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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかた〜A child of Pinocchio〜#捜査ファイル2『コロシアム』(4)

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴97年、11月22日、午後18時20分、東京港区、東京タワー〜〜


リシルの告白に、場は凍り付いたようにしんと静かになった。
永久に続くかと錯覚しそうな沈黙を破ったのは、【P5】の鳴咽だった。

「…んで、なんでですか?リシル兄様!!??
8人しか残っていない兄弟同士で傷付け合うだなんてそんな事を……」

悲痛な【P5】の声にも、リシルは笑顔を崩すこともなく答えた。

「理由か。
楽しくするため、と答えて納得できるかい?」
「出来るわけ無いじゃないですか!!」

【P5】の鳴咽混じりの叫びにもリシルは平然とした態度を崩さない。
そして、クラウスも態度を変える事なく淡々と質問を続けた。

「【P4】、【P0】の引き渡してを要求します。
私はアレを、主人の前に引き立てねばなりませんので」
「今は駄目だよ。
まだ使うから」
「解りました。
では、強行手段で奪回を開始します」

即座に検索に回していた分の出力を、なんの躊躇も躊躇いも無くリシルを攻撃するために展開しようとしたが…

「ハッキング、出来ない?」

即座にリシルの全システムを掌握するはずだったプログラムは、プログラムに呼応して展開された防壁に阻まれ全て消滅した。

「無駄だよ。
僕は今、直接アクセスしていないからハッキングで僕を直接支配は出来ないよ。
加えて、今君が阻まれただろう防壁は通恋が構築したファイヤーウォールだから、クラウスが破るには相当骨が折れるだろうね」

リシルの言葉に、ここにきて始めてクラウスは、感情を抑え切れずギリッと歯を鳴らした。

「悔しいかい?
全て先んじる君の十八番を逆に使われるのは。」
「……なるほど。
【P7】まで既に掌握済みとは……そちらも本気ということですか」
「あ、言っとくけど通恋は巻き込んだだけだから虐めちゃダメだよ。
さっきも、数ヶ月振りに帰れたって喜んでたから優しくしてあげようね」
「この期に及んで随分と悠長に構えていますね」

口調こそ変わらないが、クラウスの身に纏う雰囲気は一触即発の呈を為している。

「『まだ使う』と言いましたね。
【P0】を何に使うと?」

この場で決着を着けられない以上、少しでも情報を引きずり出すため、クラウスは質問を再開した。
だがしかし、

「質問に答えさせてハッキングの時間稼ぎかい?
その手には乗らないよ。
じゃあ、頑張ってね」

そう言い残し、リシルは回線を閉じて逃げ去った。
再び沈黙が場を支配しようとしたが、それより早く成り行きを楽しそうに静観していた【P1】がクラウスに問い掛けるた。

「さて【P3】。
君にとって最悪の展開になってきたようだけど、これからどうするんだい?」

【P1】の言葉に、数秒目をつむってから、クラウスはきっぱりと言い切った。

「アル様の命令の遂行を最優先に【P0】及び【P4】の身柄を確保し、事実の確認を行います。
協力願えますか?」

クラウスの要求に「勿論です!!」「構わないよ」「いいよ〜」と、三者三様にそれぞれ承諾した。

「ありがとうございます。
ですが【P5】、先程も言った通り貴女は待機していなさい。
それが、【P0】にとって一番プラスに働きます」
「……はい」

悲しそうに受け入れた【P5】は「仕事に戻ります」と言い接続を切る。に

「可哀相に。
妹には優しくするもんでしょ?」
「なら貴方がやりなさい【P1】。
人間の基準で言うなら、【P0】に次いで貴方が次兄なのですから」
「無理言わないでよ。
僕の特技は殺人と拷問だから、そんなことしたら【P5】が本気で泣くよ?」
「……もういいです。
では、改めて作戦を説明します」

【P1】の台詞に呆れながらも、リシルとのやり取りで鋭くなった目つきのままクラウスは作戦の子細を説明し始めた。


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〜〜新歴97年、11月17日、午後18時05分、横浜・天野探偵事務所〜〜


アルが去った後、残されたクゥは日が落ちるまでソファーに蹲っていたが、やがて、意を決したように立ち上がると壁に掛けられた切のコートに手をかけた。

「ごめんキリ。
ボクはバカだから、やっぱりこんな方法しか思い付かないや」

そう言うと、コートを丁寧に畳みリュックサックを取り出してそれを詰めた。
その後で冷蔵庫の中から牛乳を取り出して弱った胃に喝を入れると、リュックサックを背負い事務所を飛び出した。
クゥはある場所を目指していた。
その場所とは、以前アルからなんでも教えてくれる人として名前を聞いていたマリーツァの屋敷だった。

「マリーツァお婆さんに聞きたいことがあるの。
エレンさん、そこを通してください」
「なりません。
マリーツァ様は現在、御来客の方と対面中です。
お待ちになるか日を改めて下さい」

訪れるなりマリーツァに会わせろと強行しようとしたクゥと、対峙するエレンは玄関前まで下がらせ立ち塞がり、メイド服のスカートから片手にサブマシンガン、片手に大振りで肉厚な鉈を取り出してクゥに構えた。
サブマシンガンを前に弓を引くような構えを取るエレンは、抑揚なく警告する。

「警告します。
これより2メートルの屋敷への接近を行った場合、その瞬間より貴女を侵入者とみなし攻撃に移ります。
なお御忠告致しますが、私の右手の武装は柄に十二分の『魔』を充填した炭を埋め込み『地』の『断』を仕込ませた戦闘にも耐えられる確かな品であり、切断力は『鬼王』の首でもたやすく落とせます。
同様に左手に武装しております短機関銃ウージーに関しても、こちらも弾丸一発にいたるまで全て火薬に灰を、弾丸に『地』の『鋭』が仕込まれた特別製であります」

そう言い放ち、チキリとサブマシンガンの銃口をクゥの頭にポイントした。
だが、そんな物に臆して引けるほどクゥの覚悟もまた生温くは無い。
拳をぐっと握り絞め、身体の一部を犠牲にしてでもエレンを仕留める覚悟を決めたクゥは、飛び掛かる狼の様に身体を低く沈ませ全身のバネをたわませた。

「お願いします。
マリーツァお婆さんに会わせて」
「日を改めてください。
これが、最終警告です」

クゥが『疾駆』を起動しようと口を開いた直後、エレンの背後の扉が豪快に開き中から大柄な『獣偉』の女性が姿を表してエレンに呼び掛けた。

「おい、人形メイド。
マリー婆ちゃんがそいつを連れてこいってよ」

虚を突かれクゥが動きを中断する中、女性の言葉に反応しエレンはスカートをふわりと舞わせるとふとももに取り付けられたホルダーに両手の得物を仕舞った。

「畏まり。
クゥ様、どうぞこちらへ」

エレンは左手を自身のエプロンドレスの臍の辺りの前に、右手を開いた扉の先に向け先程の態度が嘘の様にクゥを招き入れた。

「……なんで?」

急に態度を変えられ納得出来ないクゥは、体勢を変える事なくエレンに聞いた。

「私の仕事はマリーツァ様の身の回りをお世話です。
先程までクゥ様は、マリーツァ様の御意志とは関係の無い闖入者でしたのでそのように対応致しました。
現在はマリーツァ様より御呼び立てするよう承りましたので、お客人として対応致しております」

姿勢を変えぬままエレンはクゥの質問にそう答えた。
いまいちエレンの説明が理解できないクゥは、困って思わず先程出て来た女性を見た。
改めて見た女性は、2メートルを越える巨体に冗談みたいな巨乳というクゥが羨ましくてたまらない体つきにランニングとジャンパーを羽織り下はホットパンツと動きやすさしか考えていない格好だ。
どこかで見た事あるなと首を傾げるクゥの視線に気付くと、女性は苦笑しながらエレンの言った意味を要約してやる。

「つまり、さっきまでのお前はただの侵入者だったけど、今はマリー婆ちゃんの客だと言ってんだよ」
「…うん。
よくわかんないけどわかった」

そう言って、表情から険が抜けたクゥは、ようやく立ち上がると扉の中に入った。

「若いってのはいいねぇ。
こう、後先を考えない無鉄砲さがそそるというか、闘ってみたくなるよな」
「申し訳ありません。
私は戦闘御奉仕対応型【PC】ではありますが、そういった好戦的なプログラムがインストールされてないので理解できません」

にべもないエレンの言葉に、女性は堪えもせず馬鹿笑いした。

「ははははは!!
そんなプログラムがあんのかよ?」
「はい。
【PC】製造管理会社『アイラーヴァタ』か『イザナミ』『エキドナ』のどちらかに注文戴ければ、一月以内にご要望に可能な限り近付けたスペックの戦闘御奉仕対応型【PC】をお送り出来ます。
なお、そのタイプは保証対象外商品になりますので修理は割高になりますが御了承をお願い申し上げます」
「ぶはははは!!
そいつは最高のジョークだ!!
は、腹痛てぇ!!」

几帳面に一から説明を始めたエレンがよほどツボに入ったらしく、女性は腹がよじれそうな勢いで笑いが止まらなくなってしまった。
そんな会話にもならないやり取りをしていると、中からクゥがエレンを呼ぶ声がした。

「エレンさ〜ん!!
マリーツァお婆さん何処にいるの〜!?」
「失礼しました。
こちらになります」

そうクゥに答え、エレンは今だ笑い転げている女性を置き去り屋敷へと入っていった。

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