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SNF02 聖都物語・承コミュの■承 最終回 リアクション003 『巫女姫の春』

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■承 最終回 
5) 神殿に行って祈る(祈る内容も書くこと)
主にティカン神殿(巫女姫)の様子を知りたい人はこちら。

リアクション003 『巫女姫の春』

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■承 最終回  
5) 神殿に行って祈る(祈る内容も書くこと)

リアクション003 『巫女姫の春』

ティカン神殿では、いつものように巫女姫がお仕着せの服を着せられ、椅子に座らされ、日々の公務をこなしている。ここには春というほど春は来ていないようにも見える。
「姫様。お手紙が届いております。ハンムー王室からでございます」
お付きの女官がしずしずと歩いてくると、一通の文を巫女姫に差し出した。いつも巫女姫に読んで聞かせる係の者である。
「そうか」
「大層美味な土産感謝いたす、と。えーと、それから・・・今後一切のお気遣いなく、チナムトラは遠慮致したい、ですって!」
文を読み上げていた女官が真っ青になった。
「なんでしょう、なんのことでしょう。先日の会見の時、何か粗相をしたかしら」
「妾から送っておいたぞ!」
「?」
「ミズイカの漬物を混ぜてな! なんであったか・・・チムとナトラであったか?」
「はいぃぃぃ!? それを言うなら、チナとムトを一緒にする、です!」
とても子供らしいささやかな意趣返しのつもりだったのだろう。まさかハンムー王室が3日3晩その悪臭に悩まされるとは思ってはいなかったのだ。
「姫様お一人でできることではありませんわね! 一体だれがそんなことを仰せつかったのですか!」
「それは妾の口からは言えぬ!」
まぁ誰がそのお使いをしたかなんてわかりきったことである。後でトンキがこっぴどく叱られた。
「昔の姫様はもっとこう、おしとやかでおとなしくて、礼儀正しい姫様だったのに」
女官が泣き言を繰り返す。
「いいじゃないですか、お元気なんだから」
「アナタは黙ってらっしゃい!!」
さらにこっぴどく叱られた。

*     *     *

トンキが巫女姫を誘い出し、めちゃくちゃに怒られたのはつい数か月前のこと。また今回も懲りずに姫を誘い出しているトンキだった。
「だって、こんなにヌーグイシャーエが満開なのは今だけなんですよ!」
「姫様はご公務で忙しいのですよ」
すっかり目をつけられて、巫女姫と2人きりになれることなどほとんどないトンキである。今日も女官長と戦っている。
「そんなこと言ってたら、何もしないうちにしわくちゃのおばあちゃんになっちゃいますよ!」
「いい加減になさい!」
「花は今しか咲かないんです。今年の花は来年と同じじゃないんです! お庭の木でお花見するくらいいいじゃないですか! たまには気晴らしも必要ですよ!」
「妾も花見というものをしてみたいぞ」
「もう、巫女姫様まで・・・」
「花見花見花見がしたいのじゃ! はーなーみー!」
結局女官長が折れた。

*     *     *

神殿の庭でほんの少し花見の許可をもらった巫女姫とトンキは、ヌアットを誘って陽だまりの中、ささやかに花見をすることにした。
「本当は外の並木はとても綺麗なんですけどね」
「広場の花なら妾も塔から見ておるぞ」
「そんなんじゃないんですよ、なんていうかな。近くで見ないとあの迫力はわからないんですよ」
トンキが一生懸命説明するが、巫女姫にはいまひとつピンと来ていないらしい。
「あの雰囲気とか、香りとか、周りの人たちが幸せそうに笑っているところとか、みんなまとめて花見なんですよ」
「そうなのか、ヌアット?」
「う、うーん。そうかもしれません」t
つい先日イルたちと飲んだ時の騒ぎを思い出して、思わず苦笑いしてしまうが、それは巫女姫さまに言うことではないだろう。イルが酔った末暴れて、周囲の木をなぎはらわないように守護団全員で止めに入っただとか、ゴミ拾いが大変だっただとか、金葉町の守護団を送り届けるために駕籠屋を沢山呼んだだとか・・・。
「妾も外の花見とやらを見てみたいのう・・・」
こういうときの巫女姫は、やたらと可愛い。ちょっと口をとがらせて、さみしそうに拗ねた表情をするのだ。
「のう、ヌアット・・・」
「わー! どうしてそういうことだけ、僕に頼むんですか!」
勿論ヌアットがそういうことに弱いと知ってのことだ。
「頼みを聞いてくれぬと、ここに沢山の神様を呼ぶぞ」
脅迫内容がなかなかに具体的である。
「わ、わかりました。確かヴェロールさんが花見のすごいところを知ってるはずだから、そこに行ってみましょうか。女官長や神官様には僕が言っておきますから」
ヌアットに連れられてやってきた2人にヴェロールは相当驚いた様子だったが、事情を聞いて協力することにしたようだった。
「それで姫様、どこに行きましょうかー」
「トンキさん、姫様はまずいですよ。巫女姫様、失礼ながら仮のお名前で呼ばせていただきたいのですが」
「ふむ、以前ナナハとよい名をつけてもらったが」
巫女姫は、トンキが以前つけた仮の名前を口にした。
「ではナナハちゃん、とおよびしますか」
巫女姫の口調だけはどうにもならないので、とりあえず服装と髪型をかえて、また一般市民のフリをすることにした。
「妾じゃなくて自分のことは名前で読んだ方がいいかな」
こうして2人はヴェロールの聖都案内ツアーに紛れ込み、ヌアットのお供の元、街の散策を開始したのだった。

*     *     *

美味しい屋台や、定食屋、あちこちの見どころ、旧跡を巡った後、ヴェロールのツアー一行は、今日一番の見どころへと足を踏み入れた。
「こちらが、この町で一番有名なヌーグイシャーエの木です。樹齢は1000年とも2000年とも言われております」
古ぼけた大樹は、長い年月の間に曲がりくねって、強張った年寄の肌のような幹肌をさらしていたが、美しい淡い橙色の花だけは沢山咲かせていた。
「川べりの並木も見事なのですが、この古い木の存在感にはかないません。たった1本でこれだけの数の花を咲かせる木はほかにありません。毎年今年で花は最後かもしれぬ、と言われてきてかれこれ20年近く経ってますね。今回の騒乱で今年は咲かないかも、なんて言われてましたが」
ヴェロールの解説そっちのけで少女がはしゃいでいる。
「こんな大きな木であったか・・・!」
少女は目を輝かせながらヌーグイシャーエの大樹に駆け寄った。幹に手を回すが、当然少女の広げた両手では大きな幹の1割も覆えてはいない
「神殿に来るのは切り花で、枝ばかりですもんね。お庭の木もそんなに大きくないし」
「見よ、妾・・・ナナハの背丈よりもこんなにおおきいぞ」
巫女姫が嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねた。
大きな木全体に明るい優しいオレンジ色の花が広がって、なぜかこの周りだけ明るい光を感じる。
「なんだか暖かい感じ・・・」
「当たり前じゃ。神が沢山おわすからな」
巫女姫の目には、花の周りを飛び回る小さな神様が沢山見えているのかもしれない。
花からは甘いいい香りが漂っている。
「花を塩漬けにしたお茶も、甘い匂いがして美味しいですよー。今度お持ちしますね。甘いお菓子と一緒に食べるといいんですよ」
「楽しみじゃな!」
「クマリ様・・・、こういう平和な日々がいつまでも続くといいですね」
「そうじゃな」
何かを決意した表情で、トンキが巫女姫へと向き直る。
「クマリ様。私と友達になってください! お役目が終わった後も、ずっと一緒にいられるように」
それは一世一代の告白にも近かった。
「いやじゃ」
「えぇぇっ!」
即答された。帰り道のトンキは、うきうきとする巫女姫とは裏腹に、すっかり海の底に沈みきっているように見えた。

*     *     *

散々楽しんだ2人が神殿に戻って、やっぱりものすごく怒られたのは言うまでもなく・・・今回はトンキと一緒に巫女姫とヌアットも廊下に立たされた。
「護衛くらいつけてください、って怒られたね・・・」
「こんなのは初めてじゃ!」
「姫様楽しそうですね・・・」
どんよりとしたトンキに、巫女姫は明るく笑った。
「初めてのことばかりじゃ! しかしとても楽しかったぞ! ・・・ところで友達とは一体なんじゃ。ずっと一緒にいるというのは暑苦しいではないか」
「クマリ・・・様・・・」
「そういうんじゃないですよ、一緒に遊んだり、お話したり、おやつの分け合いっこをしたり、一緒に笑ったり泣いたりするような仲良しのことですよ」
ヌアットの解説に、巫女姫はまだ不思議そうな顔をした。
「ならば、やはり必要ないであろう?」
「えぇぇぇ」
崩れかかったトンキが、更にガラガラと音を立てて崩れていく。
「妾とおぬしはもうとっくに友達じゃ。ヌアットも友達じゃ。そういうものであろう? 妾は友達が沢山できてうれしいぞ。春は神様も人間もうきうきとして楽しい季節じゃな。妾は春が大好きになったぞ。また花見をしようではないか。来年も、そのまた来年も、そのまた来年も、ずっとずっとじゃ!」



                          (完)

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