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せっしょんれぽ@しゅうまつコミュの三年前小景(前編)

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言うても読みづらいだろ。
と言う事で、三年前小景だけ分離ver。
リプレイ本編はオミットされすぎてるから、単品で上げる意味を見出せない。

################

神父服の上に羽織ったコートの襟をかき合わせた。
最近少し肌寒くなった気がする。
四季の概念が薄いこの街では、認識できるほどの日差しの変化などあるはずもない。
頭ではわかっているのだ。
それなのに、そう感じていしまうのは、この時期が僕にとって忘れられない季節だから。
歩き出そうとして、誰かに呼ばれた気がした。
しかし、振り返った先には誰もいない。
目に映るのはどこか物悲しい夕焼け。
茜空を鳥が飛んで行くのが見える。
あの鳥は何処へ行くのだろうか。
巣に帰るのか。
それとも、ここではない違う街へ渡る途中か。
遠い空に。
少しだけ昔に。
思いを馳せる。
それは忘れられない出来事。
それは一人の少女との出会い。
それは忘れてはいけない出来事。
それは一人の少女との別れ。

それは三年前の出来事。
今は遠い――秋の日の出来事。




結島 陸 サイドストーリー

「三年前風景」



?:慣れない日常

「おりゃ!」
背中から、ふいの衝撃。
肩甲骨が痛みに悲鳴を上げている。
じと目で振り返ると、そこには一人の女が立っていた。
俺と同じ学校の、女子用の制服。
背は少し小柄な方か。
肩に届かないショートの髪型といたずらっ子の様な瞳が、彼女の快活な性格を代弁していた。

「おはよー、ユイ」
笑顔で朝の挨拶。
その表情には悪びれた様子は全く無い。
杠 眞守(ゆずりは まもり)。
それが、こいつの名前だった。


基本的に修練士――退魔士としての修行中の者のことだ――としての修行は十五の誕生日から最終段階に入る。
実戦での修行自体はもっと前の時期から行われることも少なくない。
しかし、それは基本的に力の弱いアヤカシや危険性の少ない怪異を相手にしたものである。
中等、あるいは初等の術式だけでも対処できると言う判断が下された案件だけが、修練士達の実地訓練に宛がわれるのだ。
しかし、一人前の退魔士として働くには、高等術式の修練が必要不可欠である。
高等術式の行使に必要とされるのは揺ぎ無い自我。
その確立の目安となるのが、十五と言う歳だった。
修練士の多くは、学校には――特に高校以上には――行かない。
修行の足枷となるケースが殆どだからだ。
俺の様に高校に通っているのは珍しいケースだった。
俺も本当は行くつもりは無かった。
それが、今こうして学校に通っているのは、育ての親であり師でもある朝霧命に言われたからだった。
「お前は、もっと世界を知るべきだ」
言葉の意味は判らない。
しかし、師匠には数え切れないほどの恩がある。
無下にはできなかった。

俺は高等術式に関しても、以前から独学で一通り習得していた。
十五歳になる以前の高等術式の修行は禁じられている。
勿論、師匠や同輩には秘密でのことだった。
確かに修行と学校生活の両立は決して不可能ではなかった。
それでも、修行のカリキュラムによっては長期に渡って学校を休むことも少なくない。
学校側には師匠が根回しをしていた為、出席日数等が問題になることは無かった。
ただ、生傷が耐えないこともあって、俺は高一の秋頃にはクラスでも浮いた存在になっていた。
俺の方でも元より学校生活というものに、別段の期待もしていなかった。
そんな俺の空気を察したのだろうか。
時間が経つにつれて、俺は周囲からますます孤立していった。
杠は、そんな俺にも構わず接して来た。
最初の出会いは、高一の一学期のこと。
出席番号が男女で同じだったと言う、べたべたなきっかけ。
「あたしは杠眞守って言うんだ、よろしくね」
屈託の無い笑顔。
俺は正直、この杠と言う奴が苦手だった。

その後も杠は何かと言うと構ってきた。
「やほー、ユイ、元気してる?」
「……なんだ、そのユイってのは?」
「やだなー渾名だよー、ゆいしーか、りーぽんの方が良かった?」
「……ユイで良い」
「あっ、ちなみに私のことはユズでも、まーちゃんでも良いからね」
「……」

それは、俺がクラスで孤立して行った後も同じだった。
「今回の休みも長かったねー、羨ましいぞ、このこのー」
「そんな良いもんじゃねーよ」
「何してたの?旅行か何か?」
「違う」
「じゃぁ、何、何?」
「……」
――何でこいつは俺に構ってくるんだ。
俺は正直、この杠と言う奴が苦手だった。


「ぶーぶー、人が挨拶してるんだから挨拶しなさいよねー」
杠が口を尖らせている。
「お前は、いちいち攻撃せんと挨拶もできんのか」
「攻撃だなんてやだなぁ、ちょっと叩いただけじゃん」
「いや、お前『おりゃ!』とか言っただろ!」
「あはは、気のせい、気のせい」
漫才の様なやり取り。
俺にはこんな事をしている暇は無いのに。
それなのに。
一日も早く一人前の退魔士にならなければならないのに。
それなのに何故か。
高校なんかで得るものなんてありはしない……はずだ。
それなのに、なんでこいつは。
――俺は、この杠と言う奴が苦手だったのだ。



?:忍び寄る破滅

キンッ!
手にした斬魔刀と鋭く伸びた爪が交差し、甲高い音を立てた。
(……こいつ、強い!)
ストリートで起こっている殺人事件の犯人と思われるアヤカシの排除が今回の「訓練」の内容。
今までも、似たような事件を扱うことは少なくなかった。
しかし、今回の敵は、今までに俺が対処した、どのアヤカシよりも強力だった。
鍔迫り合いの状況から、相手の腹を蹴りを入れて間合いを取る。
肩で息をつきながら次撃に備える。
刀を構え直した瞬間、敵のアヤカシの瞳が紅く煌いた。
吸血鬼に代表される深紅の瞳を持つアヤカシの一族、夜の血脈。
奴等が得意とするのは、相手の心を直接破壊する精神攻撃。
――まずい。
思う間もなく、無形の圧力に脳を揺さぶられた。
刀が手から零れ落ちるのを自覚する。
飛び掛ってくるアヤカシ。
その顔は勝利の確信に歪んでいて――。
「……な……めるなぁ!」
練り込む事が出来なかった魔力の塊を、編み込めなかった術式に乗せて放出する。
衝撃波が直撃した向かいの廃ビルの一角が砕け散った。
落下した瓦礫が砂埃を上げる。
仕留めた感触は無かったのだが、砂埃が収まっても追撃は無かった。
周囲にアヤカシの気配が無いことを確かめてから膝をつく。
無理な魔術の行使に身体中が悲鳴を上げていた。


奈落堕ち。
STAR中央区を襲った災害は、汎元殿や真教協会にも多くの影響を与えた。
多くの退魔士や祓い屋が事後処理に出ずっぱりになったが、それでも圧倒的に人手が足りなかった。
結果、修練士にも、実務訓練と称した仕事が多く廻される事となる。
しかし、それは必ずしも、今までのように上層部による事前の調査や判断が為される物ではなかった。
そのおかげで、強力なアヤカシとやりあう事も増えた。
個人的には、それ自体は、好ましい事態だった。
強力なアヤカシとの戦闘は、通常の修練とは比べ物にならない程の経験を積めたし、自分の力を測るには打って付けだった。

(それにしても、昨日のアヤカシは……)
昨夜のアヤカシは――強すぎた。
自慢ではないが、俺の実力は修練士としては群を抜いていると自負している。
それが、昨日のアヤカシとは良い勝負。
――切り札を温存していたとはいえ、正直なところ危なかった。
今のところ、修練士の中に『訓練』中に死者が出たと言う話は聞いていない。
だが、あのレベルのアヤカシが大量に出現するようだと、今後は怪しいかもしれない。
そんな懸念が頭をよぎる。
昨日の奴は、それだけ強力なアヤカシだった。
そして、夜の一族の多くはプライドが高いと言う。
退魔士に仕掛けられておいて、そのままにしておくとは思えない。
(昨日の奴……恐らく近いうちにもう一度……)


「……ユイちゃんったら!!」
声がした方に目線を向けると、杠がこちらを睨んでいた。
「もー、何回呼んだら気づくかなー、君は!」
全然気付かなかったが、どうやら、何度も呼ばれていたらしい。
『常に意識を周囲に向けろ』
退魔士の教えの初歩も初歩である。
(やれやれ。修行不足か……)
嘆息する。
こんなことでは、何時まで経っても一人前の退魔士にはなれそうも無い。

星城総合大学付属第三高校。
STAR中央区の外れにあるこの高校は、奈落堕ちの被害も少なく、1ヶ月が過ぎる頃には通常の授業が再開されていた。
夜の眷属との闘いから一夜。
俺は1−Bの教室、窓際の一番後ろの席に座っていた。
最近は、午前中や午後の早い時間に『訓練』に借り出されることも多い。
それでも、出来る限り学校には登校するようにしていた。
別に大した理由は無い。
それが師匠との約束だったからだ。

何時の間にか、6限の授業も終わっていたようだ。
すでに教室にいる生徒の姿もまばらになっている。
「……悪い、考え事してた」
杠にそう返すと、こちらを覗き込んできた。
「怖い顔……してたよ?」
「……この顔は生まれつきだ。……それと、ちゃん付けは止めろ」
――なんでこいつは。
「私は、ユイが何を考えてるのか分かんないけど……あんま、思いつめない方が良いと思うんだ」
こちらを伺う杠は、ただ心配そうな顔をしていて――。
「……お前には関係無いだろ」
そう言って、俺は逃げるように席を立った。



?:Last Resort

「何でついてくるんだよ、お前は」
振り返らず、足も止めずに後ろの気配に声をかける。
「あは、あはははー、奇遇だねー」
指摘されると杠は小走りに駆け寄って来た。
(よく言うぜ)
学校から――と言うよりも、教室から――ずっと後ろについてきてその台詞か。
「……で、何の用だよ?」
横に並んで歩き出した杠に問いかける。
「……いやー、用って程じゃないんだけど」
動揺しているのが手に取るように分かる。
頭の上に電球マークが付きそうな表情を浮かべる。
「……ほら、この間の地震で部活が休みでさー、あたし暇なんだけど、どっか遊び行かない?」
取ってつけたような言い草。
「行かない」
即答する。
「えーー!?なんで!?って言うか、断るにしても少しくらい悩もうよ!?」
「疲れてるから、家帰って寝るし」
「っちょ!その理由はあんまりじゃない!?」

そんなやり取りをしながら歩を進めていると、何時の間にか屋敷の近所まで来ていた。
横を見やる。
楽しそうな顔をした杠が、相変わらず何か言っている。
修練士仲間や師匠に見られるのは御免だった。
「……仕方ない」
「おっ、とうとうあたしと遊ぶ気になった?」
何か勘違いしている奴が居た。
「じゃぁ、どこ行こkk……」
杠が言い終える前に、横道に駆け込む。
ゴミ箱やらダンボールやらが散乱した路地裏。
覚悟が無ければ、踏み入れるのには多少――相当の勇気が居る。
「…………!!」
後ろで杠が何か叫んでいた。



?:罠

違和感を感じた。
杠を撒く為に路地裏を駆け抜けて、少し開けた空間に出た時だった。
結界。
それは、退魔士や祓い屋、あるいはアヤカシが望まない者の出入りを禁じる術式、あるいはその術式が行使された空間。
術式は例え同じ系統のものであっても術者によって個性が出る。
中でも結界の術式はその特徴が顕著に現れる。
通常の世界と変わらないもの。
結界の内部が神聖な霊力に包まれるもの。
空間から色彩が失われ、周囲が白黒の世界になるもの。
風変わりなものでは、宇宙空間の様に上下の感覚が失われるもの。
そして、今周囲に展開された、血の匂いがひどく鼻に付くこの結界は――。
前方に身を躍らせるのと、襲撃者による真上からの不意打ちは同時だった。
空を切った鋭い爪の持ち主は、紅い瞳をした闇夜の眷属。
昨夜戦ったアヤカシだった。
左腕に激痛。
爪がかすったか、制服の上腕部が切り裂け、赤く染まっていた。
何とか動きはするが、戦闘には使えそうに無かった。
(……油断した)
まさか昨日の今日で、それも、まだ日があるうちに仕掛けてくるとは。
懐から護身刀を抜き出して構える。
他に使えるのは予備の短刀1本と数枚の呪符。
それに魔石が一つだけ。
――せめて斬魔刀があれば。
夕日の光を受けて、アヤカシの鋭い爪が凶悪に輝く。
構えた護身刀の細い刀身が、いかにも頼りなく見えた。

何かがおかしい。
左右からの爪による二連撃。
一撃目を右に避け、二撃目を護身刀でいなす。
敵の動きが、昨夜よりも明らかに遅い。
爪による攻撃がフェイクなのも見て取れた。
三撃目の前蹴りに合わせて、カウンターで刀を突き出す。
急所には届かないが、切っ先が敵の肩口を切り裂く。
怪我を庇いながらでも十分に渡り合うことが出来ていた。
昨夜、万全の体調でてこずった相手に、である。
飛び退った敵が放つ必殺の眼光。
刀を投げ捨て、換わりに破邪の呪いが施された呪符を取り出す。
眼前にかざした呪符のうち数枚が燃え散った。
――日差しがあるせいか?
夜に生きる吸血鬼の一族は総じて太陽の光に弱い。
――いや、それは無い。
結界には術者に有害な物質を遮断する効果もある。
太陽からの紫外線は結界によって拡散されていると考えるのが妥当だろう。
奴が邪眼を放った隙を突いて間合いを詰める。
手に残った呪符をアヤカシの胸に押し付ける。
袖に仕込んでいる短刀は、手首から先の動きだけで準備できるようになっている。
射出された細い刃が、呪符ごとアヤカシの胸を貫いた。
「塵!!」
短刀から伸びるワイヤーを握り締め、魔力を注ぎ込む。
体内に直接注ぎ込まれた魔力に、アヤカシの身体が爆発四散した。

「……終わったのか?」
誰にともなく呟く。
手応えはあった。
しかし、それ以上に疑問の方が大きかった。
昨夜の苦戦を考えれば、今日の奴は控えめに言っても――あっけなさ過ぎた。
何か手掛かりがないかと奴が最後に居た辺りに近寄る。
――誰かの悲鳴が聞こえたのはその時だった。
どこかで聴いたことのある声。
それは――杠眞守のものだった。



?:血の呪い

術者を倒したのに結界が消えない。
嫌な予感がする。
悲鳴が聞こえた方へと走る。
狭い路地に奴が立っていた。
先程倒したはずのアヤカシが口を開いた。
『久しいな、退魔士の小僧よ……我の分身の相手は楽しかったか?』
――分身。
違和感の正体。
先程のアヤカシは、奴の本体から力の一部を分離させた人形に過ぎなかった訳か。
なるほど、それなら昨夜よりも力が弱く感じるのも至極当然のこと。
疑問は解けた。
しかし、今はそれよりも懸念すべきことがあった。
アヤカシの腕の中には、ぐったりとした杠の身体。
『貴様を追っていたのか、のこのこと我の結界に入って来おったわ』
奴が愉快そうに笑う。
それは、脳に直接響くような声色で。
ひどく癇に障る笑い声だった。

「そいつを放してもらおうか」
元より色好い返事は期待していない。
あまり悠長なことを言っていられる状況でもなかった。
(仕方無い、罰則程度は覚悟するか……)
意識の裏に術式を描く。
それは、その他の術式とは異なる、身体を流れる血から力を引き出す術式。
元力。
そう呼ばれる力は、強力な分身体への負担も大きい。
「結島」の血に流れるのは躍動する大地の力。
基本的に『訓練』では禁じ手とされる術式。
『はい、わかりました……と言うと思うかね?』
奴が言い終わった瞬間。
脳裏に描いた術式を展開する。
次の瞬間には、右手に心地良い重み。
そこに出現したのは大地の加護を受けた赤い剣。
それと同時に左手で魔石を砕く。
目的は、俺の実力では通常は出来ない二重詠唱の補助。
瞬間的に、身体能力を強化。
通常の倍近い速度で踏み込む。
アヤカシがこちらに反応するより前に、その首が宙を舞った。

『驚いたな……今のは見えなかったぞ、小僧』
『今ので、より一層、貴様に興味が沸いたわ』
地面に転がったアヤカシの首が愉快そうに声を上げた。
「首だけになっても……余裕があるようだな、化け物め」
あきれた生命力だった。
元力の刃を再び構える。
『何、貴様が我の分身を相手にしている間に、処置は済ませてあるでな』
これ以上、奴の口上を述べさせる気も聞く気も無かった。
無言で刃を投擲する。
アヤカシの気配がこの場から消え去った。

変わりに首をもたげたのは嫌な予感。
気になって杠の髪を掻き揚げる。
呻き声が漏れた。
そこには確かにあった。
杠の首筋に――何かに噛まれた様な二つの孔が。

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後編→
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