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終末期のケア・家族への支援コミュの在宅死(その4)

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皆さん、こんばんは。

 7年前に18回連載で書いたものを、3回づつ6回に分けてお送りする第4回目です。

「在宅死」;看取りと癒し

10)ゆるやかな死(その一)

 三年程前、「臨死体験」ということが話題となったことがありました。私も小学校二年の冬、はしかから肺炎となり四十二℃の発熱の中で、自分が自分の体から浮き、お花畑の向こうに川が流れ、その向こうに薄紫の山々が見えた記憶があります。その時は、母方の曽々祖父で、愛知医学校(名古屋大学医学部の前身)の設立に加わった中島三伯から伝えられていた犀角を飲んで回復したということですので、熱と血液中の酸素と血圧の低下にその薬剤も加わって、本当に三途の川を見たのではなく、幻覚だったのかもしれません。

 医学部の法医学の中で縊死(首吊り)が定型(完全)か非定型(不完全)かという講義があります。脳への血流が低下すると同時に呼吸が止まった場合、苦しみが強くならず、呼吸だけ止められると非常に苦しんだ、まさに地獄を見た表情となります。これは柔道で絞めて落とされた時、通常はそれほど苦しくはないが、下手な相手で主に気道が絞められると大変苦しくなるということにも通ずると思います。

 死後硬直などで表情が無くなった場合でも、解剖をさせていただくと、心臓を診れば、苦しんだかどうかの痕跡が残っています。これまで、死に立ち会った患者さんの三分の二の方に病気と死因の確認のための解剖(病理解剖)をさせていただきました。これは医学の発展のためというだけでなく、治療が正しかったのか、苦しませずに死なせることができたのか反省を迫るものとして行わせていただきました。御家族の方々には、死の悲しみの上に、さらに苦痛を与えるものであることは十分承知しております。多くの方々に御協力いただけたことを心から感謝しております。こんな経験から、できるだけ脳への血流が低下して、あるいはその他の要因で意識が薄れている中で呼吸が止まるようにしたいと考えるようになりました。

11)ゆるやかな死(その二)

 Eさん(70歳、男性)は6年前から、パ−キンソン病という難病で病院の神経内科の専門医の所へ通院されておられました。当初は手がふるえる、歩き出しで突っかかるようなことがあるという程度で、特に日常生活で困るようなことはありませんでした。一般的には、この病気は進行がゆっくりで、十年、二十年という経過を取るものですが、この方の場合、進行が急速で、その状態を維持するために半年に一錠づつ薬を増やさざるを得ない状態でした。

 二年前から投薬量は極量を越え、一年前からは薬の副作用も加わって、立ち眩み、頑固な便秘、そして時には幻覚も出現し、薄暗がりの中では痴呆のような症状も観られるようになって、ほとんど寝たきりとなってしまいました。病院への通院は困難となり、在宅ケア、在宅医療の相談に当院へ来られました。

 Eさんは歌が好きで、奥様そして三人のお子さん達の仲も良く、お孫さん達も加わって、歌声の絶えない賑やかな在宅ケアが始まりました。整形外科医院からの訪問リハビリや訪問看護ステ−ションの看護婦さん、巡回入浴サ−ビスやボランティアによるデイサ−ビスも利用され、比較的落ち着いた状態が続いておりました。

 亡くなられる三ヶ月前から喉の力が弱り、二ヶ月前から喉が落ち込んでの呼吸困難も現れました。喉の下に穴を開け、気管に管を入れますか、鼻からの人工呼吸を使用しますか、麻酔により息苦しさを感じなくする方法取りますかと訪ねました。本人家族は最後まで歌えるような状態にしておいて欲しいと希望されました。そこで第二の方法を使用することとしました。人工呼吸を受けながらも、歌を歌われていました。さらに徐々に病状は悪化して行きましたが、以後それ程の呼吸困難は訴えられず、静かに息を引き取られました。

12)ゆるやかな死(その三)

 二十五年ほど前、車椅子での生活ながら、印刷会社を起こした脳性麻痺の方々と友達になりました。「障害者というのは、邪魔者とも読めるから嫌やや。」と言われました。「世の中に障害者はいない。障害を補う技術と支えるシステムの遅れがあるだけや。」という話も幾度となく聞かされてきました。

 数年前、スティ−ブン・W・ホ−キング博士が「宇宙と理論物理」の講演のため、日本に来られました。筋萎縮性側索硬化症という神経の難病のため、人工呼吸器を車椅子に乗せ、そこに横たわった状態で、瞬きでパソコンを動かして講演をされる姿に、多くの方々が驚かれたことと思います。コンピュ−タ−の技術の進歩は目覚ましく、人工呼吸器もコンパクトで性能の良いものが開発されてきております。これを使っているからといって入院している必要はなく、海外旅行まで出来る時代になってきているのです。さらに最近は、鼻から行う簡易型の人工呼吸器もかなり安全に使えるようになり、睡眠時無呼吸症候群(寝ている時、かなり長い時間呼吸が止まり、睡眠が浅くなるため、日中の仕事の能率が落ちたり、交通事故を起こしたりする病気)や神経難病の本格的な人工呼吸に入る前の一時凌ぎとして用いられるようになってきました。

 このような技術の進歩があったればこそ、パ−キンソン病という神経の難病のEさんも、家で歌いながら死に至るという希望を叶えることができたのだと思います。最後の段階で、首に穴を開け、気管にチュ−ブを入れ、本格的な人工呼吸に移っていれば、さらにもう少し生き延びられたという気もしますが、通夜に伺った時の家族の方々の晴れ晴れとしたお顔を拝見し、これで良かったのだろうと考えています。


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