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太平洋戦争からの『音楽文化』コミュの? 国民音楽創造の責務/山田耕筰(『音楽文化』 第1巻第1号 1943年12月

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内容:

戦局の様相はいよいよ凄愴苛烈な状況に突入した。
わが音楽界においてもこの戦局を闘いぬき勝ち抜くために、いまこそ音楽の持つ威力を最高度に発揮すべきときであることを思い、国民音楽創造について記述してみよう。

/国民音楽の創造、言い換えれば国楽の創成は、山田自身の今日までの音楽生活を通じての一貫した信念でもあり理想でもあったが、同時にそれは全音楽家の多年にわたる宿望であり、音楽界全体の悲願であった。

それに対する真摯な研究や活発な意見の発表もあったが、山田の経験から言えばわが国の特殊な音楽発達の概況から、それらの機運や風潮は断続的になされ分立的に行なわれてきたのが今日までの現状ではなかったか。

国民音楽の創造が高級な理想としてあまりに観念的に論究されたり、わかりきった問題として常識的に取りあつかわれてきすぎたと称しても過言ではあるまい。

山田が音楽の道を転職として選び、今日までそれを自分の職分として努力してきたのは、今日ただいま、国家とともに国民とともに殉ずる精神をもって音楽を武器とするためにほかならない。

こういう意味合いから国民音楽の創造を端的に言えば、それは音楽の国家的自主性という言葉に尽きる。

たとえばパドリオ政変が起こるとただちにイタリア音楽の可否が問題になるがごときは、わが国の精神文化のうち音楽だけが未だ外国依存の状態にあることを思わせる。

いついかなる事態に際しても、いささかも動じないわが民族固有の、そして東亜共通の音楽をもつこと、これが山田のいう音楽の自主性である。

それが確立されるか否かは、ひとえに音楽家の精神内容が決戦意識に切り替えられたか否かに存している。

/これを2、3の例で具体的に言えば、まず作曲の振興である。

西洋音楽の技術の摂取はもとより、わが国固有の伝統的音楽である民謡や古典音楽の系統的研究がなされなければならない。

今日では町田嘉章と藤井清水が地方民謡の採譜や録音を行なっているし、田中正平は文部省の国民精神文化研究所で古典音楽の保存と復興を行なっているときく。

この文化財を芸術的に、そして国民的に生かすか殺すかは今日の青年作曲家の双肩に課された重大任務でなければならない。

山田の経験からすれば、自身、日本的作曲ということに意識的であったことはない。

作家としての主観的燃焼力一本槍で押し通してきたのだ。わが国の作曲は外形的な衣装にとらわれたり、末梢的な部分にこだわる傾向があって人間そのもので書かれていない。

民謡そのものの旋律を借りるよりは、民謡の中に現れた郷土的な特色や性格、それから日本音楽の中に摂取され消化されている民謡の技術的処理の方法を日本の作曲家たちは学ぶべきだと思っている。

/このことは西洋音楽に対する反省にもつながっている。

わが国の音楽界は西洋音楽万能で来たが、音楽の専門的立場においてはこうした態度を一擲すべきであろう。

それと、主として作曲家以外の人に理解してもらいたいのは、傑作は一朝にして生まれるものではないということである。

洋楽渡来以降、50〜60年ほどした経ていないわが国の現状では作曲家の努力のほかに、一般の音楽関係者の理解と協力が絶対に必要なのである。

たとえば演奏家の創造性を期待したい。

わが国の演奏家たちは音楽が全国民的な共感を獲得する状態、言い換えれば真の国民音楽創造の機運を達成する一人の担当者として、音楽を選ばれたに違いないのである。

したがって一人でも多く、一曲でも多く新作を歌い奏さなければならない。しかし演奏家、とくに声楽家の人たちは「いい歌がない、いい楽譜がない」という。それは一応認めるが、そうなったのは作曲家と声楽家が同じ日本に住みながら、没交渉な営みを続けていたからだろう。

今日国民の音楽的志向は決定され、音楽の国家的方向は明示された。今後は作曲家の理想と演奏家の希望が一致する新歌曲、それは国民一般に嗜好に対する距離をも縮めた国民歌曲が誕生しなければならない。

/批評についていえば、批評家の当初の対象は西洋音楽の鑑賞啓蒙の領域に限定された。

しかし、ここでも批評家の創造性が要望される。批評家もまた独自の専門的な領域で創造的な探求をなすべきである。

しかもそれは国民音楽の創造という運命のもとに、そして決戦生活の国民的感動という境地で、評論の文字が血を沸かさなければならない。

こうして作曲、演奏、批評が有機的な関連をもち、その三者が一体となって民族と祖国のために一大進軍を試みなければならない。


【2006年5月11日】

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