ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかた〜A child of Pinocchio〜#捜査ファイル2『コロシアム』(1)

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴97年、11月29日、午後20時40分、東京〜〜


広いホールの中、声援と罵倒が入り交じった怒号が四角いリングへ向け飛び交う。
リングには四隅に成人男性程の太いポールが設置され、リングを囲うように『硬』の『魔式』が施された何メートルもの金網が取り付けられていた。
処刑場ともとれるそのリングの中には、呆けたように佇む男と、その男に叩き伏せられ白目を剥いて倒れた体格の良い男の二人のみしかいない。
男が倒れて数分経った頃、ようやく金網の一部が開き担架が運ばれ男を運んで行くのを、彼は……天野切はただ照明に照らされながら生気の無い目で見ていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴97年、11月17日、午後14時20分、横浜・天野探偵事務所〜〜


冬にしては珍しく気温が10度を越え陽射しの気持ちいいその日、天野探偵事務所の所長、天野切は外に出ず一人で帳簿の整理を行っていた。
同居人のクゥは、秋葉原の友人と遊びに出掛けていて不在だった。

「やれやれ、今月も家賃は払えねえな。
いっそ、値上げ敢行でもしてみるか? ……俺が無理だな」

ざっとシミュレーションしてみて、あっさり値引きしている自分の姿を想像してしまい軽くうなだれる。
と、一人で小芝居を演じる切は、入口からノックもせず入ってくる人影に気付いた。

「お困りですか?『兄さん』」

入るなりそう切に声をかけたのは、インド周辺の民族衣装を纏って双眸を閉じる、一見しただけでは男とも女ともつかない青年だった。
にこやかに笑うその人物を、意外そうに眉を動かしてから見知った態度で切は不機嫌に答えた。

「……久しぶりだな、リシル。
何の用だ?」
「久しぶりの再会なのにご挨拶だね。
探偵事務所に寄るのに、依頼意外の用件があるのかい?」
「…普通はそうか」

暇潰しと家賃請求に来るエセロリチャイナの事を思い出し、頭を軽く振る。

「ってことは依頼か。
とりあえず適当に座れ。
コーヒーでも煎れてきてやるよ」
「コーヒーよりチャイがいいな。
出来ればマサラたっぷりでブランデーも頼むよ」
「生憎茶葉とアルコールは切らしてる。
どうしても飲みたいってならパルテノンに行くか?
あそこだったら両方飲めるから」

時たまクゥがバイトをしている近くの喫茶店の名を出すと、リシル笑いながら言う。

「兄さんが手ずから飲ませてくれるなら行こうかな」
「……笑えない冗談はよせ。
端から見たら変な勘違いされるだろうが」
「ふふふ、僕はそれでも構わないんだけどね」
「ったく」

からかいつつリシルが愉快そうにソファーに座ると、切もコーヒーを煎れるのはやめて対面のソファーに座り内容を伺った。

「で、どんな依頼だ?」
「いきなりかい?
せっかちなのは女の子に嫌われるよ」
「茶化すのが依頼か?ならもう済んだろ。さっさと帰れ」

ちょっとしたジョークににべもない態度を取る切に不満そうにリシルは肩を竦めると、唇を尖らせながらも依頼内容を喋りだした。

「まったくクラウスといい、冗談が通じないね。
ディーンって格闘家は知ってる?」
「『鬼王』の選手のか?
なら、一度だけ試合を見たことがあるな」

最近頭角を現した『鬼王』の男で、数ヶ月前にアルの誘いで観戦したのがディーンの試合だった。
だが、

「確か、先週の試合中に死んだったんだよな」
「うん。
死因は頚椎の骨折。試合二日前に負った首の怪我、そこを殴られて折れたとされてる」
「『されてる』?」

リシルの言いように、切は妙に引っ掛かりを感じた。

「死因自体は間違いじゃ無いんだ。
ただし、怪我の理由が違う」

そう言うと、リシルは書類を取り出した。

「これがディーンの死亡診断書の複製」
「読んでも?」
「構わないよ」

リシルの承諾を得てから目を通す。

「死因は頚椎粉砕骨折。
……なんだこりゃ?
『遺体の骨を解析した結果、外圧での粉砕とは考えにくく、急激な筋力増加に骨が堪えられなかったと考えられる』って、リシル?」

常識ではありえなり結果に、切はリシルを問い詰める。
『鬼王』は『リ・ディアル』の中でも身体、特に筋力が特化した種族だ。起源はゴリラかオラウータンかという程筋力は高く、当然、骨格の太さや造りも『人間』より頑丈で丈夫に出来ている。
故に、『鬼王』同士で殴り合うか建物に押し潰されるでもしない限り骨折とは無縁なのだが、

「うん。
兄さんに調べてもらいたいのそこもなんだけど、その下のほうを読んでみて」
「なになに、『腕部に彫り込まれた『魔式』を解析した結果、『強靭』によく似た形状ながら全く別の…』なるほど」

『強靭』とは『陣』の一種で、『陣符師』が入墨として身体に彫ることで体内の『魔』を消費して発動するタイプの『魔式』だ。
『強靭』の効果は、使用者をタフにする極めて限定的な機能だが、少量の『魔』で使える事から格闘家の間や工事現場で愛されている。
最近では使い捨てのシールタトゥーとして販売が始まって、手軽に購入出来るようになった。
大方の予想が付いたらしい切に、リシルは謎の『魔式』の詳細を語る。

「機能は『強靭』とは異なり、全身の筋力の限界を軽く突破させて増強するみたいだね。
それこそ、」
「肉体が耐えられないレベルまで…か。
使ったら死ぬような『魔式』、それこそ無意味な代物じゃないか」

ばさりとテーブルに書類を置き、切は天井を仰いだ。

「で、その『魔式』の出所を調べろってか?」
「半分正解。
兄さんには再来週から行われる格闘大会に、選手として出てもらいたいんだ」
「はぁっ!?」

リシルの台詞に、素っ頓狂な声をあげる切。

「ちょっと待て!?リシル、お前どういう意味ですか!?この野郎!?」
「兄さん、言葉が目茶苦茶だよ?落ち着きなよ」

窘めるリシルに、切は更にヒートアップして詰め寄る。

「これが落ち着いてられるますか!!
事件追うだけなら大会関係無いですだろうが!?
潜入にしたってお前の所属先なら、選手でもスタッフでも一人や二人潜らせられるだろうですがよ!」
「うん。
確かに並以上に強いのは何人も居るよ。
……でもね、」

リシルの微笑が消え、声が重くなる。

「やっぱり『人間』は役に立たないんだよ」

リシルの言葉と同時に、切の瞳が茶に変わり腕に紫電が走る。
だが、切の変化に構わずリシルは平然と切に質問した。

「ねえ、いつまで続ける気?」
「…何をだ?」
「『人間』の振りをだよ。
【P0】」
「俺をその名で呼ぶな!!」

切はリシルの首を掴むと、そのまま足が浮くほど高く宙吊りにした。
だが、リシルは苦しむそぶりさえ見せず、逆に微笑みながら切に尋ねた。

「何故だい?
どうあがいても僕たちの出生は変わらない。
そうだろ【P0】?…いや、『糸をなくした操り人形』(ピノッキオ)」

天野切もリシルも『人間』ではない。

集積回路の塊で構成された頭脳。

金属の組み合わせで形作られた骨格。

グラスファイバー繊維の塊で造られた筋肉と神経。

血液の替わりにナノマシンが液体として身体を巡り、人工皮膚で外側を覆いつくし、魂の代わりに【PC】よりも遥かに繊細で柔軟な人間性を発揮する『精神プログラム』で己を定義し感情を持つ完全自律人形なのだ。

だが、

「俺もお前も、確かに【Pナンバー】だ。
だがな、生まれじゃねえんだよ。
『人』ってのは『どう生まれた』かじゃなく、『どう生きた』かで決まるんだよ!!」

切は自らの『信念』を、プログラムだけでは導き出せ無い『答え』として持っていた。
切の怒りの声に、リシルは冷めたように言う。

「……仕方ないな。
強引な手は使いたくなかったけど、やり過ぎたのは僕のせいだから仕方ないよね。
『インドラ』最大出力起動開始」

リシルは短く呟くと、リシルの左手がまばゆい光を放ち、その左手で切の頭をわしづかみにした。

「リシル!?」
「『リフレクション・クラッシュ』」

リシルが呟いた次の瞬間、切の身体が巨大なハンマーに叩かれたように吹き飛び、壁にめり込んだと勘違いする程強く叩き付けられた。

「…っが!?」
「しばらく寝ててよ。
終わったら、ちゃんと帰らせてあげるから」

衝撃に切の保護プログラムが強制起動し、切は意思とは無関係に意識を切り離された。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴97年、11月17日、午後17時30分、横浜・天野探偵事務所〜〜


「♪♪〜♪♪♪〜♪」

陽気に鼻歌を歌いながら、クゥは事務所に繋がる階段を昇っていた。

「すっかりおそくなっちゃったから、今日はいつもよりがんばってごはん作ろう」

うん。と気合いを入れ直すと、食材の入った紙袋を抱え直し扉に手をかけた。

「ただいま〜」

だが、そこには居るはずの切はおらず、無人の部屋にクゥの声が虚しく響きわたった。

「…キリ?」


コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

SS倉庫 更新情報

SS倉庫のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング