアル』に記録されている三千年以上の歴史において、異種族間の婚姻は珍しくない程多いが、その間に子を成せたという事例は『女王』ですら聞いたことが無い。

それを証明するように、『リ・ディアルの民』が人間との混血を成したという事実に震撼した事からも容易に知れる。

仮に、彼等が『リ・ディアルの民』とは別種族だったとしたら、今度はまったく同じ種族的特徴を有していることが謎として残る。

「あなた方は……」
「黙れ」
「っ!?」

静かだが、その分凄みを含んだ雪の声にクラウスは言葉を噤む。

「私達が『リ・ディアルの民』とやらと関係あろうが知ったことじゃねえ。
余計な詮索をしないでしばらくは私の家で大人しくしてろ」
「……失礼しました」

言葉の奥に、僅かだが怒りとは違う感情を感じ取ったクラウスは己を恥じて謝罪を口にした。

雪の言葉が本当ならば、彼等が『異形』と蔑まれてきたであろうことは想像に難くなく間違いではないだろう。

かつてはクラウスも人間から『がらくた人形』『人間の真似事』と蔑まれて来たからこそ、雪の言葉の奥の感情を理解できた。

「申し訳ありませんでした」

雪の言葉通り、寝かされていた部屋へ向かおうと雪に背を向けたクラウスに、雪が声をかける。

「後でテメエに聞きたい話がある。
それだけは覚えておけ」
「畏まりました。
私に答えられる事でしたら、なんなりとお答えします」

雪にそう約束し、今度こそクラウスは歩き出した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴99年、3月15日、午前11時07分、小田原・山中〜〜


道無き道を切とクルールは進んでいた。

二時間ほど前、予定通り窯元でクラウスの足跡を調べた切は、窯元の家主から驚く話を聞かされた。

「でかいドラゴンに襲われたのを、クラウスさんに逃がして貰ったんだ」

詳しく聞いた話によれば、そのドラゴンは巨体に角を有した非常に恐ろしい奴だったという。
その後、嫌がる窯元にクラウスを見失った山中の入口まで案内させ、切は足跡を探すため山に入った。
無作為に伸びまくった枝を避けぬかるんだ山道を登る切がセンサーを全開にしているが、今の所鳥等の小型動物以外にセンサーが何も捉らえず、わずかに苛立ちを感じ始めていた。
窯元の話が真実なら、もうそろそろ現場にたどり着くのだが、クラウスの反応はおろかそのドラゴンの足跡すら見付からない。

「天野切。
これを」

ふと、何かに気付いたクルールが切を呼ぶ。

「なんですか?」

そちらを見ると、樹齢百年前後と思しき立派な樹が根を張っている。
が、別段おかしな点は無い。

「この樹は、太さに、比べ、『魔』が、少ない、です」
「……はあ」

いまいち意味が解らないと切が曖昧な返事をするが、クルールはぺたぺたと幹に触れ喋り続ける。

「こんなに、大きい、のに、蓄えてる、『魔』は、そんなに、ありません。
まるで、身体、だけが、先に、育って、しまった、みたいです」
「……ちょっと失礼します」

クルールの言葉に引っ掛かりを感じた切はそう断ると、センサーの効果範囲を通常以下に落とし視覚センサーを『魔』を関知するタイプに切り替える。

「……ぐっ!?」

森の中は市外地に比べ密集した植物や多数の動物の生み出した『魔』が大量に流れているため、その全てをセンサーで受けとめようしてしまったシステムが膨大な情報に容量をパンクさせそうになるが、即座にマニュアルで他のシステムの演算領域を充ててカバーし演算するタスクを絞ってシステムフリーズを回避する。
その間にセンサーの感度の調整もして立て直すと、落ち着いてから改めてクルールの指した樹を見てみる。

「……成程」

確かに、樹に流れている『魔』はか細く、発芽から数カ月前後の植物程度しかない。

「『促進』か?
だが、ここまで急激に育てたなら土地が痩せるはずだし…」

怪我の治療以外にも植物の成長を早める効果を持つ『促進』だが、周辺の土が痩せていない事が疑問となる。
それはそれとして少し気になる事があったため、切はクルールに尋ねてみた。

「ところで、貴女はどうやって『魔』の流れに気付いたのですか?」

額の目で『魔』の流れを読み取れる『神羅』ならいざしらず、クルールは『海帝』だ。
『女王』程の実力者だからというだけかもしれないが、それでもやはりおかしい。
その問いにクルールは首を傾げて答えた。

「この樹、から、『魔』を、分けて、貰おうと、して、気付き、ました。
『魔』は、私に、とって、食事より、重要な、糧。
だから、大きい、流れなら、大きく。
小さい、流れなら、小さくしか、貰えない、ので、気付け、ます」
「……はぁ。
わかりました」

本当は全然意味が解らないが、とりあえず疑問は解けたので切はそう答えておく。

「……待てよ」

クルールの言葉にもしかしたらと思い付いた切は、容量を限界まで確保するとセンサーを全開にして回りを見回した。

「……やっぱりそうか」

切の目が、他にも『魔』が少ない樹を何本も有ることを確認したのだ。
それも、その樹は一直線を描き、山の奥へと続いている。

「……こっちか」

即座に樹をマーキングをしてから視覚を通常に戻す。

「奥へ向かいます。
逸れないようにしてください」

そう忠告をしてから、切は『魔』を頼りに山奥へと歩を重ねた。


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