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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかた〜A child of Pinocchio〜#捜査ファイル3『リトルハピネス』前編(10)

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴98年、12月17日、午前0時55分、横浜、天野探偵事務所〜〜


「何を言って……」
「とぼけねえでくだせえ」

切の言葉を遮り、酒井はポケットから白い粉の入った瓶を取り出した。

「先生のデスクからこいつが出てきやした。
こいつは、エステルの父親が服用していたのと同じドラッグです」
「待ってくれ酒井、そんなモノ、俺は知らない!!」

身に覚えの無い罪の証に、切は声を大にして否定する。

「……あっしだってそう思いてえですよ。
ですが先程、本部から先生を捕まえるよう下知が下りやした」
「……なんだって?」

その酒井の言葉に、切は言葉を失う。
竜神会に【P1】。
立て続けに自分を捕まえようとするもの達が現れ、切は慌ただし過ぎる状況の変化に置いていかれていた。
酒井はゆっくりと瓶を懐に戻すと、ドスをいつでも抜けるよう構えながら静かに告げる。

「先生。
できれば、あっしは先生とは戦いたくありやせん。
だから、お願えしやす。
悪いようにしやせんから、大人しくあっしの縛についてくだせえ」
「酒井、俺は……っ!?」

何を言うべきなのか迷った切のセンサーが爆発物の存在を感知し、反射的に叫んだ。

「逃げろ酒井!!」

そう切が叫んだ瞬間、事務所内は閃光と爆音に包まれた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴98年、12月17日、午前0時59分、横浜、天野探偵事務所周辺〜〜


事務所から黒煙が立ち上るのを『天野切』は愉快そうに眺め、爆笑していた。

「は、ははは、あはははははははははははははははははははははははは!!!!
まったく、ここまで計画通りになるなんて、逆につまらな過ぎるじゃないか!!」

そう言いながらも、『天野切』は狂ったように笑い続けていた。
切が戻る数時間前、『天野切』は事務所に忍び込みドラッグをデスクに入れて殺傷能力の低い小型の爆弾を仕掛けていた。
次いで、周辺をうろついて捜査に出ている治安組織の人間をおびき寄せた。
そして、切が戻った後で爆弾が作動するか見物するために事務所が見える近くのビルから事務所を眺めていたのだ。

「しっかしまあ、あっさり引っ掛かってくれたもんだなぁ」

爆弾は、キーワードに反応するタイプで切のセンサーに引っ掛からない位置に仕掛けておいた。
仮に見つかったとしても、切の行動パターンから間違いなくそこに居た治安組織の関係者に対し退避を促したはずだ。
故に、キーワードは退避を促すときに口にするだろう言葉に設定しておいたのだが、ものの見事に当たったことが楽しくて仕方なかった。
もっとも、『天野切』は切をまだ殺すつもりは無い。
例え、爆弾を抱えたとしても切が耐えられる程度に爆薬を調整しておいたのだから。

「さあ、ここからが本番だ。
今度は貴様が全て失う番だ。天野切」

そう罵るように言い残し、『天野切』は衛星の死角を縫ってビルから離れて行った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴98年、12月17日、午前1時05分、横浜、天野探偵事務所〜〜

「……いっ、一体何が起やがったんだ……?」

突然の爆発の衝撃に吹き飛ばされた酒井は、舞い散る埃の中で壁材やソファーの残骸から身を起こし、辺りを見回した。
『鬼王』の酒井は老躯とはいえ長年鍛え続けてきた頑強な肉体のお陰で怪我らしい怪我も無かったが、事務所の中は凄惨な状態となっていた。
窓ガラスは爆風に全て吹き飛び、爆心地と思しきテーブルは砕けて地面に焦げた跡を残しており、端のほうにあった棚や家財道具も残骸と化していた。

「先生、大丈夫ですかぁ!?」

『燭』が消えてしまい薄暗い事務所の中でそう声をかけた酒井は、佇む切の姿を見つけ僅かに安堵したのだが、その安堵は次の瞬間恐怖に変わった。

「せ、先生!?
その怪我は……」

切の身体は爆風によって皮膚の一部がズタズタになり、血液に擬態した液体型ナノマシンが服を真っ赤に染めていた。

「急いで治療を…」
「……やってくれたな」

心配する酒井に気が付いていないように、切は低い声でぼそりと呟いた。
その手には、無惨に引き裂かれたコートが握られている。
腕の傷に構う事なく切は、低く暗い色を孕む笑いを零した。

「やってくれやがったな偽者野郎。
人の顔で悪さするだけならまだ可愛いげもあったが、こいつをこんなにしてくれるとは……」

切の凄まじい怒気に酒井は気圧される。
若い頃に在籍していた『女王』近衛隊では腕っ節で敵う者は殆どおらず、引退後は竜禅の誘いのままに竜神会に入り数々の悪人を拳で叩き伏せて来た酒井だが、今の切はどんな強者や悪人よりも恐ろしい気配に満ちていた。

「酒井」
「へ、へぇ?」
「ちょっと待っていろ。
これから、俺の偽者をぶち殺して首を挙げる」
「こ、殺すって先生!!」

酒井の知る切にそぐわない単語に酒井は焦る。
だが、切はまったく躊躇しない。

「この時点で奴の犯罪はテロリズムだ。
神奈川の法ではテロリストへの報復は認められており、テロリストの生殺与奪の権利は被害者にあるんだよな?」
「た、確かにそうですが…クゥちゃんはどうすんですか!?」
「っ!!??」

クゥの名を出され、始めて切の顔に迷いが生じた。
だが、

「……自分で、出ていった奴のことなんか知るか」

そう、悔しそうに呟いて半分しか残っていない事務所の扉に手をかけた。
酒井は、切がクゥの事から逃げようとしているのが手に取るように分かったため、言を重ねる。

「俺は知っているんだぞ。
先生が、クゥちゃんをどれだけ大事に思っているか。
先生がクゥちゃんを助手にしねえのは、万が一、仕事で被害を被った奴が報復に来たとき巻き込まねえためだと。
クゥちゃんのバイト先だって、徹底的に洗って安全だと先生が判断しなきゃ働くのを認めてねえじゃないか!!
先生、ここで目を逸らしちゃ駄目だ!!
逸らしたら、俺のように後悔と贖罪によっ掛かんなきゃ立てなくなっちまうぞ」
「じゃあどうしたらいい!!」

そこまで言われ、切はずっと堪えていた、クラウスにも言えなかった本音を感情と共に爆発させた。

「クゥを探して連れ戻して、それでなんになるんだよ!!
俺があいつを護りたいと思おうが、あいつと一緒に居たかろうが、クゥには届かなかったんだ!!
だから、俺にクゥを探してやる資格なんか…」
「有るに決まってんだろうが!!」
「っ!?」
「俺から見れば、先生とクゥちゃんはまだヨリを戻せるよ。
人間なんてのは、擦れ違いと勘違いを何度も重ねていくんだ。
確かに、袂を分かっちまうことだって有るさ。
だけどな、先生とクゥちゃんぐれえお互いをちゃんと想いやっている相手同士なら、たとえ別離したとして、そんな辛そうにはしないんだよ。
だから、先生。
もう一度クゥちゃんを捕まえて、ちゃんと話し合ってやれよ」
「酒井………まさか、先生と慕う相手から説教を喰らうとはな」

そう言った酒井に、切は少しだけ間を置いてから表情を緩め、落ち着いたように乱れていた髪を掻き上げた。

「先生…」
「酒井、殺すのは止めだ。
いつも通り、普通に半殺しにしてから酒井に引き渡す」
「…へい。
お願いしやす」

そう答え、酒井は酒井の知る切に頭を下げた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴98年、12月17日、午前1時25分、天野探偵事務所裏〜〜


三階で着替え、外装の簡単な治療を行った切は外に出ると酒井に告げた。

「俺は、偽物を捕まえるまで横浜から離れる。
もし、横浜に入るときは、連絡するから頼む」
「ええ。
必ず一声頼みやすよ」

その今は自分を見逃してくれという無茶な要求を、酒井は了承した。
解りづらく不器用だが、信頼してのこその発言だと解ったからこそそれを認めた。
切はいつものコートによく似ながらも仕様の違う、より戦闘に適したホルダーやポケットの多いダークグリーンの軍用コートを纏い、破れたコートと大量の携帯バッテリーが収まっている二つのトランクを携えていた。
切は、酒井と共に事務所の狭い路地裏に向かうと、そこで待機する『スクルド』に命じた。

「『スクルド』。
光学迷彩解除」
『Yes.
Optics camouflage cancellation.』

スクルドが突然姿を顕した事に酒井は驚愕して腰を抜かしかける。

「せ、先生。
そいつは?」
「……昔、俺のために作られた相棒だ」

それだけいうと、『スクルド』にトランクを取り付けてから、スピードメーターの下にあるボタンを何個か押して通信機能を起動しクラウスに連絡を入れた。

『切ですね。
今どこに?』

通信に出たクラウスに、切は簡潔に状況と要件を伝える。

「事務所の裏手にいる。
クラウス、事務所を爆破された。
犯人はおそらく例の奴だ。
至急『コードA』の発動を頼む」
『……分かりました。
合流場所はどこにしますか?』
「そうだな、幕張の旧前線基地は生きているか?」
『少々お待ちを。
……大丈夫とはいきませんが、設備に問題はありません。
指定位置へはEXISも随伴させます』
「分かった。
それと、後で俺のコートの修理を頼める店を探してくれ。
腕が立つなら金に糸目はつけねえから」
『……………分かりました』
「間については言及しないでおく。
向こうで会おう」

そう通信を切ると、切はシートに座り酒井に振り向いた。

「何か分かったら連絡出来るよう、『遠吠え』はいつでも繋がるようにしておく」
「解りやした。
あっしの方でも、進展がありやしたらお伝えしやす」
「ああ。
『スクルド』高速走行形態」
『Yes
high-speed run form』

そう『スクルド』が告げ、フレームが少しだけ小さくなりホイールとフレームの間が僅かに隙間を空けた。
次いで、その隙間に磁力が発生し、沈んだ車体が元の高さまで浮き上がった。

「うぉう!?」

車体が僅かに浮いたことで、酒井は驚きに声をあげた。

「いちいち驚くなよ。
……行ってくる」

酒井に別れを告げアクセルを絞ると、『スクルド』はリニアモーターカーの原理でホイールが高速で回転、走行開始から僅か一秒足らずで時速100キロを突破して深夜の街を駆け抜けた。

切の姿が小さくなるのを見届けた酒井は、爆破された事務所の現場検証を始めるため『遠吠え』を手にすると、一息吐いて武運を祈った。

「先生、御武運を」


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