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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかた〜A child of Pinocchio〜#捜査ファイル3『リトルハピネス』後編(14)

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴98年、12月23日、午後23時30分、ジオフロント『タルタロス』・炉心〜〜


「クゥ!!」

切が必死に声をかけるが、クゥは目を閉じ何の反応も示さない。

「無駄だ。
あのスフィアは特殊な防音ガラスで覆われている。
何を叫ぼうが貴様の声は届かない」
「クゥ!!今助けてやるからな!!」

ベルガーの言葉を無視し、唯一まともに動く左腕と左足ではいずり近寄ろうとするが、『魔式』が切れエネルギーも枯渇寸前の切の身体はほとんど前に進まない。

「……貴様は、本当に救いようのない人形だな」

嘲りながら切に見せ付けるようにゆっくりと追い越すと、持っていたリボルバーを切の前に放り投げた。

「……なんのつもりだ?」

その不可解な行動に、ようやくベルガーに意識を向ける切。

「言っただろう?
貴様に、贖罪の機会を与えてやるとな。
その拳銃には対【PC】弾が入っている。
その弾なら、このスフィアにも有効だ。
故に貴様には、その弾であのガキを解放するか、俺を殺す選択肢を与えてやる」
「……」

ゆっくりとスフィアの隣に向かいながら言うベルガーの言葉の意味があまりに理解出来ず、切は真意を推し量ろうと無言で様子を見ることにした。

「ああ、ただし、よく考えろ。
俺の機能停止と同時にあのスフィア内に致死性のガスが充満し、一秒足らずでガキが死ぬように設定が為されている。
スフィアを破壊してあのガキが解放されれば、俺は即座にこの場から撤退して世界中で殺戮の限りを尽くす。
さあ、どうする?」
「……それのどこが、『ガイア』の苦しみを背負うことになるんだ!?」

ベルガーの宣った台詞に、切はまともに動く左手で拳銃握り突き付けながら叫んだ。
この距離なら力尽きかけた切でも確実に当てることが出来る。

「ククッ、何を焦っている。
簡単な話だろ?
貴様はガキかその他大勢内、どちらかを選べばいいだけの話だ。
俺を破壊してガキを見捨てれば俺に殺される大勢を救える。
だが、ガキを救うには俺を見逃すしかない」
「『組織』の後ろ盾を失ったテメエに、そんな真似が出来ると…」
「出来るのさ!!
このジオフロント『タルタロス』の最下層封印チャンバーに残されたナノマシン、『ナイトメアバグ』を使えばな!!」
「何……だと……」

ベルガーの言った名に、切の目が驚愕に開かれた。

「貴様達【OP】の『ワルキューレ』のナノマシン応用システムを流用して製作された広域破壊型ナノマシン兵器『ナイトメアバグ』。
アレを使えば、核兵器などより余程効率よく人間を皆殺しに出来る。
それは貴様が1番よく知っているだろう?」
「やめろ!!
アレは!!制御どころか、一度解放されればあらゆる炭素物質を糧に無限に増殖し喰らい尽くすモノなんだぞ!!」

切は必死で警告を発し引き金に掛けた指に力を込めて威圧するが、ベルガーは臆するどころか逆に嘲笑う。

「だったら、あのガキを見捨てて俺を殺せば良い。
どうせ、『ナイトメアバグ』が解放されれば俺とて無事では済まん。
だが、『ガイア』を殺した貴様が世界を破滅に追いやというならそれで十分だ!!」

狂気に満ちたベルガーの台詞に「……狂ってる」と、切は絞り出すような声で言う。

「何を今更!!
俺は、貴様達の言う【CP】(クライムP)なのだろう?
ならば、狂気に身を任せて何が悪い!!」

ベルガーの叫びが木霊した直後、スフィア内に捕われていたクゥの目がうっすらと開かれた。

「……キリ?
っキリ!?」

右足を失い、満身創痍になりながらベルガーに拳銃を突き付ける切の姿を見た瞬間、クゥの意識は完全に覚醒した。

「キリ!!
っ、あぅ!?」

拘束されていることも忘れ切の下に向かおうとするが、抵抗を感知した機械から電流が流れクゥの身体を激痛が走った。
同時に、ベルガーにもクゥが覚醒した事を炉心のコンピュータは伝える。

「…ほう?
あのガキが意識を取り戻したようだな。
混ざりものとはいえ流石に『リ・ディアルの民』、存外しぶといな」
「っ!?」

その言葉に切が露出した顔の機械部を腕で隠そうとするのを眺め、ベルガーは口の端を歪めたいやらしい笑いを浮かべると、懐からもう一丁拳銃を取り出しスフィア内のスピーカーをオンにしてから言った。

「さあ、選べ天野切…いや、【Pナンバー】のオリジナル【P0】!!
ガキの命と全世界の全ての命。
選べぬというのなら…」

わざと音を起てて戟鉄を起こすと、切の頭を狙った。

「貴様を機械人形らしく破壊して、あのガキもろとも『ナイトメアバグ』に喰わせてやる」
「貴様…」

ギリギリと歯を噛み締めて切はベルガーを睨む。

「キリ!!お願い、僕はいいからそいつを!!」

必死で切に叫ぶが、クゥの声は遮られ切には届かない。

「……『ナイトメアバグ』が解放されれば、クゥも俺も死ぬ。
そこに『ガイア』の二律背反は無い!!」

ベルガーに拳銃を突き付けられながらも、切は搾り出すように事実をベルガーに突き付ける。

だが、

「忘れているようだな?
ジオフロント『タルタロス』は、元は浅ましい人間が用意させた密閉型シェルターだということを。
たとえ『ナイトメアバグ』が地上に散布されようとも、ジオフロントを閉鎖すれば貴様とあのガキは生き延びることは可能だ」

ベルガーはその答えを予見し、あっさりと反論した。

「さあ、貴様とのくだらないじゃれあいも飽きた。
ガキと世界のどちらをとるか決めろ。
一分以内に貴様がその引き金を引かなければ、俺が貴様の頭の中にある中枢AIを破壊し『ナイトメアバグ』を解き放つ」

激鉄が落ちるギリギリの所まで引き金を絞りながら、ベルガーは切を追い詰める。
だが、切は手にした拳銃の引き金を引けない。
クゥを見捨てることも、『ナイトメアバグ』を解放することも切には選べない。


だが、選ばなければ全員死ぬ。


切の手が何度もベルガーとクゥを閉じ込めるスフィアを往復するが、それでも引き金は引かれない。

「さあ迷え!!苦しめ!!
『ガイア』は、何年も迷い苦しみ続けたのだ!!
当たり前だが自殺は認めない。
自殺しようとすれば、即座に俺が貴様を撃ちあのガキも、世界も『ナイトメアバグ』に喰らい尽くされると思え!!」

迷いの果て、切が自らの死でベルガーに矛盾を与えればと思い至り銃口が僅かに切自身へ動こうとしたが、ベルガーはその意図に先じ釘を刺す。

「死んで逃げるなどという楽な逃げ道は無い。
どう選ぼうとも…」

切を更に追い詰めようと言葉を重ねていたベルガーに、背後から強烈な殺気が襲い掛かった。

「……まさか?」

背後の存在は『リ・ディアルの民』とはいえ死にかけの小娘。

有り得ないと考えつつもその殺気に背後を振り向き、ベルガーは戦慄を覚えた。

「グルルルル……」

唇が切れそうなほど歯を向き、低い狼の唸り声を零したクゥが、拘束を引き千切ろうともがいていた。

「く、くくく、あはははは!!」

その様にベルガーは心底おかしくなり狂笑を漏らす。

「見ろよ【P0】。
あの餓鬼、お前が自分を助けてくれないものだから自分で逃げ出そうとしているぞ!!」

無駄なあがきを見せるクゥが愉快で堪らないとベルガーはさらに笑う。

「今日まで飲まず喰わずだというのになんてすごいんだろうなぁ!!
それに比べて、貴様はなんてだらし無い!!
中途半端な偽善を振り翳し、揚句の果てにはなんにも選べない不樣を曝すだけの醜態が限界とは、実に愚かしい!!」

ベルガーの謗り、だが切はそれを聞いてはいなかった。

「……めろ」
「何?」

切の目は、拘束をもう間もなく引き剥がせるという所まで来ているクゥから離せなくなっていた。

「やめろ……」
「…ちっ、とうとう狂ったか」

これ以上は無駄かと思い始めていたベルガーは気付いていない。

切が、何を焦り、恐怖しているのか。

「……もう…やめてくれ……」

切の目に映るクゥは、痩せ細って心身共に消耗しきってなおあれだけの力を発揮している。

何故か?

答えは切の目にしっかりと映っていた。

「もうそれ以上、自分の命を削らないでくれ!!」

足りないエネルギーを搾り出すため、『魔』の塊である自らの『魂』を削るクゥに、銃を握る力すら無くした切はただ慟哭し哀願した。


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