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SS倉庫コミュの『二時創作』BladeGod'sMaiden〜去るモノのMemento mori〜【8】

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しばらく走っていると尚純は、人型が奇妙な列を作っているのを見かけた。

それは、誰もが手に一枚の銅貨を握っている人型の列だった。

走りっぱなしで息が上がっていた事もあり、尚純は走るの止めて呼吸を整えながら列の先に目を向けた。
すると、二百メートルぐらい先で誰かが喋っている声が聞こえた。

「あ〜、お前さんも駄目だな。
罪科が多すぎる。
嫌だとは思うが、もう二百周、回ってきてからもう一度来なさい。
はい次〜。」

その声と共に列が一人分前に進み、尚純は声の主の元へと向かった。
声の主は人型をまじまじと顔を見た後、残念そうに言った。

「ふむふむ、・・・・惜っしいなぁ〜。
お前さんの罪なら銅貨10オロボスで渡してやったんだがなぁ〜。
やり直してきな。はい次〜。」
「なあ、」
「はいはい、順番は守り・・・・はい?」

尚純の声に男は、尚純を見てしばらく固まった後、恐る恐る指差して、

「・・・・君、生きてるよね?」

と、逆に聞いた。

「ええ。
この川を渡りた「おいおいまたかよ。」」

尚純が用件をいうより早く、男はうんざりした顔で言葉を遮り頭を掻いた。

「まったくやんなるよな〜。
生身で来る奴は皆無賃乗船しやがるし、仕事は遅くれて上司には散々嫌味言われるしで最悪だよ。
で、お前さん、名前は?」
「え?ああ、・・・尚純だ。」

アルに警告はされたが、無言でいるわけにもいかず、つい、尚純は名前を名乗ってしまった。
名前を聞いた男は、懐からメモ帳らしきモノを取り出すとパラパラとめくり始めた。

「ふんふん。尚純ね。
・・・あったあった。
えっと、罪科がこれだから・・・」

メモ帳の中身を読むと、男は顔を上げ、

「お前、2000年待つのと現金2000万円払うのとどっちがいい?」

と、爽やかな笑顔で聞いて来た。


〜〜16〜〜

〜午前3時、教会前〜

僅か1時間弱。

それが、教会に押し寄せた妖怪の群れがアル一人によって叩き潰されるまでにかかった時間である。
対して、アルはかすり傷はおろか、呼吸一つ乱してはいない。
しかも、時折うめき声が聞こえるように、アルは一人たりとも殺してはいなかった。

そんな(違う意味も含めて)地獄を作った張本人は、余裕の無い顔で一人の巫女服の女性と相対していた。

「ふむ。
久方振りに『外』まで買い物に出てみれば、なにやら愉快な事になっているな。」

女性は、そう呟いて辺りを見回す。

それだけで、まだ僅かだが回復し始めていた妖怪達は身を震え上がらせている。

「まあね。
えっと、『袖すり合うも戦の合図』って感じなのよ。」

アルはあっけらかんと言うと、女性は「貴殿は日本語が目茶苦茶だな。」と呆れた。

「まあいい。
私には関係の無い話だからな。」
「へえ、その割りにはやる気じゃない。」

嘆息しながらも、女性の微塵の揺らぎも無い闘気を見抜き、アルは油断無く足を微かに踏み込んだ。

「・・・それは貴殿もであろう?
第一、これは癖みたいなものでな。
更に言えば、『中』のモノ達とは比べものにならぬ強者を前に油断出来る程、私は強くないのでな。」
「またまた。
謙遜しなくてもいいんじゃない?
だって、」

すぅ、と踏み込みの体勢を深くする。

「私が本気を出して勝てないかもと思わせるんだから。」

アルの言葉に、女性はカチャリと鯉口を切る。

「それは、私とて同じだぞ?」
「そう?
なら、試してみない?」
「しかし、私には闘う理由はないのだがな。」
「いいじゃない。
闘争に付ける理由なんて、闘ってみたいというだけで十分よ。」
「・・噂以上に殺伐とした人物らしいな。
だが、解しやすい。」

女性は腰を落とし、抜刀の構えに入る。

対してアルも翼を大きく広げ、力を溜める。

「私の名はアル。
誇り高き夜の闇を翔ける翼の一族なり。
我が翼は古しえの盟約を果たさんが為、あらゆる外敵を討ち滅ぼすなり!!」
「我が名は高杉玲奈。
第三代高杉家当主、御剣神宮が巫女なり!!」

互いの誇りと誉れを告げる名乗りが交差し、

『参る!!』

寸分の狂いすらなく同時に動き出した二つの影が交差した。


〜〜17〜〜


ざぶぅうんと流れる川を掻き分け、船がゆっくりと川を横断する。

船に乗るのは船頭と尚純だけだった。

あの後、尚純はとんでもない金額にひっくり返りそうになったが、アルから貰った革袋を思い出し差し出すと、中身を見た男は掌を返して船に乗れと言った。

「いや〜、しかし、きっぷの良い客を乗せるのは気分が良いよ。」

そう上機嫌に言う男に構わず、川を眺める尚純。

不可解なことに、川幅は船に乗る前より広くなっているように尚純には感じられた。
急いでいる尚純は、男に聞いてみた。

「あのさ、この川はどれぐらいあるんだ?」
「この川に正確な長さは無いぜ。
長さを決めるのは船に乗った人間なんだ。」

その答えに首を捻る尚純。

「乗った死者が善人なら短く、悪人なら長くなるんだよ。
もっとも、たいていの悪人は1オロボスを持ってないからそうそう乗せないがな。」

何が愉快なのか解らないが、男はケラケラと笑いながら話を続ける。

「じゃあ、俺みたいな生者はどうなるんだ?」
「生きているやつかい?
余命の長さが川の長さになるんだよ。
以前乗せた吟遊詩人は短かったねぇ。
帰った後すぐ死者になって来たから、やっぱりなぁと思ったね。
逆に1番長かったのは二人組の人間だったなぁ。
着くまでに一月近くかかったし、いまだに見てないからまだ生きてるかもな。」
「・・・そうか。
1番最近は?」
「その二人組だね。
三千年近く仕事をしているが、生者はほとんど来ないからよく覚えているよ。」

つまり、誠治はこの川をまだ渡っていないということだ。

「岸が見えてきたぞ。」

思考に耽っていた尚純はその言葉に顔を上げる。
ゆっくりと川岸が近付くと、男は器用に杖を使って岸まで乗り上げた。

「ほれ、着いたぞ。」
「・・・ここが、死者の国なのか?」

尚純が思っていたのとは違い、ここは光が眩しく照らす場所だった。
尚純の呟きに、男は答える。

「ここは『入口』だよ。
左に行けば天国と地獄をふるい分ける裁きの間。
右に行けば現世に帰る輪廻の道。
まっすぐ行けば、死者が永住する場所に出られる『門』があるよ。」

「で、お前さんはどこに行きたいんだ?」と男は尚純に聞いた。

「姉さんを探しているんだ。
どこに行ったか知らないか?」
「流石にそこまでは知らんよ。」

尚純の問いに男は首を振る。

「そうか。
ありがとう。」

それだけ言うと、尚純はまっすぐ駆け出した。

「ああ、一つ教えといてやるよ。
お前さん、上手く生きれば長生きするぜ。」

そんな男の声が、尚純には少しだけ哀しく聞こえた。

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