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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかた〜A child of Pinocchio〜#捜査ファイル3『リトルハピネス』前編(8)

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〜〜新歴98年、12月16日、22時21分、神奈川、竜神会本部〜〜


「クラウス!?」

端末の向こうで騒がしくなった直後に通話が切られた事で、一刻の猶予すら無くなって来た事をアルは肌で感じていた。

「……アルちゃんよう、もういいかい?」

そう問い掛けたのは上座に座り羽織りを肩掛けにした老人だった。
短く刈り上げた短髪はその大半を白く染めているが、顔に入った何本もの切り傷の跡は歴戦の古兵を言外に語るほど厳めしい。

「話の途中で悪かったわね、竜禅」

そうアルが呼んだ男、竜禅こそ神奈川で最も力を持つ治安組織、竜神会の組長である。
そう謝罪したアルに、竜禅は溜息を吐き、

「まったくよう。
その自由奔放を通り越した自分勝手さは、40年前からまったく変わんねえな。
まあ、そいつがお前の魅力かもしれねえがな」

くくくと苦笑を漏らす。
その言葉にアルも口許を綻ばせ、「ありがと。」と返す。

「さてと。
積もる話もあるが、お互い忙しい身だ。
その上、茶飲みしながらひなたぼっこするにはちと間が悪いな」
「そうね。
じゃあ、本題に入りましょうか」

二人の間に僅かな緊張が走り、アルはゆっくりと口を開いた。

「まず、貴方は天野切が犯罪組織の協力者と断定して指名手配したのね」

アルの質問に、竜禅は深く頷いた。

「ああ。確かにその下知を下したのは俺だ。
まだ秘匿捜査でやってやれって指示したばっかだってのに、相変わらず耳が早いな」
「そこはまぁ、私の人徳よ」
「そいつは怖いファン共だな」
「その話はさておき。
切が組織と関係があるという物証はあるかしら?」
「物証はねえな。
だが、子買いのモンが密売の現行犯を押さえてやがる。
話の限りだと、外見は他人の空似というには無理があるそうだ。
大倉」

竜禅の呼び掛けに、襖が開き、黒スーツに黒いサングラスのいかにもなヤクザという人物とスカジャンにジーパン姿のチンピラらしき人物が入って来た。

入って来た二人は竜禅とアルの中間まで進み正座をすると、サングラスの男がまず頭を下げ喋り始めた。

「大倉と申します。御見知り置きを。
今回、私の部下原田が天野切と、天野切に関わりがある犯罪組織らしきグループが共謀していると思しき場面に出くわしたそうです」

そう報告する口調こそ丁寧だが、纏う雰囲気は到底アルを歓迎しているとはいえなかった。

「あらあら。随分と嫌われてるみたいね?」
「…いえ。
組長な御客人に対し、そのような感情はありません」

平然と指摘するアルに、微塵の揺らぎも見せず答える大倉。
そこに、竜禅が茶々を入れた。

「しょうもあるめえよ。
なんせ、アルちゃんは盃を交わしているわけでもねえのにこの竜禅と対等に話してんだ。
長年仕えて、ようやく幹部になれた大倉としちゃあアルちゃんの存在は面白くねえさ。」
「成る程。それは仕方ないわね。
それはそうと、原田というのは貴方?」

そう問われ、今まで黙っていた男が少し慌てたように顔を上げる。

「へ、あ、はい」
「その時に見た天野切はコートを着ていたかしら?」
「……いえ。
上着は茶色のスーツだけでした」

少し思い出そうとするそぶりをした後、原田は下手な敬語でその質問に答えた。

「コート?
そいつになんか意味でもあるんかい?」

竜禅の問いに、アルは頷いた。

「ええ。
私の知る天野切は、外出する時には真夏日でもコートを手放さないわ。
ついでに言うと、本人曰そのコートは随分前のとある部隊で使われた軍用で、現存するのは数着有るかどうかだそうよ?」
「ほほう。そいつは趣味な代物だな」
「そうね。
前に冗談で取り上げようとしたら、あいつ、本気でキレてたわよ」
「アルちゃん相手にか?」
「ええ。
下手したら殺されてたかもね。
それで、見たのはいつ頃の、どこでかしら?」
「えっと、ですねぇ。
一昨日の21時過ぎぐらいです。
場所は……山下公園の埠頭でした。
クスリを売った後、何処に向かうか跡を付けていたら、そこで10人ぐらいの柄の悪い見しらねえ奴らとなんか話しているのを見たんです」

その答えに、アルは笑う。

「なるほど。
やはり、横浜には天野切が二人存在しているみたいね」
「…その証拠はなんですか?」

大倉の質問に、アルは少し苦笑しながら答える。

「ちょうどその時刻に、天野切は八王子に居たのよ。
その数時間前に、私の部下が天野切に負傷を負わされてね。
それで、身の潔白を証明させるために監視役と一緒に本人を八王子に行かせていたの。
勿論、別れ際にもそのコートは着ていたわ。
その後、23時20分頃に横浜支部の酒井が呼び戻していたけど、その時にもコートは着ていたわ」

実際は【P8】による強制連行だが、切と【OP】との係わり合いについては触れさせたくないため、アルはそのことについて伏せて言った。
理由を述べ終えたアルは竜禅に向き直った。

「これで、私の方はいくつか納得がいったわ。
天野切の偽者が、なんらかの悪意を持って横浜で行動している」
「確かに、筋は通っちゃあいるな。
だがよ、アルちゃんが嘘を言っていないという証拠はあるかい?
俺は信じてやりたいが、組織というのは、そうもいかねえ。
なんかしらの物的証拠を出して貰わなきゃ、いくらアルちゃんの言葉でも鵜呑みにゃあ出来ねえよ」
「向かわせた先はPCサービスセンターだから、監視カメラの映像なら残っているはずよ」
「監視カメラの映像は改竄する余地があります故、証拠足り得ません。」

大倉の反論に、竜禅は同意する。

「確かに。
せめて本人かその時の監視役の言質ぐれえの証拠が欲しいな」

腕を組んだ竜禅の言葉に、後はクラウスに切を引き立てさせて『共通』でも使わせるしかないかとアルが考えた所で、アルの懐から再び電子音が響き出した。

「ちょっとごめん」

そう断り、端末を通話状態にするアル。

「クラウス?
今立て込んでいる……何ですって!!」

クラウスの報告に思わず大声を上げる。

「それで……そう。
分かったわ。
こちらが済み次第手筈を始めるわ」

そう言うと、アルは端末を切った。

「アルちゃん。何事だい?」

そう問い掛ける竜禅に、歯切れが悪そうにアルは答えた。

「別グループが天野切を更迭しようとしたから、仕方なく単独で逃走させたそうよ」
「ということは、現在天野切は野放しになっていると?」

大倉の言葉に首肯する。
竜禅は大倉に指示を下した。

「天野切を捕まえろ。
抵抗する場合は腕の一本までは許す。
……アルちゃん。話の続きはそれからでいいな?」

その問いに、アルは頷くしかなかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴98年、12月16日、午後22時25分、PCサービスセンター地下〜〜


「よくも散々やってくれたな!!
こいつはお返しだ!!」

【P3】の作戦が開始され数分後、メンテナンスルームから破砕音と切の怒号が響いてきた。

次いで、金属が千切れる音が響き、その騒ぎに【PS】達は作戦が失敗したと判断して中へとなだれ込む。
中に入ると、倒れたクラウスが顔を押さえ身を起こしながら悔しそうに状況を口にした。

「作戦に感づいた【P0】が逃走しました!!
【P0】はエアダクトから地上へと逃走するつもりです。
至急、地上で迎撃体勢を固めなさい」

その指示が合理的であると判断した【PS】は即座にメンテナンスルームから出てエレベーターへと向かう。
全機が退出したのを確認すると、クラウスは何事も無かったように立ち上がり、端末を取り出しながら小さく呟いた。

「切、上手く逃げてくださいよ」

クラウスの作戦でエアダクトに潜り込んだ切は、地上ではなく【OP】用メンテナンスルームより更に地下にある、『ある区画』を目指していた。

「……まったく、昔は結構やんちゃしたけど、こういった泥棒紛いの事は初めて…だな!!」

下へと続く道を塞いでいる格子を蹴破り、その開けた穴へと身を滑り込ませる。
液体緩衝剤に濡れたシャツが張り付き非常に気持ち悪いが、それに構う暇は無く急いで更に下へと目指す。
下へと進み続けること30分の後、切は目的地へと続くダクトの格子の前にたどり着いた。

「……せい!!」

格子が蹴り飛ばされガシャンと音を曳きながら数メートル下へと落ちると、切は対人系セキュリティが起動していないことを確認しエアダクトの狭さから解放されるために身を外へと躍らせ静かに着地した。

PCサービスセンター最下層に位置するここは、地下数百メートルに建設された特殊な兵器格納庫だった。

「44年振りの再開……か」

大小様々な兵器が朽ちかけている中、異様な佇まいの一画に足を踏み入れた切は、懐かしいような思い出したくないような、そんか複雑な表情でそれらを見渡した。

そこにあるのは、【Valkyria】と書かれたプレートが付けられた大小様々なカプセルが10基並び、それぞれ『スクルド』『ブリュンヒルデ』『ゲルヒルデ』『オルトリンデ』『ヴァルトラウテ』『シュヴェルトラウテ』『ヘルムヴィーゲ』『ジークルーネ』『グリムゲルデ』『ロスヴァイヤ』『ロタ』と記載されている。

その内、『ゲルヒルデ』『ロスヴァイヤ』『ロタ』のカプセルは開き中身が空となっていた。

「……」

切はその事に少しだけ目を伏せるとクラウスから預かった六角柱の物体を取り出し、『スクルド』の名が刻まれたカプセルの前に立った。

「…行くぜ、相棒」


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