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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかた〜A child of Pinocchio〜#外話『heart of the doll and the world and evil』前編

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旧ニューヨーク。
かつて、世界で有数の平穏と摩天楼を誇り、しかし『魔女戦争』で全てを失ったこの都市は、まるで歴史を繰り返すように高層ビルと犯罪者とが集う『魔都』と化していた。
街には6種族からなる『リディアル』と人間、そして人の形をした【PC】(ピノッキオ・チルドレン)が商売や作業に従事し、街中からは昼間から享楽や闘争の喧騒が絶えない。
そんな街中を一人の東洋人と思しき人物が歩いていた。
この時代、定住を拒み街から街へと旅する者は多かったが、どうもその類とは違う。
旅人ならばそれ相応の荷物や長距離移動に使う騎乗ドラゴン等の装備を持っているが、彼はアイボリーカラーのセーターとジーンズを身に纏い、手には小さな手提げ袋しか持っていないのだ。
街の住民かと言えば、それも当て嵌まらない。
この街に住むものなら何らかの武器を所持していることは当たり前で、持っていなければ殺してくれと頼むようなモノだからだ。
しかし、彼は身の危険など無いというふうに普通に街を歩き、そして一つのビルの前で立ち止まった。

「ここかぁ。
まったく、シカゴから長い道程だったよ。」

中性的な声でそう彼は呟くと、憚る様子も無く堂々と正面から入っていった。
入口は広いホール状の作りで上は20メートル以上の吹き抜け。
形状的な美しさと共に防衛面でも考慮された作りは、さながらビルの堅牢さを誇示するようだ。
しかし彼はそんな事には微塵の興味も無いとホールにある受け付けカウンターへと向かい、担当の女性型【PC】に話し出した。

「ミリガルド氏は居るかい?」
「申し訳ありませんが、お客様のお名前とアポイントメントの確認をお願いします。」

人間ではありえないオレンジ色の髪の【PC】は彼に対してそう答えた。
彼はふぅと面倒そうに溜め息を吐くと、自分の素性を名乗った。

「天 薙(あまの なぎ)。
アポは無い。」
「でしたら申し訳ありませんが、アポイントメントを取り、後日いらして下さい。」
「そうはいかないな。
教えてくれないと、無理矢理聞くよ?」

薙は寧ろ歓迎だという雰囲気をもって【PC】にそう告げる。

「畏まりました。
では、強制排除させていただきます。」

【PC】がそう答えた刹那、ホール上空より、上半身は人間、下半身は蟻と形容できる6本足の全長2メートル大の多脚戦車が重音を立てて舞い降りた。
それに対し、薙は愉快そうに言う。

「対人用戦車型【PS】(パンツァー・ソルダート)『アントソルジャー』か。
廃棄したって『イザナミ』は言ってたから、わざわざ拾って治したんだね。」
「警告します。
このままお帰り願えない場合、貴方を処理場に送ることになります。
どうぞお引き取りを。」

そう【PC】が告げるが、薙の表情からは余裕の笑みは剥がれなかった。

「確認するけど、こいつらぶち壊したらミリガルドを連れて来てくれる?」

【PC】の警告を完全に無視した薙の質問に、「『アントソルジャー』は18機の控えがおります。不可能かと。」と淡々と返答する【PC】。
しかし、薙は笑みを深くしただけで怯んだ様子は無い。

「じゃあ仕方ない。
20体全部壊して、自分で探しに行くよ。」

刹那、『アントソルジャー』の人間部が装備した銃器が乱射された。
轟音と土煙が巻き起こり、しかし既に薙の姿はそこには無かった。

「成る程、昔より反応が0、02秒ぐらい速くなってるね。
もしかして、中枢AIはオリジナル?」

柱のわずかな突起にぶら下がるという人間離れした所作で曰った薙の疑問に「いいえ。破壊された【PC】の制御系を流用しているにすぎません。」と、律義な解答が返って来た。

「なんだ、ただの魔改造だったんだ。」

愉快そうな言葉の直後、薙は柱を蹴り跳躍、その背後を追うように火線が撫であげる。

「さてと、データも大体解ったし、片付けようかな。」

そう薙は呟くと弾幕を安全に回避するため柱の陰から柱の陰へと駆け、片方からは死角となる位置に回り込むと一気に片方の【PS】に肉薄、真下へと滑り込みその体勢から足を振り上げ6本の足の内1本を蹴り砕いた。

『!?』
「80年前と同じ弱点を持ってるなんて、現役失格だよ。」

至近距離から発射されたマグナム弾をも防ぐ7ミリ複合チタン装甲をものともせず胴体側の付け根から蹴り砕かれ、自重を支える脚部の中でももっとも重要なパーツを破壊された『アントソルジャー』はバランスを崩していく。
薙は容赦無く態勢を立て直そうとする『アントソルジャー』の上部に取り付くと、メイン中枢たる首を林檎をもぐかのように簡単に引き千切り、完全に沈黙させた。
接近戦は不利と判断した残るもう一機は接近させまいと銃器を乱射しながら脚部を素早く蠢かせ、天井側へと距離を取ろうと走る。

「まったくもう。
無駄玉は控えたかったんだけどなぁ。」

最低限の動きで弾幕を避ける薙は、つまらなそうに呟きジーンズのポケットからパチンコ玉と思しき球体を一個取り出すと、人差し指と中指の間に挟んだ。

「『ラシャップ』、アサルト起動。『レールガン』スタンバイ。」

薙の呟きに呼応して、薙の全身から一瞬放電現象は発生し、そして、

「シュート。」

球体を【PS】に向けて放った。
直後、空気が破裂する音が鳴り球体は音速を超えて凄まじく嫌な音と共に【PS】の胴体を貫通、泣き別れにされた上半身がガシャリと音を起ててホールに叩き付けられた。

「あ〜あ。
また出費が嵩むな。
面倒な事だよ。」

ガシャガシャと複数体の『アントソルジャー』が接近する足音が近付く中、薙はそれらを手早く片付けるため、ポケットからさらに8個の球体をそれぞれ十指の間に挟んだ。

「『レールシェル』スタンバイ。
さあ、早く片付けてミリガルドを探さないとね。」

まるで、祭の佐中に居るような楽しげな口調で薙は言った。

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