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SS倉庫コミュの【オリジナル】魔都の歩きかた〜A child of Pinocchio〜#捜査ファイル1『吸血鬼』(4)

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〜〜新歴98年、10月25日、午後23時10分、新東京〜〜


今日最後の調査と決め切がやってきたのは、東京と神奈川から二子玉川周辺一帯を切り取り新設された『新東京』と呼ばれる場所の、住宅街から少し外れたところに建つ古い洋館だった。
壁じゅうに蔦が絡み合い、さながら妖怪屋敷か幽霊屋敷という威圧感を放っている。
勝手知ったる態度で門を潜った切は、ノブを回して重苦しい扉の奥に入った。

「いらっしゃいませ」

中に入った切を、普通ではお目にかかれない水色の髪をしたメイド服姿の少女が出迎える。

「よぉ、エレン。
マリーツァは起きているか?」
「はい。
切様の来訪の支度をしてお待ちになっておいでです。
どうぞこちらへ」

抑揚が全くない言葉で説明しながら、関節に継ぎ目のある手で奥を示し案内する。

エレンは【PC(ピノッキオ・チルドレン)】と呼ばる完全自立型機械人形、所謂アンドロイドの一体で、家主マリーツァの世話係として働いている。
エレンの先導に従い進むと、この洋館に相応しい大きい扉の前で止まった。

「マリーツァ様。
お客様をお連れしました」
「お入りなさい」

扉の向こうからややしわがれながらも優雅さを失わない声が返り、エレンは声に従いドアを開けた。
ドアの先には、広めの部屋にテーブルと一対の椅子が用意されており、テーブルにはティーカップとクッキーの他に100枚ほどのカードの束が乗っている。
椅子に座るマリーツァは、紺を基調としたフォーマルなナイトドレスにナイトケープを羽織った姿で切を出迎えた。

「久しいわね。
今日はアルの依頼で来たようだけど、何を知りたいの?」
「占いでお見通しか」

学術的根拠の無い占いのような非科学的な事を嫌う切は、うんざりした風に呟くと早速質問しようと口を開くが、それより早くマリーツァは座るよう促した。

「まずはお座りなさい。
それぐらいの時間はあるでしょう?」
「…まあな」

切がぶっきらぼうに答え対面の椅子に座ると、マリーツァはカードの束の上から二枚を引いた。

カードにはそれぞれ、向かい風に吹かれる蝙蝠と折れた杖を持っている旅人の姿が描かれていた。

「『立ち向かう蝙蝠』と『道標を失った旅人』
どうやら、また厄介事に首を突っ込んだようね?」
「仕事だからな。
それよりマリーツァ、『魔式』について尋ねたいんだが…」
「あらあら。『魔式』についてだなんて珍しいわね?
『魔式』なら『イザナミ』に聞けばいいじゃないの」
「それも考えたんだけどな。
なにせ、最近まで封印されてた代物だから、データベースに無いだろうってこっちに来たんだよ」

からかいを含んだマリーツァの問いにそう答え、嶺から聞いた話を洗いざらい説明する。
マリーツァは『魔式』の説明を聞くと、ゆっくりとティーカップの中身を飲み、カップをソーサーに戻してから答えた。

「……そう。
『赤土と神風の栄光』の封印が解かれたのね」
「『陣』にしちゃあずいぶん仰々しい名前だな」

『魔式』には『陣』と『撃』の二系統あり、『陣』に付けられる名前は大体が効果を示す簡潔な名前を用いる。
例えば『火』なら料理に使う『陣』は『竃』、明かりに使う『陣』なら『燭』と、短くわかりやすいのがほとんどだ。
逆に、『撃』にはそういったテンプレートがなく、それぞれがオリジナルの名前を付けるため、中には一分以上かかる名前をつける者もいたりする。

「まあね。
なにしろ、『リ・ディアル』が女王に統一される前に使われていた、王のための『魔式』なのだから」
「……はい?」

切も知識として知ってはいる。

『リ・ディアル』もまた、種族同士が群雄割拠の如く争う時代があり、今のように種族毎の『女王』によって集合統治される前までは凄惨な争いの時代だったそうだ。
その時代には、今でこそ使い道は無いが強力効果を持つ『魔式』が数多く残っている。
特に、王のために作られた『魔式』は、厄介な性質を有するものばかりで最高クラスの危険物として保管がなされているのだが、件の『魔式』がそうだとマリーツァは言う。

「ちょっとまて、それってかなり危ない代物って事だよな?」
「発動後の効果範囲は半径200メートルぐらいしかないわ。
『魔式』そのものも、発動するために何人もの贄を求め、発動しても一人しか発動した『魔式』の恩恵を受けられない出来損ないよ」

ばっさりと切り捨てたマリーツァだが、「ただね、」と続ける。

「『魔式』そのものより副随している効果のほうが質が悪いの」
「どんな効果だ?」
「それは、発動した範囲内の大地、生物を問わず周辺の『魔』を無尽蔵に吸い上げ使い続けるということ」
「…十分大事じゃねえか」

『魔』は自然エネルギーであるが、同時に生命エネルギーでもあり、当然両者の人間にも『魔』は流れている。
古くは『氣』や『霊力』等とも呼ばれているこの力を、人間が身体から失えば当然死に繋がる。
発動している間に使われる『魔』の量は不明だが、一人のために敵味方問わず『魔』を奪い続ける『魔式』が封印されるのも切は納得できた。

同時に、なんで切にこの依頼を回したのかも。

「……あのエセロリチャイナ。
割に合わないじゃねえか」
「そう言わないの。
『魔式の母マリーツァ』として、私からもお願いするわ」

ジト目で明後日を見つめる切にマリーツァは苦笑する。

『魔式の母マリーツァ』

彼女の通り名であり、マリーツァを讃える呼び名でもある。
彼女は、人生の大半をそれまでバラバラだった『魔式』の大系化と編纂・統合に費やし、その成果は現在の社会の基盤となった。
端的に言えば、彼女の尽力こそが『魔式』を争いの力から文明の力にしたといっても過言では無い。

「分かってるよマリーツァ。
一度引き受けた依頼は必ず解決させる。
それが、『天野切』としてのルールだ」
「そうだったわね。
じゃあ、もう一つ教えてあげるわ。
聞く限り、『赤土と神風の栄光』の発動には後二日は掛かるはずよ」
「それまでに片を付ければ間に合う…か。
マリーツァ、感謝するぜ」

マリーツァから聞くべきことを全て聞いた切は、すぐに動くため席を立つ。

「っと、そうそう。
これが片付いたら、またクゥを連れて来てやるよ」
「ああ、それは楽しみね」

マリーツァは静かに微笑みながら、そう言い残した切が出ていくのを見送った。
そして、切が屋敷を去りしばらくすると、カードを一枚めくる。
カードは『人形と少女』と名されたカードだった。

意味は、『未来を閉じる』又は『幸福なる今』。

「頑張りなさい。
生きるというのは、苦労と幸福を重ねた者の権利なのだから」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜新歴98年、10月26日、午前07時34分、横浜、天野探偵事務所〜〜


睡魔を堪えつつ、結局朝まで調査を続けた切がビルに帰ると、クラウスが一人事務所の中で佇んでいた。
手には、樹脂製の箱を持っている。

「無用心ですよ。
鍵もかけないとは」
「盗まれて困るような物もないし、別にいいだろ?」
「…そうですか」

切の返答を受け、クラウスは僅かに眉根を動かすと箱をテーブルに置いた。

「アル様より預かり物です」

それだけ言って、切の横を通り抜けようとしたところを、切が質問した。

「みんな元気か?」

クラウスは切の質問にぴたりと立ち止まると、顔も見ず、

「ええ」

と答え出ていった。
入れ違いにクゥが上から下りてくる。

「あれ、今出ていったのは?」
「クラウスだ。
なんでも、届けもんだとさ」
「ふうん。
ねぇ、ご飯どうする?」

興味を失ったクゥは、『冷室』の『陣』が敷かれた冷蔵庫を確認しながら、朝食について尋ねた。

「キリ?」

返事が無いので振り返ると、切はソファーに座ったまま眠りについてしまっていた。

「…もう、すぐこれなんだから」

先に切に掛ける毛布を取りに行くため、クゥはパタンと冷蔵庫を閉めた。


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