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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかた〜A child of Pinocchio〜#捜査ファイル3『リトルハピネス』前編(9)

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〜〜新歴98年、12月16日、午後23時20分、八王子、PCサービスセンター・前〜〜


戒厳令の敷かれたような物々しい雰囲気に包まれ、臨戦体勢に入った総数40機以上の【PS】が固めるセンター入口。
【P0】の逃走から数十分が経過したが、【P0】はいまだに姿を見せず、状況は膠着状態かに思えたが、その状況に変化をもたらすアラートが鳴り響いた。

『 Valkyrie "Skuld" sortie.
I throw a partition open.
The person of the appointment area please evacuate as soon as possible.(ワルキューレ『スクルド』出撃。
隔壁を開放します。
指定区域の者は至急、退避してください)』

その放送と共に敷地の一部、5メートル四方の地面がゆっくりと開きだした。
【PS】はすかさずその一画に集まり、銃を構えた。
開いて空洞となったその場所から、昇降機の稼動音と共に激しい排気音を唸らせながら『スクルド』が地上に姿を現した。
『スクルド』はホイールと一体化した完全な円状のフレームに座席と中型水素ガスタービンエンジンが搭載された、モノホイールバイクと呼ばれる姿をしており、その座席にはハンドルを握る切の姿があった。
座席に座る切に対し即座に警告が成される。

『『ワルキューレ』を停止し、直ちに投降せよ。
警告する。
投稿しない場合、破壊する』

その要求に対し、切の答えは簡潔だった。

「『スクルド』防御走行形態!!」
『Yes
defense run form』

その命令にホイールが3つに分割し、3本のホイールが座席を包む。
次いでホイールとホイールの間を、僅かに発光する幕が包み隙間無く覆った。

『射撃開始』

抵抗と判断した【PS】達によって一秒間に数百発以上の弾丸が『スクルド』に降り注ぐ。
だが、膜に当たった弾はことごとく弾かれてしまう。

「無駄だ。
数兆のナノマシンが形成する『スクルド』の防護膜が、たかだか実弾で貫通出来るか!!」

そう言うと、切は足でクラッチを踏み込んでギアをセカンドに繋ぎ、アクセルを目一杯絞り込んだ。
アクセルが掛けられたことで球体と化した『スクルド』のホイールが高速で回転を始め、弾幕の中を爆発的な速度でもって移動を開始。数体の【PS】を跳ね飛ばた後、鋭角に方向転換して逃走した。

『追跡開始』

【PS】は逃走した切を追うため輸送用コンテナ車へと移動、即座に追跡を開始した。


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〜〜新歴98年、12月16日、午後23時33分、場所不明〜〜


夜の闇の中、異様に狭い道を『天野切』は一人ズボンのポケットに手を入れたまま悠然と歩いていた。
周囲には様々な者がいるが、どれも一目でカタギでないと見て解る者ばかりで構成されている。
その中の一人が『天野切』に話し掛けた。

「売れたか?」

『天野切』は口を歪めて答えた。

「ああ。アガリは上場だぜ。
ついでに仕込みも済ませて来た」

その答えに周りの者達は愉快そうにはしゃぎまわる。

「そっちはどうなんだ?
良い値が付きそうな奴は見つかったか?」

『天野切』の問いに、別の一人が答える。

「当然だ。
ちっとばかり危なかったが、見繕っていた二人はもう運び込んである。
後一人、竜神会様より受け取るのを待つばかりだぜ」

その言葉に、男達は腹を抱えて爆笑する。

「最高だったな。
竜神会の奴ら、派遣に使っていた会社が俺達に喰われてるなんて、微塵も考えてないって顔をしてたぜ」
「ああ。
あれで、神奈川最大の治安組織なんて冗談にも程があるよな」
「まさか、自分達が人掠いの手伝いをしてるなんて夢にも思ってないだろうよ」

そう口々に言いながらタガが外れたように笑い狂う男達。

「それにしてもよう」

ようやく笑いが収まって来たらしい一人が、『天野切』の肩に寄り掛かりながら尋ねる。

「お前の指示で最初に取っ捕まえたあのガキを、お前がが欲しいなんて、何の冗談だ?
えらく気に入ったみたいだが、あんな乳臭えガキよりもっと犯りごたえのある上玉はいくらでもいるじゃねぇか」

そう下卑た笑みを浮かべて笑う男の手を払い、『天野切』は醜悪に笑う。

「確かにな。
女としちゃあまだガキにしか起たねえ変態ぐらいにしか価値はねえが、あれぐらい気性が荒いほうがペットには良いんだよ。
飼い馴らすのが難しいほど、屈服させきった時の快感はたまんねえだろう?」

そう答えた『天野切』の顔は、醜悪というには余りにも悍ましい笑みを浮かべていた。
その姿に、男は首を振って笑う。

「犯るでもないのに飼うなんざ理解できないねぇ。
にしてもよう、なんでその『顔』を選んだんだ?
潜り込むだけならいくらでも……」

そこまで言いかけ、男は言葉を失った。
『天野切』の顔は、さっきまでの下品な笑みが消え、憎悪という言葉ですら足りない程恐ろしい憎しみの感情が浮かんでいたからだ。
その威圧感は、いまだに笑い続けていた者達すら恐怖に怯え捩伏せるほどである。

「……この『顔』にした理由か?」

その憎しみを刻んだ顔からは想像も出来ないほど静かな声で『天野切』は答える。

「44年越しの復讐だよ」


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〜〜新歴98年、12月17日、午前0時12分、町田〜〜


深夜の大通りを時速100キロ以上で走る『スクルド』とそれを追うコンテナ車。
コンテナ車に追われる切は、最初こそ『スクルド』のスペックならば簡単に逃げ切れると考えていたが、ここ数日の切の性能低下と長年掛けて向上した【PS】の性能により、その考えが甘かったと認めざるを選なかった。

「ったく、しつけえ!!」

だが、その間に解った事もある。
追っ手の【PS】は衛星とリンクしておらず、躯体付属のレーダーと視覚センサーのみで自分を追跡している事。
その事が解れば『スクルド』なら対処法があると、切は即座に作戦を『スクルド』に告げた。

「『スクルド』、次の交差点で煙幕を発射する。
その直後に光学迷彩とステルスモードを同時起動してデコイを発射しろ」
『Yes
Count、5、4、3…』

目的地までの距離と走行速度から逆算した最高の発動タイミングを告げるサポートAIのカウントが始まると、切は八王子の地下倉庫から一個だけちょっぱった煙幕を前方におもいっきり投擲した。
投擲された煙幕弾は交差点の少し前に着弾すると、視界を完全に塞ぐ黒い煙を撒き散らした。
そのまま『スクルド』と『スクルド』を追うコンテナ車が煙幕の中に侵入する。
そして、カウントがゼロを告げた直後『スクルド』が『Optics camouflage and stealth bomber start. Decoy ejection(光学迷彩とステルス起動。デコイ射出)』と光学迷彩とステルスを同時起動し、ナノマシンの膜を張り『スクルド』の姿のホログラムを発生させたデコイ射出する。
切は走りながら車体を回転させ強引に方向転換して停止したが、レーダーに映るデコイを『スクルド』と勘違いしたコンテナ車は煙幕を突っ切ってデコイを追い、そのまま走り去った。
走り去るのを確認した切は光学迷彩だけを解除させ、ようやく一段落したと肩の力を抜いた。

「ざまあみろ。
そのまま静岡まで行っちまいな。
…さて、どこに逃げるか」

匿ってくれそうな相手として最初に思い付いたのはマリーツァの屋敷だが、新東京は監視が厳しい上マリーツァに迷惑をかけたいとは思わず、すぐに却下した。
他にもいくつかアテはあるが、いざ戦闘になった時の向こうの戦力を鑑みれば、どこも良策とは言えなかった。

「……とりあえず、着替えて寝よう。
しばらく戻れねえみたいだしコートとバッテリーも必要だからな」

酒井の持ち込んだ一件から今まで、一度としてまともな睡眠を摂っていなかった切のメモリーはかなり圧迫されていた。
その結果、本人が思うより躯体の状態は悪くなっている。
結局、どこに行くのも同じだと結論付け、切は一路『スクルド』を操り人通りの少ない道を選んで事務所への道を向かった。

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〜〜新歴98年、12月17日、午前0時45分、天野探偵事務所裏〜〜


人目を憚りながらようやく事務所のビルにたどり着いた切は、『スクルド』を通常走行形態に移行させてから降車して猫ぐらいしか通らないビルの間に停車させた。

「見つかると面倒だしな。
『スクルド』光学迷彩起動」
『Yes
Optics camouflage』

その指示に、『スクルド』の姿が回りの風景に解けた。
完全に迷彩が発動したのを見届け、切は改めて事務所のあるビルの階段へと向かう。

「とりあえず『ダグザ』は問題ないから先ずは寝る。
そしたら、クラウスと連絡とって今後の方針を固めよう。
……ん?」

そう大まかな指針を口にしながら階段を昇っていた切は、事務所から気配を感じた。

「……」

センサーで確認出来るかぎり相手は一人。
こちらに気付いているようだが、敵意は薄い。
切は、用心しながら扉を開けた。

「誰だ?」

扉の先に居たのは、手に50センチ程の棒状の物体を握った酒井だった。

「なんだ、酒井か。
依頼か?だったら済まない。
しばらく手が離せそうに無いことが起きてな」

そう言いながら、切は『燭』の『魔式』を起動する。
部屋が明るくなり、改めて酒井に振り向くと、切は固まった。
酒井の手に握られていたのは、鋭利に磨かれたドスだったからだ。

「……先生。
今まで、ずっと俺達を騙してたんですかい?」

酒井はなにかを堪えるように、そう問い質した。


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